第383回:レコーディングソフト「Record」を試す【後編】
~ 巨大ミキサー搭載。ReasonやDAWとの連携も~
「Record」 |
前回に続き、Propellerhaed Softwareのレコーディングソフト「Record」について紹介する。Reasonのオーディオ版ともいえるこのRecordは、DAWとは明らかにコンセプトの異なるソフトであり、軽くて機動性が高いのが大きな特徴だ。
今回は、その高機動性を実現している大きな要素であるミキサーコンソール機能について紹介するとともに、RecordとReasonの関係などについてみていこう。
■ “大規模”なミキサー機能を搭載
Recordはシーケンサ、ラック、ミキサーの3部構成となったソフトだが、Reasonに無かった全く新たな機能が、非常に大規模なミキサー機能だ。実はこれ、業務用のアナログ・ミキサーコンソールとして著名なSSL 9000Kをモデルにし、Propellerheadの開発エンジニアが再現させたというもの。
前回紹介したLINE6のPODのように、Propellerheadとライセンス契約をした上でRecordに搭載したというのではなく、あくまでもSSL 9000Kを真似たものではあるが、DAWでも見かけないほどの大規模ミキシングコンソールに仕上がっている。
画面上、チャンネルストリップ1本を丸々表示させることは、ほぼ不可能で、1,680×1,050のディスプレイでも縦方向に約2.5回分のスクロールが必要になるほどだ。画面キャプチャしたものを縦につなぎ合わせると、その雰囲気がわかってくるだろう。
チャンネルストリップの表示にはスクロールが必要なほど大きい | 画面キャプチャを縦につなぎ合わせたもの |
具体的に見ていくと、各チャンネルにはダイナミクス、EQ、インサーションエフェクト、センドエフェクト、フェーダーといった機能がそれぞれ独立した形で搭載されている。
まず、ダイナミクス部分はコンプレッサとゲート/エクスパンダーで構成されており、このコンプレッサもスレッショルド、レシオ、リリースといった設定が可能だ。
また、EQ部はハイシェルビング/ローシェルビングを含めた4バンドのパラメトリックEQが搭載されているのとともに、それとは別系統でハイパス/ローパス・フィルターが搭載されているという贅沢な仕様。
ダイナミクス部分 | EQ部 |
一方、エフェクトは、まずインサーションエフェクトの設定パラメータが4つあるが、これはインサーションとして設定したエフェクト群の中からよく使うパラメータを4つ、コンソール上に立ち上げたというもの。必要に応じて、パラメータを変更することも可能だ。
センドエフェクトは、8系統のエフェクトへセンド量の設定ができるようになっている、これはマスターセクション上に組み込んだ8つのエフェクトへセンド・リターンできるという仕組みになっている。
デフォルトでは、Plateリバーブ、Roomリバーブ、テープエコー、ディレイの4つが組み込まれており、残り4つは空の状態。この4つに好きなエフェクトを組み込むことができるほか、もちろん、すでに登録されている4つも組み替えが可能だ。さらに、センドする際、各センドごとにプリフェーダーかポストフェーダーかの設定もできるようになっている。
そして、フェーダー部はフェーダーとPAN、ソロ/ミュートが搭載されているほか、ステレオチャンネルの場合はステレオ幅をコントロールすることも可能となっている。
よく使うパラメータを4つ、コンソール上に立ち上げたもの | センドエフェクト部。8系統のエフェクトへセンド量の設定が可能 | マスターセクション上に組み込んだ8つのエフェクト | フェーダー部 |
このような構成のチャンネルストリップだが、チャンネルストリップにおける信号の流れもチャンネルごとに設定が可能となっている。
設定によってどう信号が流れるかがわかる |
具体的にはインサーションエフェクトを最初の段階に持ってくるか、最後に持ってくるか、ダイナミクスをプリEQにするかポストEQにするか、フィルターをダイナミクスへ接続するのか、という3項目の設定があり、その設定によってどう信号が流れるか一目でわかるように図示される。
また、ミキサーコンソールの一番右にあるマスターセクションは、先ほどの8系統のセンドエフェクトをセットできるようになっているほか、そのリターンレベルやリターンのPANの設定ができる。
さらにマスタリング用エフェクトも利用可能で、デフォルトではReasonでもお馴染みのMClass Mastering Suiteが設定されている。さらに、最上部にはアナログメーター付のMASTER COMPRESSORが搭載されている。これこそSSL 9000Kをモデリングしたものであり、ここで最終的な音圧調整が可能となっている。
リターンレベルやリターンのPANの設定が可能 | アナログメーター付のMASTER COMPRESSORが搭載 |
これだけ大規模なミキサーコンソールであるため、使いこなすのは容易ではない。ただ、トラックを増やしていくと自動的にこのミキサーコンソールのチャンネルが増えていき、必要に応じてEQやダイナミクスなどを調整すればいいため、わかる範囲で触っていけばいい。
なお、RecordもReasonと同様にコントロール・サーフェイスに対応しているので、そうした機材を持っているのであれば、マウスでひとつずついじるのと比較して、効率のいい作業ができそうだ。
■ RecordをReasonとして利用することも可能
