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第493回

“放送にこだわらなくなった”WOWOW、「WOWOWオンデマンド」を試す

WOWOWオンデマンドのWebでのサービス画面

WOWOWは1月13日より、ネット配信サービス「WOWOWオンデマンド」を開始している。同社はこれまでも何度か映像配信に取り組んできたが、今回のサービスは少し位置付けが違う。詳細は後ほど述べるが、ある意味で「本気でネットをカバーしにきた」サービスと言える。

では、WOWOWオンデマンドはどんな位置付けなのか? そして、使ってみると実際どんな感じなのか? その辺を試してみよう。

放送でなく「ネットから」でも契約できるWOWOWに脱皮

WOWOWといえば、みなさんもよくご存知、衛星放送を主軸とした会社である。だが、「衛星放送」という形態は、現状追い風とは言い難い。ネット配信が質・量ともに増加しているためだ。放送は基本的に「アンテナがつながった機器」で見るものなので、場所や時間の自由度、という点でも不利ではある。ステイホームな現状、過去に比べてテレビの前に集まりやすくはなっているが、それでも場所やデバイスを選ばず、オンデマンド再生もできるネット配信に対して不利ではある。

4K放送も3月から始まる予定ではあるし、衛星放送に価値がなくなったわけではない。とはいうものの、すでにアンテナが自宅にある場合を除くと、「見始めるためのハードル」の段階ですでに不利な時代になった、といっていいだろう。ネット配信なら、ネットと支払い方法さえ用意すれば数分以内に視聴可能になるのだから。

というわけで登場したのが「WOWOWオンデマンド」である。従来から同社は、衛星放送としてのWOWOWの契約者向けに「WOWOWメンバーズオンデマンド」を展開していたが、それを発展させたのが「WOWOWオンデマンド」ということになる。どこをどう発展させたかといえば、簡単にいえば「ネットだけでも、ネットからでも契約できるようにした」のである。

WOWOWの本質は「番組」にある。後述するが、基本的には番組の質で差別化しているサービスであり、「衛星放送かどうか」は提供条件の1つに過ぎない。

そこで、WOWOWオンデマンドは、「WOWOWメンバーズオンデマンド」の提供条件だった「衛星放送の契約者」という部分すら取り払い、最初からネット完結で、すばやく簡単に契約できるようにしたのである。

視聴にかかる費用は、WOWOWの衛星契約と同じ月額2,530円。逆に言うと、衛星契約があればWOWOWオンデマンドの視聴に追加料金はいらない。また、WOWOWオンデマンドを視聴した人が新たに「衛星放送受信契約」をする場合にも、単に放送契約が追加されるだけで、料金が追加で発生するわけでもない。

要は、「契約の入り口を放送だけでなくネットにも広げた」と考えるべきだろう。

今回、「まったくアカウントがない状態」から契約を開始してみたが、他のWebサービスの登録とほぼ同じ手順で視聴までたどりつける。慣れている人なら、ものの5分もかからないだろう。PCやスマホなど「ネットにつながった機器」さえあればすぐにWOWOWのコンテンツを見られるようになったのは、非常に大きな変化であり、進化と言える。

一般的なサービス同様、3段階くらいのアカウント登録で完了。初回の「無料トライアル」期間ならこのまますぐ見られる

なお後述するが、一部の無料配信番組については、アカウント登録のみを行ない、有料契約をしていない状態でも視聴できる。

IT機器中心なら画質はOK、大画面テレビには不満も

視聴可能なデバイスは多数ある。PCの場合にはブラウザから視聴できて、スマホ・タブレットの場合には専用アプリから視聴する。

テレビでの視聴もできる。もっとも簡単なのは、Fire TVやChromecastなどを使う方法だろう。ハイブリッドキャスト対応テレビでそちらから視聴する方法もあるが、素直にFire TVかChromecastを使った方が簡単で操作性もいいと思う。

正直、ビットレートはあまり高くない。解像度は明示されていないが、音声はステレオ(2ch)までで、ビットレートは最大4Mbps。大画面で見るなら、放送の方がずっと満足度は高い。だが、PC・スマホ・タブレットが中心ならこれでも「かなりの満足度」、というところだろうか。自宅ではChromecastでテレビ視聴してみたが、こちらは「画質はそこそこだけれど割り切って視聴するなら」くらいのイメージである。小さい画面なら問題ないだろうが。サービスとしての主軸はやはりIT機器、と思っていい。

サービスの概要。ビットレートは最大4Mbpsとあまり高くないが、ソースはかなり画質が良いようで、数字以上の満足度は得られる

著作権保護の観点から、動画再生中のキャプチャはできないようになっているし、PCの画面をディスプレイに出す場合にも、HDCP対応のHDMI出力で接続することが前提となっている。その関係からか、OSによる対応ブラウザ指定は割と厳密に判断されているようで、Mac上からはSafari以外では視聴できなかった。この点は、若干留意が必要だ。

