藤本健のDigital Audio Laboratory

第911回

「iPhone 13 Pro」のオーディオ性能やMIDI互換性を検証する

iPhone 13 Pro

AV Watchをはじめ、さまざまなサイトで報道されているとおり、9月24日にiPhone 13シリーズが発売された。検証用に筆者も最新機材を入手しておこうと、iPhone 13 Proを予約し、無事発売日に実機を手にすることができた。

カメラ機能、ビデオ機能などについては、すでに様々なレポートが上がっているので、ここではオーディオ性能やMIDI機能等に絞った上で、従来シリーズとの違い、進化した点をチェックしてみた。

iPhone 13 Proの外観をチェック

コロナ禍の影響もあって、2020年はiPhoneの発表・発売が例年より少し遅れたが、最新モデルは例年通り9月に発表・発売された。

毎年新機種に買い替えている筆者としては、iPhone 12の実質的寿命が短く終わり、なんとなくもったいない気もしたが、これまでと同様にiPhone 13 Proを予約。実は昨年まではauショップを利用していたのだが、近所の店舗の担当者が非常勤になってしまったことで、iPhone 12の入手が遅れてしまった。今年はAppleストアに切り替え、発売当日に入手することができた。

あまり詳細を調べずに購入したこともあり、パッケージを開けてみて「あれ、見た目もまったく変わっていないのか」と思ったが、持ってみるとなんとなく重い。そこで初めて製品情報を細かく見てみると、iPhone 12 Proの重量が187gだったのが、iPhone 13 Proでは203gと若干重くなっている。実測してみても203.72gとなっており、わずか16gの差だが、結構重く感じる。

iPhone 13 Proの重量は、約203g

今まで使っていたiPhone 12 Proとサイズは変わらないようで、並べてみてもそっくりだ。これまでのケースがそのまま使えるのかとも思ったが、ピッタリとはまらない。よく見てみると、左右サイドのボタンの位置などがズレていてiPhone 12 Proのケースはフィットしなかった。

iPhone 12 Pro(左)とiPhone 13 Pro
iPhone 12 Pro(下)とiPhone 13 Pro

左右のボタンよりも、フィットしない大きな要因が背面のレンズ部分だ。三つ目のレンズがiPhone 12 Proと比較して大きく、また出っ張りも高くなっている。

iPhone 12 Pro(左)とiPhone 13 Pro

レンズ部の変更は、ケースがフィットしなかったのと同時に、16g増量の要因でもありそう。もっとも、このレンズ部が巨大化したことで、カメラ性能は大きく向上している模様。是非とも、音もよくなっていることを期待したいところだ。とはいえ、Appleの製品情報に“音の進化”についての記載はないので、やはり過剰な期待は禁物ということなのだろうか……。

内蔵マイクのステレオ機能は解放されず。オーディオ性能は12 Pro同等

iPhone 12 ProはiOS 14.7.1のままだったので、あえてiOS 15にはアップデートせずに、すべての環境をiCloudにバックアップ。これを、そのままiPhone 13 Proへとリストアした上で、比較していくことにした。

まず最初にチェックしてみたのが、内蔵マイクだ。

これまでのiPhoneには、標準で3つのマイクが搭載されており、横位置でビデオ撮影するとステレオで音を捉えることができた。ただし、各種オーディオアプリではモノラルでしか扱うことができず、ステレオ機能を使うことができなかった。

iPhone 13 Proでは、iOS 15になったらステレオ機能が解放されているのでは? と淡い期待を抱いたが、残念ながら従来と変わらず。アプリ「MultiTrack DAW」を使うと、3つのマイクのうちどれを選ぶのかを選択することはできたが、ステレオでの利用はできなかった。

アプリ「MultiTrack DAW」のマイク選択画面

続いて行なったのは、アナログ出力の音質性能比較。

ヘッドフォン端子はiPhone 7から廃止されたので、「Lightning-3.5mmイヤフォンジャックコネクタ」を使用しての比較となる。普通に考えれば、同じ変換プラグ、つまり同じDACを使っているのだから音に違いがあるとはあまり思えないが、念のための実験である。

Lightning-3.5mmイヤフォンジャックコネクタ

方法は、iPhone 12 ProおよびiPhone 13 ProのLightning端子にアダプタを取り付け、ここからの出力をRME「Firaface UCX」に入力。1kHzのサイン波と20Hz~24kHzのスウィープ信号を流し、SNや周波数特性に差があるのかを見てみた。

ちなみにiPhone側には48kHz/24bitのWAVファイルを入れて、標準のミュージック機能で再生。これをFiraface UCX経由で「SOUND FORGE Pro 15」で録音し、WaveSpectraで解析している。

Lightning端子にアダプタを取り付ける
出力をRME「Firaface UCX」に入力
「SOUND FORGE Pro 15」で録音

結果は予想通りで、何も違いはなかった。強いていえば、iPhone 12 ProよりiPhone 13 ProのほうがSN値が上がっているものの、誤差の範囲とは思われる。ただし、2回同じことを繰り返してもまったく同じ値だったので、何かあるのかもしれないが……。

サイン波(1kHz)
iPhone 12 Pro
iPhone 13 Pro
スウィープ信号(20Hz~24kHz)
iPhone 12 Pro
iPhone 13 Pro

USBオーディオ機器との互換性チェック! 結果は……変化無し!?

