藤本健のDigital Audio Laboratory

第668回:RMEの小型USBオーディオ「Babyface Pro」、使い勝手と音質の進化をチェック

第668回:RMEの小型USBオーディオ「Babyface Pro」、使い勝手と音質の進化をチェック

 '15年9月に発売されたRMEの新オーディオインターフェイス「Babyface Pro」。当初から使ってみようと思っていたが、先日ようやく試すことができた。DTM、レコーディングの世界では非常に評判のいいRMEは、PCオーディオの世界でも高い評価を得ているようだが、このBabyface Proは実際にどんな機能を持っており、音質などの性能面ではどうなのか。いつものオーディオ機能測定も交えながらチェックしていこう。

Babyface Pro

従来モデルBabyfaceからの進化点は?

 ドイツのRMEは、多くのオーディオインターフェイスメーカーから目標にされる、まさにお手本のようなメーカーだ。その背景にあるのはRMEの技術力というわけのだが、実際RMEのハードウェア・アーキテクチャは個性的になっている。非常にユニークなのは内部のデジタル回路がFPGAで構成されていること。FPGAに関する詳細は従来モデルでも説明しているので割愛するが、簡単にいえばプログラムで回路を書き換えることができる集積回路だ。そのためファームウェアをアップデートすることで、回路ごと作り直すことができるアーキテクチャになっているのだ。もちろん、すべてがFPGAで構成されているわけではないけれど、普通では不可能な機能追加ができてしまうこともあるため、RMEの製品寿命は長く、Firefaceシリーズのように10年経過しても現役製品として販売されているのも他のメーカーにはあまりない特徴といえるだろう。

 もちろん、音質部分にもかなりこだわりを持って開発しているので、多方面から評価が高いわけだが、FPGAを駆使しているだけにレイテンシーが極めて小さいのもRMEが他社から目標にされる理由だ。このDigital Audio Labolatoryの調査でも、長年RMEがレイテンシーにおいてはトップを行っていたが、ZOOMがそれを超えたため、今後RMEがどう出るのかが気になっているところ。それをチェックする上でも最新製品のBabyface Proを使ってみたかった。価格はオープンプライスで、実売価格は99,800円前後(税込)。

持ち運びに便利なプラスチックケースに収められている

 Babyface Proの前に、前モデルであるBabyfaceについて振り返っておこう。2010年末にレビューしたが、Fireface UCのコンパクト版という感じで誕生したBabyfaceは、その後、国内外で大ヒット製品として普及していった。デザイン的にもオーディオインターフェイスとしては斬新であったが、大きなロータリーエンコーダーでボリューム調整ができた点なども、PCオーディオのリスニング系ユーザーに受け入れられたところだろう。

 すごくよくできた高性能な製品であることは分かったが、個人的には気に入らない点もあった。それは入出力ともにブレイクアウトケーブルを使わないと接続できないというところ。また、このブレイクアウトケーブルを使うことで微妙に音質劣化してしまうようで、オプション扱いで販売されたOyaideのブレイクアウトケーブルに差し替えると、確かに音が結構変わるのを実感できてしまったのも、やや納得のいかなかったところだった。

 それから5年経って登場したBabyface Pro。基本的コンセプトは同じで、サイズもほぼ同等でUSB 2.0接続してバスパワーで動作するというのも変わらないが、仕様や性能は大きく変わっていた。

左が新モデルのBabyface Pro、右が従来のBabyface

 個人的に一番気に入ったのは、やはりブレイクアウトケーブルが不要になったという点。従来アナログ2ch入力/2ch出力だったのがアナログ4ch入力/2ch出力になるとともに、そのすべてがブレイクアウトケーブル不要で、直接接続できるようになったのだ。

側面のUSB端子部

 リアにはXLRのキャノン入力が2つと出力2つ、右サイドにTRSフォンの入力があるほか、ヘッドフォン出力も標準ジャック、ミニジャックそれぞれが用意されている。MIDIだけはブレイクアウトケーブルが必要となっているが、まあMIDIだけだし、コンパクトだし、これならいいかな、と。

XLR入出力
右側面にTRSフォンやヘッドフォン出力
MIDIにはブレイクアウトケーブルが必要

 また見た目からもわかるが、LEDによるレベルメーターが2つに増えている。従来のBabyfaceでは入力をモニターするか、出力をモニターするかのいずれかだったが、Babyface Proでは入力と出力を同時に見ることができるようになったのも進化のポイントとなっているのだ。

LEDによるレベルメーターが2つに

 ちなみにこのBabyface ProをUSB DACとして使うという場合には1点注意しなくてはいけないことがある。それは従来のBabyfaceでも同様だったが、この出力がXLRのキャノン出力であるという点だ。つまり民生用のオーディオ機器に入力するには、XLR-RCA変換ケーブルなどが必要になる。もっともヘッドフォン端子は別途用意されているので、ヘッドフォンでの再生だけを考えているのであれば問題はないし、そのヘッドフォン出力性能はBabyface Proのときよりも音質向上しているようだ。

 このようにBabyfaceとBabyface Proでは入出力端子の構成が異なり、その入出力数もBabyfaceが10IN/12OUTであったのに対し、Babyface Proは12IN/12OUTとアナログ2ch分増えている。ではアナログ4IN/2OUTの他はどうなっているのか? まず出力の2chはヘッドフォン。これはメイン出力とは別となっているが、標準ジャックとミニジャックは同じ内容となっている。残る8IN/8OUTはADAT。実際に8IN/8OUT使えるのは44.1kHzもしくは48kHz動作時であり、96kHzなら4IN/4OUT、192kHzなら2IN/2OUTとなるが、ADAT-アナログのコンバータを使えば、マイクから最大同時12ch録音といった運用も可能になるわけだ。ちなみにモード切替によりADAT入出力を光デジタルのS/PDIFに変更することもできる。

ADATで最大8入出力が可能
モード切り替えでADATとS/PDIFの変更が可能
RMEプロダクト・マネージャのMax Holtmann氏

 では、Babyface Proで変わったのは、デザインとアナログ2chが増えただけなのかというと、そうではない。以前RMEのプロダクト・マネージャを務めるMax Holtmann氏に話を聞いたところ、「Babyfaceを改良したのではなく、まったく新しいオーディオインターフェイスとして設計しています」と話していた。具体的にいうと、周辺チップの進化により、低消費電力で、ノイズの小さいデバイスがいろいろ出てきたので、音質を十分吟味しながら、部品を大きく見直しているとのこと。これは節電のための省電力化というよりも、バス電源供給だけで、どこまでのことを実現させられるか、ということへのチャレンジのようだ。

 なお、搭載されているA/DコンバータおよびD/Aコンバータのチップもまったく新しいものになっている。チップの型番については未確認であるが、Max Holtmann氏によればA/D、D/AともにRMEのADI-8 DS Mk IIIと同じものを採用しているとのこと。これはかなり大きな進化といえるのではないだろうか? さらにヘッドフォンアンプも新たな回路を起こして高音質化しているという。

レイテンシーや音質もBabyfaceより向上

 実際の音質はどうなのか? いつものようにRMAA Proを使って試してみた。ここでは、リアにあるキャノンジャックの入力と出力をループさせてテストしてみたが、結果は以下の通り。なぜか、192kHzではRMAA Proがうまく動作せず、測定できなかったが、5年前のBabyfaceでのテスト結果と比較すると成績はよくなっているようだ。

44kHz/24bit
48kHz/24bit

 そしてもう一つテストしたのが入出力をループさせた場合のレイテンシー。もともとRMEはレイテンシーにおいて世界トップを行っていたわけだが、昨年追い越したZOOMを再び追い越していたりするのだろうか? まずドライバにおいてはBabyfaceもBabyface Proも同じものを使用する。より正確にいえばRMEのFireface UFX、802、UCX、UCもすべてドライバは同じ。最新版は2015年9月28日のタイムスタンプなのだが、それを使ってテストした結果が以下のものだ。

RME製品共通のドライバを使用
レイテンシーの測定結果(128 samples/44.1kHz)
48 samples/44.1kHz
48 samples/48kHz
96 samples/96kHz
192 samples/192kHz

 これを見ると、5年前のBabyfaceのときと比較すると、かなり進化しているのことは間違いない。同じバッファサイズであっても、実測値は1割程度縮まっているのだ。ただし、ZOOMのUAC-2やUAC-8ではバッファサイズそのものをもっと小さくできるようになっている。具体的にいうとBabyface Proの192kHzでは192sampleであるのに対し、UAC-2ではUSB 3.0接続においては32sampleまで縮めて安定動作するため、レイテンシーにおいてはZOOMを超えることはできていなかった。この辺は、今後また各社がしのぎを削る戦いをしてくると思うので、その動向を見ていきたいと思う。

 以上、主に測定の面からBabyface Proを見てきたがいかがだっただろうか? やっぱり、この音質の良さというのは、多くの人が評価するだけのものはあり、ぜひどんなものなのかを聴いてチェックしてもらいたいところだ。一方で、このBabyface Proを使いこなすためには、他のRME製品と同様RME TotalMix Fxというソフトを使う形になる。これを使うことで、チャンネルごとにDSPによるEQやコンプなどのチャンネルストリップを調整したり、リバーブなどのシステムエフェクトを操作できるなど、高級ミックスコンソール並みに高性能なものになっている。

RME TotalMix Fxの画面。豊富な機能と独特なUIが特徴

 ただ、一種独特なユーザーインターフェイスとなっており、例えばミキサーが別レイヤーで3段もあるため、何がどう機能するのか、パッとわからなかったり、ルーティングをしっかり理解しながら操作しないと、目的のところから音を出せないといった点がある。そのため、普段RME製品に慣れ親しんでいないと、操作方法を把握するまでに多少時間がかかるかもしれない。リスニング中心のユーザーであれば、1度設定してしまえば、その後、いじる必要はないのだが、ここを設定しておかないとBabyface Pro本来の性能を引き出せないので、注意したい。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto