西川善司の大画面☆マニア
第275回
“ソニー最小”なのに嫉妬する画力。4Kプロジェクタ「VPL-XW5000」恐るべし!
2022年8月12日 08:00
2022年、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)プロジェクタメーカーの二大巨頭、ビクターvsソニーの闘いが激化することになりそうだ。1月に掲載した本連載第270回(記事参照)で取り上げたビクター「DLA-V90R」は、予想以上の高画質で、筆者は相当な衝撃を受けたわけだが、ライバルのソニーは、ビクターの動きにまるで呼応してきたかのように、カウンターパンチともいうべき新製品を出してきた。それが、ソニーの新SXRD機「VPL-XW5000」(約88万円)と「VPL-XW7000」(約187万円)だ。
ビクターの「DLA-V90R」(288.2万円)、「DLA-V80R」(170.5万円)、「DLA-V70R」(130.5万円)とは微妙に価格帯がずれているのだが、LCOSプロジェクターの買い換えをじっくりと検討中のユーザーにとっては「両社を見比べて決断しよう」と考えている人は多そうだ。
そんなわけで今回の大画面マニアでは、XW5000を取り上げることとした。上位のXW7000ではなく下位モデルの方を選択した理由は「アンダー100万円クラスでありながら、レーザー光源を採用した初のLCOS機」という点に注目したからだ。
2020年に発売された高圧水銀ランプ×4K SXRD機「VPL-VW575」のリリース直後の価格が約80万円前後だったことを考えると、今回取り上げるXW5000は、このVW575ユーザーの買い換え候補にもなりそうである。
ただ、XW5000が「完全なるVW575の後継機としての立場を担えるか」というと、これがちょっと微妙で、どうやらそういうわけでもなさそうだ(詳細は後述)。
XW5000は、画質性能に重点を置いた一方、一部の機能面においてはむしろVW575に劣る部分もある。本稿では、XW5000そのものに対する評価はもちろん、そのあたりについても着眼した評価も行なった。
外観:サイズ/重量の減量に成功。レンズ制御は手動に
ボディは、SXRD機の伝統を継承したフォルムではあるが、新デザインに変更された。上位機XW7000も新筐体で、一見同一デザインかと思いきや、実はXW5000とは異なるデザイン。おそらく今後、上位機と下位機で、この2つの筐体デザインを使い分ける算段なのだろう。
外形寸法は460×472×200mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約13kg。これは、旧モデルVW500/200系の外形寸法496×464×205mm(同)、重量14kgに近い値だ。サイズ感的にも、このクラスのユーザーからの置き換えを狙っていると思われる。
ちなみに、VW700系の外形寸法は560×496×223mm(同)、重量20kgだったので、XW5000は、VW700系と比較すれば体積にして30%、重さは35%も低減できていることになる。
エアーフローはVW700系と同じ、前面吸気/背面排気を採用。VW500/200系は逆だったので、熱い排気が投写映像にかげろう現象を引き起こすこともあったが、XW5000/7000ではこうしたことは起きない。
20kg超えのVW700系は、単独での天吊り設置作業は厳しいものだったが、13kgであれば、成人男性で一人でもなんとかできるレベル。上位XW7000も460×517×210mm(同)、重量は約14kgとなり、体積・重量とも減量化に成功。こちらも設置難易度は従来より改善された。
脚部は、前方左右にネジ式の高さ調整を配置。後方は高さ固定のゴム足。これは恐らく天吊り設置想定のためと思われる。ちなみに、ビクターは最下位モデル「DLA-V50」でも前後左右の4カ所でネジ式の高さ調整が可能だった。
左右の脚部間の距離は、実測で約31.0cm。前側の脚部から後ろ側のゴム足までの距離は実測で26.3cm。この大きさの台があれば、XW5000の設置が可能ということだ。
原稿執筆時点では、ホームページがアップデートされていないが「天吊り金具組み付け用のネジ穴が三点あること」「そのネジ穴が前側に約16cm間隔で左右開けられていて、この2穴位置から約15cm離れた場所に3つ目のネジ穴が切られていること」を確認したので、VPLシリーズの定番天吊り金具「PSS-H10」(直販価格76,230円)が利用出来ることは間違いないだろう。つまり、従来のVPLシリーズを天吊り設置できていた環境ならば、XW5000の設置は可能ということだ。
投写レンズは新設計のもので、手動調整式の1.6倍ズームレンズを採用。100インチ(16:9)の投写距離は最短約3.06m、最長約4.89mで、ホームシアター向けプロジェクターとしては標準的な性能といえる。
フォーカス、ズーム、レンズシフトといった投写調整機能は全て回転リングを回して行なう手動式だ。レンズシフト量は上下±71%、左右±25%となっている。シフト量は過去モデルのどのレンズとも異なってはいるが、常識的な設置ケースにおいては必要十分なものになっていると思う。
今回の評価では、100インチ(16:9)映像の投写を行なったのだが、設置場所からスクリーンまで、約3m離れた状態で4K映像をフォーカス調整するのはかなり大変だった。フォーカス合わせが手動式だと、スクリーンに近づいて行なうことができないためだ。
約50万円のVW275ですら、フォーカス、ズーム、レンズシフトの各調整がリモコン操作による電動式だったのに、約88万円のXW5000で手動式になってしまっているのは解せない。
電動レンズ制御機能を削ったということは、同時に、ピクチャーポジションと呼称されているレンズメモリー機能を失ったことになる。
レンズメモリー機能とは、投写映像のアスペクト比やスクリーンサイズに応じて、予め、最適なフォーカス位置、ズーム量、レンズシフト位置を記憶させておけば、その投写設定をボタン一発で呼び出せる機能のこと。元来、VW500系には標準搭載されてきた。
型番に“0”が一個増えたのに、この機能がカットされたことは痛い。特にアナモフィックレンズや横長スクリーンなどを組み合わせ、16:9のコンテンツと2.35:1の映画コンテンツとで投写環境を切り換えていたVW500系ユーザーは、XW5000への移行はし難いことになりそうだ。
定格消費電力は295W。これは、従来の2,000ルーメンクラスのレーザー光源採用機に対し、30%以上もの低消費電力性能であり、レーザー技術の進化を感じる。約300Wというと、2,000ルーメンクラスの水銀系ランプモデルとほぼ同等の消費電力だ。
消費電力が減少していることで、騒音レベルの低減も実現。XW5000では、ボディ体積がVW700系に対して30%もダイエットしたにもかかわらず、騒音レベルは24dBを維持。最大輝度投写状態でも、筆者私物のVPL-VW745よりも静かであった……。
インターフェイス:4K/120Hz非対応。ただしフルHD/120Hzは可能
接続端子パネルは、正面向かって左側側面の下部にレイアウトされている。
入力端子は、HDMI端子が2系統のみ。アナログビデオ入力はない。
HDMI端子はHDMI2.0/HDCP2.3対応で、伝送速度は18Gbpsまで。HDMI2.1規格やHDMI CECには対応しない。
入力対応フォーマットが不明だったので、実際に入力テストを行なってみたところ、4Kは3,840×2,160ピクセル/60Hz以外に、4,096×2,160ピクセル/60Hzにも対応していた。また、フルHD(1,920×1,080ピクセル)に限っては、120Hz入力も行なえた。いちおう、120fpsのゲームプレイで利用可能というわけだ。
あまりない機会だと思い、PlayStation 5(PS5)とXbox Series Xとも接続して、各ゲーム機がどのようなフォーマットで出力できるのかも調査してみた。結果は以下の通り。
Xbox Series Xでは、PCと同じで、フルHD解像度時に120fpsまでの出力ができるとの結果が出た。
対して、PS5では120Hzには非対応との表示。これは、PS5が'22年5月時点でのファームウェアでは、VRR対応でないと120Hzで出力できない仕様のためのようだ。ちなみに、VRR対応かつリフレッシュレート120Hz対応のASUS製ゲーミングディスプレイ「PG259QNR」だと以下のような結果を示す。
LAN端子は、Webブラウザ等から本機を制御するためのもの。REMOTE端子(RS232C端子)も同様で、PCのターミナルソフトなどから本機の制御が可能。USB端子は、ファームウェアアップデートの際にUSBメモリを接続するためのもの。DC5V/500mAのUSB給電ポートとしても利用できる。
IR IN端子は、赤外線リモコンの受光部を延長するためのもの。またTRIGGER端子は、本機稼働時にDC12Vを出力する端子で、電動スクリーンやカーテン、電気照明などをプロジェクタの使用と併せて連動動作させたいときに活用するものとなっている。
接続端子周りは、過去のVPLシリーズと同様に非常にシンプルだ。
操作:リモコンは先代から持ち越し。3D機能がないのに[3D]ボタン
筐体は新デザインとなったが、残念なことにリモコンは先代機からの持ち越しである。よくよく思い返すと、このリモコンデザイン。2012年発売の「VPL-HW50ES」や「VPL-VW1000ES」からキャリーオーバーされ続けているものだ。
「普段ユーザーが手にするモノこそが、一番身近なユーザー体験(UX)となる」と考えているので、AV機器のリモコンは非常に重要と思う。なので、10年ぶりにプロジェクターを買い替えたユーザーが、再びこのリモコンを手にすることを想像すると「そろそろ新デザインにしたほうがよい気がする」と思ってしまう。
リモコンをよく観察すると、画調モード切換ボタン群と十字ボタンの間に“黒い塗りつぶし領域”が目にとまるが、実はこれ、先代機までは全モデルに搭載されていた投写レンズの電動調整関連ボタンがあった場所。
そう、本機ではレンズ制御が手動式になってしまったので、さすがにこのボタンは削除しないと、と排除はしたものの、リモコンの天板パーツをそのまま流用したモノだから、ボタン穴を塞いだ……というわけだ。
それにしても約88万円の商品の付属リモコンが、試作機“然”としているのはやるせない。XW5000ユーザーはこのリモコンを握って“黒い塗りつぶし領域”を見るたびに「自分は下位モデルを買ったんだな」という想いを噛み締めるかと思うと気の毒に思えてくる。
膨大なモデル展開を行なっている、安価でオフィスプロジェクター製品群ならばともかく、ハイエンド括りのLCOSホームシアター機のリモコンがこれでは夢も希望もない。是非、88万円を出して本機を買ったお客さんの気持ちになって欲しいと思う。ここはせめて、実際にボタンを実装して、各ボタンを別の機能に割り当てるなどした方がマシである(そのあたりの具体的な提案は後述)。
リモコン関連でいえば、前出の「塗りつぶし領域」以上に皮肉なことがある。それは[3D]ボタンだ。
実は、今回取り上げているXW5000は3D非対応、そして上位のXW7000は3D対応がオプションになってしまった。XW7000はXPAND VISIONが提供する業務用3D映像シンクロシステム「XPAND AE125-RF」(販売代理店はユニバーサル・ビジネス・テクノロジー)に対応するが、業務用かつ生産はスロベニア製でほぼ受注生産。実勢価格も約20万円と、今期の新モデルは事実上、3D非対応となった……と考えても大げさではないだろう。
おそらく、ソニーとしては「3Dテレビも生産終了となったし、そろそろプロジェクター製品も3D対応打ち切りでいいんじゃないか」という判断なのだろうが、既に所有している3Dタイトルの再生ができなくなるのがなんとも寂しい。
筆者は3D映画作品を積極的に買ってきており、現在152本所有している。もし、XW5000に買い替えたら、これらが再生できなくなる……と考えると、とても哀しい気持ちになった。ちなみに最後に入手した3Dタイトルは「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」([4K ULTRA HD+3D+ブルーレイ+デジタルコピー+MovieNEXワールド]セット)である。
ついでの余談だが、日本で入手可能な3Dタイトルはここにまとめられているので、筆者と同じ3D立体視支持者の方はどうぞ。
話は戻るが、日本市場では年間に数えるほどしか発売されなくなった3Dブルーレイタイトルだが、海外ではまだ大作劇場公開作品を中心に、3Dブルーレイがコンスタントに発売されていて、海外のホームシアターファンからは根強い人気がある。
3D対応の変化を、日本国内はもちろん、海外のホームシアターファンがどう受け取るかが興味深い。ちなみに、競合のビクターは、今期モデルも3D対応を維持している。ビクターも次期モデルでは3D対応を外すのか。果たして…。
さて、いつもの操作系の測定結果を示そう。
電源オン操作後、HDMI入力されている映像が出るまでの所要時間は実測で約51秒。水銀系ランプでは必要となる暖機的な処理が不要なレーザー光源採用機は起動が速いというイメージだが、本機の起動時間はかなり遅い。
HDMI入力の切り替え所要時間は、実測で約9.0秒。これも最近のモデルとしてはあまり早い方ではない。
入力遅延はいつものようにLeo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて計測した。今回はフルHD/60Hzと4K/60Hz以外に、表示対応だったフルHD/120Hzも測定した。計測に用いた画調モードは「リファレンス」と「ゲーム」の2つ。「ゲーム」の方は、ゲームでの活用を想定した画調モードなのでデフォルトで「遅延低減」機構が有効となっていた。
計測結果は以下の通り。
信号 | リファレンス | ゲーム |
---|---|---|
FHD/60Hz | 76.0 | 23.2 |
FHD/120Hz | 33.1 | 7.5 |
4K/60Hz | 68.0 | 15.2 |
同じリフレッシュレート(60Hz)でフルHDと4Kを比較すると、フルHDの方が約8msほど遅い。フルHDの方は、映像パネルのネイティブ4K解像度へスケーリングする処理が介入するからだろう。
複雑な高画質処理をカットした「ゲーム」モードはかなり入力遅延を低減できており、60fps換算でフルHD/60Hzは約1.4フレーム遅延、4K/60Hzでは約0.9フレーム遅延を達成。プロジェクター製品としてはかなり高速だ。
また、フルHD/120Hzは入力遅延が7.5msにまで短縮されているのもお見事。一般的なゲームタイトルであれば不満なくプレイできる低遅延性能となっていると思う。
画質:直視型ディスプレイに迫るHDR表現。あらゆる輝度帯で安定した発色特性
映像パネルは、ソニーが誇る独自LCOSパネル「SXRD」(Silicon X-tal Reflective Display)を採用。
従来モデルは長年、DCI-4K解像度の4,096×2,160ピクセルの0.74型SXRDパネルを使い続けてきたが、今期シリーズは、オーソドックスな3,840×2,160ピクセルの0.61型の新SXRDパネルを採用した。0.74型のSXRDは、2013年発売の「VPL-VW500ES」以来長く採用され、度重なる改良を受けて成熟の域に達していたが、ついに世代交代をすることになった。
ドットピッチにして6,258ppi(0.74型)から7,223ppi(0.61型)となったので、パネル自体はシュリンクしたことになる。SXRDパネルの製造プロセスはそれほど最先端のものではないが、約10年の時間を経て、製造プロセスのシュリンクが実践されたのかもしれない。半導体製品は面積が小さくなればなるほど低コスト化するので、コストの削減効果も大きいはずだ。
パネルサイズが小さくなると、開口率が下がるの常だが、詳細なスペック値は非公表。表示映像を見た感じでは、0.74型パネルと比較して格子筋が広がった印象は微塵もなし。仮に数値的に下がったとしても、気にする必要は全くないと断言できよう。
投写映像を見て一目で感じたのは「黒の締まりがさらに向上したな」ということ。レーザー光源初代機のVW745と見比べてもその差は歴然だった。
