藤本健のDigital Audio Laboratory

第556回:既存曲に似たアレンジも可能な「WaveLab 8」

第556回:既存曲に似たアレンジも可能な「WaveLab 8」

新プラグイン同梱でマスタリング機能を大幅強化

 先月、ドイツ・Steinbergのオーディオ編集/マスタリングソフトWaveLabの新バージョン「WaveLab 8」(オープンプライス/実売6万円前後)と、下位バージョンのWaveLab Elements 8(実売1万円前後)が、ヤマハから発売された。同ジャンルのソフトとしては、オープンソースのフリーウェア、Audacityや国産フリーウェアであるSoundEngine FREEのようなソフトがある中、WaveLabはどう進化し、どんな存在となっていくのだろうか? 「WaveLab 8」を使って、バージョンアップによる新機能を確認しつつ、チェックした。

WaveLab 8
WaveLab Elements 8

SonnoxやVoxengoなどのプラグインを同梱。ディザー機能も進化

 WaveLabは、2010年の11月にWaveLab 7が出て以来のバージョンアップとなるので、2年半ぶりの新製品。長年、WaveLabはWindows用のソフトとして存在していたが、前バージョンでMacにも対応するハイブリッド仕様となり、今回のWaveLab 8でも、それを踏襲している。対応OSはWindows 7/8とMac OS X 10.8以降で、32bit版はもちろん64bit版のネイティブ・アプリケーションとして動作するようになっており、Windows 8の64bit版においてインストールしてみたところ、32bit版/64bit版の選択肢も表示された。

言語選択画面
32bit/64bit版の選択

 WaveLab 8を起動してWAVファイルを読み込んだのが下の画面だ。一見、普通の波形編集ソフトだが、画面下のタブのスペクトラムを選ぶとスペクトラム表示され、ラウドネスを選ぶとラウドネス表示による画面に切り替わる辺りからも、WaveLabがAudacityやSoundEngine FREEとはちょっと違うソフトであることが見えてくるだろう。

WAVファイルを読み込んだ画面
スペクトラム表示
ラウドネス表示

 価格的にみると、WaveLab 8とWaveLab Elements 8でずいぶん大きな差があるが、それぞれの基本を比較すると、それなりに違いがあるのがわかるだろう。まあ、192kHz以上のサンプリングレートを使うかどうかは微妙なところなので、最大の違いはプラグインということになるかもしれない。

WaveLab 8WaveLab Elements 8
最大サンプリングレート384kHz96kHz
内部処理32bit浮動小数点32bit浮動小数点
最大オーディオトラック数<1,0003
マスターセクションスロット104
クリップあたりのエフェクト数102
リアルタイム VST 3 エフェクトプラグイン35
(Sonnox Restoration
Suite 含む)
17
(Sonnox Restoration
Suite 含む)
オーディオモンタージュワークスペース
オーディオファイルワークスペース
一括処理ワークスペース×
RF64 サポート×

 このスペックを見る限り、リアルタイムVST3エフェクトプラグインは、WaveLab 8が35、WaveLab Elements 8が17となっているが、その詳細は表のようになっている。これを見ても分かる通り、WaveLabシリーズのプラグインの目玉の一つであるSonnoxのノイズリダクションのプラグインはWaveLab Elements8にもバンドルされている。

WaveLab 8WaveLab
Elements 8
イコライザVoxengo CurveEQ-
StudioEQ
GEQ-10-
GEQ-30-
フィルターPost-Filter-
DualFilter-
ダイナミクスBrickwall Limiter
TubeCompressor
Compressor
MultibandCompressor-
Vintage Compressor-
VSTDynamics
EnvelopeShaper-
Expander-
Gate
Limiter
Maximizer-
DeEsser-
Distortion
リバーブRoomworks-
Roomworks SE
モジュレーションChorus
StudioChorus-
AutoPan
ディレイMonoDelay
PingPongDelay-
StereoDelay
スペーシャルStereoEnhancer
MonoToStereo-
ピッチOctaver-
ツールMix6to2-
Mix8to2-
リストアSonnox DeNoiser
Sonnox DeBuzzer
Sonnox DeClicker

 このSonnoxのプラグイン、WaveLab 7でもバンドルされていたが、改めて使ってみたところ、やはりなかなか便利だ。具体的にいうと、ハムノイズを除去するためのSonnox DeBuzzer、クリックノイズやクラックルノイズ、ポップノイズ(レコードのプチプチ音など)を除去するためのSonnox DeClicker、そしてヒスノイズなどを除去するためのSonnox DeNoiserの3つ。結構本格的なノイズリダクション機能であるため、慣れないと使い方に関して戸惑う面もあるとは思うが、コツさえ使えばなかなか便利に使えるはずだ。

Sonnox DeBuzzer
Sonnox DeClicker
Sonnox DeNoiser

 では、WaveLab 8で新たに加わったプラグインはというと、やはり一番の目玉はVoxengo CurveEQだろう。ご存じの方も少なくないと思うが、これは昨年末にリリースされたCubase 7にバンドルされていたプラグインで、単体では89.95ドルでダウンロード販売されているもの。EQといっても普通のEQとはちょっと違う。これはCDなど既存の楽曲とソックリなサウンドに仕立てることができるというユニークなプラグインなのだ。

 手順としては、まず元となるサウンドの楽曲を再生させ、それを元に周波数成分の解析を行なう。解析結果を、新たな曲に適応させるのだが、そのために元の曲と現状の曲の差分を作成し、それによってEQの設定を作り出す。この設定を利用することで、よく似たサウンドに仕立てることができるのだ。たとえばThe BeatlesのDay Tripperのスペクトラムをキャプチャしておいて、最新の曲に適応させたとすれば、極端な話、The Beatles風AKB48サウンドなんてものができるわけだ。まあ、極端に違う雰囲気の楽曲に適応させても、あまりそれっぽくはならないのだが……。

再生した楽曲の周波数成分を解析
作成したEQの設定を利用して、他の楽曲をよく似たサウンドに仕立てられる

 さらに、やはりCubase7にバンドルされているプラグインであるBrickWall Limiter、Tube Compressorの2つのプラグインも追加されている。どちらもマスタリング用途で利用すると効果的なプラグインであり、自分のオリジナル楽曲用はもちろんのこと、昔のアナログレコードをキャプチャしたデータに適応させたり、もちろんCDからリッピングした曲に適応させて、自分だけのリマスター版を作るといったことができるわけだ。

BrickWall Limiter
Tube Compressor

 一方、VST3プラグインではないため先ほどの表に入っていないし、通常のエフェクトとはやや異なるが、マスタリングソフトとして見て欠かせないのがディザー機能だ。24bitや32bitで処理をしていても、CDを焼くためには最終的に16bitに変換する必要があるが、これを単純な下位ビット切り捨て処理にすると、下位ビットが暴れて音質に影響を及ぼす。そこで、そこにディザーと呼ばれるノイズを加えることで、安定したサウンドに仕上げるというものだ。

 Cubaseも含め、これまでSteinberg製品のディザー機能といえば、ApogeeのUV22HRを利用するのが定番となっていた。これはマスターの最終段に設定するだけで、24bitから16bitへの変換などで下1桁分をキレイに処理してくれるものであり、今回のWaveLab 8にもバンドルされている。それに加えた形で、iZotopeのMBIT+Ditheringもバンドルされているのだ。MBIT+DitherringはSoundForgeにも搭載されているもので、音の評価は高い。ただし、パラメータがいろいろあるので、どう設定するのかがなかなか難しいのだが、このMBIT+Ditheringの搭載によって選択肢が増えたというのは大きなポイントだろう。

 同様にリサンプリングを高精度に行なうためのCrystal ResamplerというものもWaveLab 8に搭載されている。こちはクリアーな音質を保ったままサンプリングレートを変換するためのプロ向けのプラグインで、やはりマスターセクションのみで使用するというもの。Qualityの設定を最高にすると、かなりCPU処理にパワーを食うが、それに見合っただけの音質になるのが魅力だ。

ApogeeのUV22HR
iZotopeのMBIT+Dithering
Crystal Resampler

マスタリング機能の向上で差別化

 プラグイン以外で今回追加された新機能がスピーカーマネージングシステムだ。最初名前を見て、スピーカー特性によってEQなどで音を補正するという機能なのだろうか……と思ったらまったく違った。これは最大8種類のスピーカーを出力先として登録しておき、瞬時に切り替えを可能にするというもの。仕組み的にはいたって単純。まずオーディオインターフェイスの設定画面において、再生タブを選択するとスピーカー構成が8つ選択できるようになっているので、これから1つを選ぶ。ここでオーディオインターフェイスの出力ポートを設定しておくのだ。

 その後メイン画面で再生している際、スピーカー構成というところに並んでいる1~8のボタンを切り替えることで、出力先がそこに切り替わるというもの。例えば、1番にYAMAHAのMSP5を2番にGENELECの8020、3番にラジカセ……といったものを接続しておき、切り替えていくことで違う環境で音を聴き比べることができるというわけだ。多くのマスタリング現場では、切替機を用いて聴き比べを行なっているが、マルチチャンネルのオーディオインターフェイスがあれば、それだけですべてが完結できるというのはなかなか便利そうだ。

スピーカー構成を選択
オーディオインターフェイスの出力ポートを設定
再生時に、スピーカー構成の項目から 出力先を切り替えられる
オーディオモンタージュ機能で曲を並べ、それを元にCDへライティング

 こうして音を作りこんでいった結果、オーディオモンタージュという機能において、曲を並べていき、それを元にCDを焼くことができる。単純なCDライティングソフトでは、曲と曲の間は2秒などと固定されてしまうが、オーディオモンタージュを用いれば、音が途切れないよう繋いでしまうこともできるし、「3秒」や、「2.03秒」などと、曲間ごとに自由に設定できる。

 さらに、このように設定した結果をCDに焼くだけでなく、DDP形式で出力できるのも大きなポイント。現在マスタリング後、プレス工場へ受け渡す際、CD-Rを使わずDDP形式のデータでやりとりするケースが多くなってきているが、WaveLab 8はそれに対応しているのだ。DDP出力はSONIC STUDIOのPreMaster CDやMAGIXのSequoia、PreSonusのStuidoOneなど、まだ一部のソフトしか対応していない状況だが、これに対応しているため、まさに業務用のマスタリグソフトとして即活用できるわけだ。

波形編集時に、スペクトラム画面を見ながら直接処理できる

 このように、WaveLab 8は波形編集ソフトというよりマスタリングに特化したソフトとなっており、冒頭のAudacityやSoundEngine FREEなどとはちょっと趣向の異なるソフトになっているとのがわかるだろう。また波形編集機能においても、スペクトラム画面を見ながら直接処理を行なえたり、複数の処理を一括バッチ処理する機能を搭載しているなど、多くの点で差別化が図られている。WaveLab Elements 8だと、そこまでの差はないかもしれないが、やはりフリーウェアの波形編集ソフトと、有料のマスタリングソフトでは、大きな違いがありそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto