西川善司の大画面☆マニア

第289回

よく出来すぎだろビクタープロジェクタ「Z5」。120Hz/3D不要なら間違いなく買いだ!

序文:西川善司のプロジェクタ変遷史

今回取り上げる製品は、ビクタープロジェクタ「DLA-Z5」

今回のオープニングは、少し昔話から始めることとしたい。

筆者のホームシアター構築歴、そしてプロジェクタ歴は1990年代まで遡る。そのプロジェクタ歴の9割が反射型液晶(LCOS)機だ。

筆者が最初に購入したLOCS機はビクターのD-ILAパネルを採用した「DLA-G10」(1998年発売)だった。そう、量産型LOCS機としては事実上の業界初となるモデルで、業務用モデルだった。

日本ビクターのD-ILAプロジェクター「DLA-G10」のカタログより。価格は168万円

DLA-G10(以下G10)は、高級なキセノンランプ光源(光源ランプだけで10万円)を採用していたこともあって、当時の価格は168万円(税別)だった。

HDMI端子がまだ無い時代で、ホームシアター向けプロジェクタといえば高級機で640×480ピクセル解像度が主流。PCモニターでも1,600×1,200ピクセル解像度がハイエンド機の時代に、G10は1,280×1,024ピクセル解像度のLCOSパネルを採用していた。

もちろん、アスペクト比は4:3。G10は業務用モデルで一般家電店では購入できなかったので、入手には苦労した。

しかし、D-ILAパネルの歩留まりは悪く、筆者宅にやってきたG10は、しばらく使っていると表示がおかしくなるトラブルが続き、1年以内に2回も交換する羽目になった。大画面☆マニアの連載開始前どころか、AV Watch誕生前の話である。

筆者は、G10のランプを2回交換して運用したあとは、2003年に、東芝から発売された720p解像度のDLP機「TDP-MT8J」を導入した。ホームシアター向けでは、フルHD解像度のプロジェクタがまだ雲のうえの存在の時代だった。

そんな2003年、ソニーがフルHD解像度の独自LCOSパネル「SXRD」を発表。これを採用したプロジェクタ「QUALIA 004」(240万円)を発売した。

その後のソニーのSXRD開発ペースは凄まじく、5年後の2008年に発売されたフルHD解像度のLCOS機「VPL-HW10」は。実売25万円という低価格を実現。“LCOSプロジェクタの価格破壊”ともてはやされた。

以降、LCOSプロジェクタ製品では、ソニーのSXRDとビクターのD-ILAとで激しい開発競争が展開される。

筆者はと言えば、ソニーのSXRDの勢いを感じたこともあって、2007年にソニーのSXRD機の下位モデル「VPL-VW60」を導入。これが筆者にとっての最初のフルHD機であると同時に、最初のSXRD機となった。

その後、2009年にビクターのD-ILA下位モデル「DLA-HD350」を導入して、ビクター機へと舞い戻る。

2010年以降、ホームシアター界隈は3D立体視ブームに突入。筆者は2012年にソニーのSXRD下位モデル「VPL-HW50ES」を導入し、ソニーのSXRD機に再び帰還する。

2015年以降、今度は4Kブームがやって来る。2018年に、人生初の4K機となる、ソニーのSXRD上位モデル「VPL-VW745」を導入した。G10以来の“ハイエンドLCOS機”の導入に筆者は大興奮。そして、自分史上、最初の「ソニーSXRD機→ソニーSXRD機」となった(笑)。

その後、ソニーは4K画質の洗練化に集中し、ビクターは疑似8K技術の導入へと進む。そして両LCOS機は光源のレーザー化へと邁進していく。

筆者は2022年、ビクターの疑似8K(リアル4K解像度)のD-ILA上位モデル「DLA-V90R」(2021年発売)を導入。当時、ソニーとビクターから出ていたモデルを比較し、その総合的な評価結果を踏まえ、自身の好みのモデルを選んだ。なお、詳しい理由は2023年のプレイバックに記している。

かくして、再びビクターのD-ILA機に戻ってきたわけだ。

さて2024年、ビクターは、約3年ぶりにD-ILAパネル採用の新プロジェクタ製品を発表した。

ラインナップは上位機の「DLA-V900R」(297万円)と「DLA-V800R」(165万円)を2024年半ばに先行して発売。下位機の「DLA-Z7」(110万円)と「DLA-Z5」(88万円)は2024年末に発売された。

型番的には、最上位のDLA-V900Rが筆者の所有するDLA-V90Rの後継機となりそうだが、今回は、あえて最もエントリークラスの「Z5」の貸し出しを依頼した。

なぜ、エントリークラスなのか?

それは、最下位機であるZ5が、筆者が普段から見慣れている先代ハイエンドV90Rの画質にどれくらい迫れているのか?を確認したくなったからだ。決して、V900Rを評価したら、買い替えたくなってしまって大変そうだから……ということではない(笑)。

そうそう。今回取り上げるビクターのZ5は、先んじて発売されているソニー「VPL-XW5000」(約88万円)と製品コンセプトと価格がとても近い。両者でどちらか迷っている方も多いと思うので、そのあたりも意識してレポートする。

外観と設置性:体積・重量が大幅減。電動レンズとレンズメモリーも死守

ビクターによれば、本機Z5と上位Z7は、「ネイティブ4Kパネルを採用したプロジェクターとしては世界最小」とアピールされている。

筆者が所有しているV90Rや、現行のV900R/V800Rの外形寸法500×528×234mm(幅×奥行き×高さ)と比較すると、Z5は450×479×181mm(同)であり、体積比にして37%の削減が行なわれている。

重量もV900Rが25.3㎏、V800Rが23.1㎏なのに対し、Z5/Z7は15kg未満に抑えられている。10kg近い減量は、天吊り設置の条件緩和になるし、オンシェルフ(≒疑似天吊り)設置時の棚天板への負荷軽減にもなる。テーブルトップ設置においても、収納や移動がやりやすくなるはずだ。

