第137回:待望のフルHD 3Dプロジェクタ登場

~完成度の高い3D、熟成の2D画質。ソニー「VPL-VW90ES」~



VPL-VW90ES

 3Dテレビが各社から発売され、世間が盛り上がる中、プロジェクタベースのホームシアタこそが「最高位ソリューション」と考える筆者のようなマニアは意外に冷めた視線でこれを見ていたようにも思う。やはり「本命は3Dプロジェクタである」と。

 待った甲斐あって、ついに、数社から3Dプロジェクタが発表された。大画面☆マニアでは、順次紹介する予定だが、まずは、独自の反射型液晶パネル「SXRD」(Silicon X-tal Reflective Display)を採用するソニーの「VPL-VW90ES」から見ていくことにしたい。価格は724,500円だ。



■ 設置性チェック~デザイン、吸排気設計、設置性は従来機とほぼ同一

 外形寸法は470×484.9×179.2mm(幅×奥行き×高さ)。従来モデルのVPL-VW85とは奥行きだけが微妙に異なっているが、基本的な外観は変わらない。重量も同じ約12kg。軽くはないが、1人で持ち運べないことはないレベルだ。

 奥行きが50cm近いが、前後の脚部の距離は約25cmで、はみ出てもいいなら、棚の天板等への設置も可能だろう。

角度調整ヒンジ機構付きの天吊り金具「PSS-H10」

 天吊り金具については引き続き、歴代VPLシリーズ共通で使える。角度調整ヒンジ機構付きの「PSS-H10」(80,850円)と、天井からの吊し位置を15cm~30cmの範囲で調整可能な「PSS-610」(52,500円)が利用できる。これは、ユーザーを掴んで離さないソニーのVPLシリーズのうまいやり方だ。やや値段が高めの純正天吊り金具も、世代を通して使えるのならば、コストパフォーマンスは悪くないかも知れない。

 投射レンズも大きな仕様変更はないようで、1.6倍ズームレンズ(f18.5~29.6mm/F2.50~3.40)はVW85と共通だ。ズーム、フォーカス、シフト操作はいずれも電動リモコン式。

 投射レンズは電源オン/オフに連動した電動開閉式のシャッター機構を備えており、レンズへの防塵対策にも気を配った設計。シャッターは左右に開いていく両開き式で、電源オン時に連動して「ジー」と開いていく様は、「メカ好き」には堪らないロマンを感じさせ、購入直後はきっとニヤニヤしてしまうことだろう。このあたりの商品の作り方、オーナーシップの演出はソニーらしく巧い。

投射レンズスペックに変更無しレンズには電動開閉式のシャッターを装備する背面。外観デザインはVPL-VW85/80から変更無し。見た目的には飽きが来ないが、SONYロゴは白塗装があっても良かったかも?

 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m(3,072mm)、最長投射距離は約4.6m(4,664mm)となっている。最近のホームシアター機としては標準的なスペックだ。故にスクリーン等はそのままに、他機種からの置き換えも容易なはずだ。

 レンズシフト範囲は上下±65%、左右±25%で、歴代SXRD機の中ではトップレベルのシフト量を誇る。VW90ESは、いわゆるハイエンド機に相当するが、以前のハイエンドVPL機のような気むずかしさはなく、設置性は入門機並に高いといえる。

 吸排気の構造は、後ろから吸気して前面の左右のダクトから排気するエアーフローとなっている。前面の左右の排気ダクトは投射レンズから離れた位置にあるので、排気で吹き上がった熱気が光軸延長線上にいくことはほとんどない。吸気は背面だけでなく底面からも行なわれており、設置時には、背面側の吸気のためのクリアランスにはそれほど神経質にならなくてもよい。とはいえ、ソニーとしては前後左右に30cmのクリアランスを設けることを奨励しているので、オンシェルフ設置の際にも、周囲に物を置くことは避けたい。

背面側スリットは吸気口前面側の左右のスリットが排気口。手前にあるのは3D眼鏡

 動作音はランプモード低輝度モードで公称値20dB。高輝度モードでもほとんど変わらない静粛性で、本体から1mも離れれば動作音は気にならないレベルだ。VPL伝統の静粛性能は、3D対応になってもちゃんと受け継がれているといえる。

光源ランプ「LMP-H201」はVPL-VW80/85,VPL-HW10/15兼用。実売3万円前後。ランニングコストは低めといえる

 光源ランプは超高圧水銀ランプで先々代のVPL-VW80から採用された出力200Wの「LMP-H201」(36,750円)を採用している。3代にわたって同じ光源ランプというのも、近年の機種では珍しいが、それだけ完成度の高い光源ランプということなのだろうか。ちなみに、このLMP-H201は、エントリー機のVPL-HW15/HW10とも兼用となっている。

 消費電力も前モデルと同等の320W。出力200Wの光源ランプを採用していることもあって、消費電力はやや高めだ。ちなみに、競合機のビクターのDLA-X3/X7/X9の消費電力は350Wとなっている。



■ 接続性チェック ~ HDMI階調レベルの設定には未対応

接続端子。奥まったところにあるため抜き差しがやりにくい

 接続端子パネルは正面向かって左側の側面下部にレイアウトされている。かなり低い位置で、しかも、ボディ側面の底部、奥まったところにあるため、台置き設置の場合は抜き差ししにくい。

 HDMI入力は2系統で、DeepColor、x.v.Colorに両対応し、HDMI-CECにも対応する(ブラビアリンクにも対応)。いうまでもないが、3Dフォーマットの伝送にも対応している。

 コンポジット入力、Sビデオ入力、コンポーネントビデオ(RCA)入力の各端子も1系統ずつ装備。コンポーネント入力は、D4(720p)までの入力に成功したがD5(1080p)は「入力信号の周波数が対応範囲を超えています」という赤字のエラーメッセージが出て表示することができなかった。

 PC入力端子としてはアナログRGB接続対応のD-Sub 15ピン端子を1系統備えている。この端子は、実はVPL-VWシリーズ伝統の「INPUT-A入力」と命名された多用途端子となっていて、別売の変換ケーブルで、もう1系統のコンポーネント入力としても利用できる。

 なお、市販のDVI-HDMI変換アダプタを用いることで、前出のHDMI入力端子を用いてPCとデジタルRGB接続することが可能だ。

 VPL-VWシリーズの共通する問題点として、HDMIのデジタルRGB入力時にHDMI階調レベルを誤認してしまうというものがあるが、これは変わらず。HDMI階調レベルの設定項目もなく、PS3を、PS3側の「RGBフルレンジ」を「フル」設定としてVW90ESと接続すると相変わらず暗部が死んで明部が飛んでしまう。PS3をRGB出力にしてVPL-VW90ESを接続する際には、PS3側の設定を「リミテッド」設定にしないとダメだ。この点は、VPL-VW60の時から再三言っているが、いい加減、HDMI階調のマニュアル設定項目を付けてくれないだろうか。

1系統に統合されたトリガ端子のための設定

 VW85で2系統あったトリガ端子は1系統に削減されている。「設置設定」メニューの「トリガ切替」を「電源」設定とした場合は、本体稼働中にDC12Vを出力する動作となり、電動シャッターや電動開閉スクリーンと連動させるために利用する。この設定を「アナモーフィックズーム」とした場合は、投射アスペクトモードを「アナモーフィックズーム」と設定したときにDC12Vを出力する動作となる。こちらは、市販のアナモーフィックレンズ電動着脱システムを利用する際に活用することになる。VW85にあった、仕様の違った2系統のトリガ端子が1系統に統合された、という捉え方の方が正しいかも知れない。

 見慣れない、IR IN端子というものがあるが、こちらは、取扱説明書にも詳しい解説や用途説明がなく「本機を制御するためのもの」と一言添えてあるのみだ。おそらくリモコン制御を行なうための端子と思われる。さらにもう一つ、見慣れない端子として3D SYNC端子という、LANと同じRJ-45端子を備えている。これは、3D眼鏡の同期信号のトランスミッターを接続するためのものだ。

 VPL-VW90ESでは、立体視用の同期信号は、投射レンズ外周のリング部分から照射され、ユーザーはスクリーンに反射した同期信号を3D眼鏡で受けることになる。視聴位置やスクリーンの材質によっては、同期信号の受信がうまく行かないことがあり、これに対処するために、ソニーは、スクリーン側(フロント側)に、別体型のトランスミッタを設置するソリューションを提供しているのだ。トランスミッタは「TMR-BR100」(実売3,500円前後)となっている。これは、3D BRAVIA HX80R、HX900、HX800シリーズ向けの純正オプション品にもなっている。

