西川善司の大画面☆マニア

第288回

超大画面テレビはもう夢じゃない!? 100型レグザでゲームしたら最高じゃん

100型レグザ「100Z970M」でゲームをプレイする筆者

自他認める大画面☆マニアの筆者は、新しい大画面製品が発売されるたびに、そうした製品達を、日々、脳内で“究極の大画面”と“至高の大画面”として戦わせており、「一週間後、オレが本当の大画面を見せてやる」とか「この大画面は出来損ないだ。全く見られたもんじゃないね」、「この大画面を作ったのは誰だあぁぁぁ! 開発者を呼べえい!」、「ホフホフ、これは大きい!」とか、どこかで聞いたことのあるセリフを脳内再生してニヤニヤしている。

そんな筆者の脳内“究極 vs 至高”バトルが新たな局面を迎え始めていて、熱いのだ。

これまで、100インチクラスの大画面は、プロジェクター機器を用いて大画面環境を構築するのが現実的だと言われてきた。かくいう筆者も、ビクター(JVC)の反射型液晶(LCOS)プロジェクターの「DLA-V90R」を中核とした110インチ大画面のホームシアターを構築して、充実した大画面ライフを送っている。

しかし近年、「新しい大画面ホームアターのカタチ」が生まれ始めていることを実感している。それは、プロジェクタのような“投写型ディスプレイ”ではなく、液晶テレビや有機テレビのような“直視型ディスプレイ”で大画面ホームシアターを構築するソリューションだ。

もちろん、前回取り上げた「マイクロLEDディスプレイ」も直視型ディスプレイ製品ではあるが、1セット当たり数千万という異次元の価格帯であり、当面は富裕層向けという位置付けなワケだが、筆者が今取り上げているのはそうした“特別な機器”ではない。

前回(第287回)で取り上げた、CreateLED製のマイクロLEDディスプレイ。145型で約2,550万円

実は、大画面の本場、北米を初めとした海外では、100インチオーバーの大画面映像を直視型ディスプレイで楽しむ文化が育ちつつあるのだ。

この流れは日本にもやってきており、昨今では、日本でも、液晶テレビ、有機ELテレビの100インチ前後クラスの製品が50万円台から100万円前後の価格レンジで販売されており、「本気を出せば買える」という状況になってきているのだ。

写真中央の女性の後ろにあるのが、2023年12月に発売した100型レグザ「100Z970M」(137.5万円前後)
ハイセンスの100型液晶「100U7N」(89.8万円前後、2024年7月発売)

新築のマイホーム建築を検討している読者層であれば、ホームシアター環境の構築を「この機会に」と、真剣に検討している人も少なくないはず。50万円~100万円前後という金額は決して安くはないが、新築住宅用の設備費用として住宅ローンに組み入れることができれば、その実現は全然、夢ではなくなってくる。

今回の大画面☆マニアは、そうした「直視型ディスプレイによる100インチ台大画面ホームシアター」の話題を取り上げることにしたい。いうなれば、今回、筆者は“究極の大画面メニュー”として、「ホームシアター向け100インチクラスの直視型ディスプレイ」を提唱することとしたい。

……といっても、今回の事例、筆者宅のことではなく、筆者の友人宅の事例になるのだが(笑)

1.ホームシアターに“直視型ディスプレイ”が注目されているワケ

これまで100インチクラスの大画面環境の構築を考えた場合、投写型ディスプレイのプロジェクターが第一候補に挙がってくるのは、コストパフォーマンスの観点から「自然」かつ「絶対」だったといえる。

以前は、100インチクラスの直視型ディスプレイ製品は、どれも数百万円はあたりまえで、ものによっては4ケタ万円もした。

2007年のCESで発表された、当時世界最大の108型フルHD液晶AQUOS(シャープ)
2010年7月に発売した、世界最大の152型4Kプラズマディスプレイ(パナソニック)
2014年にサムスンが海外で発売した110型民生用4Kテレビ
2020年にシャープが発売した120型8K液晶ディスプレイ。業務用で1,450万円前後

その一方、プロジェクターであれば、リアル4K解像度のビクターやソニーの高画質タイプの反射型液晶(LCOS)プロジェクターでも、中堅クラスは60万円~90万円、多数のメーカーから出ているDLP機ならば、疑似4Kモデルでも30万円台から選び放題である。フルHDモデルならば、その半額以下のレンジだ。数万円程度の100インチクラスのスクリーンをそれらプロジェクターと組み合わせれば、かなりコスパの良い「100インチの4Kホームシアター」を構築できる……とされてきた。

しかしプロジェクターは、投写型ディスプレイという原理上、映像中の黒レベルは部屋の明るさと等しくなってしまう。部屋を暗室状態にしなければ、その投写映像のコントラストはあまり芳しくないものとなる。逆に言えば、明るい部屋では、大画面といえど、画質に妥協しなければならないのである。

筆者のように「ゲームをするときや映画を見るときにしかプロジェクターを使わない」というユーザーであれば、それも大した問題ではないだろうが、「リビングに設置して、昼夜問わずの常用テレビとしても使いたい」ということになれば、プロジェクターのような投写型ディスプレイは前述したような“大きな負い目”を感じつつ使うことになる。

もちろん、環境光除去(Ambient Light Rejection)対応のALR型スクリーンを活用することで、明るい部屋での実用性を劇的に向上させることはできるが、根本的な解決にはならない。絶対的な評価としては、直視型ディスプレイの方が、明るい部屋でも暗い部屋でも安定して高画質が得られるのは間違いはない。

ということで、ホームシアターの本場である北米地域においては、直視型ディスプレイの大画面化のニーズが時を経るごとに高まっていったのだ。

北米AV評論メディア「RTINGS.COM」によれば、2023年度において、北米市場で最も売れているテレビの画面サイズは65型となっており(日本市場では50型台がトップ)、75型のユーザー割合も急成長しているという。

そんな強い大画面ニーズを受け北米では、液晶テレビ(液晶ディスプレイ)であれば、4K解像度機であっても、かなりお安いモノが出始めている。いわゆる“無名メーカー”であれば、いまや98インチの4K機は2,000ドル前後くらいから存在するほどに、低価格化が進んでいる。

ノーブランド品の98インチのスマートテレビ製品の一例。価格は約2,000ドル。なお、100インチ超モデルでも、ノーブランドの安いモノは4,000ドル程度から存在する

歴史的に見て、アメリカの大画面トレンド(というかホームシアターのトレンド)は、日本にやや遅れて波及してくる……わけだが、どうやら昨年あたりから、「ホームシアターに直視型ディスプレイはいかが」的な提案が日本にも現れてきた。

そう、日本市場でも、100インチ前後の直視型の大画面ディスプレイ製品が手に届きそうな価格で姿を現し始めたのだ。

その象徴的な事象は、2023年末に起きた。

なんとレグザ(TVS REGZA)が、2023年12月に、同シリーズ最大サイズの100インチの4KミニLED液晶レグザ「100Z970M」を発売したのだ。価格は2024年8月時点で約110万円。ディスプレイ製品ではなく、4Kチューナーやタイムシフト全録機能までを搭載した「フルスペック・レグザ」で100インチを実現した心意気が凄い。

サプライズ的に発売された100インチレグザ。実勢価格110万円もなかなかいいところを突いている

この動きに呼応するかのように、日本の大手量販店においても「ホームシアタークラスの大画面テレビ」を提案し始めるところが出始めた。

下の写真は、2023年末の秋葉原のヨドバシカメラのテレビ売り場のものだが、「直視型テレビをホームシアターへ」をコンセプトにした100インチ級のテレビの実機展示と関連イベントが行なわれたのだ。

2023年末、秋葉原のヨドバシカメラのテレビ売り場では100インチ級のテレビの実機展示と関連イベントが行なわれた

とはいえ、「実勢110万円はまだちょっと高い」とため息をついたそこの貴方、ちょっと待っていただきたい。

北米市場でコスパ重視のホームシアタークラスの大画面製品を低価格で提供している中華系メーカーが、北米で販売しているそうしたモデルを、昨年くらいから日本市場に投入を開始してきているのだ。

下に示したのは、2024年10月現在、日本市場で買える90インチオーバーの大画面テレビを「価格.COM」で検索した結果である。

2024年10月現在、日本市場で買える90インチオーバーの大画面テレビの一覧
今年10月に発売したばかりの、シャオミの100インチ液晶「Xiaomi TV Max 100 2025」(チューナーレスモデル)は、驚愕の299,800円前後!!