今回の評価では、筆者宅の二階に運んでの設置となったが、階上への運搬やオンシェフル設置も、男性の大人1名で行なうことが出来た。

「ネイティブ4Kパネルを採用したプロジェクターとしては世界最小」とアピールされているDLA-Z5
全長方向に長い本体デザイン

さて、4Kネイティブ機のコンパクトモデルといえば、ソニーのXW5000がある。

こちらは、460×472×200mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約13kg。体積比はZ5/Z7の方が約10%ほどコンパクトだが、重量はXW5000が約2㎏軽い。しかし、XW5000はレンズ制御が手動だ。電動モータの有無の差だけではないとは思うが、ユーザーとしてはこの差が現れているような印象を受けるかもしれない。

脚部に関しては、Z5/Z7は、4脚全てがネジ式の高さ調整に対応する。調整範囲は最大10mm。これはオンシェルフ式やテーブルトップ式の設置にありがたい。なおXW5000は、前方はネジ式だが、後方脚部は固定式のゴム足だ。

左右脚部の距離は337mm、前後脚部の距離は290mm。オンシェルフ式、テーブルトップ式で設置する際には、この範囲に載せることができる台があればOKということになる
脚部は、4つ全てがネジ式で高さ調整に対応する

天吊り金具は、純正品としては従来と同じ「EF-HT13」(57,200円)が利用可能。なお、底面のやや中央寄りにも複数のネジ穴が切られているので、汎用の天吊り金具を利用する場合には、これらの穴を利用するといい。

エアフローは前面吸気、背面排気。現在、流行のエアフローデザインだ。背面側の奨励クリアランスは5cmと設定されている。

前モデルから吸排気が変更された
後面ファンは排気用

投写レンズは1.6倍電動ズーム・フォーカスに対応。100インチ(16:9)の投写距離は最短で2.98m、最長で4.79mとなっている。ちなみに、XW5000は、最短約3.06m、最長約4.89mなのでほぼ同等だ。

Z5/Z7は、レンズシフトが上下±70%、左右±28%で電動制御が可能。VPL-XW5000は手動ではあるが上下±71%、左右±25%のシフトに対応する。

投写レンズは本体中央に。前面ファンは吸気用

こうして見てくると、Z5/Z7はXW5000の設置スペックに拮抗している。これを電動で行なえるのがZ5/Z7、行なえないのがXW5000となる。ここの使い勝手をどの程度、重視するかが、選択のポイントの一つになってくるだろう。

またZ5/Z7は、電動レンズ制御を搭載していることでレンズメモリー機能が利用できる。これは映画ファンにはたまらない、プロジェクターならではの機能だ。

Z5/Z7は、パネル解像度が一般的な3,840×2,160ピクセルではなく、アスペクト比17:9の4,096×2,160ピクセルなので、アスペクト比17:9のスクリーンを用意して、レンズメモリー機能を活用すれば、一般的な16:9映像と2.35:1のシネスコ映像をそれぞれ、より大きな画面で、楽しむことができる。

リモコンでレンズを電動調整できる。フォーカス、ズーム、シフト状態を最大5つまで記憶・呼び出せるレンズメモリー機能も備える

2.35:1の映像については、17:9スクリーンの横幅いっぱいに拡大投写されるよう、レンスズームで拡大投影。その後、レンズシフトで上下シフト、ユーザーの着座位置からよく見える位置に高さを設定。最後にフォーカスについても微調整し、これをレンズメモリーに登録するといい。

4,096×2,160ピクセルパネルの横幅に合わせて表示する、アスペクト比設定の「ズーム」(FILMMAKERモードでは設定変更不可)を活用すれば、2.35:1アスペクト比の映画コンテンツを超解像処理付きで4,096×1,742ピクセルで表示させた上で、上記設定で拡大表示を行なうのもアリ。こちらを別のレンズメモリーに登録しておくのもいいだろう。

なお一般的な16:9映像については、全画面が収まるよう、アスペクト比設定を「オート」に設定して、今度は17:9スクリーンの縦方向が収まるようにズーム、シフト、フォーカスを調整してレンズメモリーに登録。こうするとは、左右に小さい黒帯が出るがオーバースキャン無しで映像が楽しめる。

レンズメモリー機能はハイエンド級のホームシアター環境ではもはや必須の機能か

上記で設定したレンズメモリーは「設置設定モード」の「ロード」から随時呼び出すことができる。電動レンズがガーガーと動いて、保存したときのレンズ状態(ズーム/シフト/フォーカス)を復元してくれるのだ。

筆者は、この機能を活用するようになってからは、手動制御レンズのモデルを選べなくなってしまった。なお、Z5のレンズメモリー機能のメモリー数は5個となっている。

設置設定関連は、下位モデルながら、かなり充実しており、アナモフィックレンズに関連する設定も搭載されている。

映像は映像パネルにフル画素表示し、これを光学的にシネスコ投影することができるアナモフィックレンズにも対応

スクリーン設定は、ビクタープロジェクタの伝統的な機能で、著名メーカーのスクリーン材質に合わせて、色温度を微調整してくれるマニアックな機能だ。

筆者宅のスクリーンはKIKUCHI Stylistシリーズ「SE-110HSWAC/K」(黒ボディ/17:9アスペクト)の生地は「ホワイトマットアドバンスキュア」(WAC)なので、[102]と入力。

全機種共通の対応表はこちらに掲載されている。

著名メーカーのスクリーン素材に合わせた色温度調整データが利用できるのはD-ILA機の強みだ

定格消費電力は280W。輝度性能2,000ルーメンクラスの水銀ランプ系プロジェクタとほぼ同等だ。同じ2,000ルーメンであるXW5000の295Wとも近い。

稼働時の騒音は、公称値23dBなっているがこれはレーザー光源の輝度設定を最小に設定したときの値。たしかに、この23dB状態のときは、本体から2mも離れれば、気にならないレベルだ。

