藤本健のDigital Audio Laboratory
第1026回

Focusriteの第4世代USBオーディオ「Scarlett」。スタジオコンソール音再現のAir機能も進化
2025年3月24日 10:58
赤いオーディオインターフェイスとして、世界中で知られている英Focusrite(フォーカスライト)のScarlettシリーズ。見た目は大きく変わらないものの、数年に1度のモデルチェンジが行なわれ、現行機種は第4世代目となる。
新しいScarlettシリーズは、2in/2outでマイクプリアンプが1つの「Scarlett Solo 4th Gen」(19,900円)、18in/2outの「Scarlett 18i20」(93,000)など6モデルがラインナップされている。
今回はもっとも売れている「Scarlett 2i2 4th Gen」(28,600円)をピックアップし、これがどんなものなのかをチェックするとともに、その音質性能などを見ていこう。
第4世代「Scarlett 2i2」の外観をチェック
実は今回取り上げる「Scarlett 2i2」をはじめ、「Scarlett Solo」、「Scarlett 4i4」(40,000円)の3モデルが発売されたのは2023年8月なので、1年半前。その後、昨年2024年9月にマルチチャンネルモデルである「Scarlett 16i16」(48,100円)、「Scoarlet 18i16」(71,500円)、そして「Scarlett 18i20」の3モデルが追加されて、第4世代Scarlettがすべてそろった形だ。
その間、このDigital Audio Laboratoryで取り上げる機会を逃していたので、だいぶ遅れてしまったが、改めて見ていくことにする。
まずScarlett 2i2の3rd Genと4th Genを並べてみるとこのような感じで、パッと見は、回りがメタリックレッドでフロントがブラックと大きく変わらないものの、端子やノブ、ボタンなどの配置や数が多少変更された。
また重ねた状態で後ろから見てみると、横幅が1~2mm大きくなるとともに奥行きが2cm弱伸びている。今回の第4世代はアナログ回路を強化しているのが特徴となっているが、そのために筐体が大きくなっている、ということなのかもしれない。またリアパネルにも違いがあるのが分かる。
デジタル的な仕様としては3rd Genも4th Genも24bit/192kHzであり、USB Type-C接続という点でも同じだが機能面においては、いろいろと異なっている。
まず入力は、3rd Genではフロントにコンボジャックが2つだったのに対し、4th GenではフロントにTRSのライン入力兼Hi-Zインストゥルメント入力、リアにXLRのキャノン入力という構成になった。
両方から入力があった場合は、フロントが優先となる仕様。ラインかインストゥルメントかはフロントのInstボタンで切り替える形だ。
また入力ゲインは、1・2とあるノブで調整するのだが、このノブの周りがLEDのレベルメーターになっており、入力があるとここが光って確認できる、というのが便利な点。
同様に出力は大きなOutputノブで調整するがこちらも周りがレベルメーターになっているので、出力状況の確認ができる。
このOutputとは独立する形でヘッドフォン出力調整のノブも用意されていて、ヘッドフォン音量はここで調整できる。ただしあくまでも2in/2outなのでメイン出力とヘッドフォン出力は同系統の信号となる。
伝統的なスタジオコンソールを通した音にする「Airモード」が進化
実際に使ってみると、入力ゲイン調整が非常に繊細で操作が難しいな……とも思ったのだが、この操作性はさまざまな工夫、機能があり、非常に使いやすくなっている。
まずはドライバといっしょにインストールされる「Focusrite Control 2」というリモートコントロールアプリの存在があり、これが本体操作と完全連動する形になっている。
起動すると、まず「インプット」という画面が表示されるが、これが入力ゲインの調整や入力レベルメーター表示のための画面となっている。
上のノブと、本体のノブが完全に連動しており、本体ノブを調整すると、画面上でも0~70dBまで1dB単位で動く形で、画面のノブで調整しても本体でも操作可能。また、レベルメーターは本体のノブの周りのレベルメータと連動していた。
4th GenのScarlett 2i2になって新たに追加された重要な機能が「Auto Gain」。このインプット画面のAuto Gainボタンをクリックするか、本体のAutoボタンを押すと、約10秒間のAuto Gain調整状態に入る。
この間に、リハーサルとしてマイクやライン、インストゥルメントから入力すると、それにマッチする形でゲイン調整を自動で行なってくれる。こうすることによって、ユーザーが手動でゲイン調整することなくレコーディングの準備が整う。
一方でSafeというボタンもソフト側、本体側ともにあるが、これはクリップ・セーフ機能というもので、クリップしそうになったら自動でクリップを回避するようにゲインを下げてくれるもの。いま流行りの32bitフロートなどとは異なり、リミッター機能を用いて入力オーバーのクリップを防ぐことが可能になっている。
そしてもう一つあるのがAirボタン。これはオンにすると入力をいい感じのサウンドに仕立て上げてくれる、というちょっと魔法のような機能。実はこれは前の3rd Genにもあったのだが、簡単にいえばスタジオのコンソールを通したようなサウンドにしてくれるという機能。
そう、Focusriteはプロオーディオの世界で長年君臨してきたメーカーであり、世界中のスタジオコンソールを開発したメーカーでもあるその伝統的なスタジオコンソールを通した音にするのがAirボタンをオンにするAirモードなのだ。
そのAirモード。3rd Genでは単にオン/オフだったのが、4th Genでは1回押すと緑に、もう1度押すとオレンジ、そしてもう1回押すとオフになる形になっている。これをFocusrite Control 2上で見てみると、PresenceモードとPresence&Driveモードの2種類になっていることが分かる。
Presenceとは高域を強調していく機能で、Driveは倍音歪を加えていくもの。これらは、まさにアナログコンソールに突っ込んだサウンドに仕立てていく機能なのだが、このうちPresenceはアナログ回路として4th GenのScarlett 2i2に実装されている。
一方、Driveはドライブを掛けてサチらせる機能で、こちらはアナログではなくDSPによるシミュレーションで実現させている。まさにアナログ、デジタルの双方を用いて味付けできるようになった。
一方でダイレクトのほうを見ると、こちらはダイレクトモニタリング機能となっており、入って来た音をそのまま出力に送るためのもの。その際、入力をそのまま出力するほか、Playback 1-2のほうを調整することで、コンピュータ側の出力音も混ぜて出力できるようになっている。
ところで、Scarlett 2i2 4th Gen登場当初にはなかったのだが、その後のファームウェア、ユーティリティのアップデートにより追加された機能がある。それが、リモートデバイス機能だ。
Focusrite Control 2のPreferences画面からリモートデバイスを選択すると、QRコードが表示される。
これをiOSもしくはAndroidデバイスからアクセスすることでFocusrite Control 2のアプリを入手することができ、同じLAN環境にあるWindows/Macと連携して使うことが可能になる。
機能としてはここまで見てきたFocusrite Control 2とまったく同じであり、この操作をすべてiPhoneやAndroidから行なうことができるようになっている。
このように操作という面では、本体でもWindows/Mac上のFocusrite Control 2でも、iPhone/Androidでも行なえるなど、非常に扱いやすくなっているとともに、前述のAuto Gain機能も装備したり、Air機能などを搭載するなど、ほかのオーディオインターフェイスとは一線を画す機材となっている。
入出力の音質を検証。レイテンシーはなぜかエラー
では実際に音質はどの程度のものなのだろうか? ここではAir機能はオフにした上で44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでRMAA Proを使って測定してみたので、ご覧いただきたい。
これを見ると、すべてのサンプリングレートで、すべてのサマリーがExcellentとなっていて、非常に高音質なデバイスになっていることが分かるだろう。
一方で、レイテンシーのほうはどうだろうか? 測定してみたところ、極めていい数字が出たので、ちょっとおや? と思ったのだ。
通常は入力と出力をそのまま接続した上で、CenTranceのASIO Latency Test Utilityを使って測定するのだが、試しにその接続しているケーブルを抜いてみたところ、同じ結果になってしまった。
本来ケーブルを抜けば測定できなくなるのだが、これができてしまうということはどこかがおかしい。しかし、ループバック機能をオフにしても結果は変わらず……。今回レイテンシーのテストは見送ったが、使っている感覚ではかなり低いレイテンシーであることは間違いなさそうだ。
以上、FocusriteのScarlett 2i2 4th Genについて見てきた。音質性能的にも極めて良好で、Airモードなどユニークな機能も搭載されていることを考えると、非常に優秀なオーディオインターフェイスと言えそうだ。
世界的なインフレ、円安の問題などから、4th Genの価格は3rd Genと比較するとだいぶ上がった感じで、Scarlett 2i2の場合、28,300円前後。3rd Genと比較すると2割程度上がったようだ。ただ、それでも十分過ぎる機能、性能を持ったオーディオインターフェイス、といえるだろう。