西川善司の大画面☆マニア
第234回
無敵のHDR感と映像のキレ。映画が楽しいパナソニック有機ELテレビ「TH-55EZ950」
2017年7月27日 08:00
有機ELテレビが続々と登場する2017年夏。日本メーカーの有機ELテレビの「御三家」となったのが、東芝、パナソニック、ソニーの製品だ。この連載では、既に東芝の4K有機EL REGZA「55X910」を取り上げているが、今回紹介するのはパナソニックの4K有機EL VIERA「TH-55EZ950」だ。実売価格は49万円前後。
REGZA X910はどちらかといえば、これまでのレグザシリーズの延長線上にある上級機と言う位置づけだったが、パナソニック VIERA EZ1000/EZ950は、テレビ製品としてはもちろんだが、マスターモニター的な存在を目指すことも強く訴求されている。テレビ、そして映像鑑賞用モニターとしてどんなポテンシャルを有しているのか? 念入りに評価してみた。
設置性チェック~軽量で頑丈。設置は楽。サウンドも良好
有機ELテレビは、液晶テレビに「あって当たり前」のバックライトシステムがない。そのため、ショーモデルとして極薄をアピールしたコンセプトモデルが注目を集めたが、実際の製品では、運搬時の筐体堅牢性やインテリア家具としての頑丈さも求められるため、極端な薄さはない。
TH-55EZ950も、上部から3分の1あたりくらいまでは、厚みわずか4mm程度だが、それより下は約45mm程度で、一般的な液晶テレビと変わらない。ただ、大がかりなバックライトシステムがないこともあってか、重量は軽く、スタンド込みでも18.5kgしかない。画面の大きさを考えると軽量だ。今回の評価では、筆者宅に配送してもらって一人で2階のリビングに運搬してスタンドの組み付けまで行なえた。上部の薄い部分もかなりフレームがしっかりしており、よほど変な持ち方をしない限りは、ねじれて曲がってしまうようなこともなさそう。薄いながらも頑丈な作りであった。
スタンドは、ディスプレイ部の下部の両端に金属製のスタンドを組み付ける方式。東芝のREGZA X910シリーズは、スタンド部が重かったが、本機のスタンドはわずか1kg程度だ。
設置台からディスプレイ部下部までの隙間は約50mm。ブルーレイパッケージ3枚入るが、4枚は入らない程度の隙間。画面下部がかなり下に来る。
設置を終えると「55インチのテレビなのにコンパクト」というイメージを持った。というのも、TH-55EZ950は上と左右はもちろん、下部も狭ベゼルなためだ。上は約13mm、左右は約10mm、下部ですら約23mmしかなく、2mも離れた距離から表示映像を見ると、ほとんど映像が浮かんで見えるような感覚だ。
ベゼル部が殆ど無いので、照明器具によりベゼル部がテカっても気にならない。映像表示面の処理はグレア(光沢)系で、部屋の情景の映り込みはないわけではないが、気にならないレベル。
同じ有機ELでも1クラス上の上級機「TH-65EZ1000」は、Technicsと共同開発した市販サウンドバー並みの専用スピーカーを搭載するが、TH-55/65EZ950は、下部に開口部を設けたインビジブルデザインの本体組み込み型となっている。それでも、総出力は40Wの、ミッドレンジ×2(10W+10W)、ウーハー×2(10W+10W)の2Wayステレオスピーカーを搭載している。出音も結構よい。ボーカル域はパワー感があるし、「低音強調」をオンにしなくても低音がびびらずに出ている。普段の番組視聴では不満のないサウンドだと思う。
欲を言えば、もう少しステレオ感がワイドにあれば、とは思う。視距離にもよるが、音像が「画面下の中央あたり」から出ている感が強いのだ。もっとも、この製品を購入するオーナーだと、自慢のサウンドシステムを持っていることも多いのかもしれない。
消費電力は定格386W、年間消費電力量は210kWh/年。消費電力も年間消費電力量も同画面サイズの液晶テレビの約1.5倍だ。これは、現在のRGBWサブピクセル型有機ELパネル採用製品であれば、どの機種も似たような値だ。
有機ELの課題ともいえる、焼き付き問題についても触れておこう。有機ELは、原理的に焼き付きが起きやすい特性があり、本機の取扱説明書にも、その特性について4ページにもわたって解説している。
TH-55EZ950では「映像調整」-「画面の設定」メニューに、この焼き付き問題に関連した機能メニューが立ち並んでいる。
「画面ウォブリング」は、各ピクセルの経年劣化を平均化する目的で、画面全体を1ピクセル単位で微妙に動かすもの。テレビの使用頻度が高い人はオンで常用したい。なお、デフォルトでもオンだ。
「パネルメンテナンス」は、焼き付いてしまった画面の焼き付き解消を試みる処理を行なうものだ。
液晶もそうだが、同一状態が長く続いたピクセル(同じ色を表示し続けてしまったピクセル)は、その駆動電極の電荷バランスが偏ってしまう。この電荷バランスが崩れた状態で起こる焼き付きは軽微なものであり、白色表示などで復元可能とされる。パネルメンテナンスはまさに、そういった軽微な焼き付きを低減させるモードになる。なお、特定ピクセルの有機材質の過度な劣化による焼き付きはこのパネルメンテナンスを行なっても解消できない。
ディスプレイ的に活用したり、あるいは点けっぱなしで活用するような人は「焼き付き」には気を使った方がいい。
接続性チェック。HDMIは2系統がフル規格対応
端子は背面と側面に備えており、カバーで全体を覆ってすっきりと配線を見せられる。HDMIは4系統あるが、筆者のPC接続実験では、側面のHDMI 1/2の2系統のみが18Gbps対応で、HDMI 3/4は10.2Gbpsどまりとなるようだ。
4K/HDRコンテンツのYUV422/60fpsコンテンツ、あるいはゲームなどのRGB888/60fps映像はHDMI 1/2に接続する必要がある。HDMI 3/4の場合は、映ったと思えても、YUV420/60fpsとなってしまうはずだ。HDRや4K/60p出力が必要なBDプレーヤーや、PS4 Pro/Xbox One X、AVアンプ、PCなどはHDMI1/2端子に接続したい。
なお、HDCP2.2は全4系統のHDMI端子が対応しているので、2K BDプレーヤーなどはHDMI3/4端子に繋いで問題ない。ARC(オーディオリターンチャンネル)はHDMI1端子のみ対応だ。
DisplayPortは搭載しない。また、アナログビデオ入力端子は付属の変換ケーブルを利用して接続し、コンポーネントビデオとアナログ音声入力に対応する。アナログビデオ入力端子自体は備えていない。
LAN端子や光デジタル音声出力も装備。USB端子は3系統で、側面側のUSB1は、USB3.0対応で録画HDD専用接続端子になる。チューナは3系統で2番組同時録画に対応する。USB 2/3はUSB 2.0対応で、USBメモリ、カメラ機器、キーボードなどの汎用USB機器接続用。
注意したいのは、録画用HDDはハブを使った複数同時接続に対応しないこと。最大8台までのつなぎ替えには対応している。まぁ、パナソニックはレコーダも展開しているので、本格的な録画はレコーダに任せるという考えなのかもしれない。
操作性チェック~賢い音声入力対応リモコン。ゲームモードは60fps時で約1フレーム遅延
リモコンは、ここ最近のVIERAシリーズではお馴染みのデザインのもの。電源オン操作から地デジ放送の画面が映し出されるまでの時間は約9.0秒。最近の製品としてはあまり早い方ではない。HDMIの入力切換の所要時間は約2.0秒。こちらは平均的な早さ。
メニュー設計も従来のVIERAから変更なく、設定項目にカーソルをあてるとポップアップ表示される、簡易説明が便利だ。