レーザー出力を70%くらいにすると、「ああ、稼動中だな」というのが分かるレベルの稼動音になる。最大出力の100%とすると、2m離れてても稼動音が聞こえるくらいにはなる。

レーザー光源の出力は1%段階で0~100%まで調整可能。出力を大きくするほど明るくなるが、冷却ファンの動作音は大きくなり、多少、光源の寿命に影響する

レーザー光源の寿命は公称2万時間。水銀系ランプの10倍の長さに相当する。光源のユーザー交換には対応できないが、毎日、二時間使っても20年は保つ計算なので、寿命を気にして使う必要はないだろう。

接続:HDMI 2.1は32Gbpsまで。ついに3D非対応へ

接続端子パネルは本体後面に配される。

HDMI入力は2系統で、どちらもHDMI 2.1、HDCP 2.3規格に対応するが、HDMIの伝送帯域は32Gbpsまで。リフレッシュレート120Hz(いわゆる120fps)表示には対応していない。入力は受け付けるが、表示は60Hzまでだ。

背面の接続端子

なおXW5000は、フルHD(1,920×1,080ピクセル解像度)で120Hz表示が行なえていた(4Kは不可)。ここはゲーム系ユーザーにとっては残念なポイントとなるかもしれない。

それと、HDMI 2.1の32Gbpsであれば、8K(7,680×4,320ピクセル)/60Hz(24Gbps)入力もできるはず。8K映像を4K(3,840×2,160ピクセル)解像度へダウンスケール(圧縮)表示できれば面白かったのだが、そうした機能はない。

筆者の実験では、PCからの出力で、2,560×1,440ピクセルや4,096×2,160ピクセルの映像は投写できた。またカスタム解像度を定義すれば、3,840×1,080ピクセルの32:9ウルトラワイドの画面も映せることを確認。PCゲーマーは活用すると面白いかもしれない。

アスペクト比32:9のウルトラワイド映像も表示可能だった。映像は映像パネルの上側半分に投写されるが、ウルトラワイドでゲーミングが楽しめる

HDMI以外に装備されている端子は、リモートコントロール用のLAN端子とメンテナンスサービス用のUSB端子の2つのみ。下位モデルということもあってか、ホームシアター設備との連動制御用トリガー端子は省略されている。

それから、3D立体視用のシンクロアダプター端子がなくなってしまったことは記しておかねばなるまい。

筆者のような、たくさんの「ブルーレイ3D」を買い集めた3D立体視ファンにとっては、これはなかなかの衝撃な事実となるであろう。ちなみに、ソニーXW5000も同様の判断が下されている。

3D非対応の流れは、ブルーレイ3Dの発売が減少しているので致し方なし……といったところか。

しかし、ビクター機においては、現行の上位機V900R/V800Rで3D立体視用のシンクロアダプター端子が残されている。筆者のような3D立体視ファンは上位機を選ぶしかない。

余談となるが、最近は、RF式(Bluetooth接続)の3Dメガネが品不足となっており、特に、ビクター純正の3Dメガネ「PK-AG3」は慢性的な品切れが続いている。

とはいえ、「フルHD 3Dグラス・イニシアチブ規格」対応の3Dメガネであれば、DLA-Vシリーズでも使えるので、3D立体視ファンは今のうちに3Dメガネの確保に乗りだした方が良い。

筆者が先日調査した範囲では、ソニー用のプロジェクタ向け3Dメガネ「TDG-BT500A」がフルHD 3Dグラス・イニシアチブ対応であり、いまだ入手可能となっていた。筆者のV90Rでも使えることを確認している。まぁZ5/Z7には全く関係ない情報だが、参考まで。

操作:実はリモコンが微改良!? 電源ONとOKボタンに突起が付いた

筐体デザインが一新された一方、リモコンのデザインは据え置き。筆者のV90Rのリモコンと見比べたところ、本体形状、そしてボタンのラインナップも全く同じであった。

しかし。V90Rのリモコンと、よ~く見比べてみたら、僅かな相違点を発見した。それは、電源[ON]ボタンと[OK]ボタンに小さな突起が付けられたところだ。

これ、筆者が本連載のV90R編で提案した「リモコンの使い勝手向上案」をもしかして検討してくれたのだろうか(笑)。

リモコンのデザインは従来機と同じ。しかし、微妙な相違点もあり!?

筆者もV90Rで常用しているわけだが、暗がりで使っていると、[OK]ボタンの位置を見失いがちとなるのだ。これを改善するために[OK]ボタンに突起が付けられたのだろう。

ただ、依然と、暗がりでの使用においては誤操作が起きがちである。指が、方向ボタンのところに伸びきっていないのに、方向入力ボタンを押していると思い込んで、[OK]ボタンの方を押してしまいがちなのだ。

[OK]ボタンには突起が新設され、指タッチでそれと分かるようになったが、[OK]ボタンと周囲の方向入力ボタンの段差が感じられない。このリモコンの製造精度か、あるいは組立精度が高すぎるのか、見事なまでにボタン同士の境目をフラットにし過ぎたがゆえの問題なのかもしれない(笑)。

できれば、[OK]ボタンを一段低くするか、[LIGHT]ボタンのように逆に少し突起させるか……いずれにせよ、微段差が欲しい。まあ[▲]ボタンの方にも突起を付けてくれてもいいと思うが。

なお、電源投入後に、HDMI入力の映像が表示されるまでには、約31秒かかった。レーザー光源機だが、起動時間は、早めに起動する超高圧水銀ランプ採用機とほぼ同等。もうすこし早くなるといいのだが。

HDMI 1→HDMI 2の切り換え所要時間は、実測で約2.0秒とまずまずの速さ。いずれも、V90Rから微妙に高速化されているようだ。

メニュー1:D-ILA機の主要機能おさらいと使いこなし方法

メニュー設計は、以前のモデルから大幅に変更された。

増えすぎたメニュー階層とメニュー項目が整理され、画質関連設定を行なう「画像設定」、HDMI関連の機能設定を入力系統別に行なう「HDMI設定」、そしてレンズやスクリーン、システム周りの設定を行なう「設置設定」の3大カテゴリにまとめられた。

