西川善司の大画面☆マニア
第229回
HMDいらずのVR体験!「PROJECT ARIANA」、壁の“模様消し”などプロジェクタ新提案
2017年1月12日 09:20
意外にもプロジェクタネタが豊富だったCES 2017。最注目といえるソニーの4K超短焦点プロジェクタ新モデル「VPL-VZ1000ES」の記事は別途お送りしているが、その他にもハイエンドモデルやカジュアル向け、新提案、変則的一発ネタまで巡り会うことができた。ここではそんなプロジェクタ製品達を紹介していきたい。
魚眼プロジェクションマッピングでHMDをかぶらずVR体験を可能に!?
ゲームユーザー向けPC周辺機器メーカーからスタートし、近年は高性能ゲーミングノートパソコンのメーカーにまで躍進したRazer。THXの買収というトピックでも話題を呼んだが、このRazerがプロジェクタ製品の試作機を公開していた。
その名も「PROJECT ARIANA」
PRJOECT ARIANAは、ゲームファン向けのプロジェクタ製品だが、ユーザーがゲームプレの際にメインに見ることになる映像は、普通のPCモニタやテレビなどの直視型ディスプレイの方になる。
ではなんのためにPROJECT ARIANAを使うのかといえば、メインゲーム画面となる直視型ディスプレイの外に映像を投射するため。
投射先は部屋の壁、床、机などなど、ゲーム画面が映し出されている直視型ディスプレイの外界全てだ。
プレイヤー視点で見ると、ディスプレイ内に表示されたゲーム画面を見るわけだが、ディスプレイの外に映し出される外界映像によってゲーム世界の没入感を増強し、あるいは画面外から迫りくる敵の気配を早期に察知することにも繋げられるというわけだ。
そのプレイ感覚はあたかもVR-HMDを被っているかのよう。というのも直視型ディスプレイ外界の投射映像はプレイヤー視点を中心にパノラマ投影されているからだ。
しかし、部屋には机や壁や本棚などの凹凸物が設置されているので、そこに映像を投射しては、投射映像に凹凸が出てしまうのではないか。もしそうならば効果半減どころか、しらけてしまうのではないか。
そのあたりも実は配慮済み。プロジェクションマッピングの技術を使って低減、克服する。
このPROJECT ARIANAプロジェクタ、まだ試作段階なのだが、展示機についてはある程度のスペックが公開されている。
映像パネルは4K解像度。パネル種別は非公開。投射レンズは魚眼レンズで投射角は150°だ。前面には投射レンズを挟んで1個ずつ、合計2個のRGBカメラが設置されていて、これを活用することで投射範囲の3D的な凹凸分布、色分布を取得する。また、メインとなる直視型ディスプレイの位置も自動検出。
こうして取得した投射環境の情報を処理し、適切な映像投射を行なう。凹凸があればその箇所には、凹凸を吸収する画像変形処理をかけて投射するし、壁紙に色が付いていれば、その色を吸収できるような配色パターンでカラー映像表現を行なう。
ディスプレイの長方形形状を認識すると、その領域には映像を投射しないように型抜きをするし、PROJECT ARIANA設置位置から、ディスプレイの長方形の歪み具合(台形歪み状態)にあわせて投射光軸のオフセットも行なう。つまり、PROJECT ARIANAプロジェクタが天井に設置されていても、あたかもプレイヤーの目線位置から映像を投射したような画像変形までを行なって投射するのだ。
実際に、プレイヤー視点で「Shadow Warrior2」のゲームプレイ映像を楽しませてもらったが、なかなかの迫力。あくまでゲームプレイは直視型のディスプレイの方でプレイするのでプレイ感覚に違和感はなし。端から見てるとビヨーンと伸びて歪んでいるかのような部屋側に投射された映像も、プレイヤー視点位置から見るとVR-HMDを通して見ているかのようなパノラマ視界に見えるから不思議だ。
現在はまだ試作段階で、実際に発売をするかどうかもふくめて検討中だという。