操作していて気が付いたのは、最新モデルはメニュー項目が縦にうんざりするほど長く羅列しているということ。「映像調整」メニューを開いて、ゲームモードの設定が出来る「オプション機能」メニューまで、十字キーの上下ボタン連打を何十回連打しなければならないのか(笑)。押しっぱなしでもカーソルは動くが、それもゆっくりだ。5個飛ばしで移動出来る操作系とか、海外メーカーが採用しているWiiリモコン的なマウス的な操作がないと、このメニューの操作は正直つらかった。
アプリなどの選択も、目的アイコンにカーソルが合わさるまで、カーソルを十字キーで縦移動、横移動してのUFOキャッチャー的な操作をしなければならず、UI面で古さが出てきている。
一方、先進的なUIも実装されている。
以前は別体の音声リモコンで行なっていた音声検索が、標準リモコンだけで出きるようになっているのだ。
インターネットに接続されていれば、「ストリートファイターファイブのバルログをYouTubeで検索」のような、固有名詞バリバリの検索もしっかり通る。これはこれで驚かされた次第だ。
画質関連の設定で、幾つか分かりにくいところや、クセのある部分があったのでフォローしておこう。
「画質の詳細設定」に「色域設定」があるが、これは「映像調整」側の「カラーリマスター」設定と排他関係にある。つまり、どちらか一方の設定が反対側の設定に影響する仕様だ。さらに、この「色域選択」設定には自動がなく、固定設定のみなのが使いにくい。
本機ではUltra HD Blu-rayのようなRec.2020映像入力時には、その映像入力を自動把握するようなので、たとえば「Rec.709の時にのみカラーリマスター設定を有効化させる」「Rec.2020のときはRec.2020準拠で表示させる」というような適応型の設定が欲しい。今のままだと、本来見るべき最上の設定でユーザーが映像を見られていない可能性がある。
「オプション機能」も難度の高い設定項目だ。
まず、ピュアダイレクト機能は4Kと1080pで分けて設定できるようになった。ちなみに「ピュアダイレクト」モードとは、入力信号をYUV=444であると見なして映像パイプラインに通すモードで、ベースバンド映像を取り扱うのに適したモードである
「1080pドットバイ4ドット」は、フルHD映像の1ピクセルを4K映像パネルで2×2の4ピクセルで描画するとモード。超解像処理やアップスケール処理がキャンセルされて「ドットドットした」表示となるので、レトロゲーム映像などとの相性がよい。
HDMI階調レベル(HDMI RGBレンジ)の設定はあるのだが、従来機に搭載されていた「YCbCr」向けの設定はなくなった。まあ、この設定が必要になるのはほぼRGB機器だけなので実害はあるまい。
「HDMI EOTF」設定は、HDR映像専用のガンマ補正カーブとも言えるEOTF(Electro-Optical. Transfer Function)の選択設定だ。こちらは昨年モデルは「ST.2084」という項目名だったのだが、同じ意味の「PQ」(Perceptual Quantizerの略)に変わっている点に注意。
「ゲームモード」は、映像処理をバイパスさせて低遅延で映像を表示させるモードだ。
このゲームモードをオンにして、公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測を行なったところ、「1080pドットバイ4ドット」オフ時で約16ms、60fps時、約1.0フレーム相当の遅延が計測された。ゲームモードオフ時には約100ms、60fps時、約6.0フレーム相当の遅延が計測された。
最近は、倍速駆動対応機でも60fps時、1フレーム未満の製品は珍しくない。それでも以前のVIERAと比べればかなり低遅延になったことはおおいに歓迎したい。
なお、ゲームプレイ時は「くっきり」設定をオンにするのがお勧めだ。「くっきり:オン」は、簡単にいえばバックライトスキャニング的な動作を有効化させるもので、若干輝度は下がるが、動きの速いゲームは格段に見やすくなる。なお、これをオンにしても、ゲームモード:オンであれば、遅延は約16msのままであった。
画質チェック~無敵のHDR感。ユニフォミティも完璧。階調性も不満なし
TH-55EZ950の映像パネルは、LGディスプレイ製の有機ELパネルだ。パナソニックが公言しているわけではないが、今の大画面有機ELテレビの選択肢はこれだけだ。
以前REGZA 65X910を紹介したときも触れたが、このLGの有機ELパネル採用テレビの技術的背景をおさらいしておきたい。これは評価におけるキーポイントにもなるからだ。
さて、LGの有機ELパネルは、白色で全てのサブピクセルを発光させ、RGB(赤緑青)カラーフィルターで各サブピクセルをRGB発光させてフルカラー表現を行なう仕組みだ。もともと、100の光量で光らせた白色有機EL光を、RGBカラーフィルタで抜くことになるため、RGBの各サブピクセルの光利用率は3分の1ということになり、発光効率が芳しくない。つまり暗いということだ。その暗さを補うため、白色光をそのまま出せるW(白)サブピクセルもあしらっているのがLG有機ELパネルの特徴である。
自発光とはいえど、LG式有機ELパネルは、カラーフィルターで色を作るという構造が、現在主流の液晶パネルと変わらないのだ。
また、RGBWサブピクセルは全て白色有機EL発光体からなっているわけだが、この白色有機EL発光体も、実は青色有機ELがベースで、これを蛍光体を用いて白色に波長変換している。この仕組みから、純色成分としては青が圧倒的に鋭いスペクトルを有することになる。ここも現在主流の液晶テレビのバックライトに用いられる白色LEDと同じだ。白色LEDは、青色LED光源に蛍光体を組み合わせたもののため、青スペクトルが強い。
つまり、理論上は、赤と緑のパワーは液晶とそう大差がないことになり、発色特性として液晶パネルとあまり差がないということになる。
そして今の有機ELフィーバーにおいては、「有機ELパネルは自発光。だから透過光を用いる液晶パネルより偉い」と語られている。確かに、自発光式画素の黒は画素を消灯するだけで表現できるため、明部と暗部が同居するようなコントラスト表現は大得意である。一方で、電気的な特性から、自発光パネルは実は暗く光らせることが苦手だ。イメージ的には、あるしきい値を超えた電気を送ってやらないと発光しない。点けば点いたで少し明るすぎてしまう。こうした「暗く光らせる」のは、サブピクセル1つ1つが実質的な光透過率を制御できる液晶パネルの方が得意だったりもする。
というわけで筆者は、いまの有機ELテレビ(LG有機ELパネル採用)の評価ポイントは、「明るさ」「暗部階調性」「発色」にあると思っている。
まず、TH-55EZ9500の「明るさ」だが、4K液晶テレビと比較すると暗いが、プリセット画調モードの「ダイナミック」を選択すると、液晶に近い輝度の映像を得ることはできる。
スペック上の最大輝度は1,000nit程度で、4K液晶テレビのHDR対応機の最大輝度は1,000nit~1,400nitあたりに到達しているので、そうした液晶機と比較に明るさでは及ばない。特に、蛍光灯照明下でHDR映像を表示した際の“まばゆさ”は液晶の方が上だ。
しかし、やや部屋を暗くした場合には印象が変わってくる。
暗部の締まりと、後述する暗部階調性能の高さから、凄まじいコントラスト感が得られるのだ。ピーク輝度は、1,000nit超の液晶テレビに優るとも劣らぬ鋭さで見えるのである。
今回の評価では、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)ソフトとしてはブラッド・ピット主演の第二次世界大戦時代を舞台にしたスパイ系スリラー映画「マリアンヌ:ALLIED」を、暗室で「プロフェッショナル」画調モードで視聴したが、チャプター2の社交場のシャンデリアのHDR感が素晴らしかった。シャンデリアの眩しい輝きはもちろんだが、シャンデリアを構成する1つ1つのクリスタルが高輝度な白に飽和せず、当時の白熱球光源の高輝度なオレンジの輝きがとてもリアルだ。明部の中にあっても高いダイナミックレンジをもって"色"階調を見事に描けている。ただ「光に飲まれたような輝くシャンデリア」ではなく、「明るいながらも立体的な構造物であることがわかる表現」になっているところに感心した。
その後、夜が明けて朝が着たときにマリアンヌが外窓を開けて外光を取り入れるシーンも、屋外から陽光が降り注ぐ表現がリアルだ。実物の太陽よりも相当暗いはずのピーク輝度(暗室で見ているせいもあるが)ながら、劇中の部屋に差し込む陽光に、実生活で経験するような「窓を開けたときの目を開けてはいられないまばゆさ」の記憶が甦るのだ。
輝度がらみでいうと、ユニフォミティ(輝度均一性)も素晴らしいの一言。
これは、直下型バックライトであっても、導光板で一定面積範囲に光を拡散照射させている液晶パネルでは表現できない均一性だ。液晶は、どうしても最外周が微妙に暗くなりがちだが、TH-55EZ950ではそれがない。「各画素が自発光する有機ELパネルでは当たり前では?」と言われそうだが、各画素で輝度のばらつきは微妙にあるので、そう理論通りにはいかない。
ではどうやってこの性能を実現しているかというと、話はシンプルで、製造後に1品ごとにチェックして調整を掛けているためなのだとか。有機ELパネルは韓国のLG製だが、TH-55EZ950の製造自体は日本で行なわれている。「メイド・イン・ジャパン」の「真骨頂ここにあり」といったところか。
続いて、暗部階調特性だが、これは液晶に迫る正確性を実現していたことに驚いた。
自発光画素は、ある程度の電気量を与えないと光ってくれないが、それでは明るすぎるので、時間的、空間的な分散制御を組み合わせることでアナログ的な暗部階調を作り出している。プラズマでも苦労した部分なのだが、有機ELでも同様なのである。このあたりは、さすがは「長年プラズマをやってきたパナソニック」といった感じで、非の打ち所がないほど自然だ。
映画「マリアンヌ」では、主人公の二人が夜空の下、アパートの屋上で語り合うシーンが何度もあるのだが、こうしたシーンでも暗部階調にノイズ感はなく、暗がりに浮かぶ主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの顔面の陰影は立体的に見えるし、ちゃんと肌の色味もリアルに見える。街灯を受けて淡く描き出される街並みも、自然な階調で保てているし、淡い月明かりを受けるマリオン・コティヤールの髪も、僅かな栗色の色味を残して細やかに描き出せている。4Kの解像感を、こんな暗いシーンでも感じさせるのは液晶では難しいかも知れない。
前述のようにRGBWの有機ELパネルで、発光源の青色を波長変換して白色を作るという特性上、筆者は発色を危惧していた。しかし、結論から言えば問題なし。赤緑青の純色は雑味もないし、肌色などの混合色も自然な発色だ。
色度計でTH-55EZ950のスペクトラムを計測してみると、なるほど、鋭い青に比べて、予想通りに赤が弱いことがわかる。実際、HDR映像ではなくSDR映像における陽光下の顔面などに見られる明るい肌色などは、やや赤味不足で白っぽい印象を受けることもあった。
HDR映像ではどうか? 検証のために「ChromeCast Ultra」を用いてHajime Uchimura氏のHDR(ST.2084+BT.2020)テスト動画を再生してみたところ、HDR輝度1,000nitくらいまでは、変な色シフトや飽和も起こさず、安定した色表現が行なえていた。1,000nitを超えてくると、明部の方が白方向に飽和していく様子が見て取れたが、現行のUHD BDは、およそ、1,000nit前後をピークとして色・輝度設計されているので、TH-55EZ950の色再現性能は十分に対応可能と言ったところか。
映画「マリアンヌ」で、本機の広色域性能を感じたのは、チャプター7、内偵捜査官の尋問室の机の上に置いてあるプラスチック製のマゼンタに近いピンク色の電話機である。わずかに光を内部に透過散乱させているような低透過率な昔のプラスチックの質感と陰影変化による僅かな色味の違いを的確に表現できていて、妙にリアルに見えていた。
陽光下の人肌は前述したような印象が多少あるが、屋内や、それほど光の強くない環境下での肌の色に違和感はない。逆にやや暗めの状況下での肌色の再現性は優秀だと思う。
最後にもう一つ。
60fps時、約1フレーム遅延はともかくとして、格闘ゲームやアクションゲームをプレイしてみたところ、激しい動きの映像がとても見やすかった。毎秒24コマ程度の映画では、液晶との差異はそれほどでもないのだが、60fps映像となるとやはり液晶とは違った見映えになる。
これについて検証すべく、テキスト画面を横スクロールさせた映像を本機と液晶機とで表示させて毎秒960コマ(一コマあたり約1msで撮影)で撮影してみた。結果はご覧の通りで、本機の映像は画面が瞬間的に書き換わっているのに対し、液晶はじわっと書き換わっていく様子が見て取れる。この差が動く映像の見え方の違いとなって現れているのだろう。
プリセット 映像モードのインプレッション
輝度優先で蛍光灯照明下でも見やすい画調。ただ、階調性能はやや犠牲になっている印象
やや暗めな照明下でテレビ放送を楽しむのに適している
輝度と階調をバランスさせたモードという印象。ダイナミックとスタンダードの間のような存在
パナソニックの歴代ビエラらしい画調で映画を楽しむためのモード。薄暗い程度の部屋で使用できる
THX認証を受けた画質モード。(暗)は「暗室での視聴に適した」の意味である
THX認証を受けた画質モード。(明)は「明るい部屋での視聴に適した」の意味である
パナソニックの歴代ビエラに搭載されている映画モードの暗室向け設定。
Imaging Science Foundation規格準拠の画質モード
マスターモニターライクな画質モード。今回の映像評価は主にこのモードで行なった
映画マニアにこそお勧めしたい一品
「マスターモニターライクな画質を目指した」と公言されてきたパナソニックの有機ELテレビ製品シリーズだけあって、UHD BDの映画ソフトとの相性は抜群だった。今回の評価では、本文で触れた「マリアンヌ」以外にも「アサシンクリード」「ザ・コンサルタント」「ガール・オン・ザ・トレイン」などのUltra HDブルーレイを視聴したが、とても楽しいひとときであった(笑)。
圧倒的なコントラスト感は「安定の気持ちよさ」を感じさせてくれるし、暗室で見ていれば色もよい。それと、なんといっても階調表現力が優秀なので、明るい映像も暗い映像も“安心して”見ていられた。それこそ「評価の仕事」を忘れ、コンテンツの内容に没頭してしまうこともあったくらいだ。
そして、時々、液晶テレビやプロジェクタでは見たことがないような表現のシーンにハッとさせられて、再生を止めたりして、まじまじと画面を眺めて「HDR感が凄いなぁ」「コントラスト感が凄いなぁ」とつぶやくようなことも多かった。
評価を終えて感じたのは、本機はテレビ製品としても優秀だが「映画を視聴するためのモニター」としての価値が高いということ。映画を「安定した画質面で安心して見たい人」にお勧めしたい製品だ。
同画面サイズの液晶テレビと比較すれば、価格は高価ではあるが、液晶テレビで見る映画に「安心感を得られない人」にとっては、投資する価値はあると思う。
TH-55EZ950 | マリアンヌ 4K ULTRA HD + Blu-rayセット |
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