レビュー

我が家もついに4K/HDR化。でもトラブル発生!? ソニー「VPL-XW5000」買ってみた

ソニーの「VPL-XW5000」

2022年末、ついに4K/HDRという楽園に踏み入った。筆者は、リビングに2009年製のフルHDのプラズマテレビ、防音スタジオに2015年発売のフルHD/SDRのプロジェクターという旧規格の映像機器とともに過ごしてきた。今の読者には、プラズマテレビという存在自体を知らない方もいるのではないだろうか。

平面ブラウン管の信者だった筆者は、PS3のゲームの文字が小さすぎて読めないという理由でプラズマテレビを購入し、同じ機種を今も使っている。プロジェクターは2018年夏にソニーのVPL-HW60に買い替えてそのままだった。

そんな私もようやく、4K/HDRの映像機器を導入するに至った。本稿では、4K/HDR初体験の筆者が、防音暗室シアターに天吊りという利点を活かして、ビギナーなりに使い込んだ一部始終をお届けしたいと思う。

大きさはあまり変わらず、中身は大幅進化

導入したモデルは、2022年に発売されたソニーの「VPL-XW5000」(以下XW5000)だ。デザインも含め設計を一新し、高いコストパフォーマンスと小型軽量化を実現したモデルとして話題になっている。ネイティブ4Kデバイス×レーザー光源としては、業界最小サイズらしい。

HW60よりも幅は5cmほど大きいが、奥行きは1cm、高さは2cmほど拡大しているのみだ。4K対応のプロジェクターは大きいというイメージがあったが、HW60と比べてもほとんど変わらないサイズ感というのは、シアタールームの天井が低い筆者にとってありがたいポイントである。天吊りしているから、あまり本体が大きいと頭をぶつけかねない。

2018年夏に買ったソニー「VPL-HW60」

XW5000とともに、「VPL-XW7000」という上位機も発売された。XW5000では2,000ルーメンの明るさが、XW7000では3,200ルーメンという圧倒的な輝度性能を誇る。他にも、HDR感を強調する「ライブカラーエンハンサー」、電動レンズシフト、新開発のACF(Advanced Crisp-Focused)レンズを使っているなど、XW7000には上位機ならではの機能や性能の充実が見られるが、基本的な機能は共通の部分も多い。ちなみに3Dは、XW7000のみ3Dシンクロエミッタを別途購入すると利用可能。XW5000は非対応となる。

それでは、XW5000の基本的な機能やスペックをご紹介しよう。

ソニー「VPL-XW5000」

ソニー独自のネイティブ4K液晶デバイス「4K SXRD」は、従来機の0.74型から0.61型へサイズ変更し、解像度は4,096×2,160ドット(21:9)から3,840×2,160ドット(16:9)へ小型化した。サイズを小さくすることで、光学部の大幅なサイズダウンが可能となり、小型軽量化に繋がっている。製造コストの低減やパネルコントラストの向上などにも寄与したそうだ。

ソニーのTVと言えば、独自の映像プロセッサーが注目ポイント。XW5000にはブラビアでも使用されているX1 Ultimateをプロジェクター向けにカスタムした「X1 Ultimate for projector」を搭載。「オブジェクト型超解像」、「デュアルデータベース分析」、「オブジェクト型HDRリマスター」、「デジタルフォーカスオプティマイザー」「ダイナミックHDRエンハンサー」で各画面上のオブジェクトのリアルタイム処理を強化し、ホームシネマではこれまでにない質感、色、コントラスト、リアリズムを備えた高ダイナミックレンジを実現したという。

最新のブラビアに搭載されている認知特性プロセッサー「XR」は、人間の脳のように膨大な量の映像信号を横断的に分析できるというから、今後は、”XR for projector(仮名)”を搭載したプロジェクターが開発されるのかも知れない。ともあれ、本家X1 Ultimateは、旧世代の「X1 Extreme」に比べて処理能力が約2倍になっているとのことなので、決して非力なチップではないだろう。

レンズ機構は、ダイヤルを回しての手動調整になる。スクリーンがレンズの真ん前にない場合、レンズシフトという機能を用いて、映写されている映像を上下方向と左右方向に移動できるのだが、その調整を手動のダイヤルで行うなという意味だ。XW7000のように電動にしてほしいところではあるが、筆者の場合、レンズシフトは一度調整したら変更することは無かった。実際の調整も特に難しくなく、手動で問題ないと納得している。

