西田宗千佳のRandomTracking

第396回

「Oculus Go」に見る“みんなのVR”時代。VRで実現するパーソナルごろ寝シアター

 5月2日に販売開始された「Oculus Go」製品レビューをお届けする。Oculus Goは、Facebook傘下のOculusが開発した「一体型VR用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」、いわば「スタンドアローンVR」である。同時期にレノボの「Mirage Solo」も発売になり、本連載でもレビューをお届けしたばかりだが、そのライバル機とも言える。

Oculus Go。価格は32GBモデルで23,800円、64GBモデルで29,800円

 Oculus Goは、Oculus本社からの通販のみ、という制約があるものの、販売価格が税込み・送料込みで23,800円(32GBモデル)からと、これまでのVR HMDの中でもかなり安価なのが特徴だ。筆者も発売開始とともに注文したが、数日で自宅に到着した。

 低価格なVR機器として、Oculus Goはどんな特性を備えているのだろうか? 試してみて分かったのは、「パーソナルシアター」として作り込まれた、圧倒的な体験の良さだった。

スピーカー内蔵でヘッドホン不要、メガネは楽に使える

 Oculus Goはシンプルなパッケージで送られてくる。ハイエンドVR機器はPCやPS4に接続するためのケーブルや外部センサーがあり、パッケージ内容はどうしても複雑になる。一方で、スタンドアローンVR機は、本体の他にはコントローラがあればいいくらいOculus Goも、本体の他には電源ケーブルとなるMicroUSB(Type-B)ケーブルとコントローラ、コントローラ用の単3電池にストラップ、といったところ。ちょっと面白いのは、メガネを使う時のための「メガネスペーサー」が入っているところだ。これについては後述する。

 なお、米国向けの出荷製品には、USB充電のためのACアダプタが付属しているが、日本モデルにはない。PCや一般的なUSB充電器で問題なく使えるため、さほど問題ではないだろう。

Oculus Goのパッケージ。写真は64GBモデルだが、32GBモデルでも数字以外大差ないようだ
パッケージ内には製品がきれいにならんで入っている
同梱品は、本体とコントローラの他は、ケーブルと電池が入っているくらい。メガネを使う際に使う「メガネスペーサー」の存在が目を惹く

 ヘッドバンドはゴムバンド製で、シンプルだ。ボディのインターフェイスも同様にシンプルで、上方に電源と音量調節ボタン、左側に充電などに使うMicroUSB(Type-B)のコネクタと、ヘッドホン用の3.5mmコネクタがあるだけだ。セッティングが終わっていれば、中央の電源を押してサッとかぶるだけでいい。

頭を固定するバンドはゴム製。ベルクロで長さを調節する、非常にシンプルなものだ。その分、本体が軽く小さくなっている
上面。中央が電源ボタンと電源用のLED、右にあるのが音量調節ボタン
底面。特になにもないが、マイクを内蔵しているのでその穴がある
左側面。MicroUSB(Type-B)のコネクタと、ヘッドホンのコネクタがある。よく見ると、生産を担当したシャオミのロゴが
右側面。こちらにはなにもない

 ユニークなのは、この外見でスピーカーを内蔵していることだ。ヘッドバンドの付け根にスピーカーがあり、そこからプラスチックのパーツを通して耳の横へ音を流す。その仕組み上、音はかなり派手に外に漏れる……というか自分以外にもかなり聞こえる感じなので、ヘッドホンとまったく同じ使い方はできない。だが、自宅など、多少音が漏れてもいい時には非常に役に立つ。

 そもそもVR機器では、「ヘッドホンをつけなければいけない」ことも、面倒くささのひとつだった。それすらなくし、徹底して「シンプルで楽」に使えるようになっている。

バンドの付け根にはスピーカーが入っていて、プラスチック式の支柱を通し、スリットから音が出るようになっている。このため、ヘッドホンをつけなくても音は聞こえる

 顔にあたる部分はやわらかなクッションになっていて、ある意味ここで頭を支える役割も果たしている。このクッションは取り外し可能になっており、拭き取ったり洗ったりもできる。ただ、クッションを取り外す主な意味は、メガネを使う時のための「メガネスペーサー」をつけるためだ。

本体内部。クッションの部分が顔にあたる。レンズは専用設計で、黒いリング状のパーツを使い、クッションを挟み込んで留めるような構造になっている

 クッションはリング状のパーツでレンズ部に「挟み込む」ような形でついている。リング状のパーツを外す時にちょっと力が必要で、少し戸惑いがあるが、壊れるようなやわなものでもない。メガネをかける人は、ここにゴム製の「メガネスペーサー」を入れ、再びクッションを挟んで留める。

クッションを外した。クッションはかなり大きな立体構造のパーツになっている。ここに「メガネスペーサー」を入れる

 ただし、「メガネスペーサー」は必須というわけではない。本体内には十分な空間があり、よほど大きなメガネでなくても入る。レンズにあたらないなら、メガネスペーサーは不要だ。筆者の場合、メガネスペーサーなしの方が快適だと感じた。

Oculus Goをつけてみた。表面がフラットなので、非常にシンプルな外見だ

 メガネが楽に入るくらいHMDの内部には空間があるのだが、同様に「鼻が入る場所」もかなり空間がある。日本人としては標準的な鼻の高さ(だと思う)の筆者だと、かなりスペースが空く。というかぶかぶかだ。この辺は、鼻が高い欧米系の人々への対策なのだろう。その分、鼻とのすき間から光が入りやすく感じたが、逆に、手元がちょっと見えやすい……というメリットもある。

設定はスマホアプリでシンプル化

 同時期に発売で似た特性を持っているので、レノボの「Mirage Solo」との比較が気になる方も多いだろう。筆者もそうだった。

同じスタンドアローンVRのレノボ「Mirage Solo」と比較。左がMirage Solo。バンド部がプラスチックかゴムバンドか、という違いで、ボディサイズがかなり異なっている

 すぐにわかる違いは「大きさ」だ。Mirage Soloはプラスチック製のしっかりしたヘッドバンドがついており、その分かさばる。パッケージも大きかった。

 一方でOculus Goはすでに述べたようにゴムバンド製。調節もベルクロで行なう。そのため、ボディがかなり小さくなった印象を受ける。重量も、Mirage Soloが約645gであるのに対し、Oculus Goは約400gと軽い。

 ならOculus Goの圧勝なのか……というとそうでもない。Mirage Soloは頭と額でHMDを支えるため、頬への負担感が小さく、しっかりつけていればより軽く感じる。一方でOculus Goは、どうしても「頬で支える」感じがあって、気になる人は気になるだろう。

 だが、これを「優劣」と考えるべきではない。Mirage SoloとOculus Goでは狙うところが違っており、その設計思想の違いからバンドの選択が変わったのだ、と考えるのが妥当だ。

 実は、Mirage SoloとOculus Goは同じサイズのVR用液晶(5.5インチ)を採用しており、プロセッサーも性能こそ異なるが、同じQualcommのSnapdragon系。ボディを構成する要素としては、外界認識用のセンサーくらいしか違わない。詳しくは後述するが、Mirage Soloが「空間全体を移動できる」のに対し、Oculus Goは「自分を中心に向きを把握できる」だけだ。

 両者は、「外界を認識して自分の位置を把握するか否か」、いわゆるポジショントラッキングの有無、という1点において、開発ポリシーがまったく異なっているのだ。

Oculus Go(右)はシンプルな前面だが、Mirage Solo(左)は、位置把握用の二眼センサーが見える。この存在が両者を大きくわけている

 なお、コントローラもボタン兼用のタッチパッド+ボタン2つ、モーションセンサー搭載で、かなり似通った特性を持っている。Oculus Goのコントローラはトリガーがついており、タッチパッドの押し込みと同じように機能する。これがかなり快適で、コントローラの操作については、Oculus Goの方が良い。Mirage Soloのコントローラは、上下を間違えることが多い。特にHMDをかぶった時は手探りで持つために間違えやすい。Oculus Goのものは形状的に「間違えない」ため、イライラしづらい。

Oculus Goのコントローラ。付属の単3電池1本で駆動。
Mirage Solo・Daydream View用コントローラ(右)と比較。機能的にはほぼ同じだ
Oculus Goのコントローラにはトリガーボタンがある。「決定」などの時に使う

