樋口真嗣の地獄の怪光線
第34回
やっぱり円盤は離れられない! “ウルトラ”駆け抜けた監督の近況報告
2022年12月28日 10:00
いやー! すいませんすいません。
今年2月に調子づいて2回続けて新型AVアンプ導入を書いたあたりで雪崩落ちるように本業が忙しくなりまして、本連載は全くもって手つかずになっていました。
残念ながら私の本業は視覚、聴覚が絡み合って出来上がっているので、コンテを描いてる時以外は“ながら作業“ができないのです。アトモスをガンガン回しながらオフライン編集や音楽や効果音を貼ったりできたらどんなに幸せだろうと思って試しに一度やったら頭がパンクしました。もうしません。
そんな修羅場の中でもAV環境は少しづつではありますがアップデートして参りました。
特に年頭に導入したデノンのAVアンプ「AVR-X4700H」の背面を見てたらスピーカー出力が余っています。
セッティングするので舞い上がってちゃんと読み込んでなかったマニュアルを見ると…。
本機内部の9チャンネルのパワーアンプとプリアウト端子に接続した外部のパワーアンプを使用し、最大11.1チャンネルで再生します。
なに? 11.1チャンネルとな?
さらに2台のスピーカーをリアに追加してパワーアンプがあれば11.1チャンネルに?
これはデノンから仕掛けられた俺への挑戦状です。
お前は9.1チャンネルで満足しているのか?
ちっぽけな幸せに妥協してはいまいか?
ほんとうの自分を隠してはいないのか?
君の青春は今、輝いているのか?
でえええい!
受けて立とうではありませんか!
当時仕上げ中だった「シン・ウルトラマン」もドルビーシネマ上映が決まって後付けですがアトモス版も作ることになりましたから、その監督がフルスペックのアトモスでなくてどうするってもんです(フルスペックのドルビーアトモスは11.1chなんてものではありませんが)。
まずはパワーアンプを調達せねば。
モアパワー、モアエナジー! チャージ! …というかパワーアンプってなんなの?
俺が知っているパワーアンプは中高生の頃のオーディオブーム。大型のコンポーネントステレオの上位機種は信号を増幅してスピーカーに届けるパワーアンプと、パワーアンプの直前で信号を切り替えたりするためのプリアンプに分けることで干渉が軽減されるらしい…って、電気屋で集めて読んでわかったつもりでいたカタログで読んだっきり、オーディオ製品は重厚長大から軽薄短小に大きくシフトしていって自室に置かれることはなかった機材、それがパワーアンプ。
探し始めると往年の名機をレストアして鳴らす記事とかを見つけて出来るかどうかも分からん癖に一丁前に惹かれるけど残念ながらそんな暇はないからもっと手軽な方法を探して手に入れたのはソニーの「TA-N330ES」。
1965年からずっとソニーはES…Extremely High Standardという称号をつけたオーディオ製品を世に出してきてまして、これが最上位機種ですよって合図だってことは当時カタログ集めて眺めているだけでハイファイサウンドが脳内に再生していた紙オーディオマニアの私には深く刻まれていたんでもうその型番見ただけでフラフラと吸い寄せられちゃいます。お値段お手頃ですし。ドーン。凄いです。
とりあえずフロントのLRをプリアウトにして、ES様を通してヤマハのNS10から出すだけでおお! ちょっとだけピュアオーディオに近づいたような錯覚が。これってスピーカー替えたら大化けするんじゃね? と、11.1ch化が目的だったのに早くも本末転倒。
暇を見つけちゃ飲みに誘って新しい機材を自慢してくる“東新宿のスネ夫”が、俺はピュアオーディオに目覚めたとかなんとか言い出して、マランツのアンプとかJBLのスピーカーとか買っちゃ「オブジェクトオーディオなんて電気信号のまやかしだ」「真のステレオはLR2本で充分だ」とか自説を一席ぶって自慢するわけですよ。流すのはゲームミュージックなのに!
よし! 逆襲じゃ! オブジェクトオーディオの逆襲じゃ!
と騒いでいても映画の公開日は近づいてくるので粛々と進めなければならないのです。同時進行の便乗企画「シン・ウルトラファイト」も映画の公開に合わせて配信するのでそっちの作業もやらなきゃ! なので、せっかく11.1chにアップグレードした我がシアターが火を吹くこともなかなかなかったのでございますです。
それでも新作は次々配信されますが、Disney+以外の配信元は自社製作のコンテンツ以外のいわゆる賃貸物件での4Kやアトモス配信はごく稀で、決してそれまでのディスクメディアに取って代わられる、ということにはなりませんでした。
でもApple TVで購入すると、結構いろいろな作品が最高品質で入手できました。
「スーサイド・スクワッド」、「DUNE/デューン 砂の惑星」、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」や、エドガー・ライトの「ラストナイト・イン・ソーホー」どれもいい絵いい音しかもディスク版のリリースよりも早くディスク版よりも安く手に入るのですから迷うことなくポチってきました。
「ロード・オブ・ザ・リング」や「ホビット」のトリロジーなんてとんでもない値段でセット販売されていて、もはやディスクメディアもこれまでかと観念して配信版で先行リリースの「トップガン マーヴェリック」もダウンロードです。ロバート・ワイズのスタートレックTMP(The Motion Picture)のディレクターズ・カット版もお手頃価格で出てるし! そしてポチったらすぐにその場で、自宅に居ながらにして最高の状態で鑑賞。これが新しい生活様式なのか…最高じゃねえか!
と、ひとり悦に入ってたら、予約していたことすら忘れていた4K UHD版の「トップガン マーヴェリック」がAmazonから届きました。なんて事だキャンセルするの忘れていたぜ…最後のお布施が「マーヴェリック」だったらそれもまた良しか。と儀式のようにパッケージからディスクを取り出してプレーヤーに掛けます。
あれ?
なんだこれは!
空間を満たす音の密度というか量感がまるで違う。
配信版の音はそれぞれのチャンネルにすべてくまなく配置されているけれど、なんか輪郭だけって感じがする。情報として取り出したものが羅列されているから満たされはするんだけど、いざディスクと聴き比べたら中身がぎっしり詰まっているんですよ、圧縮してないデータとでもいうか、アンコが詰まってずっしり重い広島県呉市のメロンパンというお店のアンパンみたいな。情報とか数値では表現できない何かがUHDには記録されているのでしょうか?
なんだか心霊現象のレポートみたいになっちゃいましたが、やはりディスクに代表されるパッケージメディアとは、しばらく離れられそうもありません。