これを見て驚いた方もいることだろう。

北米市場でシェアを拡大している中華系メーカー・TCLの98インチ量子ドット4K液晶テレビ「98C655」は約51万円。ゲオ専売の100インチ4K液晶テレビ「BM-GTV100」に至っては、約44万円で販売されている。

また、レグザの親会社としても知られる中国ハイセンスは今夏、100インチ量子ドット4K液晶テレビ「100U7N」を約80万円で発売した。おそらく、レグザ最大のライバルとなる商品と思われる。

日本メーカー勢の中で、筆者が個人的にピックアップしておきたいのがソニーだ。

ソニーは、民生向けブラビアにおいては100インチ級のモデルはラインナップしていないが、2024年春に、法人向けチューナーレス4Kブラビアの大画面モデルとして、98型「FW-98BZ53L」を発表したのだ。

「FW-98BZ53L」は“NHK御免”のテレビチューナー非搭載仕様でありながら、ソニーが誇る新世代映像エンジン「認知特性プロセッサーXR」を搭載しているため、画質的には民生向けブラビアとほぼ同等。それもあって、日本の直視型ディスプレイ系ホームシアター検討勢からも、ちょっと気に掛けられている製品なのだ。一般量販店での購入はできないが、業務用機器を取り扱う店舗を通せば一般ユーザーでも購入でき、その際の目安となる価格は約145万円だという。

98型4Kブラビア「FW-98BZ53L」

ざっくり「100インチ前後の液晶テレビが50万円から100万円台で買えるようになった」……と言うことはご理解頂けたと思うが、「では有機ELはどうなの?」と思った方も多いかと思う。

前掲の価格.comの結果で気が付いた方もいるだろうが、有機ELテレビには、まだまだお高い300万円以上の値段が付いている。以前のような非現実的な価格ではないものの、液晶機の3倍以上の値段となっているので、ホームシアター機の本命となるにはもう少し時間が掛かりそうである。

LGは2024年の新有機ELテレビ製品にも97インチモデル「OLED97G4PJA」を投入した。実売は350万円。2023年に発売された、同じく97インチで約430万円のワイヤレスモデル「OLED97M3PJA」と比較するとだいぶ価格は下がった……ともいえる

……などと、日々“究極の大画面vs至高の大画面”という脳内バトルで遊んでいたある日、マイホーム完成目前のとある友人から“ホームシアターにまつわる相談”が舞い込んできたのだ。

2.超大型100インチを導入するまでの経緯

相談があった当初、筆者はプロジェクターの設置をアドバイスした。友人からは「比較的明るい照明環境下においても使いたい」という強い要望があったため、近年流行り始めている超短焦点プロジェクターにALR型スクリーンなどを組み合わせたシステムを提案したのだが、ちょうど上で述べてきたような「直視型ディスプレイによるホームシアター構築も近年注目されている」という旨の話をしたところ、友人は俄然こちらに強い興味を示したのだった。

聞けば、友人宅は「設置場所が21畳のリビング(ダイニングキッチン含む)」であり、「暗室状態で映像を楽しむ」だけでなく、「照明下で食事などをしつつ、大画面を楽しみたい」といった要望もあったため、直視型ディスプレイは、まさにこの要件にドンピシャで当てはまったのだ。

さらに、この友人が大のゲーム好きで「ゲームをプレイした時の入力遅延が小さいことが望ましい」という条件も示されたので、低遅延性能に定評がある100インチ液晶レグザの「100Z970M」を提案した。

その後友人は時間を見つけ、上で紹介したヨドバシAkibaの100インチクラスの大画面テレビ実機展示コーナーを見てきたとのことで、その感想は「たしかにレグザは良かった。ただコントラスト感は、レグザの近くに置いてあった、LGの97インチ有機EL『OLED97M3PJA』の方が凄かった」というものであった。

LGの97型有機EL「OLED97M3PJA」(429万円前後、2024年2月発売)

友人は「画面の下には何も置きたくない」そうで、多様なAV機器は部屋の後ろに配置したいとのこと。

確かにそうなると、「OLED97M3PJA」は都合が良い。有機ELディスプレイ部と接続端子部やチューナーを集約したプロセッサチューナーボックスが別体化されており、その両者をワイヤレス接続させることができるので、友人の要望通りの設置レイアウトが可能となる。床にケーブルを這わせない、クリーンなホームシアターの構築を目指している人には、さらに強い魅力を感じさせる製品だ。

だとすると、LGの「OLED97M3PJA」で決まりかな……と筆者は思っていたのだが「やはり、さすがに400万円超は高すぎる」と冷静になり、「100インチクラスはあきらめて77インチから83インチの有機ELにしようかなあ」という弱腰な言葉がこぼれ始めた。そして「ちょっとじっくり考えます」というやりとりの後、しばらく、音沙汰がなくなったのであった。

有機ELテレビも、77インチになると安いモデルは30万円前後から存在するため、100インチ級と比べればお買い得感が高い。「ホームシアターといえば100インチ前後大画面」という呪縛のようなものさえ振りはらうことができれば、実は70インチ台、80インチ台あたりが、コスパ的には最適解に近いのだ。

なお、有機ELテレビが「1インチ1万円以下」のコスパラインが保たれるのは83インチまでで、88インチ以上のモデルは急激に価格が上がる。

LGの83インチ、4K有機ELテレビ「OLED83G4PJA」。実勢価格は86万円前後
G4シリーズよりも、1グレード低い“C4シリーズ”であれば、83型でも実勢67万円前後となる(写真は83型「OLED83C4PJB」)
LGの88インチ、8K有機ELテレビ「OLED88Z3PJA」の実勢価格は340万円前後

友人との最後のやりとりから、少々時間が経ったある日、「結局、100インチのレグザにしました」との返答が。

どうやら結局、「ホームシアターといえば100インチ前後大画面」という魅惑のキーワードからは逃れられず、さらに「高画質」「低遅延」といったレグザの定評に加え、タイムシフト機能などの「テレビとしての本質機能」が充実している部分を評価して「100Z970M」に決めたとのことであった。

まぁ決断の経緯を語る、友人の言葉の端々から「有機ELの未練」は漏れていたので相当に悩んだのだとは思う(笑)。

3.レグザ100インチを壁掛けして気が付いたこと

実際に、新築の友人宅に、レグザ「100Z970M」がやってきたのは2024年春。

その際には、購入先店舗が外注した、大型電機搬入事業を手掛けるユーニック社が、2階のリビングへの搬入、スタンドの組み付けまでを行なってくれたそうだ。

なお、100Z970Mは、梱包状態の総重量が約103kgもあり、梱包箱のサイズは240.2×151.4×29.7cmと巨大であったため、階段からの搬入は困難と判断され、搬入はクレーン車を使って行なわれた。友人から、その様子の写真を頂いたので下に示そう。

クレーン車両に積載された100Z970Mの梱包箱
箱ごと2階に搬入
友人宅は2階に広いベランダがあるので、梱包箱はそこにまず搬入された
開梱される100Z970M。家電の開封風景としては最大級だろう(笑)
ベランダ側でスタンドが組み付けられる
標準付属するスタンドは、画面左右端から42cmほど内側の二箇所に組み付けられる

100Z970Mは、スタンドを組み付けた状態で75.5kg。内訳はディスプレイ部が73.2kg、標準付属のスタンドは2.3kgとなっている。

搬入チームは、クレーンで友人宅の2階ベランダへと運び、そこで開梱。2階ベランダでスタンドを100Z790M本体に組み付けてから、同じフロアのリビングへと搬入したそうだ。

ちなみに、ユーニックのプロ搬入スタッフの二人はスタンド組み付け状態の75.5kgの100Z970Mをリビング室内の設置台にやすやすと運んでいるが、常人には無理なのでマネしない方がいい(笑)。

75kg超の100Z970Mを2人で搬入するスタッフ。力持ちすぎる
友人自作のテレビ台へと設置台される100Z970M。ちなみにこの設置台は壁掛け設置を実践するまでの(仮)のもの

この仮設置後、筆者と本連載の担当編集者の2人で友人宅を実際に訪れ、今回の取材を行なった。

取材をさせてもらえる見返り……と言ってはなんだが、友人と我々来訪者2人の計3人で、100Z970Mを壁掛け設置することを手伝わせてもらうこととなった。

友人が選択した壁掛け設置金具は、メーカー奨励金具として設定されているSANUS製の「LL22-B1」であった。

SANUS製の金具は、筆者も愛好家の一人。筆者がSANUSを使い始めた2000年代初頭は、まだ“コスパ重視の社外品”程度の位置づけだったはずだが、いまや大手メーカー製機器の奨励品金具になっているとは驚きである。

ちなみに、筆者所有のプロジェクター「DLA-V90R」でも、天吊り用金具「VMPR1」を使っている。

SANUS製「LL22-B1」のベース金具部分。当然壁側には補強が入っている
テレビ背面。壁掛け金具を取り付ける前の状態
テレビ側に組み付けられた壁掛け金具。VESAマウントとしては、「600×400」サイズになる

LL22-B1のベース金具は既に友人が壁側に設置済みだったので、我々は壁掛け金具本体を100Z970Mへ組み付けて、これをベース金具に引っ掛けて固定をするまでを行なった。

壁掛け時はスタンド部は不要となるので、まずこれを取り外す。取り外してもディスプレイ部だけで約73kgの100Z970Mを、ベース金具に持ち上げる際は、かなり大変だった。

結果から報告すると、なんとか我々3人のアマチュアでなんとか括り付けることはできたが、少なくともアマチュア2人で作業するのは「絶対に無理だ」ということは確信できた。

100インチの大画面がでかすぎるあまり、壁側のベース金具のどこに、テレビ側の壁掛け金具のどこをどう引っ掛けていいかの目測が、100Z970Mを抱えている3人、当人達の視界からは困難なのだ。要は“見えない”のである。接近する金具同士を監視して、テレビ本体を持っている人らに、テレビの移動方向の微調整をガイドする「指示役」が必要だと強く感じた(笑)。

3人だと、「金具の引っ掛け」作業自体がスピーディに行ないづらく、「金具同士の接近」の目測に時間が掛かかるので、結果、100Z970Mを抱えている握力と腕力が力尽き、何度か100Z970Mを床置きして「組み付け方の方針の再検討」を行なったりもした。今回、そうした“力尽きる”事態を想定して、床には、緩衝材として布団を敷いておいたり、積み上げた雑誌類を配置しておいたのは正解であった。

なお、今回、100Z970Mを壁に組み付けている様子は、撮影できていない。

というのも、その場にいた全員が100Z970Mを抱えており、ほかに撮影要員がいなかったからである(笑)。

壁掛け設置状態はこんな感じ。金具側によって約40mm、本体の厚みで約90mmあるので、映像表示メカの壁からの突出は約13cmといったところ

さて、壁掛け設置が完了して一段落して、「ああ大変だった」とため息をついてから間もなく、少し面倒なことに気が付く。

SANUSの壁掛け金具は、その特徴として非常に薄く作られている関係で、壁面からの突出量がわずか38mmに抑えられている。せっかく壁掛け設置をするのだから、壁面にひっついているような感じで設置できるのは素晴らしいことだ。

しかし、ここには落とし穴があった。

壁面からわず38mmの隙間に、我々人間の手が入るかといえば、「ギリギリ入るか入らないか」程度なのだ。実際には、100Z970Mの金具取付面は、ディスプレイ部の後面部から十数mmは盛り上がっているので、隙間は約50mmくらいにはなるのだが、「大人の手が入らない」という点で大した違いはない。

では、設置後の100Z970Mの背面に手が入れられないことで何が問題なのか。それは、HDMIなどの接続ケーブルが挿せないことだ……。

接続端子パネルは、正面向かって右側裏。画面右端から内側40cm付近にある

100Z970Mの接続端子パネルは、画面正面向かって左側背面にあるのだが、画面が大きいせいもあって、これが、画面端から40cm近く画面中央側(内側)に存在するのだ。つまり、HDMIケーブルを挿すには約50mmの隙間に手を40cm近く突っ込んで挿さなければならないのである。これは不可能だ。

この事実に気が付いたと同時に、もう一つ重大なことに気が付く。ああ、電源ケーブルの差し込み口も、左右逆の、画面端から30cmほど離れたところにあるではないか。

電源端子。正面向かって左側裏。画面左端から内側30cm付近にある

もう一度、100Z970Mを床に降ろし、配線してからまた上げなければならないのか……と、軽く絶望しそうになったが、焦ることなかれ。SANUSの壁掛け金具には、「クイックリリース」機能というものがあり、テレビ側金具とベース金具のロック機構を一時的に外し、テレビ側金具と壁面間の角度を約10度(公称値9.7度)まで傾かせることができるのだ。

