西川善司の大画面☆マニア
252回
見た目は高層ビル。だけど中身は4K/HDRプロジェクタな「LG HU80KS」を試した
2019年3月8日 08:00
55インチの4K液晶テレビが10万円未満で買えるようになった昨今、プロジェクターは「コストパフォーマンスに優れた、大画面ソリューションです」という売り文句だけでは、一般ユーザーの関心を惹くことができなくなりつつある。
そこで各メーカーは「楽しそう」、「便利そう」と思わせる製品作りをプロジェクターに展開するようになってきている。その分野の草分け的存在として思い出すのは、ソニーが'16年2月に発売した「LSPX-P1」だろうか。
LSPX-P1は、入力映像をインターフェイスボックスから無線伝送するユニークなデザインとし、バッテリー内蔵の本体は家庭内を自由に移動して使える、という新しいプロジェクターの活用法を提案して見せた。一方で、輝度は低く、解像度もフルHD未満(1,366×768)という割り切りで、「映像の視聴体験」よりは「プロジェクターの使い方の新提案」に重きを置いていた製品だった。
今回取り上げるLGのプロジェクター「HU80KS」は、LSPX-P1が提案した「プロジェクターの使い方の新提案」のコンセプトを踏まえつつ、基本性能にも、ある程度のこだわりを見せた製品だ。
HU80KSの映像解像度は、DMDデバイスの画素ずらしによる疑似4K。輝度性能は2,500ルーメン。これで実勢価格が税込27万円前後なので、なかなか意欲的な製品だと言える。
製品概要チェック……四角柱形状の取っ手付きボディ。ミラーで投射光を反射
HU80KSの外観は、まるで駅の喫煙所などに置いてある角形スチール灰皿、もしくは都会にそびえる高層ビルのような面持ち。最上部には取っ手も付いていたりして、いってしまえば無骨なデザインだ。ただ、そんな飾り気のない見た目も、しばらく見続けていると「未来的なもの」に見えてくるから、なんとも不思議である。
筐体サイズは、165×165×474mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約6.7kg。性能を考えると随分とコンパクトで軽量だと言える。
パッと見、どこが前面でどこが側面なのかが分かりにくいが、投射レンズは「四角柱」として立てた時の上面側に実装されている。
投射レンズは、1.2倍ズームに対応するも、レンズシフトには非対応。光軸の延長線上に映像の下辺がくるような「打ち上げ」式投射となる。
100インチ(16:9)の最短投写距離は約2.9m(2,886mm)、最長投写距離は約3.5m(3,480mm)となっている。本機の製品サイトには、超短焦点プロジェクターと誤認しかねないイメージ写真があるが,実際には「2.9mで100インチ投射」はごく一般的なホームシアター機の投写距離なので留意したい。
ズーム及びフォーカスの調整は、投射レンズ近くの本体側面側のホイールを回して行なう手動式だ。
投射レンズをカバーする役目にもなっている開閉型のフタは、内側が反射鏡となっている。この反射鏡(ミラー)は、43~53度の範囲で傾かせることができ、その際、投射軸に対して映像を2倍の86~106度の範囲で曲げることが出来る。このミラーを使ったところで、投写距離が短くなるわけではない点にも注意したい。もちろん、このミラーを退避させて、直接スクリーンに投射することも可能だ。
この特異な見た目と反射鏡の搭載で、いろんな設置スタイルが実現出来るわけだが、分かりやすく整理すると、基本的には2種類の設置スタイルが基本となる。
1つは、前述したように角形スチール灰皿のように縦置きするスタイル。この場合、ミラーを使わなければ天井に投射、ミラー使えば壁面に設置したスクリーンに投射ができる。
短焦点モデルではないので、縦置きで100インチ画面に投射しようとすると、約2.9m離した床面に設置することになり、しかもレンズシフトがないため、本体よりも前に着座はできない。本体の後ろ、もしくは本体の左右が視聴位置となる。制約を考えれば、縦置きの天井投射が良さそうだ。
もう1つは、本体を横に寝かせて設置するスタイル。
この場合は、ごく一般的なプロジェクターと変わらない設置方法となる。ボディ形状が四角柱なので、上下逆転させてのオンシェルフ設置(疑似天吊り設置)も楽ちんだ。
寝かせて設置した時にミラーを使えば、天井投射も可能。“縦置き&ミラーなし”よりも、“横置き&ミラー”の方が若干投写距離が稼げるので、天井に少しでも大画面を投射したい時は、後者のスタイルがいいかもしれない。