では、ここからRecordとReasonの関係について見ていこう。前回も軽く紹介したとおり、ReasonはMIDIで制御されるシンセサイザの世界を仮想的に実現するソフト。それに対しRecordはReasonのオーディオ版ともいえるもので、ボーカルやギターの演奏などをそのままオーディオとして取り込み、自由に加工ができるソフトだ。
ユーザーインターフェイス的にはそっくりであり、実際エフェクトなどではReasonのデバイスが利用できるようになっており、オーディオトラックの構造自体もReasonのコンビネーターとそっくりな形をしている。
では、ReasonとRecordの双方をPCまたはMacにインストールした場合、どうなるのだろうか? Reasonを起動しても、とくに変化はないが、Recordを起動させると驚くべき変化が起きている。
Reasonのシンセサイザ類がすべて使えるようになっている |
Recordで利用できるデバイスが一挙に増え、アナログシンセやドラムマシンなどReasonのシンセサイザ類がすべて使えるようになっているのだ。またボコーダーやデジタルリバーブといったエフェクトもReasonのものが使えるほか、ReBirthとの連携機能、アルペジエーター、パターンシーケンサ……とReasonの機能すべてがRecordで利用できるようになっている。
つまりRecordとReasonが完全に統合されている。そのため、RecordをReasonとして利用することも可能で、Reasonのソングファイルもそのまま読み込めてしまう。もっとも見た目上や構造上にちょっと違いはある。
■ 外部DAWとの連携も
違いのひとつは、Recordでは横に2つ、あるいは3つのラックを並べて置くことができ、より広い画面で音作りが可能となっている。もっともこれは単なるラック=棚なので、縦に長くても、横にいっぱい並んでいても機能的には違いはないのだが、最近のワイドディスプレイで利用することを考えると視認性は向上している。
もうひとつの違いは、オーディオトラックやインストゥルメントを組み込んだ際、Recordでは基本的にその信号がいったん前述のSSL 9000Kをモデリングしたミキサーコンソールを経由するということだ。
たとえばアナログシンセのSUBTRACTORとドラムマシンのREDRUMをRecord、Reasonのそれぞれに組み込んだ場合を比べてみよう。
Recordの画面 | Reasonの画面 |
よく見ると、Recordに組み込んだ各ラックの上にはReasonの場合には登場しないMIXというラックが追加される。これはミキサーコンソールへ送るためのラックとなっており、リアを見ると、MIXの先のケーブルがないこともわかる。ちなみにReasonの場合、通常ラック内に設置される14chのミキサーへ送られる形となる。
Recordのリア画面。MIXというラックが追加される | Reasonのリア画面 |
では、Reasonのソングファイルを読み込むとどうなるのか? この場合は、ほぼReasonと同じ形で読み込まれる。ただし、1点だけ異なることがある。同じソングファイルをReasonとRecordそれぞれに読み込ませた際のラック画面を見比べて欲しい。
Recordの画面 | Reasonの画面 |
Recordの場合、一番上のHARDWARE DEVICEつまりオーディオインターフェイスへの出力の下に、MASTER SECTION、MIXという2つのモジュールが追加されている。Reasonではラックを通った音はそのまま、オーディオインターフェイスへ出力するの対し、Recordでは最終段においてミキサーコンソールを経由する。
とはいえ、ミキサーコンソールをただ経由しているだけだから互換性に支障はない。さらにミキサーコンソールでReasonにはできない方法で音をいじることができるので上位互換性が維持されているわけだ。
ちなみに、RecordとReasonを同時に起動することはできないようだった。Recordを起動中にReasonを起動させると、Reasonは動くがRecord側が動作を停止してしまうのだ。やはり内部的には共通化されているので、排他的な制御が行なわれるのだろう。
一方、RecordはReWireによって外部のDAWとの連携も可能。たとえばRecordとReasonの双方がインストールされている場合、Cubase5にはReWireデバイスとしてRecord、Reasonのそれぞれが見える。この際もスタンドアロンのときと同様で、Reasonは従来と変わらない機能だが、RecordはReasonの機能を統合した強力なデバイスへと進化している。
RecordとReasonを同時に起動することはできない | Cubase5ではReWireデバイスとしてRecord、Reasonのそれぞれが見える |
■ 無料セミナーも実施
以上、2回にわたってPropellerhead Softwareの新レコーディングソフト、Recordについてみてきた。 個人的には久しぶりにかなりエキサイティングなソフトが登場してきたという思いだ。またReasonとRecordを組み合わせると、強力なボコーダーとして使えるようになるのも、うれしいところ。
前回お伝えしたとおり、ネット上の直販価格は29,800円だが、Reasonユーザーなら16,000円(先行予約の場合は15,000円)で購入できる。また、Record、Reasonのセット販売も行なっており、この場合は54,800円と割安な設定になっている。
なお、Recordの発売に先駆けて、9月5日にはPropellerheadによるワールドワイドで展開するセミナーイベント、「The Producers Conference Tokyo 2009」が開催される。入場は無料だが、セミナー受講には事前予約が必須とのことで、気になる人はチェックしてみてほしい。