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第395回

VRは一体型で新時代に。Lenovo Mirage Soloレビュー。安定と快適

 レノボが4月24日より予約を開始した「Mirage Solo」の製品版レビューをお届けする。Mirage Soloは、本体とディスプレイ部がひとつになった「一体型VR用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」だ。2018年には一体型VR用HMDが複数登場する。5月1日には、Oculus(Facebook)が「Oculus Go」の出荷を開始した。出荷のタイミングにもよるが、Mirage Soloが日本で手に入る最初の本格的一体型VR用HMDとなる。

Mirage Solo。Googleの「Daydream」規格に則った一体型HMDだ。価格は51,200円

「一体型になることでVRは大きく変わる」という関係者は多い。筆者もその意見に同意する。では、一体型VR用HMDで生活がどう変わるのか? 実機を使いながら説明していきたい。

シンプルなボディにしっかりしたバンド

 一体型なので、Mirage Soloにはケーブルがない。パッケージの中には、ヘッドバンドのついたHMD本体がそのまま入っている。同梱品も、コントローラとUSB Type-Cのケーブル、ACアダプターにヘッドフォンと、かなり簡素になっている。

パッケージ。HMDとバンドがくっついたボディを入れるため、かなり大きめ。
同梱品。本体の他には、USB Type-CケーブルとACアダプター、ヘッドフォン、マニュアルが付属する

 HMDはかなりしっかりしたプラスチック製のバンドと一体化しており、外すことはできない。結果的に意外とかさばるのだが、その分、頭部にしっかりと固定されるため、長時間使った時の安定度は高いように思う。バンド込みの重量は約645gと意外に重いのだが、着けてみるとそこまで重い印象はない。

 正面には二眼のカメラのように見えるものがある。これはカメラではなく、あくまで「センサー」で、シースルーで外の映像を見る機能はない。

本体正面。カメラのように見えるものがあるが、あくまでセンサーであり、カメラの役割は果たさない
本体左側。水色の「Lenovo」ロゴがアクセントになっている。蓋の下にはmicroSDカードスロットがある。その隣には、充電などに使うUSB Type-Cコネクターが
本体右側。上に電源ボタンがあり、下は音量調整。その右に見えるのは3.5mmのヘッドフォン端子だ

 VR用HMDでは、自分の位置を把握する機能(ポジショントラッキング)が重要になる。ハイエンドなHMDでは外部にセンサーやカメラ、レーザー受信機などを置き、自分の位置を正確に把握する。だが、Mirage Soloは外部センサーを一切使わず、本体正面についた二眼のセンサーのみでポジショントラッキングを実現している。これは俗に「インサイド・アウト」と呼ばれる方式で、マイクロソフトの「Windows Mixed Reality」系HMDでも採用されている。特別な準備が不用なので、とにかく手軽なのが特徴だ。

 だから、Mirage Soloを使い始める準備も、とにかく簡単だ。本体の充電が終わっているなら、電源を入れて「かぶる」だけ。メガネをつけたままでももちろん大丈夫だ。音はヘッドフォンから出るので、必要ならこの時につける。コントローラも片手に持つことを忘れずに。

上から。バンド部がかなり大きいことがわかる
下から。本体下部にあるボタンは、HMDを前後にずらすためのもの
顔にあたる部分はかなり柔らかくできている。
内部にはメガネもきちんと入る。よほど大きいものでなければかけたまま使えるだろう。
レンズ部。中央にあるのは、顔が入っていることを把握するための赤外線センサー。電源が入っている場合、かぶれば自動的に動き、外すと停止する

スマホVRとは一線を画する画質、ハイエンドにも見劣りせず

 では実際に使ってみよう。

かぶってみた。バンドを緩めて頭にすっぽりかぶせる感じ。1、2度使えば位置合わせに戸惑うこともなく、すぐに使えるようになる

 Mirage Soloは、GoogleのVRプラットフォームである「Daydream」に準拠している。Daydreamは元々、ハイエンドスマートフォンに別売のHMD「Daydream View」を組み合わせるものとしてスタートした。その後、同じ技術を使い単体型HMDを開発する方向へとプラットフォームが拡大されたのだが、Mirage Soloは「Daydreamを使った単体HMD」の初代モデル、ということになる。