続いて、各オーディオインターフェイスとの接続をチェック。まずはiPhoneからのバスパワーだけで駆動できる機材から。

Clubhouse効果などもあり人気のあるIK Multimedia「iRig Stream」は問題なく使用可能。Roland「GO:MIXER Pro-X」も、付属のLightning-microUSBケーブルを使用することで問題なく使うことができた。また単3電池×2が必要ではあるが、同じIK Multimedia「iRig Pro DUO I/O」もしっかり動いてくれた。

IK Multimedia「iRig Stream」
Roland「GO:MIXER Pro-X」
IK Multimedia「iRig Pro DUO I/O」

Lightning-USBアダプタを使うタイプの、USBクラスコンプライアントなオーディオインターフェイスはどうだろうか。

Lightning-USBアダプタ

まずは先ほど使ったRMEのFiraface UCXだが、これは標準では独自規格なので、CCモード=USBクラスコンプライアント・モードに設定した上で接続してみたところ、使うことができた。

CCモード(USBクラスコンプライアント・モード)に設定
Firaface UCXも使用可能

このほか、Steiberg「UR22C」、Roland「Rubix 24」も同じように使うことができた。なお、Firaface UCXは付属ACアダプタでの電源供給、UR22CとRubix 24はmicroUSBで電源供給する形で動作させている。

Steiberg「UR22C」
Roland「Rubix 24」

同じように、PreSonus「STUDIO1810c」もACアダプタでの電源供給、Lightning-USBアダプタ経由で動かすことができた。本機は18in/8out仕様のオーディオインターフェイスなので、その通りの入出力が見えるか「Cubasis 3」で確認してみたところ、確かに入力が18ch、出力が8chあることが確認できた。ここにおいても従来と変わりなしだ。

PreSonus「STUDIO1810c」でも動作
18chの入力を確認
8chの出力を確認

オーディオインターフェイス自体に電源供給機能がない機器の場合はどうだろう。実はAppleではLightning - USB 3アダプタというものを販売しており、これを使うことでACアダプタなどから電源供給しながらUSBオーディオインターフェイスなどと接続ができる。この場合の動作が問題ないか試してみる。

Lightning - USB 3アダプタ

最初にFocusrite「Scarlett 2i2 3Gen」と接続してみたところ、問題なく動作することが確認できた。同様にM-Audio「AIR 192|6」もしっかり電源供給でき、動かすことができた。ところが、SSL「SSL 2」および「SSL 2+」は、この形では電源供給できないようで動作不能。もっともこれはiPhone 12 Proでも同様だったので、やはり13 Proでも変化なしということのようだ。

Focusrite「Scarlett 2i2 3Gen」
M-Audio「AIR 192|6」
SSL「SSL 2+」は動作せず

続いて試したのは、Lightning接続でオーディオ出力とMIDIキーボード入力を実現できるIK Multimediaの「iRig Keys 2」。さすがMFi(Made for iPhone/iPad)認証デバイスだけあって、オーディオもMIDIも1本のケーブルで接続でき、電源供給もできている。

IK Multimedia「iRig Keys 2」

ちなみに、このiRig Keys 2のケーブルもLightning-microUSBケーブルなので、前述したRolandのGO:MIXER Pro-Xと同じ。ということで、ケーブルを入れ替えてみて同じように使えるのかを試したところ、どちらもしっかり動いてくれた。

これは個人的には大発見。当たり前といえば当たり前ではあるが、従来MFi認証機器というのは、メーカーごとになぜか異なるコネクタとなっていて互換性がなかったのだが、いつのまにかLightning - microUSBが標準になった、ということなのか。iPhone 13 Proとは関係のない話だが、ちょっと嬉しい発見ではある。

最後に試したのがMIDI over Bluetooth LE、いわゆる“Bluetooth MIDI”だ。

個人的には非常に便利なシステムだと思うし、いろいろなメーカーが対応機器を発売しているけれど、まだ使っている人は少ないのが実情。そんな中、先日手元に届いた「InstaChord」というユニークな楽器をBluetooth MIDIで接続してみた。

「InstaChord」(インスタコード)

「楽器がまったく弾けない人でも1分の練習で弾けるようになる電子楽器」という触れ込みで昨年クラウドファンディングを実施した製品だが、試してみたところあっさり接続。KORGのModuleというシンセサイザで鳴らしてみたところ、非常に快適だった。InstaChord内蔵のスピーカーから出る音と、iPhone 13 Proから出る音の時間差はまったく感じないほどで、しっかりユニゾンで鳴ってくれる。

「InstaChord」も認識することができた

以上、iPhone 13 ProをオーディオインターフェイスやMIDI機器と接続して試してみたがいかがだったろうか。

結論は当初の予想通りで、「iPhone 12 Proと何も変わらず」という結果になった。せっかく高いお金を出してiPhoneを新調したのにつまらない、と考えるか、iOS 15になっても、オーディオ/MIDI機器との互換性は保たれていてよかった、と捉えるかは人によって違うとは思うが、とにかくiPhone 13はオーディオ関連で何も変化がなかった、ということだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto