西川善司の大画面☆マニア

第270回

驚異の暗部表現! ビクター「DLA-V90R」は8KもHDRもスゴかった

8K対応プロジェクタ「DLA-V90R」

1990年代は、夢のデバイスとして期待されていた「反射型液晶」(LCOS:Liquid Crystal On Silicon)技術。これを他社に先駆け、“D-ILA”(Direct drive Image Light Amplifier)パネルとして実用化したのが、日本ビクター(現JVCケンウッド)だった。かくいう筆者も1998年発表のD-ILAプロジェクタ「DLA-G10」(168万円)を購入した経験がある。まだ当時は、DVDが最新デジタル映像ディスクメディアとしてもてはやされた、HDMI端子すらない時代のことだ。

その後、インテルを初めとして様々な先進技術を持った企業がLCOSパネルのビジネス化に挑戦したものの、成果を出せなかった。一定の成功を収め、なおかつアマ/プロさまざまな映像マニアから高い評価を獲得し続ける製品を今でも出しているのはJVCと、SXRD(Silicon X-tal Reflective Display)パネルとして実用化したソニーくらいである。そのため、高画質LCOSプロジェクタの座を巡る「JVC対ソニー」の構図は、映像マニアには定番の“話のタネ”になっている。

さて、こんな前置きを綴ったということは、そう。再びLCOSプロジェクタ戦線が盛り上がりそうなのである。

今回取り上げるのは、Victorブランドで昨年発売されたプロジェクタ「DLA-V90R」。最新のD-ILAパネルを採用し、8K60p、4K120p表示に対応したウルトラハイエンド機だ。価格はなんと275万円。

下位モデルに「DLA-V80R」(165万円)、「DLA-V70R」(125万円)がラインナップしており、競合するソニー「VPL-VW745」(2017年発売モデル)のオーナーでもある筆者としては、価格帯的に拮抗するV80Rあたりの評価をしたかったのだが、評価機の都合によりハイエンドのV90Rを検証することにした。

外観:重量25.3kgのマッチョボディ。駆動音は24dBと良好

製品が届いて、箱から出した瞬間の第一声は「重い」。

それもそのはず、重量は25.3kg。V90Rを天吊り設置する場合は、厳重な補強が欠かせないだろう。また汎用の天吊り金具は耐重量20kg前後が多いので、注意が必要だ。

筐体はかなり大きめ。外形寸法は500×528×234mm(幅×奥行き×高さ)で、業務用にも見えるほど、マッチョなボディになっている。

重量級のボディ。筐体は前シリーズ(V9R/V7/V5)を継承

ちょっとした移動なら一人でもできるが、長い距離や階上への運搬などはかなりの重労働。また横幅が50cmもあるため、両手持ちしたときに力が掛けにくい。ということで、今回は編集部のスタッフと二人で棚上に設置。重量はあるが、一度、設置台に置いてしまえば、位置調整、傾き調整などの微調整はそれほど難しくはない。

前面左右の穴は排気口で、吸気口は背面にある。吸気側のクリアランス(最低20cm距離を取る)は気に掛けておきたい。

前面左右のスリットは排気用

底面側の脚部は4つ。全てがネジ調整式に対応する。左右脚部の距離は337mm、前後脚部の距離は290mm。

天吊り金具は、従来と同じ「EF-HT13」(57,200円)が利用可能。底面のやや中央よりには複数のネジ穴が切られているので、汎用の天吊り金具を使っているユーザーは、これらを利用するのも良さそうだ。

底面。ネジ式の脚部を取り外せば天吊り金具設置用のネジとして使える
4つある脚部は全てネジ式で高さ調整に対応する

投写レンズは直径100mmの大口径オールガラスレンズを採用。ズーム倍率は2.0倍。ズーム、フォーカス、シフトは電動式でリモコンから調整できる。レンズシフト範囲は上下±100%、左右±43%。下位モデルのDLA-V80R/V70Rではレンズ口径が65mmということもあり、シフト量は上下±80%、左右±34%に狭まる。

投写レンズは直径100mmの大口径オールガラスレンズ
設置風景。上に見えるプロジェクタがVW745

レンズ調整は、10個のユーザーメモリーに記録可能。各メモリーは「画素調整」(画素の色ズレ調整)、「画面マスク」(非表示エリア設定)、「アナモフィック」(アナモフィックレンズを通して投写することを想定した映像変形処理)、「スクリーン設定」(各社製スクリーンの色特性に応じた色調調整)、「設置スタイル」(天吊りや台置きなどの設定状態)、「台形補正」、「アスペクト」などを一括で記憶できる。

2.35:1のシネスコ映画、16:9アスペクトのアニメなど、見るコンテンツごとに設定した調整値を記録させておくことで、リモコンの[SETTING MEMORY]ボタンから呼び出せる。各ユーザーメモリーは、名前編集機能を使えば「2.35:1」というような任意の名前に変更できる(使える文字は英数字記号のみ)。

設置設定モードでは、最大10個までメモリー可能

スクリーン設定は、V90Rの公式サイトにある「スクリーン補正モード対応表」を参照し、使用するスクリーンに適合する3桁の番号を登録する。

例えば、筆者が使うKIKUCHI Stylistシリーズ「SE-110HSWAC/K」(黒ボディ/17:9アスペクト)の生地は「ホワイトマットアドバンスキュア」(WAC)なので、[102]と入力。すると、登録前に比べて映像の色温度が若干変化した。

DLAシリーズでは恒例のスクリーン設定。スクリーンに最適な映像を投写してくれるので是非設定したい

消費電力は定格440W。出力3,000ルーメンのレーザー光源を採用しているので「まあこのくらいにはなるか」という印象。ちなみに、ソニーの同クラス製品も消費電力はほぼ同等だ。

3,000ルーメンと高出力なモデルでありながら、駆動音は想像よりは低い24dB(VW745と同じ)。2mも離れれば気にはならない。大きいボディは、大きい電動ファンをゆっくり回すことができるので静音化には有利とされる。そうした設計思想が静音化にも効いているのかもしれない。

光源は、本体に実装されておりユーザー交換はできない。寿命は公称2万時間。こちらもほかのレーザー光源プロジェクタが公称する寿命値と同等。なお、2万時間という寿命は、一般的な超高圧水銀ランプ機の10倍ほどの長さで、毎日2時間半利用したとしても、20年以上楽しめる計算。

ステータス表示画面。表示映像の信号形式や光源稼動時間などを確認できる

インターフェース:8K60p、4K120p対応のHDMI入力を2系統搭載

3D表示に対応するが、3Dメガネ「PK-AG3」(16,500円)と、3Dシンクロエミッタ「PK-EM2」(11,000円)は別売。シンクロエミッタはソニー機のように内蔵してほしかったところ。

無線式の3Dシンクロエミッタ「PK-EM2」(別売)。過去モデルのものがそのまま使えるので「(JVCの)買い替え派」であれば追加コストなしで3D対応できる

接続端子は背面にレイアウト。映像入力端子はHDMI端子が2系統で、どちらもHDMI2.1の48Gbps伝送に対応する。

NVIDIA GeForce RTX 3090を用いた実験では、4Kモードで最大120Hzのリフレッシュレートが選択できた。色深度は12ビットまで
8Kモードでは最大60Hzのリフレッシュレートが選択可能。こちらも色深度は12ビットまで

HDMI以外には、3D映像同期用の3Dシンクロエミッタ端子、PCから制御するためのRS232C端子とLAN端子、ファームウェアアップデート用のUSB2.0端子、アナモフィックレンズや電動開閉スクリーンなどとの連動動作に使うTRIGGER端子(DC12V/100mA出力)を用意する。

背面

電源投入後、D-ILAのロゴが表示されるまでの所要時間は実測で約27秒。実際にHDMI入力の映像が表示されるまでには、約36秒かかった。「起動が早い」という触れ込みが強調されるレーザー光源機だが、本機は少し遅め。早く起動する超高圧水銀ランプ採用機と同等、といったところだ。なおHDMI 1→HDMI 2の切り換え所要時間は、実測で約4秒と標準的だった。

リモコン。ボタン自体に凸感がなく、ボタンとボタンの境目が指先のタッチ感だけでは分かりいのが難点

リモコンは、前シリーズのデザインを継承。200万円オーバーの高級機のリモコンとしては見た目が寂しいものの、必要十分な操作は行なえる。

ただ、使っていて気になったのが、上下左右を兼ねた円盤ボタン。

例えば、画面を見ながらレンズシフト調整や、画素の色ズレ調整などは、手元を見ずに上下左右の方向ボタン押すことになるが、十字ボタンが分離していないため、指触りで今どの方向のボタンを押しているのか掴みにくい。上を押しているつもりが右を押していた、というシーンも度々あった。操作に慣れれば慣れるほど、手元を見なくなるので、普段のメニュー操作のカーソル移動時にも上下方向と左右方向のミスタッチ入力が増えてくる。

「そういえば、VW745のリモコンはそうしたミスタッチはしなかったな」と思い、見比べてみると、なるほど。VW745のリモコンも上下左右のボタンは分離していないものの、指触りで方向が分かるように十字方向に突起があしらわれていた。これ、地味な工夫なようで効果は大きいと考える。次期モデルのリモコンには、十字ボタンに突起あるいはボタンに凸感を付けていただきたい。

映像モード:マニアックなメニュー満載。Frame Adapt HDRは積極的に使うべし

本機の映像メニューは、項目が多くやや複雑だ。しかしこれは、本機の「高性能ぶり」「機能のマニアックぶり」の“証”のようなものとも言える。順番に解説していこう。

映像タイプのメニュー

まずは「映像タイプ」と「画質モード」だ。映像タイプは、オート/SDR/HDR10+/HDR10/HLGを決めるもので、その設定次第で調整できる画質モードが異なってくる。

