第390回:より使いやすく進化した「Sound Forge Pro 10」

~CDライティングなど新機能搭載の波形編集ソフト ~


「Sound Forge Pro 10」

 Sony Creative Softwareの波形編集ソフトである「Sound Forge」の新バージョン「Sound Forge Pro 10」が、9月25日に発売された。

 波形編集ソフトとして非常に高機能であるとともに、とても動作が軽いことから、定番中の定番ともいえるソフトのバージョンアップであるが、従来と何がどう変わったのかを中心に紹介する。



■ 使える機能が多い“かなりいい”バージョンアップ

 Sound ForgeはWindows用の波形編集ソフトとして非常に長い歴史を持つソフトであり、筆者個人的にもSonyになる前のSonic Foundryの時代からずっと使ってきた。

 最初に使ったのがWindows 3.1のときのSound Forge 3.0だったので、もう15年近くも経っている計算になる。DAWではなく単なる波形編集ソフトであるだけに、そんなにもう新しい機能もいらないように感じてはいたが、今回のSound Forgeはかなりいいバージョンアップをしている。

先日、Sony Creative Softwareとフックアップが記者発表会を開催

 先日、開発元であるSony Creative Softwareと国内の発売元であるフックアップが共同で記者発表会を開催したが、国内でのパッケージ価格は57,750円とのことだ。また特にパッケージやマニュアルなどが不要であれば、米国のSony Creative Softwareから低価格な設定のダウンロード版を購入することもできるようになっている。

 以前にもお伝えした通り、Sound Forgeは前バージョンである9になったとき、マルチチャンネル化を果たした。これによって、5.1chなどのレコーディングを可能にしているが、基本的な考え方は従来同様の波形編集ソフトであり、DAWとは明らかに異なる種類のソフトである。

 その一方でステレオのみの扱いで、24bit/96kHzに制限される、Sound Forge Audio Studioという廉価版や、ソニーのリニアPCMレコーダやUSBレコードプレーヤーなどにバンドルされるSound Forge LEといったものが登場していたため、通常の利用はこれで十分かなとも思っていた。


■ 新たにCDライティング機能を搭載

 しかし、今回のSound Forge Pro 10の登場で、その考えは大きく変わった。一番いいなと感じたのは、ディスクアットワンスによるCDの書き込み機能が搭載されたこと。「何を今さら?」と思う方もいると思うが、Sound Forge Pro 10のこの機能では、一般のCDライティング機能とはちょっと違う。

 ひとつの長いオーディオデータの中に、自由な位置にトラックを作成することができ、曲間なども自在に設定できる。つまり、自在にPQを打つことができる上、CUEシートの作成までできるようになっているのだ。

曲間なども自在に設定可能CUEシートの作成までできる

 たとえば、リニアPCMレコーダでレコーディングしてきたライブなどの音源をSound Forgeに読み込ませ、レベル調整などの編集作業を施した後、曲のある部分だけをそれぞれトラックとして設定できる。MCや歓声の部分はすべて曲間として設定できるなど、かなり高度な設定が簡単にできる。

以前はCD Architect 5.2というソフトがバンドルされ、CDライティング機能が利用できていた

 もっとも、以前よりSound ForgeにはCD Architect 5.2というソフトがバンドルされており、これを使えば、上記のようなものも含め、オーディオCDライティングにおけるあらゆる機能を利用することができた。

 今回のバージョンでもCD Architect 5.2がバンドルされているが、その大半がSound Forgeにも統合されたというわけだ。その意味では、パッケージとしてのできることは変わっていないのだが、一旦Sound Forgeで作ったデータをCD Architectに読み込ませて使うのは、やはり非常に面倒に感じていた。

 そのため、真剣にCDライティングを考えての作業をする場合は、Sound Forgeをあきらめて、WaveLabを使っていたのだが、今回でその必要性はなくなりそうだ。

 ただし、Sound Forge Pro 10搭載のCDライティング機能にはCD Architectと比較して足りない機能もいくつかある。最初に気付いたのは、トラック1の前のプリギャップ部分を2秒以上作れないという点。

 普通、こんなことをする人はあまりいないかもしれないが、先頭に置く隠しトラックなどがSound Forge Pro 10単体ではできない。CD Architectを併用するかWaveLabなどを使う必要がある。

 Sound ForgeとWaveLab、どちらが好きかはユーザー次第だが、個人的に長く慣れ親しんできたということとともに、作業速度がWaveLabより圧倒的に高速というのがSound Forgeの最大の利点であり、それは今回のバージョンでも変わっていない。とにかくキビキビと気持ちよく動いてくれるソフトだ。


■ サンプリングレート変換機能なども

 CD制作に関連してもうひとつ大きな進化があったのが、サンプリングレート変換とビットデプス変換機能だ。従来あったのは、比較的単純な変換機能であり、音質で比較すると多少、ほかのソフトに引けをとる面があったのも事実だ。

 一応、サンプリングレート変換においてアンチエイリアス機能を装備したり、ビットデプス変換では、簡単なディザーが搭載されているなどはしていたが、各種DAWやWaveLabに比較して劣っていた。

 が、今回はiZotope社によるサンプリングレート変換、ビットデプス変換機能が搭載され、非常に高音質になったのだ。「iZotope 64-bit SRC」および「iZotope MBIT+dither」というのがそれ。とくに派手な画面が用意されているわけではないが、16bit/44.1kHzに変換した際の音は確実に向上している。

iZotope社の「iZotope 64-bit SRC」「iZotope MBIT+dither」

iZotopeのマスタリング用のプラグインもバンドル

 このiZotopeに関連していうと、もうひとつ大きなオマケが追加されている。iZotopeのマスタリング用のプラグインがバンドルされているのだ。

 具体的に挙げると、「Mastering EQ」、「Mastering Reverb」、「Multiband Compressor」、「Mastering Limiter」、「Stereo Imager」、「Harmonic Exciter」の6種類。

 まだ、あまり使い込めていないが、Harmonic Exciterなどはマスタリング用というよりは、普通の音作り用に気持ちいい感じだし、Stereo ImagerとMastering EQあたりを使った最終的な音像作りというのはなかなか効果的のようだ。音圧を上げるためのMastering Limiterは以前紹介したCakewalk Audio Creatorに搭載されているものと同じもののようだ。

Mastering EQMastering ReverbMultiband Compressor
Mastering LimiterStereo ImagerHarmonic Exciter

■ タイムストレッチ編集も可能

独Zplaneの「elastique Proタイムストレッチ」プラグインも同梱

 さらにプラグインとして標準搭載されたのが、高性能なタイムストレッチを実現する独Zplaneのelastique Proタイムストレッチ。

 最近、elastique Proタイムストレッチを搭載した製品が増えており、すでにSony Creative SoftwareではACIDがこれに対応していたが、ついにSound Forgeにも搭載されたわけだ。このプラグインを利用することで、時間、ピッチ、フォルマントの3つの軸を自在にコントロールできるようなっている。

 ところで、波形編集ソフトというジャンルからはやや外れるが、Sound Forge Pro 10にはサンプラーに関連するユニークな機能が搭載された。

各スプリットごとのサンプル音を確認できる

 それは、DLS(.dls)、GigaStudio/GigaSampler(.gig)、およびSoundFont 2.0(.sf2)のそれぞれのデータファイルをSound Forgeで直接読み込み編集、さらに保存までを可能にするというもの。実際に、SoundFontデータなどを読み込んでみると、各スプリットごとのサンプル音を確認できるようになっている。

 読み込んだのはE-mu「Proteus」のライブラリであったが、ちょっと驚いたのはサンプリングレートが38,768Hzという珍しい周波数になっていること。また、並んでいるサンプル音を一まとめにして頭から再生できるのは、なかなか不思議な感じだった。

 もっとも機能としては、それほど使えるものではなく、シンセサイザパラメータなども用意されていないため、あくまでもサンプリングデータを確認する以外には使い道はなさそうだ。

 またSoundFontデータを読み込んで、GigaSampler用に吐き出すといった相互変換機能も備えていないので、データコンバータとしても使えないようだ。せっかく、こうした機能を搭載するのであれば、もう少し突っ込んだ機能があってもよかったのではないかなと感じた。


■ 画面のタブ切替など、そのほかの機能

 そのほか、基本的な機能として、複数のオーディオファイルを開いている際、画面を最大化するとタブで切り替えられるようになったのは、いまどき当たり前の機能ではあるがちょっと嬉しいところ。

 もうひとつイベントベースの編集ができるようになったということが、カタログ上では一番トップに出ていたが、個人的にはいまひとつピンとこなかった。

 これはひとつのオーディオファイルの中である部分をイベントとして扱うことができ、そのイベント内で各種編集ができるというもの。フェードカーブをエンベロープの形でつけたり、イベントとイベントを重ね合わせてクロスフェードも可能となる。

 前述のライブのような音源において、長い歓声部分を短くするためなどには利用できそうではあるが、音楽制作においては、それほど登場する機会はないのかなとも思う。一方で、SE音を数多く録音した場合などは、いちいちファイルとして切り出さすに作業できるという面ではいいのかもしれない。

複数ファイルをタブで切替可能イベント間のクロスフェード機能も

 以上、Sound Forge Pro 10について見てきたが、 CD制作用のツールとしてみても非常に使えるソフトへと進化している。


(2009年 10月 19日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]