定格消費電力は250W。輝度性能を考えると、低く押さえられている。
光源ユニットには青色半導体レーザーを採用。これを黄色蛍光体に照射して白色光を得ている。光源ユニットは固定式で、ユーザーによる交換はできない。光源寿命は、一般的な高圧水銀系ランプの10倍で、約20,000時間。
HDMI端子は、側面と背面に各1系統搭載。2つのHDMI端子は、それぞれDeep Color、CEC、HDCP 2.2、HDR10に対応するが、3Dには対応しない。
HDMIは18Gbpsの入力に非対応で、4K/60p表示はYUV 420までに制限される。RGB 888やYUV 444の4K/60p表示はできない。最近は比較的安価な4Kプロジェクターでも18Gbps入力に対応するモデルも増えてきているだけに残念なポイントではあるが、映画コンテンツ主体で楽しむ分には問題ないともいえる。
というのも、4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)や新4K8K衛星放送、各社の映像サービスなどは、全てYUV420収録・配信だからだ。ゲーム機やPCとの接続を重視しないユーザーは、あまり気にならないポイントかもしれない。
HDMI端子以外では、USB 3.0端子、USB 2.0端子、LAN端子、ヘッドフォン端子、光デジタル音声出力端子を備える。
本機は7W×2chのステレオスピーカーを内蔵し、音声の再生も可能。音質や音量は、近年流行のスマートスピーカーと同等レベルといったところか。カジュアルに配信コンテンツを楽しむ程度であれば、申し分ない音質だろう。
リモコンはLGテレビ製品ではお馴染みの「マジックリモコン」を採用。
マジックリモコンは、手に持ったリモコンそのものを動かすと,それに連動して画面上に出現したポインター(マウスカーソル)を動かせる。ゲーム機のWiiリモコンのような感じで、ユーザーインターフェイスを操作できる。直観的な操作は便利だと思うが、リモコン上のボタンがライトアップしないので、プロジェクターの使用環境である暗がりでは使いにくいのが気になる。できれば自照式ボタンを採用して欲しかった。
電源オンからHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約19秒。レーザー光源モデルだけあって、水銀ランプモデルよりも起動は速い。HDMI 1→HDMI 2への入力切換所要時間も約2秒と、なかなか高速だ。
webOSを搭載しており、ウェブブラウザをはじめ、YouTubeやNetflix、TSUTAYA TVといったビデオ配信アプリを本体にインストールして利用できる。検索キーワードなどの入力は日本語にも対応したソフトウェアキーボードが使えるが、最近の薄型テレビ製品のようにリモコンからの音声入力に対応して欲しかった。
USBキーボードの接続にも対応。筆者手持ちノーブランド品のUSBキーボードも問題なく使えた。標準アプリのウェブブラウザで文字入力したり、検索メニューからローマ字入力で日本語が打てる。
Bluetooth接続のキーボードは、LGとロジクール製をサポート。筆者手持ちのマイナーメーカーのBluetooth接続キーボードは接続が出来なかった。
今回も公称遅延値約3ms、1080p/60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」(「ゲームダイレクト」モード設定)との比較計測を行なった。計測解像度は、フルHD(1,920×1,080ドット)。測定は画質モード「標準」と「ゲーム」で実施した。
結果は画質モード「標準」における26ZP2との相対遅延は83msで、60fps換算で約5.0フレーム。画質モード「ゲーム」では相対遅延33ms。60fps換算で約2.0フレーム。昨今のホームプロジェクターとしては平均的な遅延時間といったところだ。
画質チェック……発色と暗部再現にクセあり。ただし解像力はリアル4Kに極めて近い
本機は4Kプロジェクターというカテゴリでリリースされているが、実際のところは、いわゆる「疑似4K」プロジェクターに類する製品となる。
映像パネルは,非公開となっているが、公開されているスペックなどから類推するに、テキサスインストゥルメンツ(TI)製の0.47型/1,920×1,080ドットのDMDチップ「DLP470TE」を採用していると見られる。そして、このDMDチップ上の各ピクセルをSpatial Light Modulator(SLM:空間光路変調器)素子で空間的に4回分、時分割表示することで4K(3,840×2,160ピクセル)表示を行なっている。
この連載で取り上げたBenQ「HT2550」や、JVC「LX-UH1」と同一方式ということだ。
TIは、この画素ずらし4K投射技術を「XPR-4K」(Expanded Pixel Resolution)と名付け、各プロジェクターメーカーに対し積極的に訴求。市場に出ているエントリークラスの単板式4KDLPプロジェクターは、ほぼ全てがこのシステムを採用しているとみていい。
疑似4K表示の解像力品質は良好だ。RGB単色の文字表示を行なっても歯抜けは見られない。また偽色もなく、リアル4Kにかなり近いピクセル出力が行なえているよう。この印象は、以前取り上げたJVC LX-UH1の品質に近い。
下のYouTube映像は、HU80KSの時分割4K描画を960コマ/秒で撮影したもの。4K分のピクセルを時分割に描画しながら、それと合わせて色も時分割生成していることが分かるだろう。
フォーカスは画面中央と画面外周とでは、ややズレが生じるようだ。色収差もあるため、画面全域をクッキリさせるフォーカス合わせは難しい。「大体合ってるかな」っといった具合に、調整はやや妥協するしかない。
公称輝度は2,500ルーメン。実際、ホームシアター機としては必要十分な明るさを備える。完全暗室にはできなくとも、部屋の照明を少し落とすだけで映像は楽しめるだろう。
それでは、映像ソフトを使っての画質インプレッションに入ろう。
いつも通り、定点観測評価として4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)「マリアンヌ」と「ラ・ラ・ランド」を用意。「マリアンヌ」は社交場にブラッドピットが辿り着くシーン(チャプター2)を、「ラ・ラ・ランド」は夕闇のもとで主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴する。
「マリアンヌ」では街の広場のネオンサイン、社交場のシャンデリアや各テーブルのランタンが、そして「ラ・ラ・ランド」では夕闇に列ぶ街灯が、非常に鋭く、眩しく輝き、HDR映像の醍醐味を楽しむことができる。
街灯に注目すると、光源とおぼしき箇所が最も鋭く光り、その周辺に拡散する光との階調の差も描かれている。明るい描写の中にも微妙なコントラスト感が再現されている。2,500ルーメンの高輝度性能が、HDRの表現力にきちんと活かされている。
一方で、DLPプロジェクターの割には黒浮きがやや気になる。そのせいもあって、映像の暗部表現の情報量がやや少ない印象を受ける。明るいシーンはいいのだが、暗いシーンは全体的に薄明るく見えてしまうのだ。
それから、暗いシーンでの色の彩度の落ち方がやや唐突だ。例えば、人肌が暗がりに移動すると途端に灰色っぽい色になってしまう。「マリアンヌ」ではナチスの腕章の赤が、「ラ・ラ・ランド」ではヒロインの持つカバンの赤が、暗がりで色味が薄い。暗色のカラーボリュームの作り込みが不十分なのかもしれない。
続いて、沖縄県の慶良間諸島などを4K/HDR収録したUHD BD「GELATIN SEA」を視聴。
苦手とする暗部のシーンが少ないこともあってか、本機と相性が良い。海原の細かいさざ波の描写や、パノラマビューで捉えた海岸沖に生い茂る森林の葉々の揺れなど、疑似4K表示とは思えない解像力、きめの細かさが再現できている。
ただ、砂浜にほど近い海辺にクルーザーが浮かんでいるシーンで気になる点が。クルーザーが浮かぶポイントから砂浜に向かって、濃い青からシアン色のグラデーションで海辺が描かれるはずなのだが、これが青の濃淡のグラデーションになっているのだ。
もしや……と思い、白色のスペクトルを色度計で計測してみたところ、以下のような測定結果が現れた。
測定結果を見ると、緑と赤の純色が分離しておらず、しかも赤と緑のピークが青と比べて著しく低いのだ。確かにこれだと、シアン方向の色域は狭くなるだろう。
これを踏まえ、改めて明るいシーンの人肌もチェックしてみると、全体として肌の色はやや冷たい感じがする。肌色は赤のパワーを必要とするので、こうした発色傾向となっていると思われる。
こうした結果からいえば、本機で視聴する場合は映像モード「標準」がオススメだ。HDR映像ではブライトシネマ、SDR映像ではシネマ1、シネマ2、Technicolorがマスタリングしたというエキスパートモードが選べるが、色域が狭く、一般的な階調重視のシネマ系画質モードでは全体的に冷たい映像になってしまうからだ。
ただ、HDR映像を表示する場合は、「ブライトシネマ」でも良い。色の彩度は落ちるが、明部の階調は他のモードよりも良好だからだ。たとえば、「マリアンヌ」の銃撃練習シーンや、「Gelatin Sea」での青空に浮かぶ白く輝く雲々は「標準」よりも「ブライトシネマ」の方が階調が見やすい。
白く輝く雲といっても、白の輝きには濃淡があるし、青空にも雲1つ無い青空もあれば薄く雲のかかった空もある。そうした微妙な描きわけは、ブライトシネマの方が上手い。明るい表現主体のアニメ、CG映画などの視聴時にはブライトシネマを選ぶのも悪くないだろう。
SDR映像を疑似HDR化する「HDR効果」モードが結構面白い。
恐らく、輝度信号が一定値以上あるピクセルに対し、輝度ブーストをかけるだけの処理なのだと思うが、2,500ルーメンの高輝度性能によって、かなりインパクトのある画になるのだ。
暗がりに輝く松明の炎、宇宙に浮かぶ恒星、黒い車に映り込んだ街の夜景……など、コントラストの激しいシーンでは、特にこのHDR効果の威力が分かりやすい。オリジナルの映像を破綻させるような極端な機能ではないので、常用してもいいと思う。なお明部の強調度に応じて「高/中/低」が選べる。
また、フルHD以下の映像をディテール強調しながらアップスケールさせる「超解像」機能も搭載されている。設定は「オフ/弱/中/強」が用意されている。画面全域にシャープネス強調を行なう印象で、フィルムグレインのノイズも鮮鋭化されてしまう。コンテンツを選ぶ機能で、実写映像では勧めないが、アニメやCG映画は常用してもいいだろう。
補間フレームを生成、挿入する「TruMotion」は良好。特に大きな破綻は見られない。挿入強度は「弱/中/強」が選べるので、ユーザーの好みに合わせて設定し常用するのもありだと思う。
まとめ……ユーザー予備軍にPJの世界や魅力を伝える魅力的な存在だ
解像感に関しては、多様な疑似4Kモデル群の中ではかなり優秀な部類に入る。輝度性能もホームシアター機としては必要十分以上のものを持っていた。ただ、フォーカス性能や色域性能にまだ改善の余地があり、画質を最重要視するユーザーにはお勧めはしない。
本機の魅力は、「取っ手が付いて持ち運び簡単」、「直立させて簡単設置」、「ミラーを用いて部屋の上の方に投影可能(天井にだって投射可能)」、という部分にある。カジュアルに大画面を楽しみたいファミリーユーザーにはお勧めできるし、一台のプロジェクタを複数の会議室で使い回しするようなビジネス用途にも重宝されるだろう。
USBメモリーに記録させた写真や動画の対応範囲も広く、写真は最大15,360×8,640ピクセル、動画は4,096×2,160ピクセルまでのコンテンツ再生に対応する。動画素材もH.264のみならず、H.265の再生にも対応。筆者が適当にエンコードしたH.265素材も問題なく再生できた。
ホームパーティーや会議などの場において、再生したいコンテンツをUSBメモリーに入れ各自が持ち寄って、とっかえひっかえ再生し合うような使い方もできるだろう。
またスマートフォンとの連携機能も充実。Miracastを用いれば、スマートフォン内のコンテンツを無線伝送して投射できるし、「LG TV PLUS」というリモート制御アプリを使えば、スマートフォンから直接、プロジェクターの操作もできる。
これまでプロジェクターに関心の無かったユーザー予備軍に向けて、「プロジェクターは楽しい」「今のプロジェクターは大画面が手軽に楽しめる」というメッセージを伝えるための製品として、HU80KSはとても魅力的な存在だと言える。
この手のユニークなプロジェクター製品は、本来は、LSPX-P1をリリースしたソニーが出すべきだったのではないか、と筆者などは思ってしまうわけなのだが、LGがこの分野に攻め入ってきたことで、このジャンルの製品が盛り上がるかもしれない。その点で今後が楽しみだ。
ちなみに。ソニーはLSPX型番のハイエンド機「LSPX-A1」(238万円)を'18年3月に発売するも、'19年3月をもって販売を終了してしまうそうだ。リアル4Kプロジェクターの価格破壊を行なったソニーには、VPL-VW255をベースとしたユニークかつ、一般ユーザーにも手が届く“ライフスタイル提案型プロジェクター”の新モデルを期待したいものだ。
最後に、LGはCES2019にて、HU80KSの後継機「HU85L」を発表している。国内で発売されるかどうかは分からないが、新たに短焦点光学系を搭載し、前モデルでやや難のあった色域を拡大すべく、光源に赤色レーザーも加えたモデルとなっている。筆者としては、このモデルが登場した際には、再び評価をしたいと思っている。乞うご期待。