たかだか10度とはいえ、電源端子や接続端子パネルは、画面下辺の方にあるため、10度傾かせたときの隙間は20cm近くにはなる。ここまでの隙間ができれば電源ケーブルもHDMIケーブルも容易に……とは言わないまでも、なんとか挿すことはできた。

SANUS製「LL22-B1」の壁掛け金具には、取り付け状態のままディスプレイ部を9.7度開けることができるクイックリリース機能が搭載されている。これはありがたい

……というわけで、なんとかなったのだが、普通のテレビの運用とは違い、接続ケーブルの差し替えのたびに、約73kgのテレビを傾かせて、抜き差しするのは大ごとだ。

約73kgのテレビを傾かせながら、ケーブルの抜き差しするのを一人で行なうのはかなり困難だし、万が一、傾かせすぎれば約73kgのテレビが落下するかもしれない。色んな意味で危険性は高いため、あまり頻繁にやりたい作業ではない。少なくとも小学生以下の子供にこの作業はさせたくはないだろう。

もし、次期モデルがあって、その時も側面に接続端子パネルを配置するのならば、もう少しアクセス性のよい、画面端近くにオフセットしてもらえたら、と思う。

取り付け金具をクイックリリースした状態で、テレビ下から撮影した様子。金具と壁の距離が近く、ケーブルをつなぐのもひと苦労……
狭い隙間にスマホを忍び込ませ、端子の位置を確認。壁設置を行なう際は、インターフェースの位置や接続ケーブルの飛び出し量もしっかり確認しよう

今回活用した、壁面からの突出量を小さく設置できる、メーカー奨励品のSANUSの金具「LL22-B1」は、たしかに設置後の「たたずまい」は、すっきりとしていて美しかった。しかし、現行の100Z970Mの導入を考えている人で、接続端子パネルへのアクセス性を重視したい人は、あえて設置状態で壁面からの突出量の大きい、別の壁掛け金具を選んでもいいかもしれない。

接続端子パネルのクローズアップ。端子群は正面向かって裏側の左端に左向きに列んでいる。HDMI端子は4系統。写真には写っていないが、A/Bの2系統のタイムシフト用のハードディスク接続用USB端子も実装されている。画面が大きいだけでなく、テレビ機能自体は、普通の4Kレグザモデルと全く同等に搭載されている

4.圧倒的大画面! 室内が明るくても暗くても楽しめるのは感動的!!

100Z970Mの映像パネルは、4K(3,840×2,160ピクセル)解像度のVA型液晶パネルを採用している。画面サイズは100インチで、画面寸法としては横220.3×縦123.9cm。ディスプレイ部の寸法は、223.5×50×131.8cm(幅×奥行き×高さ)。一般的な身長の人間であれば、両手を真横に大きく広げても、表示画面の端と端に両手がと辿り着かないサイズ感である。格闘ゲームのキャラを立ち姿で表示すると3歳児くらいのサイズ感はある(笑)

付属リモコンは通常画面サイズのレグザと全く同じものである
メニュー構成も普通のレグザと全く同じ

表示面は、いわゆるセミグレアタイプ。光沢タイプのパネルに低反射コーティングを施したもので、室内情景の写りこみがある程度は低減されている。

表示映像のコントラスト感とフォーカス感を重視すると、いわゆる拡散系のノングレアパネルはテレビ製品には使いにくいので、筆者的には、このセミグレアタイプの表示面は嫌いではない。モニタ的な性質とテレビ的な性質の「いいとこ取り」という見映えとなるからだ。

屋外光を積極的に取り入れた、かなり明るい部屋での「映り込み」はこのくらい
部屋をやや暗めにすると「映り込み」はこのくらい

「VA型液晶パネル」そして「100インチの大画面」ということで、視野角について気になる人も多いことだろう。

これについては、画面の正面範囲内であれば、許容範囲ではある。大きな色調変移は感じられない。しかし、画面の枠から外れて見ると、VA型特有のコントラスト低下と色調変移が感じられるようになる。

100Z970Mが設置された友人宅の21畳のリビング(+ダイニングキッチン)は、画面の正面付近に「ソファとくつろぎ用のローテーブル」があり、「大画面での映像鑑賞」は主にここで行なうことになる。

一方のダイニングテーブルはリビングと同一空間ながらも、画面正面からだいぶ横にずれた箇所にあるため、そこからの視聴となると、前述したようなVA型液晶の弱点が感じられた。まあ、IPS型液晶になったところで、色調変移は抑えられても、斜めから見ればコントラスト低下は避けられない。画面正面から大きくずれて見ることまでを想定すると「液晶」というデバイスはちょっと厳しいということになる。

実は、友人が100Z970Mに決断する前、LGの97型有機ELモデル「OLED97M3PJA」と最後まで悩んだのは、この「斜めから見たときの画質」についてだったそうである。

前述したヨドバシカメラの実機展示スペースで、100Z970MとLGのOLED97M3PJAを念入りに見比べた友人は、その「斜めから見た時の画質の良さ」に感激し、強く有機ELテレビに惹かれたという。結局、「さすがに400万円は厳しい」ということで、100Z970Mに決めた……と言う流れは上でも述べたとおりだ。

取材当時も「100インチ級の有機ELがもう少し安ければなぁ……」とだいぶ悔しがっていた。筆者は「110万円の100Z970Mは正面で大画面を楽しみ、ダイニングテーブルに着席時は、その近くに40インチ台のテレビを設置してはどうか」というアドバイスを送った。

今や43型の4K液晶テレビならばレグザでも最安値で5万円前後、48型の有機ELテレビならばLGで10万円前後だ。TCLやハイセンスなどの中華系ならば、この目安価格からさらに安く導入できるだろう。

壁掛け設置前の状態の100Z970Mで「アーマードコア6」をプレイさせてもらっている様子の写真だが、画面正面からだいぶ外れた斜め視線の撮影だが、それで、このくらいの画質は維持できている
友人はこの写真の奥に見えるダイニングテーブルからみたときの画質を気にされていた。ここまでの「斜め視線」からの視聴だとどんな液晶パネル方式でもつらい。筆者からは別途、中型画面を設置してはどうか、というアドバイスを送らせてもらった

5.100型レグザ「100Z970M」の実力をチェック

ということで、ここからは画面正面エリア内から見たときの画質について言及しよう。

100Z970Mは、ミニLEDバックライトを使っており、そのエリア駆動時のゾーン分割数は非公開ながら「4桁を超えている」「CELLレグザの3倍を超えている」(関係者情報)といった情報もあり、概算で1,500以上はあるだけあって、HDR映像のコントラスト感は良好だった。VA型液晶のネイティブコントラストの高さもあって、局所的な高輝度表現の周囲の暗部の沈み込みも悪くない。

とはいえ、液晶なので、最暗部階調の自然さや、映像中の局所的な漆黒表現については、有機ELには及ばない。一方で、膨大な数のミニLEDが放つバックライトパワーによる、自発光表現やハイライト表現における「HDR感」の満足度は高かった。

ミニLEDだけあって、ユニフォミティ(輝度均一性)も良好だ
完全暗室でなくとも、これだけの漆黒表現ができるのは、液晶とはいえ“直視型ディスプレイ”だからだろう
高輝度表現に強いミニLED液晶ならではの自発光表現。レーザービームや爆炎からは発熱を感じそうなくらいのリアリティを感じられた

発色についても大きな不満はない。

100Z970は、ミニLEDを採用はしているが、ミニLEDはミニLEDでも“青色ミニLED×量子ドット”の組み合わせではなく、白色のミニLEDとなっている。蛍光体は広色域タイプを活用しているので、色再現性は良い。

白色光の光スペクトラムを見ても、赤緑青のスペクトラムはしっかり分離しているし、各スペクトラムピークも鋭い。

赤の発色も良好だ。平常時の大画面☆マニアで活用している、UHD BDソフト『マリアンヌ』の「暗闇の中の偽装ロマンスシーン」においても、人肌が灰色に落ち来まず、どんな明度の肌色からも、ちゃんと自然な「血の気」を感じられていた。

