西川善司の大画面☆マニア
第249回
破格のリアル4Kプロジェクタ、ソニー「VPL-VW255」。18ギガ対応と上位機譲りの画質
2018年11月16日 08:00
「長かった」、「やっとか」という声と「待ってました!」という声が入り交じりそうな製品がついに発売された。ソニーの反射型液晶4Kプロジェクターの「VPL-VW255」と「VPL-VW555」である。
ソニーが「お待たせしました」というメッセージを込めて発売していそうなこの2製品は、ソニーのHDR対応リアル4K解像度プロジェクターであり、さらにYUV444、RGB888の4K解像度映像を60Hz(60fps)で入力出来る18Gbps HDMI端子を装備したファン待望のモデルである。
先代モデルの「VPL-VW245」「VPL-VW535」は、HDR対応リアル4K解像度プロジェクターではあったが、4KのHDR映像表示は30Hz以下のみへの対応に留まり、4Kの60Hz映像はYUV420/8bitまでとなってしまう制限があった。
VW535が発売されたのは2016年、VW245が発売されたのは2017年。2016年の時点で既にソニーの薄型4Kテレビ製品は18Gbps HDMI端子を備えていたので「プロジェクター製品だけが遅れている」という状況であった。やるせなかったのは、ハイエンド機のレーザー光源採用モデルの「VPL-VW745」「VPL-VW5000」「VPL-VZ1000」は一足先に18Gbps HDMI対応を果たしていたところ。「4Kテレビ製品はハイエンド機と中堅機とで差別無く対応しているのに、なぜプロジェクターにだけ格差を与える!?」という気持ちになっていたファンは筆者だけではなかったはずだ。
まぁ、いろいろあったが、とにかく2018年モデルのVW255とVW555は「18Gbps HDMI対応」となったのだ。めでたいことである。
ちなみに、筆者は昨年2017年に18Gbps HDMI対応を重んじた結果、若干、背伸びしてVW745を購入している。製品自体にはとても満足はしているのであるが、「昨年発売されていたらこちらを買っていたろうなあ」という「想い」があるため、より安価で実売50万円を切る「VPL-VW255」の方を評価することにした。
製品概要チェック~デザインは先代から継承。レンズメモリ機能はなし。念願の18Gbps対応
筐体は上部が緩やかな曲面基調、底面は直線基調というVW500/300/200系と同系デザインを採用するが、よく観察すると底面部が約10mmほど厚みを増している。聞けば、映像エンジンを含む基板変更が行なわれたとのこと。ただ、495.6×463.6×205.3mm(幅×奥行き×高さ)は、ほぼ過去モデル同等と考えていい。天吊り設置金具の取付穴も従来デザインを踏襲しているため、10年近く前から販売されているVPLシリーズ定番の天吊り金具の「PSS-H10」(77,000円)がVW255でも使える。
なお重量はVW245と変わらず14kg。今回の評価は筆者宅で行なっているのだが、自分一人で難なく設置できた。
投射レンズはVW500ESから継続流用されている。仕様としては光学2.06倍ズームレンズ(f21.7-44.7mm/F3.0-4.0)で、電動リモコン制御のズーム、シフト、フォーカス調整に対応する。残念ながらレンズ保護目的の電動開閉シャッターはなし。プラスチックのキャップを被せる方式だ。
投射特性はもちろんVW500ES/VW245から変わらず。100インチ(16:9)の最短投射距離は3.05m、最長投射距離は6.28m。レンズシフト幅は上85%、下80%、左右±31%に対応。下シフトだけ5%小さい点には留意したい。
投射レンズの仕様はVW500系と共通する部分は多いのだが、唯一異なる仕様を挙げるとすれば、投射レンズの調整状態を保存しておく「ピクチャーポジション」機能はVW255には搭載されない。まあ、VW255のユーザー層は積極的にアナモフィックレンズのオン/オフを活用することはないだろう、という判断なのだと思う。
光源ランプは出力225Wの高圧水銀ランプ「LMP-H220」(47,500円)で、VW315と同型番のものを採用する。公称寿命は6,000時間。最近の水銀系ランプは以前よりも長寿命になっている。騒音レベルは、低輝度モードで公称値で26dB。高輝度モードでは若干、騒音レベルが高くなるが、1メートルも離れてしまえばそれほど気にはならない。