このほか、ズームは1.6倍、レンズシフトは垂直71%・水平25%、F値はF2.5~F2.99となっている。オーディオビジュアル系のイベントでソニーの広報の方に伺ったところ、XW5000のレンズはHW60のレンズをベースに4K用に改良したものだとか。見た目がとても似ているので、流用かと思いきやきちんと最適化しているのだ。

投写サイズは60~300型で、120型時の投写距離は3.61~5.76mとなる。我が家のスクリーンは、シアターハウスで購入した80インチの手動タイプ。HW60の投写距離は80インチの場合、約2.4m~4.2m。XW5000は、同じく80インチだと約2.44m~3.91m。短い方の距離がほぼ同じであり、HW60が問題なく投写できていればXW5000もそのまま設置できると判断した。

ちなみに、レンズシフトの幅も垂直71%・水平25%でHW60と同じだ。念のため、施工時の設計会社にも問い合わせて確認をしている。投写距離は、仕様に公開されているので、単にスクリーンの前に置けばいいだろうと早合点しないようにしたい。実は、この正確な投写という課題については、見逃しやすい思わぬ落とし穴があるので、後ほどお知らせしたい。

HDMIはHDCP2.3対応、18Gbps対応の入力を2系統装備する。入力信号は、4K/120pには対応しないが、4K/60pに対応するので、PS5のゲームも大抵のタイトルは問題なく楽しめる。HDRは、HDR10とHLG規格をサポート。Dolby Vision、HDR10+には残念ながら非対応だ。

HDMI端子部

レーザー光源寿命は20,000時間と、一般的な水銀ランプの6,000時間より大幅増になっていて嬉しい。HW60は、4年ちょっと使って1,750時間だったので、20,000時間といえばほぼメンテナンスフリーで買い換えまで使用できると思う。

ちなみに筆者がHW60を最も使った用途は、PS4 ProやPS5のゲームプレイだ。RPGが中心だが、アクション要素のあるゲームでも特に違和感はなかった。遅延低減モードをOFFで使っていても特段問題はなく、プロジェクターも案外ゲームで使えるのだなと感心した。XW5000は、遅延低減モードにより、4K/60pで21ms、2K/120pで13msという低遅延を実現。レーザー光源を採用した競合他社と比べても、非常に優秀であることは、西川善司氏の連載でも確かめられている。

さらに、他社でも不可避となっている低遅延モードON時の機能制限が少ない。映画ソフトなどのカクカク映像を滑らかにするMotionflowと、ノイズリダクションをOFFにすれば使えるのはありがたい。Motionflowはゲームのフレームレートが良好であればOFFでよいし、ノイズリダクションもDVDやWEB動画ならともかく、ゲーム機からの入力映像なら基本OFFにできる。

ちなみに、プロジェクターを買い替えるにあたって、HDMIケーブルを交換する必要性があった。既存のケーブルは4Kをギリギリ送信出来るが、HDRが送信出来ない旧規格のケーブルだったのだ。4K60p(18Gbps)対応の光HDMIケーブルを10m分購入。先端同士を養生テープでぐるぐる巻きにして、天井裏の可とう管を通して無事交換。光ケーブルは曲げすぎると断線するので、ヒヤヒヤしたが無事に済んでホッとした。

新しいHDMIケーブルを、可とう管を通して無事交換

設置は完了……しかし、予想外のトラブル発生!

XW5000は、軽量とはいっても13kgある。アンプをラックに入れるのとは訳が違い、天吊りの場合の交換は、非力な自分では不安が募った。そこで、知人に頼み込み、手伝いに来てもらった。筆者の使っている天吊金具は、汎用品の「スパイダーII」だ。シアターハウスオリジナルの天吊金具で、20kgの耐荷重性能がある。可変アームを移動することで、様々なメーカーのプロジェクターのネジ穴に対応する優れものだ。

HW60からプレートとアームを取り外し、XW5000にネジ留めして、またスパイダーIIに戻してネジ留め

筆者も、HW60の前はBenQ製を使っていたので、メーカー違いの移行がスムーズだった。HW60とXW5000のネジ穴の位置は同一。スパイダーIIから外したHW60からプレートとアームを取り外し、XW5000にネジ留めして、またスパイダーIIに戻してネジ留め。多少位置を微調整して、レンズシフトを調整すれば終わりと思ったら、予想外のトラブル発生! 映像が元々のスクリーンの遙か上に投写されている。

取り付けはできたのだが……

レンズシフトをいっぱいに回して下方にスライドさせても、映像がスクリーンの上にはみ出ていて話にならない。ここで、筆者は2つの意味で無知を思い知ることになった。

1つは、投写距離やレンズシフトのスペックが同じであっても、デザインの違うHW60とXW5000ではレンズ自体の位置が物理的に異なること。レンズの位置が少しでも違えば、投写される画面の位置が変わってくるのは自然なことだ。もう一つは、投写画面を下げるために、スパイダーIIの角度調整を使って本体をお辞儀させてしまったことだ。

結果はご覧の通りの台形映像だ。上方に向かって、幅が狭くなっているのがお分かりいただけるだろうか。ゲームや映画を映していて、画面の真ん中を見ている分には、ゆがみは気にならないと言えば気にならないが、ふと視線を逸らすと違和感しかない。

映像が台形になってしまった!

まず、映像の位置そのものは、わずかに本体をお辞儀させたことにより、大幅に下方に移動させることが出来た。仮に投写距離が2.5mとすると、1度傾けただけで、4cmも上下に動くというからその効果は絶大である。しかし、プロジェクターの映写は、そもそもスクリーンに対して垂直に行なう必要がある。本体をお辞儀させてしまったら映像が歪むのは考えてみたら自然な話だ。この台形になってしまった映像をデジタル処理で補正することを、いわゆる台形補正という。台形補正は便利な機能だが、デジタルで処理するので、画質への影響を考えると使わないに越したことはない。XW5000では機能自体が省かれている。

台形になってしまった映像を改善するために、カスタマーサポートに問い合わせ、施工会社にも相談して、結論としてシャフトを長くすることにした。シャフトとは、スパイダーIIの天吊り時に使う、金属の棒だ。天吊金具にとって首の長さとでも思っていただければいい。現在の付属品ショートシャフトから7cm足して、15cmのカスタムシャフトを注文した。なぜ、7cm足したのかは、複雑な計算や実際の数字を羅列しなければならないので割愛するが、レンズシフトとスクリーン高さの関係だけ少し説明しておこう。

レンズシフト垂直71%というのは、投影画面の高さをどの程度移動できるかということだ。スクリーンが16:9の80インチであれば、投影する画面の高さは996mmとなり、その71%は707mmだ。レンズの中心いわゆる「レンズの芯」は、スクリーンの投影したい画面の中心の真ん前に位置する必要があるが、レンズシフトを使えば、この中心より上方、707mm上に実際のレンズ芯が位置していても問題ない。レンズシフトをいっぱいまで使えば、投影画面の位置を下にずらすことができる。

検討の際には、スクリーンの投影面の下端から床までの距離、レンズ芯の床からの距離、実際の投影サイズの高さなどを測って、適切なシャフト長を求めていく。天吊金具を使っているような方は、シアタールームを業者に依頼して施工しているケースも多いだろう。設計会社に相談してみるのが安全だ。筆者はアコースティックラボに相談して、丁寧で具体的なアドバイスをもらうことが出来た。

スペック的に問題ないプロジェクターを取り付けたのに正しく投影できず、一時はひどく落胆してしまったが、カスタムシャフトを1センチ単位で販売しているシアターハウスのお陰で事なきを得た。近日中にシャフトの付け替え作業を行なうので、映画を見るのが楽しみである。

「本当にミッドガルがそこにある」ような高画質

さて、ほんのわずかに台形になった映像でも、4K/HDRの高画質。ここからは、組み合わせたPS5とソニーのBDプレーヤー「UBP-X800M2」による機能や画質のレビューをしていこう。

ソニー「UBP-X800M2」

まずはPS5だ。PS5は、HDRの出力を「常にオン」と「対応時のみオン」の2つで使い分けられる。PS4/PS5ともにHDRに対応していないタイトルは多く、筆者も手元のソフトの大部分がSDRで制作されたソフトだった。筆者が所有するHDR対応のソフトは、「デトロイト」PS4版と「FF7 REMAKE」 PS5版のみ。FF7Rを久しぶりにプレイしてみた。

PS5のHDR出力は「常にオン」と「対応時のみオン」から選べる

XW5000のピクチャープリセットは、リファレンスをベースに、明るさをわずかに落としたり、一部設定を変更している。

PS4 Proの頃から、超絶美麗なグラフィックだったが、別物!? と見間違えるほどに画質が向上している。吸い込まれそうなゲーム映像とはよく言ったものだが、本当に吸い込まれそうだ。リアルタイム演算の3Dポリゴンなのに本当にミッドガルそこにあるようだ。まず、色合いがより豊かに変わった。プロジェクターに送られている信号は、HDR非対応ソフトがRGBだったのに対してBT.2020へと変わった。

このRGBとはsRGBと思われ、色域だけ見ればBT.709(自然界の色を74.4%再現)とほぼイコールと推察される。BT.2020は、UHD BDでも採用されている色域規格となり、自然界の色を99%再現できる。XW5000はBT.2020の色域を完全に包含していないが、その色味の自然さは一目瞭然。HW60で見ていた映像は、色褪せて真実味の薄いカラーだったということが、比べてみると初めて分かる。

HDRになったことも、劇的なリアリティの向上に寄与していた。序盤のミッドガルの探索やバトルを体験したが、照明の明かり、道を遮るレーザーの明かり、サンダーの煌めき、すべてが本物のよう。コントラストは、黒つぶれがなく、光のピーク表現は自然で階調豊かだ。自然現象として違和感がなくなるというのが一番感動したポイント。PS4版をPS5版にアップグレードしたグラフィックでこれなのだから、PS5専用ソフトの続編「FF7 REBIRTH」はどうなってしまうのか。想像しただけで昇天しそうだ。

では、HDR非対応のソフトはどうなるのか。絶賛2周目をプレイ中の「黎の軌跡II -CRIMSON SiN-」 PS5版を起動。まず、4Kになったことでスクリーンに近づいても、ドットの並びが分かりにくくなった。80インチという小さめのスクリーンも影響していると思われるが、フォントやオブジェクトの輪郭が滑らかになっている。シャープネスを設定でむりやり上げたときのような不自然さはない。ナチュラルに鮮明な映像だ。4Kになって処理落ちが悪化するかと思ったが、そんなことは無かった。

続いて、HDRを「常にオン」に変更すると、陽光と日陰、室内などの明暗の描き分けが明らかに向上したのが分かる。FF7Rのような”元からHDR“にはさすがに及ばないものの、一画面内に明るいものと暗いものが同居していても、メリハリが効いているので、基本は常にオンでいいかもしれない。ただ、常にオンでは空のグラデーションが階段状になってしまった。スムースグラデーション機能を「強」に設定すると緩和するものの、ご覧のように階段をゼロには出来ない。非HDRの画像とも比較してみて欲しい。

常にオンでは空のグラデーションが階段状になってしまった
スムースグラデーション機能を「強」に設定すると緩和するが、ゼロにはできない
「対応時のみオン」にした場合

続いて、HDR非対応タイトルの「JUDGE EYES 死神の遺言 Remastered.」 PS5版。「常にオン」の方が、暗いところの沈み込みがしっかり暗くなっていてリアルだ。逆に室内への陽光の差し込みは日が照っているエリアの明るさが優しくて自然になった。SDRのまま表示すると、眩しすぎる印象。フォトリアルなグラフィックのタイトルはHDR化との相性がいいかもしれない。

グラフィックの雰囲気がファンタジー調の「新サクラ大戦」。「常にオン」は、色味がビビットになって少し刺激的な映像だが、ダンジョンなどの暗いシーンでは黒の沈み込みが良好で、エフェクトなどの輝度がはっきりとしている。本作は、PS4ソフトということもあり、オブジェクトの輪郭にジャギーが目立つ。フルHDでプレイしていた頃はそれほど気にならなかったのに、4Kで出力・表示すると、ギザギザが気になってしまう。これは別の意味で嬉しい誤算だ。

バトルパートで遅延低減機能を使ってみた。よく見ないと分からないくらいの変化だが、ジャンプ中の攻撃などボタン操作に限りなく近い反応をしてくれる。押した瞬間のジャスト動作と言って差し支えない。ただ、バトルがやりやすくなるほどの改善かと問われれば、変わらないというのが正直なところだ。これはいい意味で、デフォルトの遅延が短いのだろう。