3D用の同期信号トランスミッタ「TMR-BR100」

 実際、筆者のパールビーズ系のスクリーン環境では、時々、同期信号を見失い、突然3Dが解除されてしまうことがあった。TMR-BR100は比較的安い商品なので、不調が確認されたら、導入を検討することをオススメする。

 接続にはカテゴリ7のLANケーブル(別売)を利用。これを、付属の変換ケーブルを介して、MR-BR100と接続することになる。VW90ES側の端子をLAN端子にしたのは、安価で長さのバリエーションが豊富なLANケーブルを利用してTMR-BR100と接続できるように配慮したからだろう。なお、VPL-VW90ESに接続できるLANケーブルの長さは15mまでとしている。

 さて、この他、PCからのリモート制御、および付属ソフト「ImageDirector3」を利用してユーザー独自のガンマカーブを作成する際に利用するRS-232Cインターフェイス(D-Sub9ピン)端子がある。



■ 操作性チェック ~3Dカスタマイズ機能搭載。2D-3D変換機能もアリ

VW90ESのリモコン

 VPL-VW90ESのリモコンは、デザインからボタンの配置までVW85のものと変わらない。

 [LIGHT]ボタンを押すと、全ボタンが青色に点灯するイルミネーション機能も同じだ。この青色ライトアップはとてもクールで美しい。青色バックだとボタン上の文字表記も意外に見やすい。


リモコンはVPL-VW85と共通仕様。3D関連のボタンはない[LIGHT]ボタンを押すことで青色にライトアップされる

本体側面には簡易操作パネルがある
 電源オン操作をしてから、HDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約55.5秒。VW85よりも数秒高速化されたが、依然、最近の機種としては待たされる方だ。

 入力切り替えは[INPUT]ボタンを押すと開く入力切り替えリストメニューから希望の入力系統を十字キーで選択してから切り替える方式だ(順送り式の選択にも対応)。切り替え所要時間はHDMI→HDMIで約3.5秒(実測)、HDMI→コンポーネントビデオで約3.5秒(実測)。速くはないが、普通の速度と言える。

 メニューの基本構造はVPL-VW80/85から変更がなく、アスペクトモードについても同一であるため、これらの基本情報については本連載VPL-VW80の回やVPL-VW85の回を参考にして欲しい。

メニュー構成はVPL-VW85から大きな変更はないが、メニューウィンドウの配色が黒基調に変更された

 本稿ではVPL-VW90ES特有の操作系についての話題を取り扱うことにする。

 といっても、追加/変更/改良点は、前出の統合されたトリガ端子にまつわる設定と、3D(立体視)に関連した設定のみだ。

 「3D設定」に関する設定は見かけはシンプルだが、なかなか奥深い。基本的には3Dコンテンツが入力されたときの振る舞いを設定するところで、3Dコンテンツが入力されたときに自動で3D表示モードに移行する「オート」設定となる。つまり、2Dコンテンツの時は2D表示、3Dコンテンツの時は立体視対応表示を行なうということになる。


「3D設定」メニュー

 一方で、「2D」と設定したときは3Dコンテンツが入力されたときも2D表示しか行なわないモードとなる。

 特徴的なのは、この設定を「3D」としたときで、これは、逆に「いかなる時も3D表示を行なう」というモードになる。

 なので3Dコンテンツが入力されたときは3Dになり、2Dコンテンツが入力されたときには「シミュレーテッド3D効果」と命名された2D-3D変換が適用される。

 取扱説明書では、この2D-3D変換機能はHD信号にのみ適用可能とあったが、コンポーネントビデオ入力の720p(D4)映像に対しては効かせることができなかった。HDMI入力では480p入力では適用不可であったが、720p、1080i、1080pのいずれにも効かせることが出来た。整理すると「アナログ入力は全不可」、「HDMI入力では720p以上は全OK」ということになる。

「シミュレーテッド3D」が2D-3D変換表示モードを意味する。「左右分割方式」「上下分割方式」にも対応する

 「シミュレーテッド3D効果」の立体感の強度設定は弱・中・強の3段階設定が可能になっている。

 変換アルゴリズムは非公開だが、変換された映像を見る限りでは、高度な処理は行なわれていない。疑似的な深度マップを作り出してから元の2D映像からサンプリングして3D映像を作り出すような「まじめな2D-3D変換」ではなく、基本的には2D映像をずらして表示するだけのもののようだ。

