第477回:6chレコーディング可能なPCMレコーダ「R-26」を試す

~4マイク内蔵、XLR/TRS入力装備で多用途に対応 ~


R-26

 Rolandから新たなリニアPCMレコーダ、R-26が発売された。これはR-09HRやR-05などの上位版に位置づけられる機材で、これまであったR-44、R-4Proの系譜を継ぐもの。

 同時6chのレコーディングも可能で、XLRで外部マイクとも接続できる仕様になっている。ただR-44のような据え置き型ではなく、多少ごついがハンディーレコーダとして持ち歩くことができるほか、価格的にも実売で45,000円前後と従来製品より手ごろになっている。実際どんなものなのか使ってみたのでレポートしてみよう。


■指向性XYマイクと無指向性OMNIマイクを搭載

 まず最近のリニアPCMレコーダと並べて撮影してみたが、これを見てもR-26がかなり大きい機材であることがわかるだろう。とはいえ十分片手で持ち歩ける機材であり、スタジオやライブ会場でのレコーディングからフィールドレコーディングまで、さまざまな用途での利用ができそうだ。

左からiPhone3GS、R-05、R-26、DR-40、H2n片手で持ち歩けるので、多様なシーンで利用可能

 このR-26、ちょっと大きい機材であるだけに、一般的なリニアPCMレコーダとはかなり違った特徴をいろいろと持っている。最大のポイントともいえるのが搭載しているマイクだろう。液晶パネルの上部分に指向性を持つXYマイクと無指向性のOMNIマイクの2種類を搭載しており、24bit/96kHzでレコーディングができる。中央にあるのがXYマイク、外側にあるのがOMNIマイクだ。メーカーの資料によると、集音マイクの角度はXYマイクとOMNIマイクでは結構違いがあるようで、当然ステレオ感をしっかり出すのならXYマイクとなる。ただ周波数特性を見ると、XYマイクよりもOMNIマイクのほうが、よりフラットで低域から高域までしっかり出ており、とくに低域ではかなりの違いが出そうだ。

液晶パネル上部にXY/OMNIマイクの2種類を搭載中央がXYマイク、外側がOMNIマイクメーカー資料の指向性と周波数特性

 ここで、本体をいろいろな角度から見てみよう。まず正面には約6cm四方という大きなモノクロ液晶パネルがある。これは実はタッチパネル式になっており、メニュー操作などはこの画面をタッチして行なうようになっている。その下にはINPUT1とINPUT2というの入力レベル調整がある。これはいわゆるロータリーエンコーダーではなく、アナログっぽい滑らかな動きのボリューム。

 INPUT1、INPUT2それぞれで何をコントロールするかはモードによって異なってくるが、通常はINPUT1が内蔵マイク用ということで前述のXYマイク、OMNIマイク兼用となっている。一方、INPUT2はというと、外部入力用となっている。その外部マイクの入力端子があるのが内蔵マイクの反対側。ここにステレオのコンボジャックが用意されており、ここにマイクを接続したりライン入力ができたりするのだ。このコンボジャックはメニュー設定でファンタム電源をオンにすることで、コンデンサマイクへ接続することもできる。

 さらに右サイドにはミニジャックのプラグインマイクの入力も装備するとともに、ヘッドフォン出力、さらに小さなモノラルスピーカーも搭載されている。左サイドには電源スイッチ、ACアダプタ接続端子、そしてカバーをはずすと、SDカードスロットとUSB端子が用意されている。このようにACアダプタで動作させることもできるが、外に持ち出す際などはもちろんバッテリーを使う。これは裏面にある電池ボックスに単3電池4本入れて使う形になる。アルカリ電池とニッケル水素電池の双方が利用可能だが、マニュアルを見るとアルカリ電池で44.1kHzで2chで連続録音した場合、電池寿命は約6時間とのことだ。

正面外部入力端子(INPUT2)にステレオコンボジャックを装備右サイドにはステレオミニのプラグインマイク入力、ヘッドフォン出力、モノラルスピーカーも搭載
左サイドには電源スイッチ、ACアダプタ接続端子カバーの中にSDカードスロットとUSB端子を装備単3電池4本を入れる裏面の電池ボックス

■多様な録音設定が可能、入力レベル検知機能も

1ch、4ch、6chレコーディングも可能

 このR-26が一般のリニアPCMレコーダと大きく異なるのは、2chでのレコーディングだけでなく、1ch、4ch、6chの各モードでのレコーディングが可能であるということ。いわゆるMTRではないので、重ね録りをするというのではなく、同時にマルチチャンネルでのレコーディングをするのだ。

 各チャンネルにどの入力を当てはめるかは、いろいろと設定ができるのだが、たとえば4chの場合、「XYマイクのステレオ」+「OMNIマイクのステレオ」という組み合わせや「コンボジャックのステレオ」+「プラグインパワーのステレオ」、6chなら「XYマイクのステレオ」+「OMNIマイクのステレオ」+「コンボジャックのステレオ」といった具合だ。録音した結果は4chならばステレオのWAVファイルが2つ、6chならステレオのWAVファイルが3つ生成されるという形になっている。

 レコーディング中、液晶ディスプレイには4chなら4本、6chなら6本のレベルメーターが現れ、入力状況が確認できるようにもなっている。

録音ソースの選択画面6chのレベルメーター4chのレベルメーター

 また、面白いのがINPUT1とINPUT2のボリュームの間にあるSENSというボタン。これはR-05やオーディオインターフェイスのOCTA-CAPTUREやQUAD-CAPTUREに搭載されているAUTO-SENS(リハーサル)機能とほぼ同じもので、入力する音量を調べてそれに最適な入力レベルに設定するという目的になっている。

 ただ、これまでの機材と違うのは、入力レベルそのものを調整するのではなく、お勧めの入力レベルを知らせてくれるので、設定そのものは手動で行なうという方式になっていること。個人的にはこのほうが安心して使えるように感じられた。

SENSボタンAUTO-SENSが起動
現在の入力レベルを調整中お勧めの入力レベルを知らせてくれる

 このR-26をテストするにあたって、最初にチェックしてみたいと思ったのがXYマイクとOMNIマイクの違いだ。前述のとおり、R-26では4ch同時に録音することができるため、まったく同じシチュエーションで2つのマイクで録り分けることができる。

 まずはこの設定を行なうためにMENUボタンを押すと、画面には9つの項目が表示される。ここで「録音設定」を押して、録音モード、録音ソース、サンプリングレートなどを設定していく。4chの場合の組み合わせは4通りあるが、ここではXYマイク+OMNIマイクを選択している。次に「入力設定」を押すと、「内蔵マイク」、「アナログイン」、「プラグイン」の3種類の設定メニューが現れるので、ここでは「内蔵マイク」を選択する。

 最後に、リミッターのオン/オフとローカットフィルターのオン/オフ、さらにローカットする周波数を3種類から選択できるようになっている。デフォルトでは両方ともオフになっていたので、このまま使うことにする。

MENUボタンで9つの項目を表示録音モードやソース、サンプリングレート等を設定
入力設定で3種類の設定メニューが現れる3種類の周波数から選択可能

■様々なシーンでの録音を試してみる

ウィンド・スクリーン、肩掛けストラップ付きのR-26専用カバーがセットになった「OP-R26CW」

 この状態で、いつものように外に出てきた。家の周りにスズメなどがいなかったので近くの公園で録ってみたのがこの音だ。実は家を出てから気づいたのだが、結構風があり、マイクが大きいだけに風切り音を拾ってしまう。そのためちょっとレベルを小さくして録音していたのだが、ツクツクボウシとカラスの鳴き声をどちらのマイクもかなり高音質で捉えているのが分かるだろう。これを聴く限り、それほど音質に差を感じられないが、音の立体感という点では圧倒的にXYマイクがいい。ただ、XYマイクは後半部分で左チャンネルが風切り音を拾ってしまっているのが分かるだろう。

 実は、こうした問題を避けるため、R-26には定価7,770円のオプション、OP-R26CWというセットが用意されている。ここには風による吹かれを防止できるウィンド・スクリーン、肩掛けストラップ付きのR-26専用カバーが入っている。これを使えばさらにいい音で録れたかもしれない。

録音サンプル:公園の蝉
XYマイク使用OMNIマイク使用
R26_XY_cicadas.wav(16.4MB)R26_omni_cicadas.wav(16.4MB)
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 

サンプリングレートを44.1kHzに抑えてみる

 次に向かったのが踏切。今度もXYマイク、OMNIマイクで4chで録音するが、音質というよりもステレオ感を確認するためのテストなので、サンプリングレートは44.1kHzに抑えて録音してみた。やはりXYマイクのほうが立体的に聴こえるが、これだけ動きがハッキリしているとOMNIマイクでもある程度の音の広がりは感じられる。それより大きな差として感じられたのがOMNIマイクでの低音の迫力だ。これが、先ほどの周波数特性の違いということなのだろう。

 

録音サンプル:踏切
XYマイク使用OMNIマイク使用
R26_XY_train.wav(5.80MB)R26_omni_train.wav(5.80)MB
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 

 その後、部屋に戻り、またいつものようにTINGARAのJupiterを録ってみた。ここでは、再度96kHzに設定するとともに、やはり4chの設定でXYマイク、OMNIマイクの両方で録音してみた。さらにもうひとつ行なったのが、2chでの録音だ。2chの場合、どちらのマイクが選ばれるのかな? と思って録音設定の画面を見てみると、録音ソースの項目が単に「内蔵マイク」とある。それは分かっているのだが、XYマイクとOMNIマイクの選択がどうなっているのかと思って探してみると、マイクモードの選択という項目があった。ここではXYマイク、OMNIマイク単独を選択できるほか、ソロ、コンサート、フィールドさらにマニュアルという選択肢がある。試しにマニュアルを選んでみるとXYマイクとOMNIマイクのバランスを設定できるようになっていた。

 今回はデフォルト値である中間を設定した上で、改めてJupiterを録ってみたので、先ほどの2つと聴き比べてみてほしい。どうだろうか? 確かに中間といった感じで、低音が強調されているとともに、ステレオ感もしっかりあり、まさにバランスのとれた内容となっているように感じられた。3つそれぞれの周波数分析もしてみたが、確かに2chで録音した結果が中間的な音という印象だ。

 また、よくできていると感心したのは、2つのマイクをミックスしているにもかかわらず、音が濁ったり、ピントがボケたりしておらず、非常にクリアであるということ。以前、複数マイクをミックスした結果、音が濁ってしまう機材があったが、R-26においてはそうした心配はまったくいらなそうだ。

 では、この3種類の結果のうち、どれがいいのか? ここから先はおそらく、それぞれの趣向によるもので、良し悪しという問題ではないだろう。ただ、筆者個人の好みからするとXYマイクが一番好きだった。確かにOMNIマイクでは低域が押し出されるが、音楽作品としては強く出すぎているように思えたからだ。とはいえ、やはり選択肢が増えるというのは非常に喜ばしいことだと思う。

マイクモードの選択項目XYマイクとOMNIマイクのバランスを設定可能
周波数分析(XYマイク)周波数分析(OMNIマイク)周波数分析(MIX)

 

録音サンプル:TINGARA「Jupiter」
XYマイク使用OMNIマイク使用XY/OMNIマイクのMIX
R26_XY_music1644.wav(6.92MB)R26_omni_music1644.wav(6.92MB)R26_mix_music1644.wav(6.92MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ところで、R-26で録音されたデータは、4chなら2つのWAVファイル、6chなら3つのWAVファイルとして記録されるのだが、1chや2chの場合も含め、すべて1つずつのフォルダに収められる。またそのフォルダ内にはそれぞれの入力がどのソースなのかを示すテキストファイルも収録されているので、後でどのファイルがどのマイクで録ったのかわかるのは嬉しいところだ。

 ここでちょっと気になったのが、4chで録音した際の2つのWAVファイルを同時に再生させたら、本当に同じタイミングで鳴るのか、そしてその音量バランスを変化させるとXYの特性の強い音からOMNIの特性の強い音へと変化させるようなことができるのか、ということ。実は、R-26にはオーディオをマルチトラックで扱うことができるDAW、CakewalkのSONAR X1 LEがバンドルされている。そこでこれをインストールし、2種類のマイクで録音したそれぞれのWAVファイルを2つのトラックに並べてみた。

 再生すると確かにドンピシャのタイミングで合い、違和感はない。片方ずつをミュートさせると、確かにそれぞれのマイクの特性もハッキリと認識できる。さらにミキサーを使って、それぞれの音量を調整すると、音作りもしっかりとできる。これはなかなか面白い使い方だ。これを試してしまうと、やはり内蔵マイクで録るなら4chで行ない、あとから自分の好みに合わせてバランス調整するのがいいように感じた。

録音したファイルの保存フォルダ2種類のマイクで録音したファイルをSONAR X1 LEで並べてみる

■24bit/96kHzのASIO対応オーディオI/Fとしても利用可能

USB接続すると「ストレージ」、「オーディオI/F」のどちらで機能させるか選択できる

 このR-26にはもうひとつ大きなオマケ機能が搭載されている。それはオーディオインターフェイスとしての機能を備えているということ。PCとUSB接続すると動作モードを「ストレージ」か「オーディオI/F」かと聞いてくる。前者を選べば単にSD/SDHCメモリーカードリーダーとして機能するが、後者を選択すると最高で24bit/96kHzに対応する2IN/2OUTのオーディオインターフェイスに変身してくれるのだ。入力はコンボジャックやプラグインマイクを通じての入力が可能なほか、内蔵のマイクも使うことができ、リミッターやローカットなども利用可能。ある意味、R-26をPC用の高性能マイクとして使うこともできるわけだ。

 これまでもオーディオインターフェイスとして利用可能なリニアPCMレコーダは存在していたが、これは24bit/96kHzのASIOにも対応しているというのが大きなポイント。ドライバのインストールが不可欠ではあるが、オーディオの設定画面もRolandのほかのオーディオインターフェイスと共通のものになっているなど、かなり本格的な製品だ。ちなみに、オーディオインターフェイスとして使う場合はUSBから電源供給されるため、電池が入っていなくても使うことができた。

 以上、R-26についていろいろと見てきたが、いかがだっただろうか? 先日紹介したOLYMPUSのLS-20MやZOOMのH2n、そして今回のR-26と、各社ともいろいろと工夫した斬新な製品を発表してきており、ユーザーとしては面白いところ。ちょっと大きいけれどマルチチャンネルで録れて、使い勝手も音質面もいいリニアPCMレコーダとしてR-26は定番製品となっていきそうだ。


(2011年 9月 26日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]