例えば映像タイプを「SDR」に設定すると、画質モードはナチュラル/シネマ/フィルム/User1~3が選べる。一方映像タイプを「HDR10」とした場合は、画質モードで選択できるのはFrame Adapt HDR/HDR10/Pana_PQ/User4~6となる。購入直後など、メニューがよく分からない場合は、映像タイプをオートにして、画質モードを適宜好みに設定する使い方が良いだろう。

これを踏まえた上で、特別に解説が必要そうな組み合わせをピックアップしておく。

映像タイプをHDR10としたとき、画質モードで選べる「Frame Adapt HDR」は、入力されたHDR10映像を、本機の輝度性能、階調性能、コントラスト性能に最適化して表示するモードだ。

HDR10時の画質モード

HDR10映像は、その映像素性を表すメタデータの規定が甘く、まともなデータが設定されていないことが度々取り沙汰されている(UHD BDのメタデータなど)。しかし実際のところ、そうしたメタデータがなくとも、映像を構成する各ピクセルはそれぞれ固有の絶対輝度値を持っているので、これを手がかりに最適な表示を行なうことは技術上、できないわけではない。しかし、その難度は高めだ。

例えば、あるピクセルが600nitで、その映像機器の最大輝度性能が1,000nitだった場合。そのまま絶対輝度値の600nitのまま表示すべきなのか、あるいはHDR10規格の最大輝度である10,000nitに対する600nitとして扱い、「10,000nit:600nit=1000nit:x」として「x=60nit」で表示すべきなのかは判断に困るところ。

前者の方法で表示すると、600nitのピクセルは規格通りの表示が行なえるが、1,000nit以上の輝度のピクセルは1,000nitに飽和して表示することになる。一方、後者の方法では、HDR10規格の最大10,000nitまでの階調表現を1,000nitに圧縮減退させて表示することはできるが、一般的な映像シーンにおいては1,000nit未満が殆どなので、コンテンツを通して暗い表示になる。

もしも「この屋外シーンでは最大輝度は4,000nitで、平均輝度は1,000nitである。最低輝度は200nitだ」という情報があれば、前出の最大輝度性能が1,000nitの映像機器では、700nitくらいまでのピクセルはそのまま絶対輝度で表示して、700nit~4,000nitまでをこの映像機器の700nit~1,000nit輝度に圧縮して表示すればそれなりに明るく、それでいてHDR階調感の保持された表示にできる。

実際、HDR10+やDolby Visionなどでは、そのシーン単位(またはフレーム単位)における最低輝度や最大輝度、平均輝度などの情報を映像機器に伝達できる仕組みがあるため、そうした情報を元にディスプレイ側でマッピング(トーンマッピング)できる。つまり、その映像機器の輝度性能の範囲内で、無難なHDR階調を維持した表示がし易い。

本機の「Frame Adapt HDR」は、HDR10映像を再生するにあたり、過去から現在に向けての時間方向に対し、独自で最低輝度、最大輝度、平均輝度などを算出し、プロジェクタ自身に最適なディスプレイマッピング(トーンマッピング)を行なうことができるようになっている。

いうなれば、「Frame Adapt HDR」とは、ランタイムにおいて「HDR10+/DolbyVision」的なフレーム単位のメタ情報を自前で算出しながら、最適なHDR10表示を行なう機能のようなもの。本機を購入したユーザーは、この「Frame Adapt HDR」機能を積極的に活用すべきだろう。

Frame Adapt HDRの動作イメージ

画質モードの「Pana_PQ」は、パナソニックのUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」と連携させて活用する設定値だ。

UB9000では、接続する映像機器の「HDRディスプレイタイプ」において「高輝度のプロジェクター」と「ベーシックな輝度のプロジェクタ-」が選べる。UB9000を「高輝度のプロジェクター」と設定した場合には、V90R側のカラープロファイル設定を「Pana_PQ_HL」に、UB9000を「ベーシックな輝度のプロジェクタ-」とした場合は、V90R側のカラープロファイル設定を「Pana_PQ_BL」と手動で設定することを奨励している。

UB9000との連携モードを搭載
取材用に借りた、パナソニックのUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」

パナソニックプレーヤとJVCプロジェクタがコラボ! 共同開発のHDR画質を観た

その効果を確認してみたが、「高輝度のプロジェクター×Pana_PQ_HL」の組み合わせではコントラスト表現重視の映像が楽しめ、「ベーシックな輝度のプロジェクタ-×Pana_PQ_BL」では色再現性重視の映像が楽しめた。

筆者個人の感想としては、前者の設定の方が、V90Rの高性能を満喫できている満足感がある。なお、前出のFrame Adapt HDR機能とは排他利用となるため、掛け合わせての利用は出来ない。UB9000を持っている場合は、どちらの機能を活用するかは悩みどころではある。

「カラープロファイル」設定」のBT.2020(ワイド)とBT.2020(ノーマル)の設定は実は画質に大きく影響する

カラープロファイル設定では、画質モードをFrame Adapt HDR/HDR10としたときには、「BT.2020(ノーマル)」または「BT.2020(ワイド)」を選ぶことができる。

両者の違いだが、前出の「Pana_PQ_HL」「Pana_PQ_BL」の設定と傾向としては同じと考えて良さそうだ。具体的には「BT.2020(ノーマル)」はコントラスト表現重視、「BT.2020(ワイド)」は色再現性重視となる。

V90Rはシネマフィルターを搭載するが、コントラスト表現重視モードの時にはこのシネマフィルターが外れ、色再現性重視モードの時にはフィルターが着装されるようになっている(モード切り換え時に脱着動作のための機械音が鳴る)。

HDR関連のユニークな設定パラメータとしては、「HDR Processing」もある。これは特に、画質モードでFrame Adapt HDRと設定した際に重要な意味を持つ。というのも、その他の設定にした場合は、HDR Processingの設定値は、ほぼ選択の余地がなくなるためだ。

例えば、画質モードがHDR10+の場合、「HDR Processing」はHDR10+に固定化される

で、この「HDR Processing」は何の設定なのかというと、“ディスプレイマッピング(トーンマッピング)を行なう際の粒度”と言える。

Frame Adapt HDR選択時、HDR Processingでは「フレーム」「シーン」「固定」が選べる。「フレーム」は1フレーム単位、「シーン」はある一定の範囲で行なう設定。対して「固定」は動的なディスプレイマッピング(トーンマッピング)を行なわない設定になる。「フレーム」は明暗が目まぐるしく変化する可能性もあるが、ゲーム、アクション映画などでは迫力が増す。「シーン」は落ち着いた明暗特性となるので人間ドラマ主体の映画に適していると感じた。

「Theater Optimizer」は、前述したスクリーン情報に配慮した画質制御を行なうかどうかの設定だ。

「8K e-shift」は疑似8K表示機能のオン/オフ設定に相当
「グラフィックモード」は、実質的には超解像処理に関わる設定に相当

MPC/e-shiftは、本機の疑似8K表示機能に関する設定項目。

「8K e-shift」は「オフ」で映像パネルのリアル解像度(ネイティブ)による4K表示モード、「オン」で映像パネルを時分割シフト(e-shift)させて行なう疑似8K表示モードとなる。

メニュー名からはちょっとわかりにくい「グラフィックモード」は、これはJVCが推進してきた「Multiple Pixel Control」(MPC)処理に関わる設定。MPCは簡単に言えば陰影鮮鋭化処理、今風にいえば超解像処理に相当する。

「スタンダード/ハイレゾ1/ハイレゾ2」の設定値が選べるが、入力映像がフルHDクラスであれば「スタンダード」設定、4Kや8K映像の時は「ハイレゾ1」が奨励される。「ハイレゾ2」はドット感が増す傾向にあるのでゲームやPC画面との相性がよい。個人的には、しっとりとした映像表現を味わいたい場合は「スタンダード」で不満はない。疑似8K表示のドット感を満喫したいならば「ハイレゾ2」がいいだろう。

「色温度」設定も、画質モードの設定状態に応じて設定項目が変化する

「色温度」設定では、5500K/6500K/7500K/9300Kといった数値設定以外に、HDR映像入力時には「HDR10/HDR10+/HLG/明るさ優先」といった設定が選べる。

面白いのは、画質モードを「シネマ」「フィルム」にしたときにだけ「Xenon1」「Xeon2」という2種類の色温度モードが選べるところ。これは、フィルム映写機やデジタルシネマ用のプロジェクタで採用されていたキセノンランプ光源の色温度特性を再現するものだ。

「Xenon1」はフィルム映写機の光源色を再現したと説明されており、実際に見てみるとやや黄味が強めのホワイトバランスになる。一方、「Xenon2」はデジタルシネマ用プロジェクタの光源色を再現したとのことで、「Xenon1」よりは若干青味が増す印象。クラシックなフィルム撮影映画は「Xenon1」、CG映画などは「Xenon2」がマッチしそうだ。

遅延チェック:ゲームするなら低遅延オン。e-shiftはソースで選択

さて、今回も、Leo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて計測した入力遅延を示す。計測は「8K e-shift」設定のオフ/オン、「低遅延」モードの「オン/オフ」、4K/60Hz、フルHD/120Hzの全ての組み合わせで行なった。

【8K e-shift オフ】

低遅延オン低遅延オフ
4K/60Hz44.3ms162.8ms
1080p/120Hz35.4ms71.3ms

【8K e-shift オン】

低遅延オン低遅延オフ
4K/60Hz36.5ms91.8ms
1080p/120Hz36.3ms72.0ms

いずれの測定結果においても、低遅延モードをオンにした時は、オフ時よりも低遅延化が実現できたが、一方で、e-shift設定と画面モードの組み合わせに目を向けると、やや不思議な特性が見えた。

それは、4K/60Hzでは「8K e-shift:オン」状態の方が相対的に低遅延に、そして逆に、フルHD/120Hzでは「8K e-shift:オフ」状態の方が相対的に低遅延になったことだ。

V90Rでゲームをするなら、低遅延モードにした上で、4K/60Hzでのゲームプレイは「8K e-shift:オン」、フルHD/120Hzでのゲームプレイは「8K e-shift:オフ」とするのが良さそうだ。ただ、4K/60Hzで2フレーム以上、フルHD/120Hzで4フレーム以上の遅延となるため、1フレーム未満が主流となりつつある一般的なテレビの低遅延モードと比べると絶対的な遅延量は大きいと言える。