設置設定
HDMI設定。「映像タイプ」はココに移動された
画像設定

電源を切って再稼働したあとに、リモコンの[MENU]ボタンを押すと、最後に活用したカテゴリメニューが出現する。

設置して間もないときは、「HDMI設定」「設置設定」の方をメインに活用することになると思うので、このメニュー再編は理に叶っていると感じる。

画質調整中心の「画像設定」メニューも、従来機から少し整理されている。久々にビクターのD-ILA機を紹介するタイミングでもあるので、ざっくりと機能紹介をしておこう。

従来モデルでは「映像タイプ」という設定メニューが設けられていて、映像信号種別を手動設定することができたが、これが「HDMI設定」の方に移動した。ビクター機の初心者からすると、「画質モード」「カラープロフィル」「トーンマップ」の設定と何が違うのか、分かり難かったので納得のメニュー整理だ。

「画質モード」は、いわゆる、メーカーが用意してくれた、プリセット画調モードに相当するものだ。

SDR映像表示には「ナチュラル」「シネマ」「ビビッド」「FILMMAKER MODE」が選択できる。HDR映像表示時では「Frame Adapt HDR1」「Frame Adapt HDR2」「FILMMAKER MODE」が選択可能。また、SDR映像、HDR映像、それぞれに対し、ユーザーが調整した画調を保存しておけるユーザーメモリーが「SDR1」「SDR2」「HDR1」「HDR2」として用意されている。

画質モード。「HDR1」「HDR2」で表されるユーザーメモリー機能は、全入力系統で共有されている管理方式となっていた

「Frame Adapt HDR」モードについても復習しておきたい。

この機能は、平易にいえば、入力されたHDR10映像をZ5の表示能力に最適化して表示するモード、ということになる。これだとあっさりし過ぎてなんだかわからないと思われるので、もう少し深く解説する。

HDR10映像には、映像の素性スペックを表すメタデータが仕込まれているが、この信憑性がない……というか、適当であてにならない、というのは有名な話。だから、これを厳密に規定した「HDR10+」や「Dolby Vision」が後発で出てきたわけだ。

しかしHDR10映像は、表示段階では、画面内の全ての各ピクセルは、規格上の最大1万nitにおけるリニア空間上の絶対輝度値にデコードされている。

このため、映像機器のエンジン側で、自身の表示能力(輝度再現力・階調表現力・色再現能力)の範囲内で、理屈上は、1フレームごとに最適な表示が行なえるはずなのだ。この理屈を元に、HDR10映像の表示を、HDR10+レベル、Dolby Visionレベルの、フレーム単位のトーンマッピング最適化を行なおうというのが「Frame Adapt HDR」モードになる。

「Frame Adapt HDR」のイメージ
HDR10映像に対し、HDR10+レベル、Dolby Visionレベルの、フレーム単位のトーンマッピング最適化を行なおうとするビクター独自の「Frame Adapt HDR」モード

「Frame Adapt HDR1」と「Frame Adapt HDR2」が用意されているが、その具体的な挙動の違いは、取扱説明書にも詳しくは説明されていない。筆者が見比べた感じでは、「1」の方が暗部階調重視で、「2」の方が明部階調重視、というチューニング傾向だと感じた。

以下に、「EOTF」(Electro-Optical Transfer Function)を実測して見たのが、下のグラフになる。

測定はスクリーンから40cmほど離れた場所から計測器をスクリーンに向けて測定したものなので、測定の数値は自体は参考程度にしかならないが、それぞれの画質モードのカーブ特性は参考になるだろう。

Frame Adapt HDR1は、漆黒から暗部階調のリニアリティを重視しているのが見て取れる。代わりに最明部はその飽和が唐突だ。

一方、Frame Adapt HDR2は、最明部の階調を少しでも表現したいという思惑が見える。

FILMMAKER MODEは、Frame Adapt HDR2とほぼ同じカーブ特性。最暗部で光源や絞りをいじっていない傾向が見て取れる。

Frame Adapt HDR1
Frame Adapt HDR2
FILMMAKER MODE

「HDR設定」は、従来機でいえば「HDR Processing」設定に相当するもので、HDR映像表示に関して、より細かい設定が可能だ。

階層下には、従来機と同じ「HDR Processing」設定が存在しており、ここではHDR映像に対する動的なコントラスト制御や階調制御をどのように行なうかを選べる。

「フレーム」「シーン」「固定」から選択でき、「フレーム」は1フレーム単位、「シーン」はある一定の範囲で行なう。対して「固定」は、動的なディスプレイマッピング(トーンマッピング)を行なわず、コンテンツ側のメタ情報を信用した固定制御になる。

「フレーム」は明暗が目まぐるしく変化する可能性もあるが、ゲーム、アクション映画などとの相性は良い。「シーン」は落ち着いた明暗特性となるので一般的なコンテンツはこちらが適している。

「HDR設定」は、HDR映像表示の際のトーンマッピング挙動をカスタマイズする設定メニュー
「HDR Level」設定は、入力映像の最大輝度に応じたトーンマッピング挙動を調整するもの

「HDR Level」設定はとてもユニークな設定項目で、コントラストと階調のバランスを微調整するものになる。

「オート(ノーマル)」「オート(ワイド)」設定は、コンテンツ側のメタデータを元にする制御となるが、後者のワイドの方は中間階調に大きな輝度エネルギーを割くことで、明るめの映像になる。最明部や最暗部の階調よりは、コントラスト感を重視した画調だ。

-2/-1/0/+1/+2のレベル調整ができるが、それぞれ最大輝度が「600nit/400nit/300nit/200nit/150nit」に最適化した設定とのこと。だとしたら、設定項目名をそうするか、ヒントめいた情報がメニュー内に欲しい。ただ、使ってみた感じでは「オート(ノーマル)」が優秀だったので、普段はいじる必要はない項目かもしれない。