動画部分は、再生中にキャプチャはできない。黒くなっている部分は映像再生部分
ブラウザが違うと視聴できないことも。例えばMac版のChromeからは視聴できない

同時に視聴できる端末の数は「契約数」に依存し、1契約なら1台、3契約なら3台。そして、視聴した端末はアカウントに記録され、1契約で5台までが登録できる。端末の解除はどの端末からも行なえるので、5台を超える時には使っていないものを解除する……というパターンになるだろう。

視聴デバイス数と同時視聴デバイス数には制限があり、「契約数」に依存して変わる

アプリでもWebでも、視聴の基本は変わらない。WOWOWオンデマンドのポータル的なものが表示され、そこから視聴可能な番組を選ぶ。

Web版の視聴画面
スマホアプリ版(Android)の視聴画面
スマホアプリの場合には、お勧め番組などの通知が出る

放送されているものがそのまま「生配信」されているものもあれば、オンデマンドで番組を選んで視聴するものもある。「Webベースの動画配信」的で、非常にシンプルな作りだが、確かにこれはこれでいい、という感じでもある。

WOWOWの放送と同じく「プライム」「ライブ」「シネマ」があり、同時再配信されている
スポーツなどのライブ配信も行なわれている
映画・バラエティなどがオンデマンド再生できる

ちょっとした工夫としては、「マイリスト」の設定が挙げられる。番組表やオンデマンド配信のリストから、気に入った番組に「☆」を入れていくと、それがクラウド上に記録され、どのデバイスでも確認できる。移動中にスマホなどでチェックしておき、あとから落ち着いて見ることだってできる。

見たい番組に「☆」をつけ、「マイリスト」に入れて後からチェックできる

ただ、ちょっと残念なのは、WOWOWのWeb番組表にある「My番組登録」とは連携していない、ということだ。同じような名前で別になっているのでもったいない。「My番組登録」すればオンデマンドからもチェックできる……という形であれば、もう少しわかりやすいのだが。

オンデマンドでも「WOWOWらしさ」は健在。放送へのゲートウェイに

重要なのは、なにが見られるかということだろう。

残念ながら、WOWOWの放送で見られる番組がすべて見られるわけではない。WOWOWが放送・配信権利を取得したスポーツや、WOWOWが独自制作したドラマやバラエティ、ライブ配信ならほぼ視聴可能だ。一方で、映画は多く見積もって6割から7割くらい、ライブ中継は半分くらいが視聴可能……という感じである。数字だけを見ると若干物足りない。WOWOWの放送の番組表と見比べると、「ああ、これも見られないのか」と感じてしまう。

とはいえ、正直な話をすると、それは「数字上の話」「放送と直接比較しての話」という印象もある。WOWOWオンデマンドだけを見ていると「けっこうあるなあ」という印象を受けるのだ。

確かに映画などは、別の配信サービスがあるから数で見劣りする。それは放送であってもそうだ。だが、「WOWOWオリジナル」はまた別の話。これはここで見るのが基本のものであり、独自の魅力だからだ。

先ほど、「アカウント登録だけで無料視聴できる」番組もある、と言ったが、それらは例外なく「WOWOWオリジナル」であり、今は「電波少年W」がオリジナルバラエティとして作られ、配信されている。知名度的にも、こちらで誘引したいのだろう。

だが、筆者が「WOWOW面白いな」と改めて感じたのは、「電波少年W」ではなかった。劇場中継やライブ中継だ。

「電波少年」の復活版である「電波少年W」が登場。実はこの番組、無料でも見られる

自分が好きなアーティストのライブなら、誰もがチェックするだろう。では、「好きなジャンル」全体ではどうだろう? 普段はあまり気にかけないけれど、放送されていると見てしまうようなものだってあるはずだ。

劇場中継やライブ中継の配信は、まだ「狙ってみてもらうもの」というイメージが強い。だが、WOWOWは放送の段階からこれらに力を入れているため、WOWOWオンデマンドでもバリエーションは豊かだ。

筆者が「おっ」と発見して視聴し、気に入ったのは「古舘伊知郎 トーキングブルース -やっかいな生き物-」だった。古舘氏のワンマントークライブが面白い、というのは知っていたし、以前に別の回を放送したものを見て楽しんだこともある。だが、番組リストの中で「発見」して視聴。実に楽しかった。

配信リストから発見して楽しんだ「古舘伊知郎 トーキングブルース -やっかいな生き物-」。残念ながら21日で配信は終わってしまった

こういった出会いこそが重要であり、それができるのが「コンテンツを多数抱えるサービス」の良さだ。それは放送の時代から変わっていない。

WOWOWオンデマンドは、権利処理の問題で放送と同じにはなっていないし、画質・音質でも劣るが、手軽に「WOWOWという良い場がある」ことを、WOWOWのようなサービスに触れたことのない人にも知ってもらうには、気軽に使い始められるネットサービスは重要な存在だと思う。

一方、残念なのは「アプリの出来が良くない」ことだ。特にiPad版が使いづらい。スマホ版(iPhone・Android)とChromecastはギリギリ及第点というところか。PCのWebで見るのが最も快適で、iPadで視聴する場合にも、SafariからWeb版を使うことをお勧めする。

気軽な体験のために作るのであれば、やはり「体験の質」にも気を配ってほしいと思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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