また、映像中に漆黒と高輝度表現が混在していても、その漆黒部分がほとんど明るくはならないところに驚かされる。もちろん投写映像なので、高輝度表現の面積が大きくなれば、部屋自体が明るくなり、これに釣られて黒レベルは幾分明るくなってしまう。
しかし、夜空や宇宙空間のような、漆黒割合の多い映像においても、小さな1ピクセルサイズの高輝度表現がその周囲の漆黒を明るくさせない。平易にいえば、さながら自発光画素のような見え方をすると言うことだ。
LCOSも液晶パネルの一種なので、あるピクセルが輝点表現を行なえば、その迷光は周囲のピクセルに少なからず漏れるはず。しかし、これがかなり少ないということはつまり、「迷光を徹底的に排除できている」ということなのだ。
液晶技術で迷光を低減させるには、位相の揃った光線を直角に液晶画素に入射させることが肝となる。また、反射型液晶パネルでは、液晶画素の奥に控える鏡面部(反射画素電極層)の平面性も重要になってくる。反射面が荒れていると迷光を生むからだ。さらに、反射画素電極の仕切り隙間の下層に控える遮光層の構造も迷光の低減ポイント。カラクリはわからないが、新型SXRDはこのあたりに何らかの技術革新があったのかもしれない。
ここまで高輝度表現と漆黒が同居できるのであれば、ということで、映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」で、星空の中を突き進むようなテスト映像「StarField」を再生してみたが、その結果は見事であった。
漆黒と輝点(星)とのコントラスト感は極めて良好で、“星のみ”が輝き、その周囲は真っ黒けのまま。投写映像なのに限りなく自発光感がある。
光学エンジンも新規開発となったようなので、新しいSXRDパネルだけの効果ではないようだが、このコントラスト表現能力の高さは圧巻だ。
いちおう、直下型バックライト搭載の液晶テレビにおけるエリア駆動性能を推し量るための「FALD ZONE」(FALD:Full Array Local Dimming)も実施してみたが、こちらも、驚いたことにHALO現象が非常に少ない結果となった。
本機の最大輝度は2,000ルーメン。光源は蛍光体に青色レーザーをぶつけて白色光を作り出すソニー独自のレーザー光源システム「Z-Phosphor」を採用するのは先代と変わらない。しかし、蛍光体の改善があったのだろう。赤のピークの立ち上がり方がVW745の時よりも鋭くなっている。
ということで、前出の「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「TONE MAPPING」テストを用い、10,000nitまでのグラデーション試験映像を表示させ、白および各純色の階調表現が何nitあたりまで再現できるか(≒飽和してしまう上限)をチェックしてみた。なお、テストに使用した画調モードは「リファレンス」とした。
結果は、白は1,200nitあたりまで。赤は650nit、緑は900nit、青は1,000nitまでの階調を表現できていた。黄色、マゼンタ、シアンはそれぞれ、1,100nit、1,000nit、950nitとなっていた。漆黒表現だけでなく、階調表現能力も相当に高い。
特にパワー感があったのが青色だ。海のシーンや、暗がりのシーンや夜間のシーンで青色を積極的に使う傾向の強いホラー映画などに本機は強そうである。
発色全体としての傾向は、VW745とよく似ていると感じる。ただ、赤色のスペクトラムの改善と、青色のダイナミックレンジの拡張効果もあってか、VW745の発色よりもさらに色域が広くなっている感触だ。
以下にいつものテスト画像とカラースペクトラムを示す。
XW5000の投写レンズは前述したように手動調整になってしまったが、新開発のものになっているとのこと。3メールと離れた位置からの4K解像度のフォーカス合わせは非常に苦労したが、一度合ってしまえば、画面全域でほぼきっちりと合焦してくれた。
フォーカス性能には不満はなし。上位のXW7000は、VW875相当の「ACF(アドバンストクリスプフォーカス)レンズ」を採用しているため、さらに低色収差で鮮明なフォーカス力が実現されるようだ。
ブラビアの映像エンジンを、プロジェクター用にカスタマイズしたという「X1 Ultimate for projector」が搭載されているとのことで、倍速駆動機能「Motionflow」活用時の補間フレームの品質を検証してみた。
左から右に移動する“縦帯”が重なる周辺で、チラツキのアーティファクトを確認。遮蔽物から飛び出してくるような動体表現における補間フレーム生成では、こうしたチラツキは起きやすい。動画後半では設定を「True Cinema」や「切」としているが、これらの設定では補間フレームが生成されなくなるため、チラツキは起きなくなることが見て取れるだろう。
実際の映像コンテンツを見てみた。
まずは、リブートされた名作SF「DUNE/デューン 砂の惑星」の4Kブルーレイだ。この作品は、砂漠のシーンに到達する前の前半はホラー映画並みに暗がりのシーンが多く、宇宙のシーンも多いことから、本機の「黒の締まり」の良好さが際立ち、かなり高品質な映像体験が楽しめた。
「マトリックス レザレクションズ」の4Kブルーレイも試聴。言わずと知れた人気のメタバース系SFトリロジーの続編だが、人類の砦アイオのシーンや、反重力飛行船の船内などは、暗く、そしてグレーや青色っぽい彩色が主体となるため、これまた、本機の青色のダイナミックレンジの強さが生きる映像体験が楽しめた。
ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの完結編「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」も視聴。本作は水辺、海辺、海洋が多く登場するため、本機の青色表現力の高さが堪能できた。それから、屋外の陽光下、酒場、パーティ会場、敵のアジトなど、あらゆる照明条件下において、人物キャラクター達の肌色の発色が自然であった。
本作のようなスタイリッシュなスパイ映画作品でよく見られる「顔面の半分が明るく照らされ、逆半分が露骨なまでの陰になる」ようなシーンでも、その陰になっている方の顔面もよく見ると頬の丸みの階調表現、肌色の色味、無精髭の陰影なども見て取れて、その描写力の底力に感動させられた。
色んな映画作品を見ていく中で、画調モードは「シネマフィルム1」「シネマフィルム2」「リファレンス」を適当に使い分けていたが、どれも甲乙つけがたし。まあ、個人的には「シネマフィルム1」に万能性を感じたが、どれを選んでも不満はない。
一方で、評価期間、常に使い分けを迷ったのはHDR映像表示モードの「HDR10」モードと「HDRリファレンス」モードだった。
前者「HDR10」モードは、XW5000の輝度性能に合わせてトーンマッピングを施すことで、効果輝度領域の階調を比較的正確に再現しようとするもの。対して後者の「HDRリファレンス」モードは、1,000nitを超えた輝度領域はトーンマッピングをあえて行なわず、ST.2084(PQカーブ)を忠実に再現する階調表現にまとめ込む方針とする。ソニーによれば「これはソニーの有機ELマスターモニター『BVM-X300』の画質を再現するHDR表現方針である」と説明している。
これだけの説明では、どういう違いがあるのか分かりにくいと思うので、もう少し噛み砕いて解説しよう。
筆者の評価で得られた印象としてはHDR10モードは、XW5000自身の輝度予算を階調重視に割り当てる思想が働くモードという感じだ。なので、暗めの映像は暗部にも輝度が多めに割り当てられることになり、後述のHDR10リファレンスよりも暗がりの情報量が増えて見えやすくなる。同時に明部表現に対しても輝度予算を割り当てるので、最明部付近にも階調が見て取れるようになる。ただし、映像全体として見た場合のコントラスト感はHDRリファレンスモードには及ばない。
対して、HDRリファレンスモードは、最明部付近の階調力を犠牲にして、彩度を維持しながら階調圧縮するため、最明部の輝きは鮮烈なものとなり、最明部に色味が多く残るようになる。いわゆる「眩しさ重視のHDR感」を重視したい場合には“おあつらえ向き”なモードだといえる。逆光の太陽など、暗がりのたいまつなど、コントラスト感が際立つシーンでのリアリティはHDR10モードを上回る。