設定はすべて「アプリ」から

 では、セットアップして実際に使ってみよう。

 ある意味で、他のVR用HMDとOculus Goを分けるのは、このセットアップ過程といってもいい。

 Oculus Goのセットアップは「Oculus Goを触らない」のが特徴だ。ほとんどの作業を、スマートフォンと専用アプリを使うのである。

 Oculus Goの電源を入れる前に、まずスマホアプリをダウンロードする。すると、各種設定をステップ・バイ・ステップで行なうプロセスが始まる。スマホはiPhoneでもAndroidでもいい。アプリはスマホ向けに作られているが、Wi-FiとBluetoothがあるならタブレットでもできる。Wi-Fiやアカウントの設定も、スマホのキーボードで入力する。コントローラの設定にいたっては、コントローラに電池を入れるところから本体へ接続するところまで、自動的に終わる。

 他の人にOculus Goを使わせないように「アンロックパターン」を設定することもできるが、これもスマホアプリ上で行なう。すべてがスマホの上で完結するので、とてもシンプルだ。

スマホアプリから設定。スマホの近くにOculus Goを置いて電源を入れれば、Bluetoothでつながって設定をスマホから流し込む
(左)Wi-Fiの設定はスマホ側から
(中央)コントローラの設定。イラスト通りに電池を入れると、自動的に設定が終わっている
(右)設定が終了。スマホアプリからは、Oculus Goに設定されたアカウントの他、バッテリー残量などもわかる
アンロックに必要なパターンを設定。端末内では、コントローラで一筆書きするようにパターンを描いてロックを外す

 OculusはOculus Goのユーザー層を「先進的なゲーマー」や「VR開発者」ではなく、「Facebookを日常的に使っている普通の人」に設定している。日常的にスマホを使い、その上でFacebookアプリを使っているような人々だ。Facebookアプリとコンパニオンアプリは連携するので、アカウント設定はさらに楽になる。

 さらには、アプリを購入してOculus Goにダウンロードし、セットアップすることもスマホ上から行える。

コンパニオンアプリからはOculus Goのアプリも買える。決済はクレジットカード登録の他、PayPalが利用可能

 とにかく「VRの流儀」を知らない普通の人にも、とにかく簡単に設定が終わるように配慮されているのがOculus Goの特徴だ。日本語化もほぼ完璧である。

画質は良好! ランチャーは「アプリ体験」に特化

 かぶってみると、まずは画質に驚く。きわめて良好だ。使っているディスプレイは5.5インチ・2,560×1,440ドット(両眼分)のVR用液晶。おそらくは、Mirage Soloと同じ液晶である。Mirage Soloのレビューでも書いたが、スタンドアローンVRの画質は、これまでの「スマホ向けVR」の常識を完全に打ち破るものだ。すっきりとしており、不自然な暗さもない。OS上の特性なのかそれとも機器の作りなのが、コントラスト感ではMirage SoloよりOculus Goの方が優れているように思う。どちらにしろ、これまでのハイエンドVR機器と比肩しても見落とりしないもので、これがたった2万数千円で買えるのは信じられない。

 注意が必要な部分があるとすれば、Oculus Goは、映像が最適に見えるスイートスポットが少々狭いことだ。ズレると視野周辺部ににじみのような色収差を感じ、目も疲れやすくなる。スイートスポットに入っていればさほど問題はないので、バンドの調節も含め、「自分なりのスイートスポットの把握」はしっかりやった方がいい。

 画質に加え音質もいい。Oculus Goは前述のように、ヘッドホンがなくても音が聞こえる。ハイエンドAV的な意味での高音質ではなく、音の帯域はそれなりに狭いのだが、音場の広さや定位も含め、「かぶるだけで体験できる」ものの価値としては非常にいい。特に、少し音を大きめにした時の臨場感はなかなかである。

 Oculus Goをかぶり、コントローラの「Oculus」ボタンを長押し(これは、正面の方向を定めるための儀式のようなものだ)すると、VR空間内にはOculusのランチャーが表示される。Gear VRやOculus Riftなどで採用されているものをベースにしているが、シンプルでVR空間に特化した形で作られていて、わかりやすい。

Oculus Goのランチャー画面。アプリのストアと一体化している
Oculus Goのランチャー。ストアの体験はスマホ版やウェブ版とは大きく異なる

 Oculus Goで出来ることは、「アプリを起動すること」と「アプリを買い、ダウンロードすること」に特化。細かな機能はアプリの側に依存している。

 このあたりは、Mirage Soloに搭載されている「Daydream OS」にも共通した要素だ。Mirage SoloにしろOculus Goにしろ、ベースになっているOSはAndroid。Mirage SoloはGoogle謹製の「Daydream OS」であるのに対し、Oculus Goは、これまでサムスンのGear VR向けに提供してきたランチャーとアプリ動作環境をベースにしており、親戚のようなものだ。ただし互換性はなく、ストアも別だ。そのためか、両者には同じアプリも多い。

 Oculus Goのランチャーの背景は360度の静止画になっていて、いくつかの選択肢から変更することができる。

「環境」として、ランチャーの背景になっている360度写真の変更が可能。ただし、プリセットから選ぶ形式で、自由なファイルを選べるわけではない

 Daydream OSを使ったMirage Soloは、背景を変えられない。一方、Daydream OSでの背景は360度写真ではなく「立体の空間」だ。

 Mirage Soloはポジショントラッキングの機能を持つのに対し、Oculus Goは持たず、自分が向いている方向に追従するだけだ。そのことが、OSが使っているランチャーの作りにも現れている。

 すなわち、純粋に「VRを再現する機能」としてはMirage Soloの方が秀でており、Oculus Goは限定的な体験しか与えられない……といういい方もできる。

ごろ寝シアターでは「ゴムバンド」が効いてくる

 だが一方で、「購入直後に個人が、単独の機器の中で体験できるものの満足度」という意味で言えば、Mirage SoloよりOculus Goの方が良い、と筆者は感じた。

 それは、Oculus Goが「あえてシンプルな体験に切り出した製品」に仕上がっているからだ。

 VRというと我々は「どこにでも移動できる仮想空間」を思い浮かべる。しかし、それを実現するのは、ハイエンドVRでもなかなか難しい。Mirage Soloはそれを低価格で実現しているからスゴイのだが、まだ色々制限もある。

 Oculus Goは、あえてポジショントラッキングを捨て、「自分を中心に360度すべてをディスプレイに変える」という、VRの一要素だけに特化した製品になった。要はスマホ用VRと同じレベルだが、それを「手軽かつ、今手に出来るハイレベルな体験」としてまとめたのが、Oculus Goの良さである。

 ゲームもいいが、Oculus Goが狙った用途で見ると、もっとも相性がいいのは「映像・画像を楽しむ」こと。要は、目の前に「自分専用のホームシアター」がある、という状態を作るためのツールなのだ。

 Oculus Goにはいくつもの動画再生ツールがあるが、まずなにより体験して欲しいのは「Netflix VR」である。これはMirage SoloやDaydream View、Gear VRにもあったアプリなのだが、Oculus Goとの相性が特にいい。バンドがゴム製であり、寝転がっても頭にゴツゴツとしてあたらないため、寝っ転がって映像を見るには最適だ。

Netflix VRアプリ(写真はMirage Soloのもの)

アプリがなくても「ブラウザ」「PC」で多様なサービスに対応

 Netflixを見るだけなら、Mirage Soloでも大差はない。むしろ、Google系のアプリがあり、そちらが優秀な分、Mirage Soloの方がいい、というところもある。

 VRもご多分に漏れず、大手プラットフォーマーの競争のさなかにある。OculusはFacebook傘下であり、Mirage SoloはGoogleのプラットフォームを使っているため、Oculus Go上にはGoogle系のアプリがない。Amazon系のアプリも、アップル系もない。

 だが、それでも実用性は低くない。

 理由は、ランチャーに「ウェブブラウザ」が統合されているからだ。スマホ・PC用のサイトが閲覧できるのはもちろんだが、ウェブアプリやPC用の動画サイトも見れる。しかも、「全画面モード」で動画を再生すると、各種UIが消え、巨大な画面での表示に変わる。

Oculus Go内蔵のウェブブラウザ。動画系サイトにアクセスし、アプリなしでサービスを楽しむこともできる。だから、Google系アプリが排除されていてもYouTubeは見れる。
YouTubeを「全画面」で表示。画像上は湾曲して見えるが、HMD内で見ると、映画館の中程から巨大なスクリーンを見た感覚に近い