エアーフローは背面吸気の前面排気。側面には吸排気口はなし。前面の排気口も角度がついているので投射軸に埃が吹き付けられる心配もない。定格消費電力は390Wで、輝度スペックに変化はないにもかかわらず+10%ほどVW245よりも上がっている。これはもしかすると基板部分の消費電力増加分なのかも知れない。
接続端子はHDCP2.2対応でver2.0の18Gbps入力に対応したHDMI端子を2系統装備。HDMI-CECには未対応。
リモコンは、VPL-VW系モデルで採用されていたデザインのものがそのまま継承されている。ただし、ボタンの配置が微妙に異なっており、レンズ調整状態を記録するピクチャーポジション用の操作ボタン「POSITION」がテストパターン調整呼び出し用の「PATTERN」になっていたりする。
ユーザーの使用頻度が高そうな「MOTION FLOW」(補間フレーム機構)、「3D」(3D立体視モード)、プリセット画調モードの変更ボタンなどが用意されておりなかなか使いやすい。強いていえば、近年のHDR対応モデルのウリとなっているHDR画質モードの切換専用ボタンとして「HDR」ボタンなどがあればよかったと思う。
ゲームファン向けに低遅延モードが搭載されている点も見逃せない。低遅延モード時は公称値にして60fps時で1.7フレーム遅延で映像を出力できる。約2フレーム遅延というと格闘ゲームや音楽ゲームではやや厳しいが、一般的なゲームプレイにおいては問題ないはず。なお、薄型テレビのブラビアシリーズには遅延時間が60fps時、1フレーム未満の製品も多くなってきているため、プレイステーションブランドを抱えるソニーには、今後もこの遅延低減については頑張って欲しいと思う。
画質チェック~HDR映像の表現能力は一級品。動的絞り機構がなくとも十分なHDR感
映像パネルはDCI規格4K、すなわち解像度4,096×2,160ドットのSXRD(Silicon X-tal Reflective Display)パネルで、疑似4Kではないリアル4Kの表示能力を持つ。パネル世代的にはVPL-VW500時代から採用されている0.74型サイズのもので、ドットピッチは4μm。画素の格子筋幅はわずか0.2μmという高精細パネルだ。4年以上生産されているパネルなので、品質も歩留まりも向上しているのだろう。ついに、50万円を切る価格でリアル4Kプロジェクタ(+18Gbps HDMI対応)が購入できる時代が到来したのだ。
公称輝度は1,500ルーメン。公称コントラストは非公開だ。なお、動的絞り機構はVW255には搭載されておらず(VW555は搭載)、投射映像のコントラストはほぼ映像パネルのSXRDのデバイスコントラストに近いものとなるはずである。ちなみに、これまでSXRDのデバイスコントラストは4,000:1程度と謳われていたので、最低でもこの程度はあると思われる。
最初に、普通の2K BDの「ダークナイト」を視聴した。
HDRに対応していない2K BDの映像だが、映像エンジン側の「コントラストエンハンサー」の機能の効果か、チャプター20の夕暮れ時の護送車列のアクションシーンでは、街明かりや車列の黒いボディに映り込んでいるそれらの街明かりが、高輝度部分が伸びやかに描かれている。それこそ、HDR映像なのか、と思えるほどだ。
補間フレーム機構のMOTION FLOWについては、いつものようにチャプター9冒頭のビル群の空撮シーンでチェックしたが、「弱」(スムース弱)設定であれば、ほとんど破綻も見えない。ぬるぬるとしたスムース動画が好みであれば、弱設定であれば常用でOKだろう。ちなみに強設定は、当該シーンでチェックすると反復模様のディテール表現が動いたときにしばしば振動現象を感じることがあった。
データベース型超解像エンジン「リアリティクリエーション」の効果も素晴らしい。
2K映像の細かな微細凹凸表現は情報量が増した感じになり、斜め線などの表現はなめらかに描かれるため、まるで視力が向上したかのような感覚で2K映像が楽しめた。テレビ製品のブラビアなどでも用いられているこの超解像処理は、プロジェクターの映像にも大きな効果をもたらしていると思う。
総じて、普通の2K BDコンテンツであっても、VW255は満足いく表示が出来ていると思う。