「Deep Black」では、「オン」時に暗部階調の出し方をカスタマイズできる
Deep Black Tone Controlのイメージ

「Deep Black」は、「オン」時に暗部階調をより沈み込ませる調整を入れるもの。暗い映像においても、ややコントラスト感が強まるので、好みに応じて使っても良いかもしれない。

「MPC」は超解像処理に関連した設定

「MPC」は「Multiple Pixel Control」の略で、要するに超解像処理だ。

階層下の「グラフィックモード」設定は、MPCの動作具合を選択する項目。従来機は「スタンダード/ハイレゾ1/ハイレゾ2」というわかりにくい設定項目が列んでいたが、これが「オフ/弱/強」の3段階設定になった。「オフ」は超解像処理なし、「弱」は4Kコンテンツ向け、「強」はフルHDコンテンツ向けとのこと。これも、そういう項目名にしてほしい(笑)。

MPC設定では、微細なディテールの陰影強調度合いを調整できる「エンハンス」設定、マッハバンド(擬似輪郭)を低減させる「スムージング」設定も用意されている。

「Clear Motion Drive」(CMD)設定は、いわゆる黒挿入による残像低減機能だ。「オフ/弱/強」が選択できるか、弱よりも強の方が黒挿入時間が長くなるため、残像低減効果は向上するが、その分、表示は暗くなる。

なお、本機には、補間フレーム生成による倍速駆動機能はない。

「ダイナミックコントロール」は、映像の平均輝度に応じて、レーザー光源の輝度の上げ下げをどの程度行なうかを決めるもの

上でも述べているが「LDパワー」設定は、レーザー光源の出力設定の度合いを設定するもので「0~100」が設定できる。値を上げれば上げるほど輝度は上がるが、冷却ファンの騒音が増す。

「ダイナミックコントロール」は、表示映像のピーク輝度や平均輝度、暗部階調の総面積などの情報に配慮してリアルタイムにレーザー光源の輝度を変化させるもので、「弱/強/バランス」が選べる。

「弱」と「強」の違いは、「強」の方が明暗制御を大きく行なう。「バランス」設定が推奨されるようだが、もともとD-ILAパネルは黒の締まりが優秀なので、筆者は「オフ」でも不満はなかった。

「アパーチャー」は、機械式絞りをコントロールする項目

「アパーチャー」は、機械式絞り機構の“絞り具合”を設定するもの。「-15~0」が選べ、「-15」設定が最大絞り状態に当たる。

輝度調整が高速なレーザー光源では絞り機構が不要、という意見もある。しかし、レーザー光源に限らず、水銀ランプやキセノンランプでもそうなのだが、光源を低輝度で光らせると発色が悪くなる傾向にある。

なので、レーザー光源自体は、ある程度の輝度で光らせつつ、絞り機構で輝度を減退させようとするのが、この機能だ。暗いシーンで色味の不自然さを感じたら、LDパワーを上げて、アパーチャーを絞る調整を行なうとよいかもしれない。

メニュー2:画素調整はマスト。リモコンのショートカット登録は改善求む

「HDMI設定」は入力系統ごとに個別設定できる

「HDMI設定」は、本機に入力されたHDMI映像信号の取り扱いを設定するところだ。

「入力」は、いわゆるHDMI階調レベルの設定で、0-255や16-235が選べる。「カラースペース」は、色差信号のYUV444形式、YUV422形式、RGB形式が選択可能だ。

「自動画質モード」設定は、HDMI入力系統ごとに、特定の映像信号形式が入力されたときに、どの画質モードを自動選択させるかを設定するもの。例えば、HDR10映像が入力されたときには、「HDMI1では必ず『Frame Adapt HDR2』を自動選択する」といった動作を定義できる、かなりマニアックな設定。通常は「以前の設定を再度選択する」に相当する「ラストメモリー」設定でいい。

「自動画質モード」設定は、HDMI入力系統毎の映像信号別にどの画質モードを選択するかをカスタマイズできる

「映像タイプ」設定は、通常は「オート」設定にしたままで何の問題もない。なので、ここは「オート」設定が効かない、古い機器などを接続して表示がおかしいときに手動設定するためのもの、という理解で良い。

「HDMIフォーマット設定」も同様だ。通常は「標準」でよいが、HDR映像入力時に表示がおかしくなる時に「オプション1」「オプション2」を試してみよう、という設定項目になる。

「設置設定」の3大カテゴリの3つ目「設置設定」は、本機を導入した直後には高頻度でお世話になりそうな、設置に関わる細かな設定メニューがまとめられている。

分かりやすいところでは、「天吊りか、台置きか」「フロント投影か、リア投影か」といった、スクリーンと本体の関係性の設置、前述したアナモフィックレンズ関連設定やスクリーン色温度設定、そしてレンズメモリー関連設定などがある。

パネル貼り付け精度の個体差や、光学系な特性から生じる色収差などの原因によって生じる画素の色ズレを補正する「画素調整」もここで行なえる。画素調整は、全体調整だけでなく、ハイエンド機と同等の「ゾーン」単位調整もできるのがありがたい。

なお、「画像設定」の方にありそうな「アスペクト」設定が、設置設定にある点は留意されたし。

「画素調整」は絶対に行なうべき調整項目
写真左が「画素調整」オフ。右が「画素調整」オン。色収差による色ズレをここまで減らすことができる

さて、本機のリモコンには、その時点で開いているメニュー項目を「お気に入り設定項目」としてリモコンの「Advanced Menu」ボタンに割り当てる機能がある。便利な機能ではあるが、ここにも改善を望みたい点がある。

それは、カーソル位置も記憶してほしい点。例えば「アスペクト」調整をショートカット登録したくても、登録して呼び出せるのは「アスペクト」設定が含まれる「設置設定」ページのタブが開かれるだけだ。

アスペクト変更を行なうためには方向ボタンを押して、「アスペクト」の所までカーソルを移動させなければならない。これでは、なんのためのショートカット登録なのかわからない。ショートカットで呼び出したら「アスペクト」設定のところにカーソルが当てられる状態で呼び出せるようにしてほしい。

画質検証1:LCOSパネルが高画質な理由

画質チェックの前に、Leo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用い、入力遅延を計測してみた。なおV800R/V900Rには「低遅延モード」があるが、Z5/Z7にはない。

テスト信号は3,840×2,160ピクセルの60Hzで、その計測結果は、画質モードと解像度によらず34msであった。60fps換算で約2フレームの遅延ということになる。eスポーツ系のゲームでなければ、それなりにプレイできそうな遅延だ。

筆者が調査した範囲では、「Clear Motion Drive」(CMD)設定によって、遅延が増大する傾向にあり、「CMD:弱」で37.7ms、「CMD:強」で41.9msとなった。CMD有効時は残像低減効果はあるものの、遅延は増大してしまうようだ。ちなみに、前出の34msは「CMD:オフ」時の測定結果である。

映像パネルは、DCI 4K解像度である4,096×2,160ピクセルの0.69型D-ILAパネル。これを3枚活用して、赤緑青(RGB)の各単色成分の映像をそれぞれのD-ILAパネルで表示。これらをプリズムで合成させて、時間的、空間的にもフルカラー表現となった映像を投写する方式だ。

D-ILAパネル
RGBの映像をプリズムで合成させて、フルカラー映像を投写する

ちなみに、最近流行の超短焦点タイプのプロジェクタは、そのほとんどが単板式DLP方式だ。

DLP方式は、赤緑青(RGB)の各単色成分の映像を時分割投写しているため、この映像を見る人間の脳側でフルカラー映像として知覚される。映像中の動体を目で追うと、その軌跡に虹色のカラーブレーキング現象が知覚されるのは、時間方向にRGBの単色映像が分離して見えてしまうことに起因する。

3板式のLCOSプロジェクタは、単板式DLPプロジェクタのような時間方向の色ズレ(カラーブレーキング)現象が原理的に起こりえないので、動体表現においても、安定した見映えとなる。

そういえば、今回の大画面☆マニアは、久々のLCOSプロジェクタ編ということで、LCOSプロジェクタの原理について軽く振り返っておこう。

反射型液晶素子LCOS(D-ILA含む)の構造図解

LCOSパネルのプロジェクタは、透過した光を投写する“透過型”液晶パネルのプロジェクタと違い、液晶画素からの反射光を利用する。つまり、透過型液晶パネルのような「どれくらい光を通すか?」的な理屈での画素開口率の勝負を始めからしていない。

LCOSパネルは、液晶画素の区切り線以外の全てが画素表示に相当するため、画素面積がとても広い。開口率で言うと、透過型液晶パネルの約二倍に相当する90%以上だ。これにより、明るい画素をとても明るく表示できる。

暗部の表現力も、DLPに優るとも劣らぬほどLCOSパネルは優秀だ。その理由は、LCOSパネルでは反射光を投写すること、そしてPBS(偏光ビームスプリッター:Polarizing Beam Splitter)と液晶層に対して入射光と出射光を総計2回、通す構造に起因している。

ビクターはPBSにワイヤーグリッド偏光板を使っている
ワイヤーグリッド偏光板の拡大写真

LCOSプロジェクタでは、光源からの光をPBSに通すことで、LCOSパネルに照射する光の偏光を揃え、さらに高精度な平行光にしている。この光がLOCSパネルに照射され、LCOSパネル上の各画素は目的の階調を作り出すために液晶分子の配向が制御される。

その際、やってきた光は、各画素の液晶層の液晶分子の旋光性で偏光方向を変えられ、画素の底にある反射板(アルミ膜)で反射してPBS方向に帰って行く。

反射光となった光は、再び液晶層を通り抜けるのだが、その際、再び液晶分子の旋光性の影響を受ける。ここで偏光方向は、さらに“整頓”される。

二度の液晶分子の旋光性によって偏光方向を整頓された出射光。PBSを通過できない光はここでフィルタリングされる。この時、PBSを通った光こそが「表示したい濃淡階調」に相当する。

もちろん、液晶分子を通る過程と、反射板で反射する過程で、幾ばくかの散乱光が発生する。散乱光の一部は、入射光とは推進方向(角度)の違う光となる。PBSは入射時と異なる偏光を通さないし、さらに入射時と異なる角度の光を通さない。

これが、透過型液晶プロジェクタはもちろんのこと、DLPプロジェクタを凌駕する暗部描写力をLCOSプロジェクタが持つ理由だ。

そして、筆者が高画質なホームシアター構築のために、LCOSプロジェクタを率先して選んできたのはこうした特性を高く評価しているからなのであった。

ライバルのDLPプロジェクタについても触れておこう。

DLPプロジェクタは、その構造上、迷光の発生要因を小さくできるが、その映像パネルに相当するDMDチップ上の各画素ミラーが、黒表示(≒反射光を投写方向に向けない)においても、若干の光を反射してしまう。

DMDチップ上の画素ミラーの反射角は、わずか±10度~±20度程度と言われている。反射光を完全に投写軸方向からズラせてはいないし、反射は反復運動で行なっているため、ある程度の黒浮きが避けられない。

またDLPプロジェクタは、その構造上、液晶のような偏光技術を使わないため、投写すべき光と、投写すべきでない光の選別が行なえないことも、暗部の締まりがやや甘くなることの要因になっている。

もちろん、ここに美点もあって、DLPプロジェクタは光源の光の利用率が高い。なので、明部表現の明るさでコントラストを稼ぐのだ。大型サイズのスクリーンを敷設した劇場(シアター)やカンファレンス会場、そして会議室などでDLPプロジェクタが用いられるのはそのためである。