8K e-shiftX:表示品質向上。グラフィックモードの使いこなしがキモ

V90Rでは、アスペクト比17:9のDCI 4K(4,096×2,160ピクセル)解像度を持つ、0.69型D-ILAパネルを採用している。パネルそのものは前シリーズと同等。DLA-Z1の同型パネルは画素ピッチ3.8μm、画素間ギャップ0.18μm、開口率91%だったので、恐らくこのあたりのスペックと大きく変わらないものと思われる。

0.69型D-ILAパネル

では、新モデルの進化ポイントを順に見ていこう。

V90Rはネイティブ4Kプロジェクタではあるが、時分割シフト技術「e-shift」を活用することで8K表示に対応している。先代V9Rもこの機構「8K e-shift」を備えることで疑似8K表示に対応していたが、今期のV90Rでは「8K e-shiftX」へと進化し、疑似8K表示の品質が向上した。

従来の8K e-shiftでは、シフト方向が斜め下1方向のみだったのに対し、新しい8K e-shiftXではこのシフト方向が真下、真横、斜め下の3方向へと拡張された(ホームページでは「4方向シフト」と記載されているが、「シフトなし」状態も「1方向」に含んだ数え方)。これが1つ目の進化ポイントだ。

4K(ネイティブ)、8K e-shift(斜め2方向の画素ずらし)、8K e-shiftX(上下左右4方向の画素ずらし)のイメージ

この時分割シフト技術だが、実際に映像パネルそのものを機械的に物理振動させているわけではない。D-ILAパネル上のピクセルを空間的にSpatial Light Modulator(SLM:空間光路変調器)素子を用い、基準位置状態と3方向ソフト状態にて時分割表示することで疑似的な8K表示を実践している。疑似高解像度化用のSLMとしては、従来は、白黒の液晶パネルに似たような構造のものがよく用いられて来たが、近年、他メーカーからも続々と出てきている3方向シフトタイプのSLMは、回折格子を応用した回折光学素子を、微細な電磁メカであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術ベースの微細アクチュエーターと組み合わせて実現するものが多くなってきているそうである。本機のSLMがどのタイプであるかは明かされてはいないが、恐らく後者のタイプではないだろうか。

V90Rでは、この8K e-shiftX技術を活用することで8K/60Hz(fps)表示に対応している。4回の時分割による疑似8K表示で60Hzに対応するということは、ネイティブ4K解像度のD-ILAパネル側は「60Hz×4回分」の表示能力が必要。つまり、240Hzのリフレッシュレートが求められる。そう。ついに、D-ILAパネルは240Hz駆動に対応してしまったのだ。これが2つ目の進化ポイントである。

で、この240Hz駆動を疑似8K表示だけに使うのはもったいないということで、V90Rでは、4K/120Hz(fps)表示も可能にしている。

DLA-V90Rの8K e-shiftXの40倍スロー「黒背景の白色テキスト8K表示」
DLA-V90Rの8K e-shiftXの40倍スロー「グレー背景の黒色テキスト8K表示」

せっかくの機会なので、この8K e-shiftXの振る舞いをいろいろテストしてみた。

まず、8K e-shiftXをオンにした状態で4K信号を入力する。この状態では、V90Rは8K映像にアップスケールして表示を行なうことになる。

ここで4K/60Hzと4K/120Hzの信号を入力・表示したが、ともに正常に表示することができた。一部のテレビで問題となった「4K/120Hz表示時に解像感が減退する現象」は本機では起こらなかった。

しかし、両者の映像を見比べると、4K/120Hzよりも4K/60Hz入力の方が明らかに画質がよい。4K/120Hzで漢字テキストなどを表示すると、文字輪郭周辺にMPEGのモスキートノイズに似た、淡い縁取りのようなアーティファクトが現れる。実写映像では気にならないが、PC画面では気になった。

映像パネルの実解像度は4Kであり、画素サイズも4Kなので、時分割表示をするといっても、本来表示すべきでない領域にも4K画素の表示が行なわれてしまう。

これは本来はノイズとなるわけだが、その“半画素ずらし”ではみ出た表示すらも、本来の8K画素表示に使ってしまおうという、ある種、積分的な総合制御駆動をRGBサブピクセルに対して行なうのがe-shift技術だ。おそらく、60Hzの方が1フレームに費やせる、この時間積分の分解能が高くなる分、画質がよくなるのであろう。一方で120Hz時は、1フレーム表示に費やせる時間積分の分解能が半分になるため、この差が階調誤差となり、淡い輪郭が現れるのだと思われる。

なので、8K e-shiftXをオンの状態で4K映像を入力する際は、コンテンツのリフレッシュレートを無理に120Hzに上げない方が得策だ。なお、8K e-shiftXをオフの状態で4K映像表示を行なった場合は、4K/60Hzと4K/120Hzで画質の違いはなかった。4K/120Hzコンテンツの場合は、8K e-shiftXをオフにするのが良いだろう。