 一応、強設定が、一番飛び出し感が強くなるとのことだが、二重映り(クロストーク現象)が強くなるだけで、見た目の立体感はそれほど変わらない。個人的には「弱」が最も自然に見える。

 「3Dメガネ明るさ」は、3D視聴時の見え方を設定するものになり、暗・中・明の3段階設定が行える。しかし、実は、これは「明」設定が一番良いとは限らない。


「3Dメガネ明るさ」はアクティブシャッター機構の開閉タイミングを設定するもの

 というのも、この設定はプロジェクタ側の表示映像の明暗を制御するものではなく、3D眼鏡のシャッター開閉タイミングにまつわる設定だからだ。

 「明」設定は3D眼鏡のシャッターを長時間開くモードになり、液晶画素が目的の状態に安定する前から映像を見てしまうことになるため、クロストーク現象が大きくなる。一方「暗」設定は、液晶画素の表示が完全に安定してからシャッターが開くため、暗くはなるが、クロストークが非常に少なくなる。

 実際に映像を見てみればその違いは歴然だ。暗い背景に明るいキャラクターがいるようなシーンで、明るいキャラクターの輪郭に着目すると分かりやすい。完全に暗室で視聴できるならば「暗」設定が画質的には一番素晴らしいし、オススメだ。

 Blu-ray 3Dソフトなどの3Dコンテンツが入力されたときには、「3D奥行き調整」という設定項目が出現する。

 これは表示している3D映像の奥行き起点をずらす設定で、通常は「0」の基本設定のままで変更の必要性はない。

 設定範囲は「-2~0~+2」となっており、マイナスに振ると表示映像が全体的に3D空間上、手前に寄り、プラスに振ると逆に奥側に寄る。いわゆる立体感の強度調整というよりは、表示する3D映像をそのまま手前か奥かに並行移動させるイメージだ。基本的に3D映像を飛び出し側に調整したい場合はマイナス、奥に引っ込ませたい場合はプラス設定をすることになるが、この調整を行なうと、表示映像の外周がクリップアウトされてしまう。ユーザーの視力特性に合わせる場合にはいじってもいいが、筆者は「0」設定のままでよいと思う。

同期用の赤外線トランスミッタはレンズの外郭リングに内蔵されている。上下5つずつの紫の発光体がそれだ

 なお、この「3D設定」は、入力系統ごとではなく、VPL-VW90ES全体に及ぶ、グローバル設定となる。HDMI1は2D、HDMI2は3Dという活用法をしたいユーザーもいるはずなので、この設定は出来れば入力系統ごとにできればよかったと思う。

 また、3Dモード時も、メニュー画面は2D表示を選べるようにして欲しかった。2Dモードと3Dモードへ頻繁に往来する使い方だと、3Dモード時のメニュー画面が二重映りになってしまっていて3Dメガネがないと読めなくて不便であった。3Dメガネをはめずにメニュー操作をしたい場合も多く想定されるはずなので、そうしたモードも搭載されれば使い勝手はより上がると思う。



■ 画質チェック~240Hz駆動対応SXRDによる3D画質やいかに!?

動的絞り機構「アドバンストアイリス3」はVPL-VW85と同世代のもの

 映像パネルは、今さら説明不要のソニー独自の反射型液晶パネル「SXRD」を採用している。

 ソニーによれば、VPL-VW85のものよりもパネル世代は新しくなっているとのことで、製造プロセスも0.25μmから0.20μmへとシュリンクしたという。

 もともと画素開口率が90%といわれるSXRDパネルなので、目視レベルでは、その製造プロセスの微細化の恩恵は確認できない。もはや、1メートルも離れれば、100インチに拡大投影された映像でも、画素を仕切る筋は見えず、中明色の単色の面表現でもほとんど粒状感は確認できない。この濃密な描画特性は反射型液晶パネルベースのプロジェクタの真骨頂ともいうべきものだ。