画質検証2:全く不満なし。気に入りすぎて貸出期間延長した

ビクターの現行ラインナップでは、Z7/V800R/V900Rにおいて第3世代D-ILAパネルが採用されている(筆者のV90Rも第3世代)。今回評価したZ5は第2世代パネルに留まるが、画素ピッチ3.8μm、画素間ギャップ0.18μm、開口率91%を達成しており、性能的には大きな不満はない。

第3世代では、階調性能・コントラスト性能・色再現性にさらに磨きがかかったとするが、今回の評価では「第2世代パネルだからこうなのか」といったガッカリ点は感じなかった。

ビクターのD-ILAパネルの世代間の性能の差異

Z5やZ7、上位のV800R/V900Rとのスペック差異は、ここでは詳しく述べないが、投写レンズの違い、最大輝度の違い、コントラスト性能の違いに現れている。特に、V800R/V900Rは、8,192×4,320ピクセルの8K解像度表示に対応している点が、Z5/Z7との分かりやすいスペック差となっている。

V800R/V900Rは、超解像処理と疑似8K表示機能がウリ

いずれも同じ4Kパネルを採用しているが、V800R/V900Rでは、4Kパネルの表示を3方向にシフトさせて表示解像度を縦横二倍にさせて高品位な8K表示を実現する「8K/e-shiftX」(第二世代)機構を搭載している。

8Kコンテンツは、2018年のBS8K放送開始をきっかけに、その後は、映像配信サービスからも出てきてはいるが、4Kコンテンツほどは身近になっていない。8Kコンテンツの視聴にそれほど重きを置いていないユーザーであれば、Z5/Z7を選択することに、何のためらいもないだろう。

筆者は仕事柄、2022年発売の8K対応V90Rを選択したが、普通のホームシアターファンであったら(なおかつ3D映像ファンでもなかったら)、コストパフォーマンスを優先してZ5やZ7を選ぶだろう。

というわけで、今回のZ5評価では、筆者私物のV90Rと比べて、どのような体験の差(≒画質の差)があるのかを探るべく、買うだけ買って見ていなかった映画ブルーレイをZ5で一気に楽しんだ(笑)。

視聴したのは「エイリアン:ロムルス」、「エイリアン 製作40周年記念版」、「エイリアン2」、「ゴジラxコング 新たなる帝国」、「デューン 砂の惑星PART2」、「オッペンハイマー」、「ザ・フラッシュ」の7本。全て4Kブルーレイだ。

「エイリアン:ロムルス」は、無人(?)となり放置された宇宙基地でお決まりの“あの生物”が出てきて、ワーキャーするホラー物語なのだが、やはり、暗がりのシーンが多いのでZ5の描写力が活きる。

ちょうどこの映画が「エイリアン」シリーズの1と2の間の時系列の物語だと知り、価格が安くなっていた「1」と「2」の4Kリマスター版を買って、Z5で楽しんだ。大画面☆マニアの評価で、テンションが上がってくると、その評価対象機で見たい映像ソフトを買ってしまうことがたまにあるのだが、今回は“それ”が発病してしまった(笑)。

UHD BD「エイリアン:ロムルス」
WDUF-1010 7,590円(2枚組)

「1」は、HDR10+対応ソフトで、ちょうどZ5もHDR10+表示に対応しているので、評価としてはおあつらえ向き。HDR10+対応のプレーヤーで再生して、Z5でHDR10+のオン/オフを切り換えて見て評価した。

オープニングでクルー達が人工冬眠から醒める前の、船内様子をカメラが巡回するシーンで、HDR10+の効果が分かりやすい。HDR10+オン時では、船内の計器やらボタンやらの自発光表現が投写型映像機器とは思えないほど、輝くのだ。

UHD BD「エイリアン 製作40周年記念版」
FXHA-1090 5,990円(2枚組)

どの映画を見ても感心させられるのは、LCOSプロジェクターならではの、黒の沈み込みと、暗部階調の安定感だ。部屋を完全暗室にしていても、投写映像である以上、映像中の黒レベルは部屋の明るさと等価になる。つまり、映像中に一箇所にでも、高輝度表現があれば、部屋は少し明るくなるので、黒レベルは持ち上がってしまう。

しかし、これがZ5の映像では「あ、黒が浮き出した」という風には見えてこない。なぜかといえば、人間の目も、その映像中の高輝度表現を目に入れてる関係上、黒レベルは持ち上がってしまっているからだ。

投写映像で黒浮きが感じられるのは、人間の視覚能力で認知できてしまうほどに映像の方の黒が明るくなってしまったとき。具体的には、映像中の高輝度表現が、他の黒や暗部階調を持ち上げてしまうようなときだ。Z5の表示映像は、そのスレッショルドを超えてこないのである。

いつも用いているベンチマークソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の、星々を書き分けながら漆黒の宇宙を突き進むような「StarField」というテストモードを実行すると、有機ELパネル並み……というとやや言い過ぎだが、少なくとも、ミニLED液晶パネルには勝るレベルの漆黒の宇宙と、煌めく星を描き分けられている。Z5でも、このレベル。Z7以上の上位機ならばさらにもっと凄くなるのだ。

「Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク」(2023)
9,350円(3枚組)

そして、色彩表現力の高さが感じられたのは、「ザ・フラッシュ」と「デューン 砂の惑星PART2」あたり。

「ザ・フラッシュ」の無数のマルチバース(パラレルワールド)の裂け目が衝突寸前のクライマックスでは、レーザー光源ならではの鮮やかな純色表現のエフェクトが、公称スペック以上の広色域感を感じさせてくれていた。

「デューン 砂の惑星PART2」は、多くのシーンで、黄土色と茶色の色彩で表現される砂漠が画面を埋め尽くすわけだが、ベタ塗り感はなく、情緒豊かな立体感や奥行き感を、見事に描けていて、物語や世界観に没入できた。某女性タレントに言わせれば「黄土色って、200色あんねん!」といった感じだ。