 どんな動画サイトが見れるか、筆者が可能な範囲で検証してみたのが以下のリストになる。どのサイトの場合にも基本的には、ブラウザの表示を「モバイル」ではなく「デスクトップをリクエスト」ボタンを押し、PC用ウェブを表示するモードに変えるのがポイントだ。専用アプリはNetflixとniconicoくらいしかない(どちらもGear VR時代からあった)が、YouTubeやAmazon Prime Videoを含め、けっこうな数の動画サイトがOculus Goの中から視聴できる。

 なお、GoogleのVODである「Google Play TV & Movie」は、購入後のコンテンツがYouTubeで見れるため、Oculus Goでも利用可能だ。Amazonも同様で、見放題コンテンツはもちろん、都度課金コンテンツも見れる。dアニメストアは再生後に、さらに表示モード切り換えすることで一応再生はできる。またniconico版のdアニメストアは再生可能だ。

国内のVODについて、PC・モバイルのウェブ版が、Oculus Goで再生できるかを試してみた。意外なほど多くのサービスが問題なく見られる

 Mirage Soloが採用するDaydream OSには現状、標準ブラウザがない。だから、動画を見るには「専用アプリ」が登場しないといけない。ウェブブラウザによって、アプリの登場を待つ必要がないことが、Oculus Goの現状の強み、といってよい。

 Oculus Goのウェブブラウザは、もちろん文字を読むためにも使える。実質解像度はそこまで高くないが、気になる情報を確認したり、ウェブ経由でSNSをチェックしたりすることも可能だ。

 ただ、「マルチウインドウ」環境ではないので、VRアプリの上にウェブなどを重ねて表示することはできない。また、通常のAndroidアプリを動作させることも、基本的には難しい。この辺は、Daydream OSと同様である。

ウェブブラウザは動画専用ではなく、普通にウェブも見られる。表示するウェブの幅は3段階に変えられて、PC用・スマホ用のウェブを見られる。
ウェブサイトの表示。操作はすべてコントローラで行うが、意外とサクサクウェブが見られる

 また現状では、日本で使う上では大きな問題もある。ソフトウエアキーボードが「日本語に対応していない」のだ。検索も出来るが、アルファベットしか入力できない。欲を言えば、音声認識に対応してくれると、色々便利だと思うのだが……。

キーボードレイアウトの中に「日本語」はない。表示などはほぼ完璧な日本語化がなされているが、入力はまだのようだ

 なお、VR環境向けには「PCから画面を転送し、VR空間内で大きく表示する」アプリ・サービスも少なくない。Oculus Go向けにもDaydream向けにもいくつか存在する。特にOculus Go向けには、ハイエンドVR向けとして人気がある「Bigscreen」というアプリがあり、これを使うと、PC上の画面や音をなんでも転送できる。

 テレビ録画を見るには、著作権保護技術である「DTCP-IP」に対応したアプリが必要だが、日本以外ではマイナーであるため、現状、Oculus Goから直接視聴はできない。しかし「Bigscreen」を介し、「PC上で再生した動画を見る」ならば対応できる。PC上でゲームを動かしてそれを楽しむことも可能だ。Oculus Go内蔵ブラウザで対応できないサービスは、「Bigscreen」を使ってPC経由で楽しむ……という方法もある。

 もちろん、PCを経由するのは相当に大げさであり、すべての人にお勧めできるわけではない。またそもそも、「単体でわかりやすく」というOculus Goの思想とは乖離しているようにも思う。

 それはともかくとして、Oculus GoはスタンドアローンVRとして「映像ならなんとでも表示する方法がある」のは事実で、ある意味そこがAV機器として優れているとも言える。

アプリ「Bigscreen」を使い、PCの画面を転送。nasneが視聴できる「PC TV Plus」を使い、録画番組を見ることもできた

コンパニオンアプリとの連携で価値が向上

 Oculus Go標準の画像閲覧アプリ「Oculus Gallery」などを見ると、また別な設計思想的な部分が見えて来る。

 写真や動画を見る「Oculus Gallery」では、Facebookの他にDropboxや「自分のスマホの中」の写真を見られる。

 Facebookの写真が見れるのは、OculusがFacebook傘下である、ということだけが理由ではない。多くの人はFacebookに多数の思い出の写真をアップしており、Facebookが「世界最大級のフォトストレージ」であることに疑いがないからだ。これをVR内で見たい、と思うのは必然である。

