樋口真嗣の地獄の怪光線

第35回

ひと手間かけて魂込めるUHD化。“新たな扉”が開いた監督の行く先は

「シン・ウルトラマン」
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

いやはやすいません。

なんか謝ってばかりですいません。

この連載でやりたい野望もいっぱいあるんですが、なかなかまとまった時間が作れず、先にいけないんですが、前回発覚した「たとえどんな高画質フォーマット、高音質フォーマットであろうと、配信とお皿じゃ密度が違うではないか問題」のせいで、配信という大海原であれもこれも高画質・高音質で見放題じゃー! って大きく膨らんだ夢も野望も、「もっといい画質があるんじゃないか」って疑念が先に立ってしまい、「やはり俺はピカピカ光るクルクル回るディスクの子だぜ!」と予約でいっぱいになって買いそびれることを恐れて、ついつい押しちまうではありませんか。いえ、別に後悔してませんけど!

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

いつまで出せるのか? 今出せるなら出して! というやりとりの中で先行配信したのにパッケージ化、どうせやるなら4KのUHDで、そこまでならゴジラの時と同じ仕様だけど、ウルトラマンはドルビーシネマで上映したんだから、その仕様で出せませんか? 劇場と同じデモリーダー付きで……とお願いしたら、実はドルビーシネマとドルビービジョンって別物というか、HDR映像の規格であるドルビービジョンとオブジェクトオーディオ規格のドルビーアトモスを備えた上映設備をドルビーシネマと謂うので、パッケージになったらドルビーシネマとは名乗れないから、あの感動的なデモリーダーはつけられないというのです。

だけど、あの画面中央のドルビーマークの半円が動いて重なり白い円になったところで「あなたが見ているのは本当の黒ではありません」というナレーションと共に周囲の黒がズーン! って落ちる感動がほしかったんですけどねえ。

Dolby Presents: "Universe" | Trailer | Dolby

ドルビーデジタルのレーザーディスクには何種類かのデモリーダーがついていて、それが実はサラウンド音声の特性を一番活かしているのではないかってぐらい気持ちよく音が回るんですよねえ。

ルーカスフィルム提唱のTHX規格のパッケージも始まる時に、太い無階調音が果てしなく上昇と下降が重なるので始まりました。ああいうのがあると買って良かったって思えたんですけどねえ。

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

シン・ウルトラマンの時は作業をしていた東宝スタジオに劇場用ドルビーアトモスに仕上げる設備がないので、通常の劇場公開用素材を、設備が揃っている東映スタジオでアトモス用の作業をして、ドルビーシネマ用に専用のアップコンバータを介して、約1カ月かけてドルビービジョン化して、6月10日から劇場公開しました。

それをそのまま4K UHDにも使えるかというと、また一手間かけなければならず、さらに部分的にオーサリングしたディスクでチェックしたら、使用しているモノラル音源のオリジナルスコアが含んでいる“ヨレ”が音の定位に影響を与えているように聞こえたので、それを修正したりして、最高の状態にしてリリースしました。買って頂いたお客様によろこんでいただけるように。それが長く手元に置いてもらえる“モノ”に必要な魂ではないかと思うのです。

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

取っておきたいほど欲しいと思っていただける気持ちに対するお返しであります。

だから壮大なスケール感と裏腹に、今は亡き昼過ぎにやってた家族もののメロドラマみたいな展開で正直言いたいことは山のようにあるけど、それでもやっぱり手元に置いておきたいアバターの続編が、いち早くApple TVでドルビービジョン&アトモス仕様でデジタル配信されるけど、そのうち4K UHDで出るんじゃないかと慎重になっちゃうんですよ。どうせ聴くならUHDの方が、って思っちゃうワケですよ。

そうしたら願いが届いたのかUHDが出るって発表されるし。

しかしなんだろうなあ、ハードウェアやプラットフォームやフォーマットのアップデートよりも、自分の耳がアップデートされるスピードっていうんですか? こっちの方がいい音だよっていう刺激……もちろん自分からそういうのに飛び込んでいるっていうのもあるかも知れないんですけど、いいモノ聞き過ぎて耳年増になっちゃって後戻りできないんですよもう今更。

知り合いのデザイナーとか、知り合いの鍛冶屋とか、昨日今日始まったわけでない“好き”を極めた先達の到達点はどれもシンプルでデカいんですよね。

このデカさが孕んでいる奥行きというか深みを、デカくないモノでなんとか同じとこまで持って行けないか? というのが、AVの中でも“A”の世界の歩みだったんじゃないかと最近思います。

そうなると俄然気になってくるのが前回(と言っても去年)のデノンのアンプ「AVR-X4700H」背面にみつけたプリアウト端子に、文字通り端を発して導入したパワーアンプを介してフロントのLRスピーカーを鳴らした時に聞こえた新たな世界の扉の開く音!

まだまだやれることがあるんじゃないのか? と言っても、やらなくて済む人生というのもあるはずだし、世の中の多くの人はやらずに生涯を終える場合だらけだろう。

「しかしお前様は今何をしている?」

「AV Watchの原稿を書いております」

「ならばなぜ何もせぬ。お前が右に左に狼狽え彷徨う姿を読者は求めているはずじゃ」

その時、空に光る筋が何かの形を描いた! 立て! 撃て! 斬れ! フーンヌっ!

声は納谷悟朗さんだからオッサンぽいがウルトラ五番目の兄弟だぜ。この日のためにシールドを剥いて繋いでいたバナナプラグで一閃貫く最高のスピーカーはどこだ! どこからでもかかってきやがれ!

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。