「オッペンハイマー」は人間ドラマなので、主に、人肌の表現を意識して見たのだが、暗いシーンでも、明るいシーンでも、不自然さを感じず。次第に、ストーリーの方に引き込まれていってしまい、普通に「最高の映画体験」を楽しんでしまった。

UHD BD「ザ・フラッシュ」
1000831017 7,480円
UHD BD「デューン 砂の惑星PART2」
1000837227 8.580円
UHD BD「オッペンハイマー」
GNXF-2926 7,260円

返却する機材なのに、一部のシーンが1.90:1のIMAXアスペクト収録されている「ザ・フラッシュ」、1.78:1のIMAXアスペクトで収録されている「オッペンハイマー」、そのほか多くの2.35:1のシネスコ収録タイトルを、筆者宅のスクリーンでそれぞれ最大表示できるようレンズメモリーを登録。結局、Z5を気に入りすぎて、貸出期間を1週間延長させてもらったほどである。

「エイリアン2」や「ゴジラxコング 新たなる帝国」の2タイトルは、普通に映画をタダ楽しんでいただけのような気がするが、逆に言うと、どんなシーンにおいても「あれ、なんか変だぞ」という表示がほぼ無かったと言うことでもある。

V800R/V900RはZ5/Z7よりもさらに美しい映像を出すのであろう。しかし、それらのV900Rの先代モデルであるV90Rを所有している筆者が見ても、Z5の投写映像は満足のいくものであった。

いつものテスト画像とカラースペクトラムを示しておこう。

画質モード:ナチュラル
画質モード:シネマ
画質モード:ビビッド

スペクトラムの形状はV90Rとよく似ている。実体光源となる青色レーザーのスペクトラムは突出して鋭く、これを赤緑蛍光体にぶつけて作り出される赤色と緑色のスペクトラムはやや丸い。

しかし、ピークスペクトラム同士の分離感はそれなりにあるので、これらが混色されて作り出される色の発色品質はそれなりに高そうだ。

総括:よく出来すぎてる。Z5はとてつもなく完成度が高い

Z5とZ7は、ともに165Wのレーザー光源を採用し投写レンズも同一だ。しかし、パネル世代などの違いに起因していると思われるスペック上の違いとしては……

型番DLA-Z5DLA-Z7
最大輝度2,000lm2,300lm
コントラスト40,000:180,000:1
色域sRGB 100%DCI 98%

……と言った点が挙げられる。

Z5とZ7。両者の価格差は22万円で、輝度は2,000ルーメンと2,300ルーメン。

価格の違いは25%。輝度の違いは15%。暗室で見る限り、輝度性能15%の違いは誤差のようなものだ。

コントラスト性能は2倍も違うので見比べれば違いは分かるだろうが、今回のZ5単体の評価では、あらゆるシーンにおいてZ5の投写映像に問題点は感じなかった。

若干感じたことがあるとすれば、赤、緑、黄色、紫のような、人工的な有彩色の表現が良くも悪くも“普通”だったこと。Z7以上では、色域がDCI色空間にまで広がるので、このあたりの表現は、もう少しエグい発色となるはず。ここの差異は、Z5の色域がsRGB色空間内に収まっていることに関係している気はする。

実際、Z5で投写したHDR映像に対して色度計を当て、「Frame Adapt HDR1」「Frame Adapt HDR2」「FILMMAKER MODE」の3モードで実測してみたが、どのモードも計測結果に差異はなかった。

Z5はsRGB色空間カバー率100%とのことだが、計測結果から見ると、100%きっかりではなく、100%オーバーではありそうに見える。ただ確かに、Rec.2020色空間(黒線の三角形)と比較すると、緑と赤方向の色域が狭めであることが分かる。

Frame Adapt HDR1
Frame Adapt HDR2
FILMMAKER MODE

V800R/V900Rにはあって、Z5はおろかZ7にもない機能といえば、前述した疑似8K映像の投写以外にハイフレームレート表示がある。V800R/V900Rは、HDMI 2.1の48Gbps入力が可能なので、4K/120Hz(120fps)表示が行なえるのだ。

また、Z5/Z7の「Clear Motion Drive」機能は黒挿入のみだが、V800R/V900Rでは、60fps映像を補間フレーム挿入技術を使って120fps映像として表示できる機能を持つ。筆者は、この機能はあまり好きではないが、この機能を好むユーザーもいるので、この機能でV800R/V900Rをうらやむ人はいるかもしれない。

逆に、筆者ほどにはうらやむ人がいないかもしれないのが、3D映像表示機能だろう。Z5/Z7では、3D映像表示機能が削除されてしまった。オプションの3D映像表示用の「3Dシンクロエミッター」(PK-EM2)が搭載できるのはV800R/V900Rのみ。Z5/Z7には、その接続用コネクタがない。

したがって、これだけZ5を誉めてきた筆者も、もしV90R(3D表示対応)を所有していなければ、私はV800R/V900Rのどちらかを選ぶことだろう(笑)。

それとシンプルに、V800R/V900Rは、輝度がそれぞれ2,700ルーメン、3,300ルーメンと明るい点もZ5/Z7に対するアドバンテージだ。特に3D映像は、目に届く輝度が2D映像視聴時の半分になってしまうので、輝度性能が高いV800R/V900Rの方が相性はいい。

とはいえ、V800R/V900Rは価格がそれぞれ165万円、297万円であり、Z5/Z7と比較するとだいぶ高価である。

まとめると、「8K映像表示不要」「3D映像不要」「4K/120Hz不要」ということであれば、Z5がお勧め。もう少し輝度性能が欲しくて「色域性能はDCI色空間範囲まで欲しい」というのであればZ7の検討の余地あり……といったところか。

とはいえ、ごく普通のホームシアター用途の範囲内で活用するには、Z5はアッパーミドルクラスの4Kプロジェクタ製品としては、とてつもなく完成度が高いと思う。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
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