4K Ultra HD Blu-rayで画質をチェック
続いて4K/HDRのコンテンツとして「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」、「ラ・ラ・ランド」、「マリアンヌ」の4KブルーレイことUHD BDを視聴した。「ハン・ソロ」は初見で映画全編を、後者2つはいつものテストシーンのみを視聴。
スター・ウォーズのような宇宙ものは実にHDR効果が分かりやすい。まず、ミレニアム・ファルコン号の船内の電装系の自発光ボタンやらモニター映像やらホログラフィックが船内の暗さと相反して目映く輝いており、投射映像なのにもかかわらず「画面が自発光しているかのよう」という印象を持たされたほど。漆黒の宇宙空間に浮かぶ星々も同様の印象だ。黒の沈み込みが圧倒的なSXRDならではの表現はさすがである。
「ラ・ラ・ランド」ではチャプター5、夕闇のもとで主役二人が歌い踊るシーンを視聴。
暗がりの中でもエマ・ストーンの着ている黄色いドレスと深紅のカバンが、街灯下で変な色に変異せず、それでいて安定した色味を維持できている。人肌も同様で、暗がりの中でもちゃんと立体感が感じられる。
「マリアンヌ」では社交場にブラッドピットが辿り着くチャプター2のシーンを視聴。
広場に点在する街灯のHDR感が鮮烈。そして街灯が照らしている歩道の拡散光に空間的な広がりが感じられ、運動視差もないのに歩道が立体的に見える感覚が新鮮であった。社交場内のシャンデリアも、無数の煌めく硝子片が白飛びせず高輝度の中で豊かな階調を表現できている。
総じて、発色は良好、階調表現にも文句なし。そして黒表現も限りなく部屋の暗さに近く、素晴らしい。
明部の階調表現がより豊かになる「HDRリファレンス」モード
さて、ソニー肝いりで開発し、ユーザへの積極活用を呼びかけている「エキスパート設定」階層下にある「HDR」モード設定についても言及しておこう。
VW255には、この「HDR」モード設定において、VW745から搭載された「HDRリファレンス」が選べるようになっているのだ。
ここの設定はデフォルトでは「オート」設定となっており、UHD BDでは通常は「HDR10」モードが選択されて動作するようになっている。
確かにこのままでもいいのだが、VW255で4K/HDRコンテンツを視聴する場合、オート設定では、そのHDR性能をフルに活用できていないことが想定される。この状況を改善できるのがHDRリファレンスモードなのである。
順を追って解説しよう。
HDR10モードでは、HDR10規格にフル対応した映像を想定してVPL-VW255の表示性能にディスプレイマッピング(≒トーンマッピング)している。HDR10は規格上は最高輝度1万nitまでを含むが、そこまでの輝度を活用した映像は(一部のテスト映像を除けば)市販コンテンツにはほぼ存在しない。
にもかかわらず、映像機器たるVPL-VW255は、HDR10規格一杯一杯の映像が来ることを想定してディスプレイマッピングしているため、最明部付近の階調表現能力を1万nitまでの信号が来たときのために割り当てているのだ。ちなみに、VW255自体に1万nitの高輝度表示能力はないため、1,500ルーメンの輝度範囲内でこれを表現することになる。
ところが、現状のHDR10コンテンツは、前述したように1万nitまでを活用していない場合がほとんどなので、VW255が高輝度階調表現用に温存してある高輝度領域の階調能力が活用される機会はあまりないということなのだ。
そこでソニーは「1万nitの高輝度領域への対応は一端忘れましょう」→「多くの映画系のHDR10コンテンツは最高輝度1,000nit程度まででマスタリングされている」→「だったら1万nitまでの信号が来るときのために温存していた高輝度領域の階調能力を1,000nit程度までに割り当てれば、多くの映画系HDR10コンテンツをVW255の表示性能を最大限に活かして楽しめるようになるはず」ということで「HDRリファレンス」モードを用意したわけである。
いわばソニーのHDR10コンテンツの独自解釈表示モードということで、デフォルトでは選択されていないのである。
これを有効化すると、1,000nit程度以下でマスタリングされているHDR10準拠のUHD BD映画コンテンツは、高輝度領域のエネルギー感が増す。分かりやすく言い換えると高輝度部分がより明るくなる局面が多くなる。
照度計を用いて、「マリアンヌ」の冒頭の砂地に太陽が浮かぶシーンの投射映像において、太陽の輝度を計測してみたところHDR10モードで約230lux、HDRリファレンスモードではこれが約290luxとなっていた。
ユーザーはUHD BDを視聴する際には、好みにあわせてHDR10モードとHDRリファレンスモードを使い分けたい。
VW255は3D立体視にも対応している。
VW255が対応する3Dメガネ「TDG-BT500A」は、VW745と共通だったので、今回の評価で3Dブルーレイの視聴がテスト出来た。いつものようにクロストーク発生条件がシビアな「怪盗グルーの月泥棒」のチャプター13のジェットコースターシーンを視聴したが、クロストークは最低限で気にならず。輝度スペックが1,500ルーメンもあるため、3Dメガネを通してみる3D映像はけっこう明るい。3Dコンテンツ表示時も超解像処理が適用され4Kにアップスケールされる点も嬉しい。疑似4K機ではこうしたことは出来ないため、リアル4K機の強みの1つだといえる。
さて、プリセット画調モードは、近年のVPL-VW型番モデルをそのまま踏襲しており、「シネマフィルム1」「シネマフィルム2」「リファレンス」「TV」「フォト」「ゲーム」「ブライトシネマ」「ブライトTV」といったラインナップが用意されている。普段使いは「シネマフィルム1」「シネマフィルム2」「リファレンス」の3つのうちのどれか、という感じだ。筆者はHDR映像の見映えが最もよいと感じた「シネマフィルム1」が好みであった。
以下に投射映像の白色光を色度計で計測したスペクトルを示す。
過去モデルの超高圧水銀ランプモデルとよく似たスペクトルだが、赤緑青の各ピーク間の分離が向上しているのがわかる。色再現性は超高圧水銀ランプモデルでも年式が進むごとに改善されていっているのだ。
おわりに~VW745オーナーの筆者から見たVW255の価値
もともとVW255の「基本画質レベルの高さ」は、先代VW245譲りなのはわかりきっていたし、その前のモデルであるVW315の時点からかなり優秀だったので、心配はしていなかったが、実機を見て「期待通りの完成度」にあって安心した。
レンズ調整結果を複数メモリーする機能「ピクチャーポジション」の機能はないが、待望の18Gbps HDMIに対応し、画質も良好で不満はない。1,500ルーメンの輝度スペックは、上位機のVW555の1,800ルーメン、VW745の2,000ルーメンと比較すれば暗いことになるが、完全暗室に出来る環境であれば1,500ルーメンの輝度は十分だと思う。
これだけ完成度の高い製品が出てしまったことで、前述したように昨年VW745オーナーとなった筆者の心情はなかなか複雑だ。この表示性能とスペックで50万円未満という価格設定は「凄い」の一言に尽きる。
では、VW555やVW745に価値がないかというとそんなこともない。
私物のVW745と画質を比較してみると、発色の良さ、暗部から明部までのダイナミックレンジの広さはVW255の上をいっていることは確認できた。レーザー光源採用でVW255の+33%増しの2,000ルーメンの高輝度性能はやはり伊達ではない。
VW555はVW255に対して輝度スペックが+20%増しの1,800ルーメンで、ピクチャーポジション機能やアドバンストアイリス機構も搭載。現時点ではまだVW555は評価していないが、VW255の映像に対して垣間見えたVW745の優位性に近いものが期待できるだろう。きっとVW555の投射映像は高輝度部がVW255よりもさらに伸びやかになったものになっているに違いない。
こうした「性能差」に魅力を感じ、「価格差」に納得が出来れば、VW555やVW745を選択するのは間違えていないと思う。
ちなみにVW555の実勢価格は約90万円、VW745の実勢価格は約150万円。それぞれVW255の2倍、3倍の価格差になっていてある種、予算に応じて選びやすいと言えるかも知れない。
とにかく、現在、中堅かミドルアッパークラスのフルHDプロジェクターを使っていた人は、今年こそがリアル4K機の買い換え時なので、目一杯、悩んで頂きたい。
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