 そして、この新世代SXRDパネルは、駆動速度も高められており、VPL-VW85の2倍の、4倍速240Hz駆動への対応を果たしている。この高速駆動対応は、いわゆる補間フレーム倍増の残像低減のためだけでなく、後述する立体視におけるクロストーク現象の低減にも効く。

 公称輝度スペックは1,000ルーメン。なにかと仕様がVW85と共通するVW90ESだが、VW85の800ルーメンに対して200ルーメン分輝度が上がっているのは、大きな特徴といえる。実際、蛍光灯照明下でもかなり明るい。カジュアルにゲームや映像を楽しむならば部屋がそこそこ明るくても問題ない。


アドバンストアイリス=オート1アドバンストアイリス=オート2アドバンストアイリス=切。ネイティブコントラスト性能が優秀になったので動的絞り機構の効果は薄め

 公称コントラスト値は15万:1を謳う。VPL-VW85が12万:1だったので、多少スペック的には向上したことになるが、動的絞り機構を使用した際の最大黒と最大白の対比、いわゆるダイナミックコントラスト値になるので実際の投射映像で、この値のコントラストを目にすることはないし、できない。明るい映像でも、その中に含まれる黒はかなり黒いので「15万:1」はともかく、かなりのハイコントラスト映像が得られているのは事実だ。かなり明るいピクセルの隣にある黒でも、ちゃんと黒いのには驚かされる。

 色収差による色ズレは皆無ではないが最低限で、半ピクセル未満であり、解像感への影響は小さい。これだけの広範囲にシフト可能なズームレンズを組み合わせて、この程度に抑えているということは、かなり精度の高い光学設計がなされたのだと推察される。フォーカス性能も良好だ。画面外周まで満足のいくレベルのくっきり感が得られている。あっちを合わせればこっちがずれると言ったようなことがなく、画面中央で合わせれば、画面外周も合う感じだ。

フォーカス感は良好。色収差による色ズレは若干あるが、半ピクセル未満で解像感は十分ある

 なお、今回も、デジタル画像処理で色収差を擬似的に吸収する「パネルシフトアライメント」機能が搭載されているが、VPL-VW90ESでは、基本的にはこの機能を活用せずとも理想的なフルカラーピクセル表現が出来ている。

 階調描写力は今回も優秀だ。最暗部の黒は、かなり部屋の暗さに「ほぼイコール」といっていいほどしまっており、そこから始まる暗部階調の滑らかさは特筆に値する。色階調特性も同様に優秀で、最暗部付近にもちゃんと色味が残っているため、暗い映像でもグレーに収束せず、情報量の多い暗部を描き出してくれる。ただ、輝度パワーが上がった関係で、暗室時であっても、映像全体の平均輝度が上がっている場合は部屋が明るくなってしまうこともあり、この部屋の明るさに最暗部が引っ張られる傾向がある。

 端的に言えば、明るい映像になればなるほど黒が浮きやすい、ということだ。ただし、これはランプコントロールを「高」設定にした高輝度モード時の話。「低」設定の低輝度モードであれば、VPL-VW85とほぼ同等の黒浮きを低減させた映像は楽しめる。2D映像は低輝度モードで楽しみ、3D映像は高輝度モードで楽しむ。これがVPL-VW90ESの基本活用方針となるかも知れない。

ランプ高輝度モード。明るさでコントラストを稼ぐ画調になるランプ低輝度モード。黒の締まりが良好になる

 発色は、ここ数年のVPLシリーズ伝統のナチュラル志向のチューニングだ。水銀系ランプの雑味を巧く抑えこんでおり、それでいて、純色の鮮烈さを併せ持っている。明度の高い純色のRGBの出力バランスも良好だ。特に画調モード「STANDARD」では、純色がするどくリッチな画調になる。

 肌色表現の懐の深さもVPL-VW85譲りだ。水銀系ランプの特性の黄味の強さは感じられず、"陰"となっている茶色付近の肌色から"明"となっている白付近の肌色までの発色のリアリティは素晴らしい。前述した階調特性の優秀さとの相乗効果もあって、明るい映像でも暗い映像でも、人肌の質感がちゃんと伝わってくる。

カラースペース=ノーマル。sRGB準拠
カラースペース=ワイド1。人肌が暖かみを増す
カラースペース=ワイド2。デジタルコンテンツとの相性がよいとされる
カラースペース=ワイド3。最も広色域となる

 色深度も優秀だ。二色混合グラデーションがとてもなだらかだ。画調モード「CINEMA3」は特にこの色深度表現に気を配ったチューニングのようで、微妙な中間色も正確に描き出してくれるため、微妙な色合いの違いによって表現されたディテール感(いわゆる色ディテール)が浮かび上がって見えてくることもある。

 色周りの解説が長くなってしまったが、それだけ、発色に関してはVW90ESが優秀であるためだ。水銀系ランプでここまでの色が出せるとなると、コストパフォーマンス的には、今やキセノンランプの優位性は小さくなったといっても過言ではあるまい。今も違いはあるが、ランプ単価4倍の値段差はもうない。

色温度「高」(9300K)設定色温度「中」(8000K)設定
色温度「低1」(6500K)設定色温度「低2」(6000K)設定

 SXRDが240Hz駆動に対応したと言うことで、倍速駆動技術の機能進化部分について興味が行くと思うが、実は、SXRDの240Hz駆動対応は、パネルの駆動に関するものであり、残像低減のために生成される補間フレームはVW85と同じ120フレームのままだ。つまり、VW90ESにも、VW85と同等の2倍速駆動相当の残像低減機構が搭載されているということだ。なお、この機能には「モーションフロー」という名前が付けられており、補間フレーム生成技術に関しては特に「モーションエンハンサー」という機能名が付けられている。

 今回も、Blu-ray「ダークナイト」の冒頭のビル群のフライバイシーンを見てみたが、モーションエンハンサー機能を「強」設定にし、補間フレームの表示が支配的になる状態で見てみると、ビルの輪郭やディテール表現に振動とブレを生じることが確認できた。振動現象は画面内の類似(反復)パターンが移動したことで動きベクトル計算を誤ることから生まれるもの、ブレは動体と背景物の境界付近に挿入した補間ピクセルと、実フレーム側のピクセルとの誤差の多さ(違いの多さ)が時間方向にノイズを知覚させる現象になる。「強」設定は相変わらず、実用性が低いが、「弱」設定は、こうしたアーティファクトがかなり押さえ込まれている。まったく振動やブレがなくなるわけではないが、映像鑑賞において得られる動きの滑らかさの方が効果として大きいとは思う。

 ただ、映画のような毎秒24コマ映像では、モーションエンハンサーによるなめらか表現が巧く働いているときの見栄えと、補間フレームの効果が薄いときのリアル毎秒24コマ表示に近いフレームレートになったときの落差が大きいため、あまり積極的に利用したいとは思わない。逆に言えば、毎秒60コマのコンテンツでは「弱」設定はそこそこ使えるとは思う。

 なお、デフォルト設定ではCINEMA1、2、3の全てのシネマ系画調モードにおいてモーションエンハンサー機能は「切」設定となっている。カタログやWebサイトでは大きく扱っているわりには、ユーザーにあまり積極的に使わせたくない扱いになっているようだ。

 同様に、ウリの機能なのにメーカーがあまり使わせたくない機能として「フィルムプロジェクション」機能がある。これは映像表示をブラウン管ライクに疑似インパルス表示するものだ。端的に言えば、表示映像を点滅さながら表示すると言うことになる。

 フィルムプロジェクション機能は、デフォルトでは全画調モードにおいて「切」設定になっているので、活用するためには「モード1」または「モード2」と設定する必要がある。VW85では、モード3まであったが、VW90ESでは、モード3がカットされている。各モードの違いは黒フレーム挿入の長短の違いに相当する。モード1が"明"フレーム表示期間が短く黒挿入期間が長い"暗い"モード、モード2が“明”フレーム表示期間が長くて黒挿入期間が短い"明るい"モードになる。

 「映写機的な雰囲気が味わえる」という触れ込みのフィルムプロジェクション機能だが、個人的には、明滅の煩わしさの方が印象としては大きく、常用したいとは思わなかった。彩度の低い古いアナログソースや、暗いモノクロ映画を見るときの、レトロな雰囲気作りの一環として利用するのはいいかもしれない。

 そして、おまちかね、VW90ESの目玉機能、3D(立体視)についての画質についてのインプレッションを述べよう。

VPL-VW90ES商品セットには2基の3D眼鏡が付属する

 まず、2D-3D変換による3D画質は、「操作性チェック」のところで前述したように簡易的であるため、立体感という意味では、「まぁ、立体的と言えなくもないかも」程度のものだ。なので、見慣れた2Dソフトが、どんなふうに見られるのか、楽しむ分にはいいが、この程度の疑似3D感ならば、初見の2Dソフトはやはり2Dモードで見たいと感じる。

 Blu-ray 3Dの方は、当然ながら、ゴマカシのないリアルな3D映像が表示される。

 まず、3D時の色味についてだが、これについては全く不満がない。眼鏡を通して見たときに、得られる立体感はともかく、色味が明らかにおかしい3Dテレビが存在するが、VPL-VW90ESについては、ほぼ2D時と同じ色味の映像が得られている。これは、素晴らしいことだ。

 本連載、3D BRAVIAKDL-HX900編で指摘した、首を傾けると色味が変わってしまう現象は、VPL-VW90ESでは起きない。これは、VW90ESに付属する3Dメガネには偏光板を配しているためだ。

VPL-VW90ESに付属する3D眼鏡「TDG-BR100」は、3D BRAVIA用のものと同等品ただし、VPL-VW90ESに付属する3D眼鏡の方には偏光板を配している。市販の3D BRAVIA用メガネにはこれがないため、VPL-VW90ESに対応させるための、追加分の偏光板が付属する

 クロストーク現象については、「操作性チェック」の所でも前述したように、「3Dメガネ明るさ」設定がダイレクトに効いてくる。「明」は最もクロストークが感じられ、「暗」はかなりこれが抑えられる。ならば「中」がベストバランスかというと、やはり結構見えてしまう。なので、個人的には、クロストークが最も少ない「暗」がお勧めなのだが、この設定ではランプが高輝度モードであっても、暗室で見るプラズマの3Dよりも暗いと感じる。

240Hz駆動を採用する理由。簡単に言えば、SXRDへの書き出しを早期に完了することで、その分、長い間、完成したフレームを3D眼鏡を通して見せられる…ということ

 3D視聴時、その立体感の迫力以外に、感銘を受けたポイントがある。それは3D表示時にはモーションエンハンサーを「切」設定にしていても、残像が驚くほど低減して見えること。毎秒24コマのコンテンツで目立つフィルムジャダーによる輪郭のブレも低減され具合がとても良く見えるのだ。

 これは、おそらく、3D眼鏡の左右のアクティブシャッター機構の開閉動作が、理想的な黒挿入を行なってくれている副次効果だと思われる。VW90ESには、疑似インパルス表示機能としてフィルムプロジェクション機能があることを前述したが、この機能を3D眼鏡のシャッター機構を活用して実現するのも面白いかも知れない。つまり、2Dコンテンツ視聴時も、3D眼鏡のシャッター機構を活用してみると残像が低減されて見える、というモードを新設するのだ。

 さて、VW90ESでは、それほど重大ではないが、3Dモード時には、ブラビアエンジンで提供されるいくつかの高画質化ロジックに制限が課せられる。まず、アドバンストアイリス機構は3Dモード時は完全キャンセルされる。これは3D時には輝度を稼がなければならないためと、3D眼鏡をかけると光の透過が制限される副次効果で黒浮きが低減されるため、動的絞り機構が不要になるからだろう。

 「MPEGノイズリダクション」機能は1080/24pのフレームパッキング方式およびトップアンドボトム(上下分割)方式の3D映像には効かせることができない。これとは別の、時間方向のノイズを低減させる「ノイズリダクション」機能はサイドバイサイド(左右分割)方式とトップアンドボトム方式の3D映像には効かせられない。

 そして「モーションエンハンサー」機能は1080/24pのフレームパッキング方式およびトップアンドボトム(上下分割)方式の3D映像には効かせることができるが、それ以外(1080/60p、50p、1080/60i、50i、720/60、50p)には適用できない。なお、2D-3D変換(シミュレーテッド3D効果)による3D映像にはこうした制限はない。

 実際に、3D映像に対し、こうした高画質化機能をオン/オフして見比べてみたが、効果の違いは分かりにくかった。特にモーションエンハンサーに関しては、前述のように、3Dメガネのシャッター機構による残像低減の恩恵が強いため、補間フレームによって映像がスムーズになったかが分かりにくい。3D映像の視聴においては、こうした高画質化機能の積極活用は必要ないと感じる。

 前回のCELLレグザ「55X2」編から導入した評価項目、表示遅延に関しても報告しておこう。

 今回も表示遅延約0.2フレーム(2.6ms)を誇る、最速の液晶テレビ、東芝RE1シリーズとの比較になるが、VPL-VW90ESでは、全ての画調モードにおいて、2D映像、3D映像、いずれにおいてもRE1に対して3フレームの表示遅延となっていた。表示遅延が少ないとは言いづらいが、一般的な液晶テレビ並ではある。2D-3D変換による3D表示でも3フレームの表示遅延に留まっているというのはなかなか立派だ。

2D時の表示遅延は3フレーム3D時でも3~4フレーム

 プリセット画調モードについてはラインナップとその傾向がVPL-VW85ESと変わらないので、VW85編を参考にして欲しいが、本稿でも、気がついた点を簡潔に述べておくとしよう。

【ダイナミック】明るさ重視の画調だが、明部に若干輝度パワーを割り振ってはいるが、全体として階調の破綻はほとんどない。彩度が高くゲーム、アニメ、CG映画との相性がいい【スタンダード】ダイナミックよりも色温度が下がるが彩度は依然と高め。ただし、階調はダイナミックよりも偏りが調整されリニアリティが確保される。こちらもゲーム、アニメ、CG映画との相性がいい。純色は一番美しい【シネマ1】スタンダードよりさらに色温度が下がり、彩度も落ち着いた感じになる。シネマ系画調のわりには輝度が十分確保されており万能性が高い。VW85の時もそうだったが、この画調をまずは選択し、より彩度が欲しければスタンダード、ダイナミックへ。より階調性重視ならばシネマ2、3へと切り替えるのがいい
【シネマ2】さらに色温度が下がり、暗部階調がやや持ち上げ気味となる。また、中明部に多く輝度を割り当てているのが特徴で、情報量の多い画調だ。コントラスト感よりも情報量を取るならばこの画調だ【シネマ3】全画調モードのうち、唯一、カラースペース(色域)をノーマル設定としており、色調は基本的にはsRGB準拠となる。マスターモニター的な画調を志しており、裏の「スタンダード」モードとも言える。また、色深度が一番高く、二色混合の表現は一番美しい。色ディテール重視ならばこのモードだ

■ まとめ ~コストパフォーマンスに文句なし。あとは3D画質をどう改善していくか

 VPL-VW85をベースにエンジンを3Dに対応させたバージョンという感じのVPL-VW90ESだが、想像していたより完成度が高かった。実勢価格もVW85の発売当時とほぼ同等で、3D対応製品にリファインして再発売したと捉えれば、VPL-VW90ESは非常にコストパフォーマンスの高い製品だと思える。

 3D眼鏡や3Dトランスミッタも、基本的には液晶3D BRAVIAと兼用できるというのも、「テレビもプロジェクタも、いずれ3Dにしていきたい」というユーザーにとって、どちらかを先に購入しても、投資が無駄にならないという意味において魅力的だ。

 ただ、3D画質に関しては、現在のままでも悪くはないが、2D画質と比較すれば、まだ伸びしろがあると感じる。特に3D映像の暗さだ。完全暗室で見ても暗いのは改善を要すると思う。たしかに3D眼鏡を明るくする設定で見れば明るくはなるのだが、そうなると今度はクロストークが顕著になり気分が悪くなる。

 VPL-VW90ESは、光源ランプを従来モデルから踏襲しているため、輝度を大きく上げることはままならなかったが、次期モデルでは、3D画質の暗さを改善するためにはランプ出力はあと1.5倍くらい欲しいと感じる。

 2Dモード時は黒浮きへの配慮から1,000ルーメン程度に抑え、3Dモード時には1,500ルーメン前後にするという設計が良いように思えるのだが、どうだろうか。将来的には、3D眼鏡の明るさ設定が不要になるよう、十分な明るさを確保して欲しいと思う。

 ビクターからも反射型液晶パネルベースの3DプロジェクタDLA-X3/7/9が発売される。こちらは輝度スペックが1,300ルーメンだ。こちらの画質がVPL-VW90ESと比較してどうなのか、気になっている読者は多いはずだ。今後、こちらも評価したいと考えている。

(2010年 12月 9日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。