4Kアップコンバートも試す

UBP-X800M2を使い、BDとUHD BDの画質差、さらには普通のBDを4K/HDR化した際の画質変化を見ていこう。XW5000側のピクチャープリセットは、暗室向けのシネマフィルム2をベースに視聴している。

フルHDを4Kに変換する機能はプレーヤーも持っているし、プロジェクター側で変換することもできる。試すことはなかったが、AVアンプ側で4Kアップコンバートしてもいい。筆者のYAMAHAのRX-A6Aも対応しているようだった。

HDRは、X800M2側でHDR出力を自動にすると、HDR10もしくはHLGを自動で出力する。Dolby Visionを「入」にすると、対応ソフトはそのままDolby Visionの信号を出力する。ディスプレイ側がDolby Visionに対応しない場合は、ディスクに同時収録されているHDR10の信号を出力するために「切」に設定するとよいらしい。

SDRのBDを再生するときは、Dolby Visionの設定がHDR変換の設定を兼ねていた。30iで収録されているライブなどの一部のソフトを除いて、24pの映画やアニメはほぼすべてHDR10に変換して出力できる。Dolby VisionをONにすると、SDR→HDR10変換が有効になる、これは説明書には記載されていないが、Q&Aには明示されていた。ただし、4Kへの変換をX800M2で行なう場合にのみHDR10変換が可能だ。

4Kに対応したシステムでBDを見るにあたって、筆者が以前から気になっていたのが「フルHD→4K変換は、プレーヤーかプロジェクターか」という問題だ。送り側で変換するのと、受け側で変換するのと、どちらが良質なのかは正直やってみないと分からない。明確に優劣をアナウンスしていればいいが、ソニー製のプレーヤーとはいっても、後から発売されたXW5000に具体的な言及はなかった。

結論から言うと、X800M2の4Kアップコンバートの方が圧勝だった。アニメ/映画などソースを問わず、似たような傾向が見られた。まず、画質の優劣を判定する上で、表現難易度の高いソース、音楽ライブのBDから再生してみる。「CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019」は1080/30iで映像が収録されており、プレーヤー側で強制的に60pに変換された。

XW5000でフルHDの映像を視聴すると、正直まったく悪くない。4K変換は滑らかで、DVDをフルHD化したときのような画質の粗さは感じなかった。X800M2の4K変換を有効にすると、パッと見ですぐ分かるほどに輪郭がハッキリとして、人物や楽器、ドラムの遮音用アクリルパネルのエッジに至るまで、クッキリ感が向上した。発色も自然になって、一瞬一瞬が写真のように美しい。コントラストもやや改善したように感じた。

プロジェクターに4K変換を任せる設定に戻すと、今度はリップシンクの問題に気付く。演奏者の楽器を叩くタイミングと、音が微妙に合っていない。「CHRONO CROSS ~時の傷痕~」でサラと壺井のバイオリンの早弾きや、寺田のパーカッションも映像と音がずれている。XW5000で4Kに変換する分、処理のわずかな時間が音ズレに繋がっているのだろう。この問題は、AVアンプ側で修正することもできるだろうが、映像と音声を同時に出力する方が画質も良かったので、X800M2での4K変換が最良であると筆者の環境では結論した。もちろん、XW5000の方が4K変換の結果がよいという事例もあると思う。環境ごとに、ベストな映像のための設定を探るといいだろう。

ちなみに「宇宙よりも遠い場所」や「月がきれい」といったTVアニメタイトルも同じ4K変換比較を実施したが、アニメの口パク程度の精度であれば、まったく気にならなかった。音楽演奏のような瞬間的な発音とビジュアルのリンクが求められるコンテンツは要注意ということだ。

「月がきれい」のオープニングで川越まつりのお囃子のシーン。XW5000で4Kにすると、提灯の輪郭や、描かれた文字が少し滲むような絵になるのだが、X800M2では滑らかディテールでそれこそ初めから4Kコンテンツであったような自然な変換を成し遂げたのは感動した。小川の照り返しなど、一目見て煌めきのレンジが拡大している。

BDのHDR変換は、様々なソースで視聴してみたが、相性の良し悪しがあるようだ。基本的には、画面が少し暗くなる代わりに、コントラストがやや向上する。劇場作品ほど違和感は少なく、テレビ放送のタイトルは色褪せしたり、白飛びしてしまうタイトルもあった。プレーヤーにもよるだろうが、基本的にBDはSDRのまま視聴してみて、実写の劇場作品など相性が良いタイトルはHDR化して楽しむのがいいかもしれない。