映像モード:標準
映像モード:放送プロ
映像モード:映画プロ
映像モード:ゲーム

ゲーミング性能については、いつものように、「4K Lag Tester」(Leo Bodnar Electronics)を用いて計測。計測結果は以下の通り。

【遅延測定の結果】
4K/60Hz     12.3ms
1080p/120Hz   3.5ms

計測機器の関係で、120HzはフルHD(1080p)で計測しているが、基本的に4K/120Hzでも同じ計測値となるはずである。

100Z970Mは、120Hz倍速駆動パネルを採用しているため、その表示メカニズムの都合上、リフレッシュレート60Hz時はどうしても約8.3msの遅延が避けられない。ゲーミングモニターとは異なり、テレビの液晶パネルはリフレッシュレートがパネルごとに固定されてしまっているため、このような特性がある。

そして、前述の測定値12.3msから8.3msを差っ引いた「4ms」の遅延が映像エンジン内の遅延、ということになる。なお、リフレッシュレート120Hz時は、8.3msの固定遅延がなくなるため、計測値の3.5msは、ほぼ映像エンジン側の遅延だけとなる。ゲームをプレイする際には、ゲームのフレームレートが60fpsであっても、できるだけ120Hzで利用すべきだ。

120Hz時の遅延量はゲーミングモニター製品と同等であり、一般的なプロジェクター製品を遙かに凌駕する低遅延が実現できているのが分かる。筆者のようなゲーム好きは、この「プロジェクターではあり得ない低遅延性能」だけでも、大きな魅力を感じることだろう。

入力遅延の測定風景

最近やりこんでいるゲーム「アーマードコア6」のPC版をプレイさせてもらった。その様子が下記の動画になるが、結論から言って“最高”であった。けっこう明るい室内で、かなりの低遅延での100インチによる大画面ゲーミングは楽し過ぎた。

100万円で100インチのレグザ「100Z970M」で「アーマードコア6」をプレイしてみた。ホームシアターはプロジェクターから直視型ディスプレイの時代へ向かうのか

「液晶だから黒浮きが……」と、上ではそう言ったが、明るい室内で、この暗部の沈み込みは、とてもプロジェクターでは絶対に実現できない。これは“直視型ディスプレイだからこそ”のコントラスト感なのだ。

100インチ大画面を明るい部屋で高画質に味わえる……これこそが、100Z970Mに代表される「100インチクラスの直視型ディスプレイ・ホームシアターの最大の魅力」なのだと思う。

100インチの大画面による、低遅延ゲーミングが楽しめる時代が来るとは!

6.ホームシアター向け大画面映像機器の本命はどれか

今回、100インチ級の直視型ディスプレイで構築したホームシアターを、壁掛け設置から体験させてもらったワケだが、結論としては「素晴らしいものであった」と言い切れる。
何年後になるか全く分からないが、筆者宅のホームシアターにおいて、機材の買い換えをするとすれば、今回のような100インチ級の直視型ディスプレイへの移行を真剣に考えるかもしれない。

ただ、現在……2024年10月時点において、暗室状態での映像視聴体験としては、筆者が愛用しているビクター「DLA-V90R」による投写映像の方がまだまだ美しいと感じている。

同時に見比べていないので、筆者主観での評価となるが、暗室状態でのDLA-V90Rと100Z970Mの映像を見比べた場合、発色についてはほぼ互角という感じという印象だ。しかし、黒の締まりや暗部階調については、(投写型ディスプレイにもかかわらず)DLA-V90Rの方がかなり上だと感じる。それくらい、最新のハイエンドクラスのLCOSプロジェクターのコントラスト表現は優秀なのである。

しかし、この「黒の締まりや暗部階調」も、昨今の“進化速度の速い有機ELテレビ”と比べると、もうDLA-V90Rでも叶わないのかも……とは思っている。最近の有機ELテレビの最新モデルは、それくらい美しくなってきている。

本連載の前回でも記したように、直視型の本命とされてきた「マイクロLEDディスプレイ」だが、「100インチ級サイズが100万円になる」のは短期的にはほぼ絶望的な状況だ。

その意味では、「ホームシアター向けの100インチ級大画面機器」の本命が直視型ディスプレイに本格移行するのは、「100インチ級の有機ELテレビが100万円以下になったタイミング」なのかなあ……と思い始めている。

もちろん、有機ELには「焼き付きによる経年劣化」や「有機EL画素の発光寿命が短い」(液晶用のLED系バックライトの半分程度)といった問題はあるわけだが……。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
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