続いて、8K e-shiftXをオンの状態で8K映像を入力・表示した。V90Rでは、8K/30Hzと8K/60Hzに対応するが、両リフレッシュレートでの表示をチェックしたところ、解像感と画質の双方に変化はなかった。

次に8K e-shiftXのオン/オフと、超解像処理MPCのグラフィックモード(スタンダード/ハイレゾ1/ハイレゾ2)を組み合わせて、表示がどのようになるのかを撮影した。

【4K入力】8K e-shiftX:オフ、グラフィックモード:スタンダード
【4K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:スタンダード
【4K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:ハイレゾ1
【4K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:ハイレゾ2
【8K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:スタンダード
【8K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:ハイレゾ1
【8K入力】8K e-shiftX:オン、グラフィックモード:ハイレゾ2

この実験を経て感じたことをまとめると、以下のようになる。

4K入力に関しては、「8K e-shiftX:オフ時」が4Kネイティブ表示に相当し、「8K e-shiftX:オン時」は超解像アップスケール8K表示となる。

超解像処理のパラメータとなる「グラフィックモード」については、その設定値が「スタンダード」の際は、ネイティブ4K表示時にでていたピクセル感(≒ジャギー感)を低減させるだけの表示となるため、表示結果に違和感は少ない。

対して「ハイレゾ1」と「ハイレゾ2」では、4Kピクセルサイズで行なわれていた原映像の表現を、「もともと8Kピクセルサイズではこうだったのではないか」という感じの推測を交えた描画となる。超解像処理をより深く実践した感じが現れ出す、そんな印象だ。なので、入力映像が4Kの場合は、グラフィックモードは「スタンダード」が無難。使っても「ハイレゾ1」くらいまでではないか。

「8K e-shiftX:オン」でしか行なえない8K表示に関しては、「グラフィックモード」の設定が、直接8K画質の印象に響いてくる印象。今回テストして範囲では、「ハイレゾ1」がベストバランスだったと感じた。

その理由は、「スタンダード」では、8K解像度のピクセル単位の表現がボケることがあり、逆に「ハイレゾ2」の方は超解像処理の陰影鮮鋭化の副作用なのか、8K解像度のピクセル単位の表現が低減されてしまうことがあったためだ。

輝度制御と発色性能:シネマフィルターの搭載有無が映像に大きく影響

続いて、発色性能を検証した。

DLA-Vシリーズとしては初めて採用されるレーザー光源「BLU-Escent」システムだが、青色レーザー光とその青色光を赤緑蛍光体にぶつけてトータルで白色光を生成している。最大輝度は3,000ルーメン。なお、競合ソニーは業務用プロジェクタの「VPL-GTZ380」(約850万円)で青、紺、赤の3波長レーザー光源を採用している。プロジェクタ向けのレーザー光源も着々と進化しているのが興味深いところ。

レーザー光源「BLU-Escent」

メニューのLDパワー設定から「低/中/高」を設定可能。最大輝度の3,000ルーメンは「高」設定時のもので、冷却ファンの動作音は幾分大きくなる。

「LDパワー」設定は光源の輝度モードに相当

本機には動的な絞り機構(ダイナミック・アイリス)は搭載されていないが、レーザー光源の高速応答性を応用し、リアルタイムにフレーム単位の輝度制御を行なう機能が搭載されている。その設定が「ダイナミックコントロール」。

ゆっくりとした緩やかな明暗制御を行なうのがモード1。イメージ的には、人間の視覚モデルの明順応/暗順応に近い感じだ。対してモード2では、リアルタイム性の高い制御となる。使い分けとしては、人間ドラマ中心であればモード1、明暗差が激しいアクション映画やゲーム映像ではモード2が合いそうだ。

オフにすると輝度制御機能が無効化されるが、その状態でも暗部階調の優秀さを感じた。

それでは、以下にいつものテスト画像とカラースペクトラムを示す。

画質モード:ナチュラル
画質モード:シネマ
画質モード:フィルム

青色レーザー光から緑と赤を生成する光源システムなので、緑と赤のスペクトラムピークは低く、分離感も淡いが、画質モードをフィルムにした時は、分離感が劇的に改善されているのが興味深い。実際、暗色の色再現性はフィルムの方が良好だった。

この差異は、フィルム時には、白色光の原色スペクトラムを整えるためのシネマフィルターが適用されたことによるものだ。このシネマフィルターはV90R/V80Rにのみ搭載され、V70Rには搭載されていない。この点は、機種選びの際に重要なキーポイントになってきそうだ。

なお、このカラーフィルタの適用は、カラープロファイル設定を「BT.2020(ワイド)」に設定することでも行えることを覚えておくといいかもしれない。

画質モード:ナチュラル、カラープロファイル設定:BT.2020(ノーマル)
画質モード:ナチュラル、カラープロファイル設定:BT.2020(ワイド)
例えば、画質モード:ナチュラルの場合でも、カラープロファイル設定で「BT.2020(ワイド)」に変えると緑と赤のカラースペクトラムの分離感が改善される。ただし、ピーク輝度は落ちる