4Kパネル採用で魚眼レンズ、しかも部屋全域に映像を投射するとなると、相当なランプ輝度も求められる。価格はそれなりに高価なものになるはずだ。
また、ホストPC側は、GPUで直視型ディスプレイ向けのメインゲーム映像と、4K解像度のプロジェクションマッピング映像の両方を描画しなければならない。プロジェクションマッピング映像の画像変形や色補正の負荷はたいしたことはないだろうが、150°の広画角でシーンを描画するのはなかなか大変そうだ。
もっとも、PROJECT ARIANAプロジェクタからの投射映像は補助映像のため、それほど高品位で描画しなくてもよい。なのでGPU負荷の低い描画にしてもいいだろうし、投射解像度を4Kにする必要すらもないかもしれない。
それより、PROJECT ARIANA対応のためにゲームタイトル個別の対応が求められることも課題となるだろう。NVIDIAやAMDといったGPUメーカーがドライバレベルで対応してくれれば、この課題は幾分低減されるかもしれないが……。また、2013年にマイクロソフトが「IllumiRoom」というほぼ同じ技術提案をしていることも懸念材料といえるかもしれない。
しかしそれでも、今後の展開が楽しみなゲームファン向けプロジェクタ製品である
カシオからソニー「Life Space UX」対抗? のプロジェクタ
昨年、ソニーから発売された「Life Space UX」シリーズの超短焦点プロジェクタ「LSPX-P1」は、話題の製品となった。1,366×768ピクセル解像度のSXRDパネルを1枚使用し、これをレーザー光源とRGB時分割表示を組み合わせてフルカラー表示を行なうLSPX-P1は、壁に密着させた状態で22型相当、約28cmの投射距離で80型相当という超短焦点ぶりを誇る。しかし、輝度性能が100ルーメンなので「暗い」という課題があった。
ここで「我々ならばもっと凄いものを作れるはず!」と力が入ってしまったわけではないだろうが、今回のCESではカシオがとてもよく似たコンセプトのカジュアルユーザー層向けの超短焦点プロジェクタをお披露目していた。
展示はソニーの「Life Space UX」展示コーナーを連想させる、リビングなどの生活空間にカジュアルに設置したような風景で構成されていたので、「意識してない」と言えばウソになるはずである(笑)
カシオが今回のCESで発表した小型超短焦点プロジェクタは、解像度は1,280×800ピクセルで、LSPX-P1とあまり変わらない。映像パネルはTIのDMDチップなので、単板式DLPプロジェクタということになる。
異なるのが輝度性能だ。カシオの今回の試作機は500ルーメン。LSPX-P1の5倍だ。
この高輝度の秘密は、カシオが2010年から実用化しているLED×レーザーのハイブリッド光源システムの採用にある。このハイブリッド光源システムでは、赤緑青(RGB)の3原色光のうち、赤色光源にはLEDを用い、青色はレーザー光、緑色はこの青色レーザー光を蛍光体に照射して波長変換して利用する。
画面サイズは、壁に密着させた状態で約20型強、投射距離を34cmとると60型強といったところ。輝度は500ルーメンなので、60型投射時もそれなりに明るい。
さて、カシオのプロジェクタ製品群はビジネス用途向けが中心であり、今回のハイブリッド光源採用の超短焦点プロジェクタも、ビジネスシーン向けの展開が想定されている。そこで、ユニークな専用スタンドも合わせて紹介されていた。
このスタンドは、超短焦点プロジェクタ試作機を下向きに組み付けてデスクトップに映像を投射するためのもので、高さを調整することで画面サイズの大小の調整が行なえる。「急遽、CESでのデモのために開発した」というわりに完成度が高い。というのも投射映像に触れるタッチインターフェース機能を搭載しているのだ。このスタンド部には扇状に赤外光を照射するエミッターが二箇所組み付けられており、画面に触れた指の座標を検出できるような仕組みになっているのである。
検出する仕組み自体はシンプルで、指に生じる赤外光輝点をプロジェクタ側に組み付けられたカメラで検出しているだけ。赤外光エミッタ側から見て、あるいはカメラ側から見て指同士が遮蔽していなければ、原理的にはマルチタッチの検出も可能だとのこと。
直視型の大画面ディスプレイでタッチ対応を実現しようとするとコストが高く付きがちだが、今回のような短焦点プロジェクタとシンプルな赤外光ベースのタッチ検出であれば相対的には安価にシステム構築が可能だ。娯楽用途、遊戯施設用途は、もちろんビジネスシーン、教育現場においても活用が期待できるかもしれない。
ブースでは、この仕組みを活用したジグゾーパズルや15数字パズルのゲームなどを紹介。また、1Wスピーカーも内蔵し、操作に反応して音を鳴らせられる点も、インタラクティブコンテンツとの相性の良さを覗わせる。
試作機ながら完成度の高かった、超短焦点プロジェクタ試作機。発売時期、価格は未定だそうだ。担当者によれば、CESの反応を見て、さらに改良を進めていきたいとのこと。
模様付きカーテン、煉瓦でも美しく映像を投影する「SCREEN FREE TECHNOLOGY」
自由な設置性と高品位な映像投射を両立するため、プロジェクタには様々な特殊機能が搭載されている。レンズシフト、台形補正などは、当たり前の機能になりつつあるが、カシオは投射先が悪条件であっても、高品位な映像投射ができるユニークな技術開発を行なっている。それが「SCREEN FREE TECHNOLOGY」だ。
どういうものなのか、順を追って解説しよう。
理想的なプロジェクタからの映像投射先は「白いこと」(グレーやブラックのものもあるがここでは置いておく)、「平面であること」、「スクリーン平面と投射光軸が直交する関係にあること」(四辺が直交した画面にするため)といった条件が挙げられるが、これらが全て揃わないところでも、映像投射をしなければならない時もある。
そんな課題を解決するのが「SCREEN FREE TECHNOLOGY」だ。
1つ目の問題。「SCREEN FREE TECHNOLOGY」では、投射先が「白くない」どころか、投射先に模様があっても、これを吸収したパターンを重ね合わせることで、あたかも純白のスクリーンに投射したような映像を出力する。
例えば、投射先に赤い模様があったとしよう。そのプロジェクタで表現できる赤の強さが0~255までだとして、投射先の模様の赤の強さが10だったとしよう。すると、「SCREEN FREE TECHNOLOGY」はこれを検知して、投射プロジェクタの色表現の赤の最低レベルを10からにして、赤を10~255で表現するのだ。つまり、赤=10を漆黒扱いとしてしまい、この場合、漆黒は赤緑青=10で表現することになる。
このような補正を赤緑青(RGB)の全色、しかも投射範囲の全ピクセル単位で行なうことで、投射先の模様を消し去ることができるというわけだ。
2つ目の問題。SCREEN FREE TECHNOLOGYでは「平面でない」どころか、投射先にボコボコした凹凸があっても、これを吸収してあたかも「まっさらな平面」に投射したような映像を出力できる。
これは、投射先の凹凸によって投射映像がどのように歪むかを検出し、映像に対して「その逆歪み」の画像変形を適用することで解消する。例えば、投射映像が「∧」状に歪む箇所があれば、投射映像側を「∨」状に変形して投射することでプラマイゼロとして平坦に描き出すわけだ。
3つ目の問題。「スクリーン平面と投射光軸が直交する関係にあること」が担保できないと、投射映像は台形に歪む。まあ、これは多くのプロジェクタに既に搭載されている台形補正機能で解消できるが、SCREEN FREE TECHNOLOGYでは、この台形補正を投射映像を認識して自動で行なう、という点が新しい。
こうした3つの投射映像の補正を行なうことができる「SCREEN FREE TECHNOLOGY」だが、それら3要素の補正は、専用のカメラと、専用のキャリブレーションアプリケーションを走らせることで自動で実行されるのだ。
実際のキャリブレーション工程は、色補正、凹凸補正、台形補正のためのパターン画像を次から次へと高速に表示していき、それらを専用カメラが高速かつ同期撮影していく形で行なわれる。
実際に、最も悪条件とされる、織り目の凹凸付き、模様付きカーテンに対しての投射映像をSCREEN FREE TECHNOLOGY適用の前後で見せてもらったが、見映えはなかなかのものであった。
補正適用後は、たとえ白一面の映像が映し出されてもカーテンの模様が一切見えないことに感動。こうした一連の補正を行なうと原理的に「黒浮きが生じやすい」「階調ダイナミックレンジは圧縮され気味」にはなるが、模様が常に映り込むよりはいい。凹凸吸収も、画面中央付近で見る限り、違和感はない。
現在のこのシステムは、研究開発途中と言うことで、ブースでのデモもカシオの既存製品と、既製品のカメラを組み合わせて行なっていた。担当者によれば、製品化の際には、プロジェクタ側にカメラを内蔵する、もしくはキャリブレーション用カメラを製品に付属させるか、を決める必要がある、と述べていた。
プロジェクタが常設されていない宴会場、屋外のイベント会場など、学校の教室などなど、「プロジェクタでの映像投射には悪条件」というプロジェクタ利用シーンは多いので、この技術の引き合いは多そうだ。民生向けでも、カジュアルユーザー層には期待される技術ではないだろうか。今後の進化に注目したい。
レーザープロジェクタが身近に? LGは1,400ドルのフルHD機
筆者を含むホームシアター系の大画面プロジェクタファンにとって、関心が高いのはレーザープロジェクタがいつ「身近な存在になるか」ということ。
ホームシアター向けのレーザー光源プロジェクタは、ハイエンドな4Kプロジェクタ向けが多く、エプソン「EH-LS10500」が約80万円で最も安価というレベル。リアル4Kでレーザーとなると、JVC「DLA-Z1」が約380万円。ソニー「VPL-VW5000」に至っては800万円だ。それを考えれば、CESで披露されたソニー「VPL-VZ1000ES」の約300万円は頑張っているといえるかもしれない。
安価なレーザープロジェクタはないのかといえばそんなこともない。ビジネス向けが中心だが、カシオ製品では赤色LED×レーザーのハイブリッド光源の「XJ-F210WN」などは約13万円程度だ。ただし、解像度はフルHD未満の1,280×800ピクセルだ。
そんな状況下、今回のCESでは、LGが、予価1,399ドルのフルHD(1,920×1,080ピクセル)のレーザー光源プロジェクタ「LG ProBeam HF80JA」を発表した。映像パネルはDLP。
2017年早々の発売を予定しており、この価格でありながら2,000ルーメンの高輝度性能を誇り、WebOS3.0ベースのスマートTVの機能も搭載。テレビチューナを内蔵しているので単体でテレビとしても使えるのだ。
光学系に関しては手動式1.1倍ズーム/フォーカスレンズを搭載。レンズシフト無し。このあたりはバッサリとコストを削減。ランプ寿命は2万時間。一般的な高圧水銀系ランプの10倍だ。
重さは約2.0kgと軽く、持ち運びも簡単。ただし、バッテリ駆動機能はなし。
ブースでは、このHF80JAを3台使ってパノラマ100インチ3画面+直視型ディスプレイ1機を組み合わせたフライトシミュレーター体験をデモ。発色性能も良好。公称コントラスト値15万:1の実感はなかったが、それでも、コストパフォーマンスの高さは実感できた。
フルHDのレーザーDLPプロジェクタがこの価格帯で出てきたことは、今後、プロジェクタ製品のレーザー化がミドルクラスに及んでいくことの序章なのだろうか。2017年は、プロジェクタのレーザー化が進んでいくことを期待したい。