藤本健のDigital Audio Laboratory
第1050回

Questyleが「easyHiFi」引っさげOTOTEN参戦!「家庭オーディオの次の形」とは?
2026年6月22日 08:00
中国・深センのオーディオベンチャー「Questyle(クエスタイル)」が、東京国際フォーラムで開催された「OTOTEN2026」に初出展した。
同社は2025年、アップル認証Bluetoothトランスミッター「QCC Dongle」シリーズで日本市場に再参入し、入荷のたびに品切れになるヒットを飛ばしてきたメーカーである。
しかし今回のOTOTENでは、ポータブルオーディオではなく、ホームオーディオの新コンセプト「easyHiFi」を掲げ、ワイヤレスHi-Fiスピーカー「E5」とワイヤレス・ストリーミングDAC「iXStreamer」という2つの新製品を参考出品した。
会場には、創業者でCEOの王豊碩(ワン・フォンシュオ)氏も来日。このDigital Audio Laboratoryでは2025年8月、深セン本社を訪ね、同氏のキャリアやCMA(電流モード増幅)技術についてレポートしたが、今回はその続編として、OTOTENで見えてきたQuestyleの新たな戦略を追っていく。
「ストリーマー」ではなく「家庭のオーディオハブ」を作りたい
QuestyleのブースはM18iMAXやSIGMAシリーズといった主力のポータブルDAC/ヘッドフォンアンプ、QCC Dongleシリーズも並ぶ中、ひときわ目を引いたのが、ワイヤレスHi-Fiスピーカー「E5」と、ワイヤレス・ストリーミングDAC「iXStreamer」の2機種だ。
いずれも参考出品で、実際の発表は今秋以降となりそうだが、Questyleが新たに打ち出す「easyHiFi」という製品コンセプトの第一弾という位置付けになる。
王氏は今回の出展についてこう語る。
「我々は単なるストリーマーを作りたいわけではありません。家庭の中のオーディオハブを作りたいのです」
この言葉が、easyHiFiという考え方の核心を表している。
Questyleはこれまで、CMA技術を核とした据え置き型・ポータブル型のヘッドフォンアンプやDACを主力としてきたメーカーだ。それが今回、スピーカーシステムとホームシアター向けDACという、まったく毛色の異なるカテゴリーに参入してきた格好になる。
なぜ今、家庭オーディオなのか。その背景には、王氏が日本市場をどう見ているかという分析がある。
「日本ではAppleユーザーが多く、Apple TVを使っている家庭も多いと聞きます。家庭の中では、Apple TVやAirPlay、スマートホームとの連携が重要になってきます。機器を交換するのではなく、アップグレードする。そういう思想です」
実際、E5・iXStreamerともに、Apple AirPlay 2への対応はもちろん、Apple TVとの連携やHDMI eARC、Matterスマートホーム規格への対応を前面に押し出している。
既存のオーディオシステムを買い替えさせるのではなく、ワイヤレス化・スマート化によって「アップグレード」させる――これがeasyHiFiというコンセプトの基本設計思想だ。
E5:一体型スピーカーに詰め込まれたCMA技術
まずE5は、easyHiFiのもとで生まれた最初の製品で、「Easy to Use」「Easy to Fit」「Easy to Enjoy」という3つを軸にした、一体型のワイヤレスHi-Fiスピーカーシステムだ。
箱から出してすぐに本格的なHi-Fiサウンドを楽しめるAll in One設計で、プロフェッショナルDAC、独立プリアンプ、そしてQuestyleの十八番である電流モードパワーアンプを内蔵。PCM 768kHz/24bit、DSD 256のネイティブデコードに対応する。
接続まわりも豪華。Apple AirPlay 2、DLNA、Bluetoothによるダイレクト接続に加え、TIDAL、Qobuz、Spotify、Roon Readyといった主要な音楽配信サービス・伝送プロトコルに幅広く対応する。
Bluetoothについても、Sony LDACやQualcommのaptXシリーズ(aptX、aptX HD、aptX Adaptive、aptX Lossless)、LE Audioに対応した独自ソリューションを搭載している。
OTOTENの会場では、E5の基板そのものを展示するコーナーも設けられていた。
「Deep Inside・Simple Outside」と銘打たれたこの展示には、ESS製DACチップ、Cadence HiFi4 DSPチップ、そしてQuestyle自慢の電流モードアンプ回路が公開されており、歪み率0.0002%という数値とともに、PCT国際特許(US 9,614,483 B2)を取得したカレントモードアンプ技術であることが示されていた。
前回の取材で聞いた「電流モードは電圧モードに比べて低インピーダンス・低消費電力で高速処理が可能」という王氏の説明そのままの技術が、今度はヘッドフォンアンプではなくスピーカーシステムに展開されている格好だ。
ドライバー構成は5.25インチの中低域ユニットとAMT(Air Motion Transformer)ツイーターの組み合わせで、周波数特性は40kHzを超える。デザイン面ではバウハウスのミニマルデザイン思想を採用し、オールウッドキャビネットとアルミニウム製スタンドで仕上げられている。
ラインアップとしては、パールホワイト/サムライブラックのスタンダードモデルに加え、ノルウェーの名門ユニットメーカーSEASとの協業による「E5ブルー スペシャルコラボレーションモデル」、ウォールナット仕上げの「E5 S」が用意される。
1948年創業のSEASは、Excelシリーズをはじめ世界の名だたるフラッグシップスピーカーに採用されてきたドライバーユニットメーカーで、王氏いわく「伝統的なHi-Endフラッグシップクラスの音質を、ワイヤレス一体型時代へと継承したモデル」という位置付けなのだそうだ。
E5はペアでの発売となるが、構成としては親機・子機という形になる。
子機のほうを見るとわかる通り、基本的に電源ケーブルの接続と電源スイッチしかなく、一般的なアクティブスピーカーにある親機と接続するための端子が存在しないのが大きなポイント。実はこの親機子機はワイヤレスで接続する形となっているのだ。この点については後述する。
iXStreamer:既存システムを“アップグレード”するDAC
一方のiXStreamer は、E5とは対照的なアプローチを取る製品だ。スピーカーやアンプそのものを置き換えるのではなく、すでにオーディオシステムやホームシアター環境を持っているユーザーに向けて、デジタル化・ワイヤレス化・スマート化を手軽に追加するためのワイヤレス・ストリーミングDACである。
「スピーカーもアンプもそのままに。ワンタッチで、従来のオーディオシステムをスマートなワイヤレスHi-Fiシステムへアップグレード」――これがiXStreamerのコアバリューとして掲げられているコピーだ。
ハードウェア面では、ESS Technology製フラッグシップDAC「ES9069」をデュアル搭載し、デュアルモノラル構成によってチャンネル間クロストークを低減。
Questyle独自開発のTTA 3段カレントモード増幅アーキテクチャをDAC処理からプリアンプ、出力バッファまで一貫して採用し、PCM 384kHz/32bit、DSDネイティブデコードに対応する。内蔵サウンドモードとしてリファレンス/高解像度/ウォームの3種類が用意されているのも特徴的だ。
内部には4コアのARM Coretex A55プロセッサと16GBのメモリが搭載された小さなコンピュータが入っていて、LinuxをベースにしたQuestyle独自のQMSストリーミングOSが搭載されている。これを用いて、すべての機能をコントロールする形になっている。そしてこれと同じものがE5にも搭載されている。
ストリーミング機能としては、Apple MFi認証を取得したうえでAirPlay 2に完全対応するほか、Qualcomm Snapdragon Soundプラットフォームを採用し、LDACにも対応。Roon Readyにも対応し、TIDALやSpotifyといった主要音楽配信サービスとの互換性も確保している。
ホームシアター用途として見逃せないのが、フルスペックのHDMI eARCだ。高規格サラウンドのロスレスオーディオ伝送に対応し、Apple TVとの高い互換性、映像と音声のズレや音切れ・遅延の低減を謳う。さらにMatterスマートホーム規格をネイティブサポートし、Apple HomeKitなどの主要スマートホーム環境とも連携する。
入出力端子も豊富で、光デジタル・同軸デジタル・USBのデジタル入出力に加え、RCAライン出力や独立サブウーファー出力、3.5mmシングルエンド/4.4mmバランスのヘッドフォン出力まで備える。
これらヘッドフォン出力にも高性能なカレントモードヘッドフォンアンプが内蔵されており、既存のオーディオシステムへの接続だけでなく、デスクトップでのパーソナルオーディオ用途にも対応できる作りになっている。
両機種を支えるのが、QuestyleがLinuxカーネルをベースに独自開発したストリーミングプラットフォーム「QMS」。
4コアのARM Cortex-A55プロセッサ(動作周波数1.5GHz、NPU演算性能1.2TOPS)、16GBの高速メモリ、日本Torex製の高精度電源管理システムを組み合わせたハードウェアエンジン「A99」が中核を担う。
Wi-Fi 6Eデュアルバンドモジュールにより最大1200Mbpsの通信速度を実現し、ファイル管理やローカルストレージ、OTAアップデート、アプリによる遠隔操作にも対応。24時間365日の連続運転を前提とした設計だという。
競合との違いをどう見るか
王氏は今回、既存のストリーミング製品との違いについても言及した。
Cambridge AudioやBluesound、マランツ、WiiMといったメーカーの名前を挙げつつ、「ハイエンド志向のメーカーはストリーミング機能が充実している一方で機能過多になりがちで、ストリーミングやパワーアンプ製品としての完成度が高いメーカーは、自社ブランドとしてのヘッドフォンアンプにはあまり力を入れていない」と分析。
そして、「軽量・手頃な価格帯を志向する製品は、AirPlayやHDMI eARCといった機能が手薄になりがち」と王氏は話す。
もっとも、この評価はQuestyle側、つまり競合する立場からの見方である点には留意したい。
各社の対応状況は製品のモデルチェンジやファームウェアのアップデートによって日々変化していくものでもある。王氏の発言は、あくまで「Questyleが自社製品をどう差別化しようとしているか」を理解するための材料として捉えるのが適切だろう。
そのうえで王氏が強調したのは、「日本ではヘッドフォンで音楽を聴くニーズや、部屋で試聴する需要が大きい一方、スピーカーを導入するには広い住空間が必要になる」という日本市場特有の事情。
パワーアンプやスピーカーに偏重しがちな競合に対し、Questyleはデスクトップでのヘッドフォン用途もカバーできる製品設計を志向しているという。
「Accuphase、Luxman、McIntosh、Marantz、Yamahaといった、すでに本格的なオーディオシステムを持っているユーザーは、それを買い替えたくはない。でも、QobuzやAirPlay、Apple TVも使いたい――。iXStreamerは、そういうユーザーに向けた製品です」
王氏が「まだ明かせない」と語った技術
今回のOTOTENでは、王氏は技術の全貌を語ろうとはしなかった。E5・iXStreamerともに対外的な説明としては、AirPlay 2やBluetooth、HDMI eARCといった、いわば「業界標準」の機能が前面に出されている。
実は今回の取材で、王氏はE5に搭載されている、まだ正式発表していない機能についても教えてくれた。
製品の量産版でどこまで実装されるかは今後を見守る必要があるが、空間や設置環境に応じて音を最適化する仕組みや、スピーカー同士をより高精度に同期させるための独自の無線技術が検討されているという。
王氏によれば、これらは「現時点でどのオーディオメーカーも実現できていない」技術であり、easyHiFiの本命となる差別化ポイントに位置付けているという。
公の場での説明としては、「独自無線プロトコルで接続し、192kHzのハイレゾ音声に対応する」という言い方にとどめており、配線は電源コードのみで、好きな場所に置くだけで使えるという点が強調されていた。
詳細は、正式な製品発表のタイミングで改めて明らかにされることになりそうだ。
「家庭のオーディオハブ」が目指す先
QCC Dongleのようなドングル型DACから、iXStreamerのようなホームシアター対応DAC、そしてE5のような一体型スピーカーまで。Questyleの製品ラインアップを並べてみると、その根底にあるのは「QMS」という共通のストリーミングプラットフォームであることに気づく。
前回の深セン取材では、王氏は「この秋には、ワイヤレスオーディオの常識を覆すような技術を発表する」と語っていた。今回のOTOTEN出展で披露されたeasyHiFiは、その言葉が実際の製品として形になり始めた最初の姿と見ることもできるだろう。
Questyleが目指しているのは、単体のDACやアンプを売ることではなく、SonosやBlue OSのような、家庭内のあらゆる音響機器をつなぐエコシステムそのものなのかもしれない。
CDプレーヤーからDAC、そしてネットワークプレーヤーへと姿を変えてきたホームオーディオは、次にどこへ向かうのか。OTOTENの会場でQuestyleが見せた2つの参考出品は、その問いに対する、ひとつの答えだったように思う。
