Facebookから写真を呼び出して表示。OculusがFacebook傘下であることもあるが、Facebookの「フォトストレージ」としての顔を思わせる機能だ

 Dropboxと連携する場合には、コンパニオンアプリから「スマホ内のDropboxアプリ」経由で認証連携を求め、Oculus Go内からDropboxを見られるようにする。Oculus GoでDropboxのIDやパスワードを入力する必要はない。

 また、スマホに入っている写真は、Oculus Goとスマホを同じWi-Fiネットワークの中に配置し、さらにコンパニオンアプリを開く。アプリ経由でスマホの写真アルバムにアクセスする権利をオンにしておけば、スマホ側はそれ以上操作することなく、スマホの中にあるすべての写真を、Oculus Goで表示できるようになる。

写真や動画は「メディアリンク」機能を使い、クラウドストレージやスマホと連携することで、より活用しやすくなる。
Dropboxと連携する場合は、コンパニオンアプリ側から「Dropboxへのアクセス権」を設定する。Oculus Go内にDropboxのアカウントは入力しない。
コンパニオンアプリを使うことで、「スマホ内にある写真」へとOculus Goからアクセスすることが可能になる。アクセス中には、スマホにはこのようなメッセージが出る

 どうやらOculus Goは、他の機器やサービスとの窓口として、スマホのコンパニオンアプリを多用する設計思想であるらしい。初期設定の簡単さはその一面が出たものだが、写真関連でもその傾向が見える。現在はまだ、未実装だが、OculusのCTOであるジョン・カーマックは、「コンパニオンアプリを介し、Oculus Goの画面をスマホ上に表示する機能の実装を準備中」と、自身のTwitterでコメントしている。

 このように、「常にスマホなどが近くにある」「なにか追加機能があれば、スマホを介して使えるようにする」のがOculus Goの思想であり、ここは、「あくまで単体機器」であることを突き詰めようとしているMirage Solo(Daydream OS)とは違うところだ。

Oculus Goは「普及」のために「今日の価値」を磨いた

 最後にまとめてみよう。

 Oculus Goはとてもよくできている。この価格でこれだけ新鮮な体験ができる機器はあまりない。Gear VRやDaydreamでできていたことが、より美しく・より安定的に・より簡単に・より気軽に出来るようになったのが、なによりの美点だ。彼らは商品のコンセプトをかなり慎重に組み立てており、あえて「VRとしての理想」を追わなかった。多くの人に、低コストでまず与えられるメリットはなにかを考えた上で、それを「パーソナルシアターである」と見切り、そこを磨いたのではないか。買ってすぐに「パーソナルごろ寝シアター」にしたいなら、Oculus Goは間違いなく「買い」だ。

 今後、ここにソーシャルな機能が搭載されていく。今も、アプリの購入履歴にはFacebookの友人関係が反映され、「どのアプリが友人に人気なのか」がわかるようになっている。ソーシャルな価値を高めるには、まずプラットフォームの「数」が重要だ。そこがOculus Goの戦略のキモであり、この製品の設計思想を表している。

 一方で、VRの将来を考えれば、Mirage Soloが実現しているポジショントラッキングは必須のものだ。ポジショントラッキングを活かしたアプリが多数出てくれば、その差はよりわかりやすくなる。ポジショントラッキングを使った業務用VRアプリを作る環境としても、Mirage Soloは有望だ。一方で、ブラウザの実装も含めた「今日時点での実用性」「今日時点での洗練度」では、Oculus Goに劣る。

 なにを求めるのかによって、Oculus GoとMirage Soloのどちらを選ぶべきかは変わる。「今日の体験」ならOculus Goを勧めるし、「明日に向けた夢」ならMirage Soloを勧める。「夢」については、さらに投資してPC用ハイエンドVRを狙う……という道もあるが、高品位なVR体験の手軽な選択肢が増えたことは間違いない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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