樋口真嗣の地獄の怪光線

第16回

誰か教えて“2001年の沼”。そしてドルビーハシゴすべく、いざ九州・博多へ

低域のハム音がメチャクチャ気になるんですけど俺だけですか?

そういえば「2001年宇宙の旅」がらみで気になることがいくつかあって。

IMAX版を二子玉川で観た時に休憩後の“HAL9000の叛乱虐殺シークエンス”というか、AE35ユニットの修理から始まる船外活動……無音の宇宙空間で、船外活動用宇宙服内部の強制換気ノイズと、宇宙飛行士の呼吸音だけが続く場面から後半がスタートするんですけど。Rチャンネルからずーっと低域のハム音がダダ漏れになってて、メチャクチャ気になるんですけど俺だけですかね?

2週間限定で上映されたIMAX版「2001年宇宙の旅」(写真はポスター)

音響編集的に無音と演出的に強調しているベースノイズの差が明確なだけに、無音になった時、そのハム音だけがやたらと聞こえてくるんです。

その後、成田HUMAXシネマズのIMAXで見た時は、前半はそういうノイズは聞こえず、やはり休憩後の後半からずーっとハム音です。となると劇場固有の問題ではなく原版に起因する問題なのでしょうか。その前に国立映画アーカイブで観た70mm版でそういうことが気になることはなかったし、1ヵ月延期して発売されたUHDを観てみても、これまたそんなハム音が聞こえることはありませんでした。

みんな気にならないのかな? とネットで探しても、同じ意見は見つからず。俺だけなのでしょうか、ハム音。あまりにも高音質だと、そういうことが気になりだすってことなんでしょうか?

(C)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

さらに日本版UHDが待ちきれず、オンタイムで発売された米国版を取り寄せたら、日曜洋画劇場で一度だけオンエアされた、知る人ぞ知る吹き替え版を収録。前半の主役・フロイド博士の声を、ムラマツキャップの小林昭二さんがアテていて、後半の主役(?)・HAL9000をマグマ大使の金内吉男さんという昭和41年の裏番組対決の様相を呈して、断末魔のHALが唄う「デイジー」の恐ろしさたるや!

そんな幻の吹き替え版を仲間内で唯一録画していたアニメ演出家の増尾昭一さんが焼いてくれたDVD-Rをずっと宝物のようにしていました。そんな増尾さんも残念ながら鬼籍に入って1年半。もう少し長生きしてたら、高画質の吹き替え版が観れたのに……

惜別の思いも混じりつつ、待望の発売となった全部入り仕様なUHD(惜しむらくは淀川長治さんの解説がないぐらい)ですが、1ヵ月遅れで発売された日本版と米国版の差異が分からないのです。なんで日本版は1カ月遅れたのでしょうか? というか、1ヵ月遅らせただけの仕様の違いってなんなのー!

公開から50年経っても、謎ばかりが残るのが“2001年の沼”なのでしょうか?

次は「時計じかけのオレンジ」ですかね。もちろん劇場公開版の黒丸入りのやつ。

【初回限定生産】2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版 <4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター>(3枚組/ブックレット&アートカード付)
(C)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

いざ博多へ。やるぜ豪華3本ドルビーハシゴ! またの名をHDRトライアスロン!

で、カナダが生んだハイスペック映像体験の元祖・IMAX(アイマックス)に対して、カセットテープのノイズリダクション時代から我々を虜にしてきた“ダブルDマーク”の研究所が満を持して世に問う高画質上映フォーマット、その名も「ドルビーシネマ」が2018年11月に国内初上陸! ただし九州は福岡の「T・ジョイ博多」に!!

日本初のドルビーシネマを導入した「T・ジョイ博多」。JR博多シティ9階にある

2015年のオランダ、そして「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」などをきっかけにアメリカやヨーロッパにも劇場が出来始め、アジアでは中国に先を越されていたら国内では九州に!

そうですよ。IMAXも、4DXも、東京はいつも後発でしたよ。住みづらい街ですよ。映画も見れませんよ、東京なんて!

と、拗ねつつも「ドルビーシネマ行きたい!」と思っていたらチャンス到来です。

行きますよ。しかも今(編注:1月某日)なら国内のこけら落とし作品だった「ファンタスティック・ビースト」シリーズの2作目「黒い魔法使いの誕生」に、「アリー/スター誕生」に、「ボヘミアン・ラプソディ」という1日にして豪華3本ドルビーハシゴ、またの名をHDRトライアスロンが可能な日程!

数多のビッグバジェット映画のエンドロールに、ドルビーシネマロゴがIMAXと並ぶようになってから、まだ観ぬドルビーシネマに胸踊らされながらもその実態はよく分からない。

なんなんだドルビーシネマ!

ドルビーシネマのシアター内イメージ

そもそも「ドルビーデジタルシネマ」というフィルム上映とデジタル上映の端境期に提唱されたフォーマットがあって、主に3D上映方式で一瞬出回ったこともあり、紛らわしいのだけども、それとは全く別物のHDR規格「Dolby Vision」と、オブジェクトオーディオ規格「Dolby Atmos」の組み合わせによるすごい映画上映が体験できるというではありませんか。

dbxや日本ビクターのANRS(アンルス)、東京芝浦電気のadres(アドレス)、アイワのFNRS、ナカミチが採用したHIGH-COM(ハイコム)とか色々ありましたが、わたしゃドルビー一筋。ドルビーNRでヒスノイズ低減されたハイ・ファイサウンドの洗礼を受けた世代ですし、ドルビーステレオに始まる映画のサラウンド革命の渦中に育ち、ドルビーサラウンド、ドルビーデジタル、ドルビーアトモスと映画の音響進化とともに我が人生があると言っても過言ではございません。

その最先端が九州・博多にあるならば、何が何でも体験せねばですよ。

というコトで行ってまいります!

博多行きの新幹線「のぞみ」

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。