 OSはスマホと同じくAndroidをベースとしているが、あくまでスマホではないため、Daydreamに特化した「Daydream OS」ということになっている。利用にはGoogleアカウントが必要で、アプリの配布も、Androidスマホと同じく「Google Play」を利用する。だから、利用開始時にはGoogleアカウントの入力が必須となる。通信は内蔵のWi-Fiを利用する。LTEなどのWANは内蔵されていないし、有線LANでの利用もできない。

 なお、Bluetoothにも対応していないため、ヘッドフォンは有線のものを使うことになる。付属品はケーブルが短く、意外と使いづらかったので、自分が普段使っているものを流用することをお勧めする。

 起動すると、画面的にはDaydreamと同じランチャーが現れる。といっても、Daydream自体がさほど普及していないので、ここからはDaydreamそのものも説明していく。

 Daydreamのランチャーは「森」を模した空間になっていて、その空間上でアプリを選ぶ、という形だ。

Daydreamのランチャー画面。なにをする場合も基本はここから。画面デザインや構成は、スマホ用のDaydream View用と同じ

 かぶってみてまず感じるのは「画質が良い」ということ。Daydream Viewを含むスマホ用VRはもちろん、ハイエンド用VRと比べても、画質の「すっきり感」では負けていない。

 VRで画質というと、使っているディスプレイパネルの解像度が注目されがちだ。Mirage Soloに使われているのは5.5インチ・2,560×1,440ドット(両眼分)のVR用液晶。解像度はハイエンドVRに迫るが、そこが画質において支配的なわけではない。解像度だけならスマホ用ディスプレイも大きくは違わないからだ。

 だが、かぶってみると、画質の良さに驚く。ハイエンドVR機器との差は小さく、スマホ用VRの常識を打ち破るものになっている。理由は簡単。「一体型で専用設計」であるからだ。スマホ用VRは、色々なスマホを後から差し込む設計であるため、ディスプレイパネルとレンズの関係を最適化できない。ぼやけや斜め方向のにじみなどが生まれてしまう。

 しかし、Mirage Soloは「専用機」なので最適化した設計ができる。ハイエンドVRと同じ条件になるので、それだけ良い環境が実現できる……というわけだ。

 低価格な(比較的、ではあるが)Mirage Soloでも良好な画質が実現できた背景には、「VR用液晶」の進化がある。VR用では有機EL(OLED)のパネルが使われることが多く、OLED採用の製品に比べると確かに黒の締まりは悪い。だが、精細感・エッジのシャープさなどは決して負けていない。

 一方で、映像のフレームレートは75Hzと、ハイエンドVRの90Hz(PlayStation VRは120Hz)に比べ低く、激しく動くゲームなどでは若干の酔いを感じることもあった。だが、デバイスの特性か、PC用のものに比べ動きがゆるやかなものが多いため、フレームレートの違いは決定的な差とはなっていない……と感じる。

自分の位置を把握する6DoFに対応、だが「椅子に座って使う」のが基本

 Daydreamの操作には付属のコントローラを使う。コントローラはDaydream View(スマホ向け)もMirage Soloのものも、色が違うだけでまったく同じ。クリック機構を備えたタッチパッドと2つのボタンがあり、横には音量ボタンがある。内部にモーションセンサーが入っているので、動きを検知することができる。Daydreamの画面内では、レーザーポインターで目的の場所を指し示すような感覚で使う。意外と動かす範囲は狭くていい(手首のひねり程度でOK)ので、長時間使っても疲れにくい。電源はUSB Type-Cによる充電式だ。

コントローラ。VR空間内ではレーザーポインターのような感覚で使う。一番上のボタンは表面がタッチパッドのようになっている

 Mirage Soloの最大の特徴は、インサイド・アウト式のセンサーを使い、体や頭の位置を把握する「WorldSense」という技術に対応していることだ。

 一般的なスマートフォン用VRは、自分が前後左右上下、どちらを向いているかは分かるものの、「空間の中でどの位置にいるか」を判定しない。例えば、「目の前の壁に近寄り、向こうをのぞき込む」という動作は再現できない。これを俗に「3DoF」などと言う。同じDaydreamでも、スマホ用のDaydream Viewは「3DoF」までの対応であり、コントローラも「3DoF」対応だ。

 しかしMirage SoloはWorldSenseを使うことで、自分の位置を把握できるようになった。空間の中を自由に歩いて移動できるようになったのだ。だから、同じDaydreamのホーム画面でも、歩いて行けばメニューに近寄れる。

 このように、自分の位置まで把握できるものを「6DoF(6軸の自由度)」と呼ぶ。ハイエンドVR機器はどれも6DoF対応だが、スマホ用は3DoFが中心。Mirage Solo(WorldSense)はスマホ由来の技術を使いつつ、コストを5万円台に抑えているが、本格的な6DoFに対応していることが大きな特徴だ。

Mirage SoloはWorldSenseを使って6DoFに対応するため、歩いてVR空間内を移動できる。だからメニューにも近寄れる。
Daydreamの操作画面。途中で筆者は椅子から立ち上がり、メニューの方へ歩いていっている。その様子が画面から読み取れる点に注目

 とはいうものの、Mirage Soloにおける6DoFの恩恵は一部に限られる。外を見ることができないので、「部屋の中を自由に歩き回る」のは難しいからだ。ソフト的にも、1.5mほど歩くとエリア外警告が表示されるようになっている。ソフトによっては、この警告を外すことが可能なのだが、基本的には「椅子に座り、周囲1m程度で使う」ものと考えて欲しい。他のハイエンドVRでいえば、PlayStation VRが同じように「椅子に座ってあまり動かず使う」ことを想定した設計となっている。

 それでは魅力が薄い……と思われそうだが、そうでもない。やはり、顔の高さやちょっとした前後の動きが入ると、同じVRでも感覚がかなり自然なものになる。

 Mirage SoloではDaydream規格対応のアプリがそのまま動く。アプリストアも「Google Play」なのだが、表示形式はDaydream専用のものだ。Daydream用ストアで配布されるアプリは、アプリのプレビューまでVR用に作られており、なかなか面白い。

Daydream用ストアでのアプリプレビュー。これ自体が「VR空間」になっていて、アプリの世界が自分の周囲に現れる
Daydream用ストアでのアプリプレビュー。これ自体が「VR空間」になっている
アプリ一覧。ダウンロードしたアプリは本体内ストレージに蓄積され、スマホでアプリを呼び出す時と同じように呼び出せる
Daydream用アプリ「The Red Bull Air Race LIVE VR」。レッドブル・エアレースで蓄積されたデータを使い、実際に自分がコクピットに座り、そのフライトを追体験できる

 一方で、WorldSence対応のデバイスがMirage Soloくらいしかないため、WorldSence対応アプリも90本程度しかない。正直面白かったのは、Googleの各種アプリ群と「釣り★スタ! VR」(グリー)くらいのものだった。アプリを試してみてもスマホ向けと同じもので3DoFでしか動かないものが大半である。

 そうしたアプリも不自由なく使えるが、6DoF対応アプリに比べると操作が不自然で、どうにも隔靴掻痒な印象が出る。ゲームはもちろんだが、映像視聴などでも、体の動きを把握できないことによる「ずれ」が気になるものだ。

 同じプラットフォームの中で「3DoF」と「6DoF」の感覚の違いを体験できるのは面白いが、やはり「6DoF」アプリの不足が気になる。対応が広がることを期待したい。

安定して長時間動作。写真・動画など「個人向けAV」的ニーズに向く

 Mirage SoloはAndroid採用スマホをベースに開発されている。使われているSoCは「Snapdragon835VR」で、ハイエンドスマホと同様のものだ。もちろんゲーミングPCで動くハイエンドVRに比べると劣るのは事実。だが、一体型となったことで、スマホ用VRでは体験できなかった安定感、快適さが、間違いなくある。

 スマホをビュワーに差し込んで使う「スマホVR」は手軽だが、スマホの発熱やバッテリー動作時間によって、安定性がかなり左右される。Daydream Viewも、サムスンのGalaxyを使う「Gear VR」もそこが問題点で、1時間・2時間とじっくり使うのが難しかった。展示会などでは何台も予備のセットを用意して臨む……と聞いている。

 だが、Mirage Soloの場合、とにかく動画が安定していた。カタログ上、バッテリーは約2.5時間動作、となっている。今回、映像を見ながら色々と試しつつ使ったが、確かにだいたいそのくらいは動いた。その際、「ケーブルがなく邪魔されない」ことは、やはりとても快適だと感じた。単に座っているだけでも、ケーブルのない開放感はありがたい。

 バッテリーが不安になる場合には、USB Type-Cで充電しながら使える。この形態で1時間ほど使ってみたが、熱暴走などの傾向もない。

 6DoFという要素もあるが、やはりMirage Soloの魅力は「一体型」で「ケーブル」がないことである。

 特にそのことを感じるのは、「動画」や「写真」を見ている時だ。これはDaydream Viewなど、スマホ向けと機能的には同じなのだが、「ケーブルがない」「長時間安定動作する」ことによって、別物といっていいくらい快適な環境になる。「個人向けAV機器」としての使い方こそが、一体型VRの最初の起爆剤だ……と断言できるほどである。

 Google Photoは、オンライン上の自分のフォトストレージにアクセスし、写真・動画・360写真などを見られる。写真の拡大縮小ができないなど気になる部分もあるが、画質・UIともに面白い。

Google Photoで360写真を閲覧。画質も良好でみやすい
Google Photoで360写真を閲覧

 360写真・動画は、やはりVRで見た方が迫力がある。今回レノボは、Mirage Soloと同時に、Googleの「180VR」規格に対応したカメラ「Mirage Camera」を発売した。「撮影するものと、そのビュワー」という意味では非常に相性が良い。ただ、現状はまずスマホにカメラから180度写真・動画を取り込み、Google Photoなどを経由してMirage Soloに送る必要があり、ちょっと面倒に感じる。Daydream専用の取り込みアプリが用意されるといいのだが。

「180VR」対応カメラの「Mirage Camera」(35,800円)

 NetflixもDaydreamに対応している。Netflixの閲覧アプリは「VR空間にホームシアター的なリビング」を作り、そこに映像を流す仕組みになっている。十分な通信速度さえ確保できれば、画質的にはなかなかだ。

NetflixのVRアプリ「Netflix VR」。VR空間にホームシアター的な空間を作り、そこでリラックスして映像を見られる

 VR空間で映像を見る、というニーズには多くの企業が魅力を感じているようで、動画ビュワーアプリは意外と数が多い。例えば「CineVR」というアプリは、映画館を再現した動画シアターアプリで、映画のトレイラーや、本体に保存したローカルの動画ファイルを「映画館に流している」雰囲気で見られる。しかも、好きな席に移動出来て、ユーザー登録して友人を呼ぶと、彼らと一緒に「同じ映画館に座って映像を見る」ことができるようになっている。

映画館を再現した「CineVR」。ネット経由で友人を集め、一緒に動画を見ることも可能

「ごろ寝動画」にはGoogle系アプリが向く

 だが、「動画視聴環境」という意味で、なんだかんだいって最も完成度が高かったのは、Googleが作った「YouTube VR」アプリと「Google Play Movie & TV」だ。著作権保護上の理由からか、YouTube VRではスクリーンショットが撮影できなかったので、「Google Play Movie & TV」の方で説明したい。

ペイ・パー・ビューで映画などを楽しむための「Google Play Movie & TV」。スマホにあるものと同じサービスなのだが、使い方などはVR向けにかなり変更されている。

「Google Play Movie & TV」は、スマホなどでお馴染みのペイ・パー・ビュー方式による動画サービス。同じサービスをVR向けにしたものなので、見れるコンテンツの内容も基本的には同じ。レンタルもあれば、購入する形式もある。Mirage Solo内から決済して視聴もできるし、スマホなどで決済したものをVR内で見ることもできる。「日本から見られる映像コンテンツが豊富である」という点は、海外主導であるVRプラットフォームの中で、非常に重要な点だろう。

Google Playのアカウントに紐付けられており、ペイ・パー・ビューの決済も可能。

 視聴は「夜空にスクリーンを投射したような環境」で行なうが、便利なのは、スクリーンの大きさや位置を、コントローラのタッチパッドで自由に変えられることだ。

「Google Play Movie & TV」での映像再生画面(著作権保護のため、本編映像は映らず)。再生停止や早送りなどのトリックプレイも可能

 VRで映像を見るとき、誰もが「やってみたい」と思うのが、仰向けに寝転んで天井方向に大きなディスプレイを表示して映画を楽しむ……ということだ。実は、これが意外とできない。多くのアプリは「映像は正面にあるもの=垂直に立った壁にあるもの」という考え方で作られており、寝転ぶと見えなくなってしまうのだ。

 だが、「YouTube VR」と「Google Play Movie & TV」は、タッチパッドを使って好きな場所に映像を固定できるため、「寝転んで大画面を楽しむ」ことができる。場所・サイズ調整は完全にリニアに行なえるのもありがたい。

 こうした機能は、すべての動画再生系アプリが備えて欲しいものだと感じる。そのくらい、Googleの2本と他の動画アプリは、操作性の完成度の面で隔絶している。

 Netflixの場合も、実は寝転がって映像が見れる。ちょっと裏技的なのだが、「VOIDモード」に入ると、ホームシアター的な表示から脱し、画面を好きな場所に固定して映像を見られる。