定点観測で用いている「マリアンヌ」の4Kブルーレイを、HDR10モードとHDRリファレンスモードで見比べてみた。
HDR10モードでは、ブラッド・ピットが落下傘での降下中に眺める「逆光の太陽」の輝きは雲に埋もれた感じで輝き、その陽光を受けた雲の陰影の階調はきめ細やかに描かれていた。同じシーンをHDRリファレンスモードで見ると「逆光の太陽」の実体部分が強く明るく輝き、陽光が雲を突き抜けたような表現となる。そして、陽光に照らされた雲たちの陰影は逆に大ざっぱなものとなった。同じシーンでもかなり違った映像表現になるのは興味深かった。
ただ「どちらが正解なのか?」は筆者には決めかねる。「陽光に照らされた雲」の方を主題として見なせばHDR10モードだし、「雲に隠された太陽の光の強さ」を主題として見た場合はHDRリファレンスモードと言えるだろう。
続いて、ブラッド・ピットが訪れるナイトクラブ内に吊り下げられたシャンデリアを見上げるシーンでも見比べてみた。
HDR10モードでは、シャンデリア内部に仕掛けられた電球の輝きに照らされたガラス細工のレリーフ表現(凹凸表現)がよく見える。一方で、HDRリファレンスモードでは、シャンデリア内部の電球の輝きが際立ち「鋭い輝き」が強調された描写になる。電球の光自体の彩度が増すので「自発光感」はリアルさが増すが、ガラス細工の凹凸感を表すための階調表現は平坦気味になり、シャンデリアを装飾するガラス細工達のディテール感は乏しくなる。ガラス細工のディテール表現を重視するならばHDR10モード、電球の自発光感を重視するならばHDRリファレンスモード、といったところか。
こちらのケースもどちらが正解とはいえない。現状、HDR映像信号規格の最大輝度である10,000nitで表示できるディスプレイ装置は民生向けには存在しないので「2つの表現手法」をユーザーに選ばせてくれるだけ、XW5000は親切とも言える。
とはいえ、このHDR10モードとHDRリファレンスモードの切り替えを、「画質設定」メニューの「エキスパート設定」にまで潜って切り換えないといけないのが面倒だ。上でも触れたが、機能しない[3D]ボタンを「HDRモードの切り替え」に割り当てて欲しかった。
XW5000の使いどころのポイントとなりそうなのが、「画質設定」メニューの「シネマブラックプロ」階層下にある「レーザーライト設定」-「ダイナミックコントロール」と、「D.HDRエンハンサー」(ダイナミックHDRエンハンサー)だ。
どのような機能なのか分かりにくいと思うので解説しておくと、「ダイナミックコントロール」は、従来のVPLシリーズで言うところの動的アイリス(動的絞り)機構に近いもの。XW5000には、メカとしての絞り機構は搭載していないが、「ダイナミックコントロール」は、映像フレームの平均輝度の高低に合わせ、レーザー光源からの光量を増減する制御を行なうのだ。
主に暗いシーンで働くもので、当該シーンを表現する際に「レーザー光源をフルパワーで使う必要がない」と判断したときは、ダイナミックコントロールシステムが、レーザー光源への供給電力を低下させて光量を落とすわけだ。
ただ、これを有効化すると、2.35:1の映画などの黒帯があるコンテンツだと、黒帯部分の明るさが上下することに気が散る場合があり、筆者は「ダイナミックコントロール」をオフにすることも多かった。
「D.HDRエンハンサー」は、一種のディスプレイトーンマッピングともいえる制御。
前出のHDR10モードやHDRリファレンスモードはXW5000の最大輝度を超える映像信号に対するトーンマッピング制御だったが、「ダイナミックHDRエンハンサー」は、逆にXW5000の輝度範囲内で表現できるHDR映像の最適化処理に相当する。
具体的には、その映像フレームに明部と暗部が同居する場合「液晶画素の開閉具合(≒階調力)で明暗を制御するのか」「レーザー光源の光量の大小で明暗を制御するのか」を最適化するもの。たとえば、暗部の沈み込みを重視するのであればレーザー光源の輝度を調整するし、明部のみを重視するのであれば、レーザー光源の光量は維持したまま、液晶画素の開閉具合を調整することになる。これにより、黒浮きを常に最低限にしつつ、HDR映像らしいハイコントラスト表現を行なうわけだ。
XW5000の映像表示品質の高さは、映像パネルの刷新、光学エンジンの世代交代はもちろんだが、この「ダイナミックコントロール」と「D.HDRエンハンサー」の“協調動作の妙”の貢献度も高いと感じている。プロジェクターならではの画作りの“匠のワザ”と換言してもよいかもしれない。
筆者は評価期間の終盤では「ダイナミックコントロール:オフ」×「D.HDRエンハンサー:中または強」で楽しむことが多かった、ということも記しておこう。
総括:画質性能は文句なし。カットされた機能をどう判断するか
XW5000の画質性能に関しては、VW745ユーザーである筆者が嫉妬するレベルで進化している。輝度性能としては、VW745もXW5000も、同じ2,000ルーメンなのだが、その映像表現力は全く違う。暗部描写力、HDR表現力、色再現性など、あらゆる部分でXW5000は現時点での究極点に到達している。
上位機のXW7000を評価できていないが、XW5000の表現力が、XW7000の輝度性能である3,200ルーメンの領域にまで拡張された画質性能を持っているであろうことは容易に想像できる。XW5000でここまで打ちのめされた筆者は、XW7000の映像を見たら、もはや立ち上がれないかもしれない(笑)。
とはいえ、XW5000やXW7000に対し「買えるものならば買いたい」というところまでの気持ちの高ぶりはない。筆者は意外と冷静なのだ(笑)。
その理由としては、XW5000は約88万円でありながら、「電動レンズ制御なし」「レンズメモリー機能なし」「3D機能なし」という仕様であり、筆者がこの価格帯のプロジェクターに求める姿からかけ離れているためだ。でも恐らく、高画質プロジェクターを欲している友人に相談を受ければ、自信を持って普通に薦めるとも思う。
XW7000は、電動レンズ制御とレンズメモリー機能を備え、輝度はXW5000の1.6倍も明るいということで「2倍の価格差」には一定の説得力がある。
しかし「電動レンズ制御とレンズメモリー機能は、80万円クラスの製品(VW500系)にもかつては搭載されていた」と過去モデルを知る者からすると、「価格差に説得力を出すために、わざとXW5000からそうした機能をカットしたのかな」とまで邪推してしまう。せめてXW7000に3D機能が標準搭載されていれば、筆者は明日から金策に走ったかもしれないのに……。まぁ色々思うことが多かった取材だが、比較的長く借りることができたので、個人的にはとても楽しい評価期間であった。
予算があって、3D機能はどうでもいい…という方はXW7000がお勧めだし、3Dも電動レンズ関連もそんな使わないでしょ…という方はXW5000を選んで損はないと思う。
さて、競合するビクターのレーザーモデルは「DLA-V90R」(288.2万円)、「DLA-V80R」(170.5万円)「DLA-V70R」(130.5万円)。価格視点でソニーの新モデルに目を向けると、XW5000(約88万円)はV70Rに対して割安感があるし、XW7000(約187万円)はV80Rに対して十分な競争力があると思う。
V70Rは、XW5000よりも高額だが、電動レンズ制御、レンズメモリー、3D、疑似8K、HDMI2.1対応による4K/120Hzモードもあるので「価格差に見合う機能差」はある。
V80R(2,500ルーメン)は、XW7000(3,200ルーメン)との比較で言えば、電動レンズ制御、レンズメモリー機能は両者搭載するが、XW7000の方が輝度性能に優れる。ただ、V80Rには3D、疑似8K、HDMI2.1対応による4K/120Hzモード搭載という強みがある。
今期のビクターDLAシリーズと、ソニーVPLシリーズは、画質性能的には拮抗していると思うので、最終的には、どの機能を重要視するかで選ぶべき機種が見えてきそうだ。