UHD BDも再生、圧巻のネイティブ4K映像

いよいよ、本命となるUHD BDの視聴に移っていく。

Dolby Vision対応の「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」UHD BD版を見てから、BD版を4K化して視聴してみたら、「あれ?」と目を疑った。序盤のブルーとその子どもが兎と狐を狩るシーン、オーウェンが橋を越えてしまったメイジーを叱るシーン辺りをチェックしたところ、木々の葉や、飛び散る雪の粒など、明らかにBD版は鮮明さに難がある。あれほど、X800M2の4K化は素晴らしいと書いたばかりで申し訳ないが、ネイティブの4K映像を観てしまったら、話しは変わる。

UHD BD版は、とにかく違和感がない。「このオブジェクトの△△が●●!」などと評するよりも、映画館で映画を観ているようなあの普段通りの感覚に浸れるというコメントがおそらく一番適切だ。肉眼で観る景色や人物に近い解像感があって、映画の世界に無心で没入できる。フィルムグレインの粒子も細かく、ちょっとゾクゾクした。

XW5000はDolby Visionに対応していないため、HDR10の出力で視聴した。夜中になって、たき火の傍でオーウェンがメイジーを諭すシーン。BD版では、画面全体が白いベールをまとったように薄明るい印象だったが、UHD BD版ではたき火の明るさのピークは伸びているし、影になった衣服などは黒つぶれがなくなり、闇夜はグッと深く暗く描かれている。ずっとBlu-rayの画質に慣れている身としては、HDR10の世界は異次元のリアリティ、作りの物の映像から解き放たれたような開放感がある。

そして、BT.2020の色彩の豊かさも見逃せない。筆者がBDを初めて視聴したときは「写真を見ているようだ」と思ったが、UHD BDは「マジで写真を見ているようだ」に更新したい。BD版を視聴すると、色味の幅が狭く単調で、自然界の色を再現できていなかったことをすぐに理解できた。

「天気の子」でもBDとUHD BD比較。新海監督の緻密な背景と、これでもかという光と影の鮮烈な表現手法はまさにUHD BD向き。色合いやコントラストの自然さは、映画館で観た感動を思い出すに十分なクオリティだった。

チャプター「新しい毎日」のBDからの4K化。実写作品に比べてアニメは4K化した時の違和感は少ないようだ。ただ、惜しいところは確かに存在する。例えば、K&Aプラニング事務所内。冷蔵庫にある無数の張り紙や乱雑に詰まれた本の表紙などが、潰れ気味である。

UHD BD版では、帆高に助けられた陽菜が初めて天を晴れにするシーンをチェック。BD版でSDRの映像を観ても、HW60の頃よりコントラストは向上しているし、色合いもビビットだった。UHD BD版で同じシーンを視聴すると、ああ、映画館で観た元の映像はこうだったなと、記憶の扉が開かれた気がした。

作品序盤は曇りばかりで、最初の晴れのシーンはとても印象的な太陽の光が目に焼き付いたことを覚えている。BD版では、画面全体が白っぽい明るさに満ちていて落ち着きがなかったが、UHD BD版は陽光と影との対比が明確で、明るくなるべきところだけが明るくなり、そのピークも大幅に拡大していて、呆気にとられる帆高に感情移入できる。これは感動を増幅する新体験だ。

動画配信やBSでは4KやHDR(HLG)のコンテンツも増えているようだが、4K/HDRを初体験したばかりの筆者としては、まずはもっと多くの作品のUHD BD版が日本でリリースされてほしい。と言うのも、手元のBD作品の中で、海外ではUHD BD版が出ているタイトルもあるようなのだ。

また、2KのBDを4Kにして観賞することは、意外に満足度が高いことがわかった。同時にネイティブ4K/HDRのコンテンツがいかに感動を広げてくれるかも確かめられた。4K/HDRの世界に遅ればせながら足を踏み入れたので、今後は画質調整等をさらに追い込んでVPL-XW5000を使いこなしていきたい。

ビデオプロジェクター:特長動画:VPL-XW7000,VPL-XW5000【ソニー公式】
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト