西田宗千佳のRandomTracking

第419回

Google Home Hubは“家電の真ん中”を狙う? 日本未発売の新スマートディスプレイ

日本未発売の「Google Home Hub」。価格は149ドル。7インチディスプレイを備えた「スマートディスプレイ」だ

日本で「Googleの秋の新製品」というと、スマホの「Pixel 3」シリーズ。だが、本国アメリカでは、他にもいくつか製品が出ている。

今回は、その中でも「スマートディスプレイ」のひとつである「Google Home Hub」をご紹介したい。日本ではまだ発売されていないものなので、あくまで「アメリカ版」としてのレビューである。技術基準適合証明、いわゆる「技適」のマークもないので、現状、国内では利用できない。後述するように、日本語の表示も日本のコンテンツも出てくるが、音声の日本語認識には対応していない。

というわけで、あくまで本記事は、「こういうものになる」というサンプルのようなレビューになる。すべての作業はアメリカ・ニューヨーク滞在中に行なっている。

だが、新しい家電の一つとして、Googleがスマートディスプレイでなにをしようとしているのか、その一端が見えてくるはずだ。「日本で出たらどう使うか」をイメージしながらお読みいただければ幸いだ。

ニューヨーク・SOHOの「Google HARDWARE Store」で購入

Google Home Hubは、10月9日(現地時間)、アメリカにて発表された。同時に発表されたのは、スマホである「Pixel 3」と、Chrome OSを使った「Pixel Slate」である。このうち日本ではPixel 3のみが発売されているが、アメリカではすべての製品が、10月半ばには出荷を開始していた。

Googleはアメリカで、いくつかの「リアル店舗」を展開している。そのうちの一つが、ニューヨーク・SOHO地区にある「Google HARDWARE Store」である。 10月最終週、筆者はアップルの発表会を取材するためにニューヨークを訪れていたが、せっかくの機会なので、時間を見つけてこの店も訪問してみた。

ニューヨーク・SOHO地区にあるGoogle HARDWARE Store。
街角に溶け込んでいるので、遠くからだと「G」のロゴがないと、Googleの店舗であることを見過ごしてしまいそうだ。

Google HARDWARE Storeは、思った以上に力の入った店舗だった。

メーカーの直営店というと、やはり「アップルストア」を思い浮かべる人も多いはず。実は筆者もそんな想像をしていた。米マイクロソフトの直営店「Microsoft Store」がかなりアップルストア的なお店であり、そういう形の店舗にするのが「定番」であるからだ。

だが、Google HARDWARE Storeは違った。少なくともSOHO地区の店舗については、多数の場所に同じ物を展開することの難しい、いかにも「ワンオフ」で作った店舗に思えた。

店舗を正面から。かなり「かわいい」系に作り込まれている。
店舗の前にはGoogleカラーの自転車が。これ、Google本社で社内移動につかわれているものとも別のデザインで、店舗のためのオリジナルと思われる

店舗には、PixelやChromeBookなど、Googleが販売する機器が展示されている。店内には大量の「インク缶」が置かれているのだが、これは、各製品につかわれたボディ色を示したもの。なかなか洒落ている。

店舗内の様子。Googleの新製品が、なぜか「インク缶」と一緒に並べられている。
インク缶は、各製品で使われたカラーのもの。「色にこだわった」ことを強調するためのものだろう

Google Home HubもPixel 3などと同様に展示されており、その場で詳しい話を聴きながら、自由に試すことができる。特にGoogle HomeやHome Hubについては、「なにができるか」を示した展示やカードなども置かれていて、「どう使うかを知らしめるのが難しい」のが、洋の東西を問わず課題であることが見えてくる。

製品はその場で買うことができるのだが、アップルストアのようにたくさん積んであるわけでもない。どうやら、単に「売る」ことを目的とした店というよりは、「Googleがハードウエアを手がけていること」「それらの機器でなにができるかを知らしめる」ことが主なミッションになっているように思える。

7インチディスプレイ内蔵のコンパクトボディ

さて、そのGoogle HARDWARE Store SOHO店で買ってきたのが「Google Home Hub」である。本体カラーは4色あるのだが、今回購入したのは、もっともおとなしい「チョーク(白)」になる。価格は149ドルと、高くはない。

製品の箱。小さめのタブレットが入った箱が分厚くなったような形状だ。色は「チョーク」(白)。
店舗に展示されていた「ピンク」のもの。家電機器らしいカラーリングが採用されている。

製品に含まれているのは本体と電源程度で、スマートスピーカーであるGoogle Homeと同様にシンプル。ボディのデザインテイストも、樹脂+ファブリック仕上げで、底面がオレンジのゴムという、Google Home miniと同じテイストになっている。

電源はUSB系ではなく、専用のACアダプタを使う。この辺は大きい方のGoogle Homeと同じだ。バッテリーも搭載していないので、ACアダプターを接続しないと動かない。

本体背面。ファブリック仕上げで、やわらかな印象。コネクタ類は、電源をつなぐためのものしかない。電源はUSBなどではなく、専用コネクタと付属のACアダプターを使う。

Google Home Hubの特徴は、「スマートディスプレイ」の名の通り、7インチのディスプレイを内蔵していることだ。意外とコンパクトで、大型化しているスマホと並べてみると、もはやあまり差がない。7インチのタブレットを使っていた時はこんな感じだったろうか……と懐かしく思う。ディスプレイはタッチパネルになっており、基本的な操作は声とタッチを併用する。

動作中の本体。時計などが表示され、フォトスタンドを思わせる佇まいだ。
iPhone XS Maxとの比較。このくらい大型ディスプレイのスマホと並べると、もはやかなりコンパクトに見える

スマートディスプレイという新ジャンルではあるが、構造的にはスマートスピーカーの延長にあるものなので、設定はスマホやタブレット上の「Google Home」アプリから行なう。設定方法もGoogle Homeと同じで、アプリから「追加」を選ぶと、近くにあるGoogle Home Hubが発見され、あとはアプリの指示に従って操作していくだけだ。

セットアップはスマホやタブレット上の「Google Home」アプリから。設定方法もスマートスピーカーのGoogle Homeとほぼ同じである。

この過程で、Google Home Hubでどの言語を使うかも決める。現状、表示については日本語に対応しているもの、一部コンテンツの利用や音声認識については、日本語が使えない。現在、Google Home Hubが日本向けに販売されていないのは、こうした事情がある。

音声認識については、現状、日本語には対応していない。

なお、Google Homeアプリは先日UIの刷新が行なわれた関係で、この辺のUIも変更になった可能性が高い。だが、国内にいる現在は実機でテストすることができないので、画面が古い可能性があることをご了承いただきたい。

ディスプレイ付きで「地図」や「YouTube」が快適

セットアップが終わってしまえば、あとはアプリ側を使う必要はない。

使い方はシンプルである。スマートスピーカーであるGoogle Homeと同じように、声で話しかければ動く。違いは、スマートスピーカーが声だけで応答するのに対して、Google Home Hubは「画面も伴っている」ということだ。

経路を検索すれば地図と一緒に表示されるし、音楽を再生させれば、ジャケット画像などが表示される。きわめてシンプルだが、非常に便利なものだ。ニュースなどを再生する場合には、日本のコンテンツも一部再生された。

指定した場所への移動経路を表示。もちろん、Google Maps連動によるものだ。地図が表示されるので、音声だけよりわかりやすい
Spotifyの音楽を再生。Google Homeと同様に連動して使えるが、再生時にはプレイヤー画面が表示される
「今日のニュースを教えて」と(英語で)聴くと、ニュースを再生してくれる。本当は動画だが、権利問題もあるので再生前の画面でご容赦を
ニュース再生を依頼すると、日本語のニュースが再生されることもあった

なにより大きいのは、「YouTube」が使えることだろう。音声での動画検索はもちろん、画面上の一覧から選んで再生することもできる。ライバルにあたるAmazonの「Echo Show」はYouTubeアプリを搭載しておらず、ウェブブラウザーからアクセスしないといけないが、Google自身のプラットフォームなので、もちろんそうした制約はない。

YouTubeの再生機能も組み込まれており、アカウント連動し、他の場所でみたYouTubeコンテンツに関連した動画を見られる。もちろん音声検索にも対応

こうしたことを、Google自身も道具として最大限活用しようとしている。先日日本でもスタートした「YouTube Premium」「YouTube Music」はGoogle Home Hubと連動する。他のGoogle製スマートスピーカーと同様に、購入者にはPremiumを4カ月無料で使える権利がついてくるし、そもそも、Google Home HubでのYouTube再生は、非常に快適な作りになっている。

こうしたものが個室やベッドサイド、仕事場の机の隣にあれば、ちょっとした動画再生や音楽再生が捗るだろう。

音楽再生については、YouTube Musicとの連携も行われている。これらのことが、Google全体の戦略として紐付いているのがよくわかる

一方で、他の動画サービスについては、現状ほとんど対応していないようだ。この機器からNetflixなどの動画配信が見れると便利だと思うのだが、少なくとも現状は、その方法がない。今後、Google Home Hub向けの外部アプリケーションが増えていけば、対応は可能なのだろうが、そもそも「Google Home Hub向けのサードパーティーアプリケーション」の存在が確認できない。基本的には、現状はまずGoogleが組み込んだ機能が中心となっており、他社アプリの対応はこれから……ということなのだろうか。

その他、画面を使ったアプリケーションとしては「フォトフレーム」がある。この大きさでフォトフレームというと、数年前に流行った専用機器を思い出す。だが、こちらはもちろん「フォトフレーム専用」ではない。Googleが用意した風景やNASAの宇宙関連の写真の他、自分のGoogleフォトのアカウントと連動し、お気に入りの写真・特定のアルバムなどを再生させることもできる。

フォトフレームとしても使える。Googleが指定した風景写真の他、Googleフォトとの連携も可能

なお、本体には周囲の明るさを認識して自動的にディスプレイの明るさを変更する機能が搭載されているため、寝てる時に暗闇で煌々と光る……ということはない。周囲の明るさに応じた優しい明るさになるし、電気を消して就寝したと判断すると、ディスプレイ自身を消す。

照度センサーで周囲と連動。まず時計表示に変わり、さらに暗くなると画面も消える

狙いは「家電連携の中核」か

これらの機能を見ていくと、Google Home Hubは意外とシンプルな機器であるのがわかってくる。まさにスマートスピーカーの「ディスプレイ搭載版」であり、ディスプレイ搭載による「YouTubeの再生」や「地図の表示」などに特化した機器だ。スマホやタブレットほどの汎用性はなく、汎用のウェブブラウザーもない。12月に発売を予定している、Amazonの「第二世代Echo Show」とは、少し性質が違う機器になっていると感じた。Amazonがサードパーティー製アプリの積極的なリクルーティングを行ない、高機能化を推し進めている一方、現状のGoogle Home Hubはおとなしめに見える。

一方で、今回はGoogle Home Hub について、もっとも重要な機能がテスト出来ていない。その名の通り、「ホームネットワークのハブになる」機能だ。Google Home Hub は、Googleアシスタントとの連携機能を持つネットワーク家電をコントロールする機能を持っている。しかし、今回は出張先のホテルでのテストだったため、家電機器連携を試すことができない。後日行われたGoogle Homeアプリにも、Google Home Hubと同じようなUIの「家電連携管理機能」が搭載されており、Google Home Hubは、「家電機器の動作状況を管理し、操作する端末」であることが期待されているわけだ。その辺の可能性を加味しないと、本質を推し量ることは難しい。

10月のGoogleの発表会より。ネットワーク対応家電と連携し、それらをコントロールする機能が内蔵されている。

スマートディスプレイは、個室で映像や音楽を楽しむための安価な機器として、かなり期待できそうな製品である。一方で、やはりその本質には「家電連携」が欠かせない。ちゃんとした評価は日本版が出た時に改めて行いたいが、「普及するかどうか」も、スマートスピーカー以上に「家電連携が進むか否か」にかかっているような印象を受けた。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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