画質チェック:ここまで来たかプロジェクタのHDR! そして奇跡の暗部表現

続いては、実際に映画コンテンツを見た際のインプレッションを記しておく。

今回、HDR10のUHD BD映画については、画質モードをFrame Adapt HDRで視聴した。

まずは新作UHD BDの「ピーターラビット2/バーナバスの誘惑」から。

この映画では多くのシーンが屋外で展開するのだが、その陽向の表現と日陰の表現がリアルであった。特に葉々に当たる陽向の照り返し表現からは、プロジェクタによる投写映像とは思えない眩しさを感じたほどだ。

この映画は「ウサギが活躍するという世界観」の都合上、やたらと野菜が出てくるのだが、それぞれの野菜の発色が、まあリアルなこと。トマトなどは本当に美味しそうに見える。

次に、8K e-shiftXをオンにして疑似8K表示で投影。すると、全てのウサギ・キャラクタ達の毛皮のフサフサ感やモフモフ感の増強ぶりが凄い。毛先の一本一本が鮮明に見え、疑似8Kで楽しむにはおあつらえ向きのタイトルなのではと感じた。

UHD BD「ピーターラビット2/バーナバスの誘惑」
ソニー・ピクチャーズ UHBL-81711  7,480円

UHD BD「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」も視聴した。

本作は、ローマンとテズという、脇役ながら、シリーズ切っての黒人名コンビが大活躍する。実際、本作でも非常に登場場面が多いのだが、そのほとんどが地下の秘密基地やら宇宙船の中だったりと、やたらと暗いことが多い。

暗いシーンでの、彼等の肌の質感の表現は、黒浮きが出がちなプロジェクタ映像だと、リアリティに欠ける見映えとなることが多いのだが、本機の場合は何の問題もなし。肌の肌理の質感や陰影の情報量がとにかく多い。彼らが暗い場面で派手なアクションを決める場合も、その逞しい筋肉の躍動で隆起する、濃い色の肌の立体感が3D映像と見紛うレベルで伝わってくる。

UHD BD「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」
NBCユニバーサル GNXF-2692  6,980円

3D映像は「シャン・チー/テン・リングスの伝説」を視聴した。

さすがは最大輝度3,000ルーメン。明るい3D映像が楽しめる。本作はマーベル系アクション映画と言うこともあって、閃光エフェクトがほとばしるような、明暗差の激しい表現が多い映画なのだが、3D映像に有りがちな二重映り(クロストーク)は殆ど感じない。これは、新D-ILAパネルの応答速度の速さの恩恵もあったに違いない。

ちなみに、今回の評価で筆者が実験した範囲では、3Dメガネは純正のPK-AG3以外に、VW745用純正3Dメガネの「TDG-BT500A」、そして通販で購入したノーブランドの「フルHD 3Dグラス・イニシアチブ」対応の3Dメガネでも正しい3D映像を見ることが出来ていた。

UHD BD「シャン・チー/テン・リングスの伝説」
ウォルト・ディズニー VWAS7270  8,800円

いつもの定点観測として、UHD BD「マリアンヌ」から、冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内までを映したシーンや、夜のアパート屋上での偽装ロマンスシーン等を視聴した。

街灯の自発光表現は文句なし。直視型のディスプレイパネルでも、ここまでのHDR表現ができるものは少ない。

UHD BD「マリアンヌ」
パラマウント PJXF-1093  6,589円

屋上の暗闇のシーンでは、その黒表現に驚いた。シネスコアスペクトの本作は16:9スクリーンでは、映画本編映像の上下に黒帯表示がなされ、視聴位置から手を上げて、その黒帯部分に手の影を作ってやると、辛うじて「手の影の存在」はわかるが、指の影の部分は黒帯表示に沈んでほとんど見えない。プロジェクタ映像の漆黒表現は、事実上の部屋の暗さになるわけだが、一般的なプロジェクタでは、全黒表示箇所であっても迷光が投写されてしまうため、そうはならないことが多い。しかし、本機の映像は、漆黒がほとんど部屋の暗さに等しいのである。いやはや「奇跡の暗部表現」だ。恐れ入る。なお、暗闇の中の肌色もよかった。

V90Rは民生向けプロジェクタとしては初のHDR10+対応機。ということで、HDR10+対応UHD BD「アリータ: バトル・エンジェル」をHDR10モード(「Frame Adapt HDR」を活用)とHDR10+モードで見比べてみたが、暗いシーンにおける明部表現の階調の伸び(HDR10+モードの方が高輝度階調がより明るく、その階調分解能も細かい)に違いを感じるものの、本機のウリ機能である「Frame Adapt HDR」が十分に優秀に働くのでHDR10モードでも何の不満もなかった

いつも通り、映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」も活用。メニューで10,000nit・HDR10+をセレクトし、「映像タイプ」をHDR10+モードで視聴した。

「ToneMapping」テストで階調表現能力をチェックしたところ、白が1,000nitあたり、赤が500nit、緑が700nit、青が700nitくらいまで正確な階調を出せていた。ちなみに、カラープロファイル設定は「BT.2020(ワイド)」の方が暗部のカラーボリュームの階調力が高いことを、このテストでも確認できた。

本機の黒表現は異常なまでに優秀なので、星空の中を突き進むような「StarField」というテストモードを実行してみたのだが、ホームプロジェクターの投写映像で、ここまで背景が黒い星空を見たのは初めてだった。

UHD BD「The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク」
edipit 5,500円

8K放送チェック:圧巻の解像度。まさか袈裟の生地の陰影に感服するとは

最後に、V90Rで8K放送も視聴した。

8K放送の視聴には、シャープの8Kチューナー「8S-C00AW1」(約25万円)およびUSB HDD「8R-C80A1」(約13万円)、アストロデザインのHDMIコンバーター「SD-7075-A」(150万円/税別)を用意。

C00AW1のHDMI2.0×4出力を、コンバーターでHDMI2.1×1出力に変換し、V90Rに接続した。コンバーターからV90Rへは、ビクターの光HDMIケーブル「VX-UH1150LC」(12.1万円)を使った。

取材用に借りた、シャープの8Kチューナー「8S-C00AW1」(上)、USB HDD「8R-C80A1」
8KチューナーのHDMI2.0×4出力を、アストロデザインのHDMIコンバーター「SD-7075-A」(上)でHDMI2.1×1出力に変換した
HDMIコンバーター「SD-7075-A」のフロントパネル
ビクターの光HDMIケーブル「VX-UH1150LC」

視聴したのは、NHKの相撲中継や「落慶~奈良・興福寺~」、「リオのカーニバル2016」、「今日との大宇宙 東寺」などの定番コンテンツ。

8K映像を楽しんだ、というよりは、8Kカメラで撮影されている細部が、どこまでちゃんと表示できているのか? といった評価目線で見たため、どうしても映像制作側が意図している主題以外の方に目がいってしまう。例えば、リオのカーニバルや相撲中継では「どのくらい遠くの観客や群衆の顔が見えるのか」といった具合である。

実際にV90Rで見ると、かなり小さく映っている人物の人相までが分かるのだから面白い。飲食し終わったあとに出たゴミをゴミ袋に入れる人や、全く見当違いの方を見て談笑している人など、8Kだと、全て映像として記録されている、その瞬間瞬間の世界の動きを、楽しむことができる。物語性のある映画のような映像作品を、この8K解像度で視聴する必然性は感じないまでも、ドキュメンタリー作品などにおいては高い価値があるのではないか。

普段の自分であれば絶対に率先してみないであろう8Kの神社系番組では、僧侶達が身に付けている黒い袈裟に目を奪われる。その漆黒の袈裟に陰影がきっちりと出ており、そこからその袈裟の生地の肌理を視認できるのだ。先ほど、ワイルドスピードでの俳優達の描写でも感嘆の声を上げたが、まさか真っ黒な袈裟の生地の陰影に感服する日が来ようとは……。

総括:V90Rは凄まじい高みの領域に。買えるなら買え

V90Rの画質は、ホームプロジェクター画質としては凄まじい“高みの領域”に足を踏み入れており、VW745ユーザーである筆者からすると複雑な気持ちに陥った。「まあ、最新モデルで価格帯も違うし」と自分に言い聞かせたりもするのだが、心の奥底のどこかで「いいなあ」という羨望の気持ちが渦巻く。

さて読者の中には、今期のDLA-Vシリーズのどれを選ぶべきか、悩んでいる方は多いと思う。結論から言ってしまえば正直、買える方は文句なくV90Rを買った方がいい。

ただ、V90Rは価格が275万円と敷居が高すぎる。実際は多くの方が価格的に拮抗するV80R(165万円)とV70R(125万円)で悩むことだろう。

両者の違いを簡潔にまとめると……

  • 画質性能面では、V90Rとほぼ同性能で、投写レンズ口径がやや小さく、輝度が2,500ルーメンとなっているV80R
  • 疑似8K表示が先代モデルとほぼ同等で、投写レンズ口径がやや小さく、輝度が2,200ルーメンとなっているV70R

……という感じになる。

価格差は40万円。もし筆者だったら無理をしてもV80Rの方を選ぶ。その理由は、疑似8K表示機能がV90Rと同等という点と、色再現性が向上するシネマカラーフィルターが搭載されている点に起因する。V90Rの大口径レンズは、疑似8K表示された際のピクセルの鮮明さが素晴らしいが、多くのユーザー環境では8K活用シーンが限定的なものになるため「ここは妥協してもよいかな」とも考えられる。

逆に言えば「8K画質を重要視したい」「3,000ルーメンの高輝度性能が欲しい」といったV90Rの専用フィーチャーに、約100万の追加コストをつぎ込めるのであればV90Rを選ぶべきだろう。

筆者宅の110インチ投写環境でも、8Kピクセルのフォーカス合わせは裸眼目視ではきつくなってきたため、精密作業用の拡大鏡を付けて行なった
トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
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