Netflixアプリの「VIODモード」。こうすれば、画面サイズを変えたり、表示位置を変えたりできる

 VOIDモードに入るには、シアターの壁にあるマーク(下の写真を参照)をポインターで選んで、コントローラをクリックする。寝転がって見たい時だけでなく、画面サイズを大きくしたい時にも有効だ。このモード、とても便利なので、もっと使いやすい形にして欲しいと思う。Googleの動画系アプリは、同じようなモードを標準にしているのだから、出来ない話ではないはずだ。

「VOIDモード」に入るための目安は、柱にあるマーク。ポインターでここを選ぶ

 寝っ転がってMirage Soloを使う時の欠点がもうひとつある。頭を固定するバンドが固く、邪魔になることだ。ふかふかの枕とセットでなら気にならないだろうが、そうでなければゴツゴツした感覚が気になる。

 実際のところ、Mirage Soloは「ごろ寝シアター」をあまり考えておらず、上半身くらいは起こした体制で使うのが現実的、というところだろうか。

「VR以外」の弱さに不満も、第一世代製品としての完成度は高い

 Mirage Soloは、VR機器としてなかなか完成度が高い。画質・気軽さの両面は、かなりの高得点だ。筆者はOculus Rift、PlayStation VR、Windows Mixed RealityといったハイエンドVR機器を持っているが、それらと比較しても、画質・使いやすさの点で魅力があり、劣化版という印象は薄い。

 ポジショントラッキングの精度は完璧ではなく、比較的頻繁に「ポジション合わせ」(コントローラの一番下にある「Daydreamボタン」を長押し)をする必要がある。高精度にコントローラを駆使するゲームなどでは気になる可能性もあるが、どうも、Mirage Soloはそういう使い方を想定していない印象をうける。

 一方で、「アプリの不足」は気になる。といっても、それはDaydream用アプリが少ない、と言う話ではない。いや、確かに足りないのだが、それ以前の部分が多い。

 Mirage Soloはスマホではない。だから「Androidが普通に備えている機能」が使えない。ウェブブラウザーも使えないしメーラーもない。VRではない「普通のAndroidアプリ」を使う手段もない。設定をいじっていると、どうにも「Androidくさい」動きはあるのだが、VR以外の部分で「今のコンピュータならできてほしいこと」ができないのがもどかしい。

Mirage Soloの設定関連項目。ここを見るといかにも「Android」なのだが、Androidが普通に備えているウェブブラウザーなどはない

 調べ物やSNSのメッセージのチェックくらい、VRの中からでも行ないたい。VR空間内で複数のAndroidアプリを並べて使えたら、実はスマホより便利に感じるかもしれない。VRに特化しているがゆえに、「VRアプリを使わない時」の配慮が足りない気がする。

 ライバルである「Oculus Go」は、ランチャーにウェブブラウザーを統合しており、「VR以外のことをVRの中で行なう」ことに、ある程度対応している。比較すると、今の「Daydream OS」はあまりにVR特化すぎる。もしかすると、GoogleはまだVR用OSとして必要な機能をすべて実装し終えていないのではないだろうか、とも思う。

 画質や機能の問題もあり、「Mirage SoloとOculus Go、どちらがいいのか」と思う人もいるのではないだろうか。この原稿を書いている段階ではOculus Goをテストできていないため、答えは出せない。だが、「VR空間内で動画を見る」だけなら、Oculus Go(23,800円~)でもいいのではないか。3万円近い価格差があるため、そこは厳しくなる。DaydreamにGoogleがどこまで本気なのか、そこをもう少し見せてほしい。

 一方、6DoF対応のアプリがどんどん増えるという前提ならば、話は変わる。同じ「映画館」に座るのでも、6DoFで自然な「そこにいる感じ」が出せるアプリと、3DoFで「球の中心に座っている感じ」のアプリとでは、感覚が異なるからだ。将来的な話をすれば、6DoFに対応したMirage Soloの方が有利ではある。

 また、企業内での研修などでは、「ハイエンドVR機器にある機能を、もっと低コストでシンプルな機器に実装して、多数用意して使いたい」というニーズがある。そこを考えると、Mirage Soloの機能と価格はベストといえる。

 いずれにしても、「一体型でめんどくさくないVR」という要素は、ここから始まる。その第一世代製品として、Mirage Soloは十分以上によくできた、体験する価値のある製品だ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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