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第522回

torneに「ニコニコ実況連携」が復活! その舞台裏を探る

torneからニコニコ実況を連携させて楽しめる「ニコニコ実況連携機能」が復活。PlayStation 5向けtorneのアップデートを皮切りに、PlayStation 4/iPhone/iPad/Androidに向けて順次公開する予定

本日、nasne連携テレビ視聴アプリ「torne」のPlayStation 5(PS5)版がアップデートされ、「ニコニコ実況」機能が復活する。約1年4カ月ぶりの復活だ。PS5版以外も、順次準備が出来次第アップデートで「ニコニコ実況連携」が復活していく。

nasneに「ニコニコ実況連携」復活。4月にPS5版から

一度販売が終了した機器が再設計・再発売されたり、一度なくなったサービスが復活する例、というのはそうそうあるものではない。だから「復活」はニュースになる。nasneが復活し、さらにニコニコ実況連携も復活ということになると、まあ、二重に「なかなかあり得ない」話ではある。

では、ニコニコ実況連携はどうやって「復活」に至ったのか? その辺を関係する3社の当事者に聞いてみた。

ご対応いただいたのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント プラットフォームプランニング&マネジメント部門 グローバル商品企画部 1課 チーフの柳瀬和大氏、ドワンゴ ニコニコ事業本部 ニコニコニュース担当部長の高橋薫氏、バッファロー 事業本部 事業戦略部 担当部長の安藤史朗氏だ。

左から、ドワンゴ ニコニコ事業本部 ニコニコニュース担当部長 高橋薫氏、バッファロー 事業本部 事業戦略部 担当部長 安藤史朗氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメント プラットフォームプランニング&マネジメント部門 グローバル商品企画部 1課 チーフ 柳瀬和大氏

「なくなったら困る!」の大合唱、3社で復活にむけた話し合いがスタート

ニコニコ実況機能は、テレビ番組を視聴する際、同時に「その番組を見ている人」の実況を表示できるものだ。ニコニコの各サービスと同じく、画面に実況コメントが流れて、番組をみんなで見ているような感覚で楽しめる、というものだ。

torneの「ニコニコ実況連携」は2013年末、PlayStation 3(PS3)版のtorneから実装された。

2013年の頃の、torne「ニコニコ実況連携機能」

torne「ニコニコ実況」とnasne「自動チャプタ」誕生の理由

だがその後、2020年12月に機能がリニューアルし、「ニコニコ生放送」のチャンネルとして「実況チャンネル」が実装される形となった。それまではAdobe Flashの機能を使って実装されていたのだが、Adobe Flash Playerのサポート終了に伴い、関連するAPIの公開が終了した結果、torneからも「ニコニコ実況連携」がなくなっていた……という経緯である。

ニコニコ実況、Flash版終了。ニコ生に実況チャンネル

Flash Playerのサポート終了に伴うもの……というのはしょうがない部分がある。ドワンゴ高橋氏は、当時の状況を次のように話す。

高橋氏(以下敬称略):旧ニコニコ実況はFlash Playerを使っていたので、結局、それをほぼほぼ捨てることになりました。当時は「これでニコニコ実況は止めるしかない」とも考えたほどです。

しかし、今の「ニコニコ生放送」に「実況」のシステムを乗せかえることで、Flash Playerのサポート終了後もサービスを存続させることはできました。

とはいえ、2020年の12月16日には既存のサービス向けのAPIが使えなくなるので、SIE側にも「ごめんなさい」ということで、連携の継続が不可能になる旨、伝えさせていただいたんです。

なんとかニコニコ実況が生き残ったわけだが、新形態でサービスを始めてみると、ユーザーの反応は意外なものだった。

高橋:「新実況」のふたを開けてみると、驚いたことに、サービスが生き残ったことよりも、「torneのニコニコ実況連携がなくなったこと」への怨嗟の声の方が多かった。「実況の良さが半減どころじゃなく減った」というご指摘だったんです。

1月になっても色々な意見が寄せられたことから、SIEさんに、「(ユーザーの方々から)なにか来てませんか?」とご連絡させていただいたのですが……。

もちろん、SIEのもとにも「なにか来ている」どころではない反響が寄せられていた。SIE・柳瀬氏は次のように語る。

柳瀬:2020年12月16日から使えなくなる、ということで告知をさせていただいたのですが、もう、すぐに「なんでだ」「なんでだ」と、非常に強いコメントが寄せられていました。「困ったな、これどうしようか」とは、チーム内で話していたのですが。そこに高橋さんからもご連絡をいただき、「これはなんとかしなければいけませんね」ということになりました。

SIEによるnasneの終売は2019年に発表されており、その後、バッファローによる販売移管が決まり、発表されたのが2020年10月のことだ。当時、発売は「2021年春」とされており、2020年末は、内部ではバッファロー版nasneの開発と、torneの対応確認が進められていた頃だ。

2021年3月に発売されたバッファロー製「nasne」(NS-N100)

バッファロー・安藤氏は、SIE側から「ニコニコ実況連携が終わります」との連絡を受けた時のことを、笑いながら説明する。

安藤:ご連絡をいただいた時は、もう「冗談じゃない」と(笑)

個人的にも好きで使っていた機能でしたし。体裁上会社としてですが、「なんとかならないか」という話はさせていただきました。torne・nasneとしてニコニコ実況連携を期待されているのは明白だったので。

柳瀬:バッファローさんにご連絡してすぐに「それは困ります」と(笑) 変な表現ですが、各社ともに連絡すると「実は好きでした」「私もです」みたいな状況で(苦笑)

これはなんとかしなければいけないですね……ということで、3社での話し合いが始まりました。

実は、PS5版torneが発表された昨年11月の段階から、3社が「ニコニコ実況の復活」に向けて動いている……という話は聞いていた。記事の中にチラッと「実況復活を求める声がある」と触れられているのはその密かな予告編でもあった。

ついに配信「PS5版torne」。開発の経緯と今後について直撃インタビュー

現状、ニコニコ実況連携が復活するのは、まずPS5版からだ。

SIE側での開発リソースも限られており、すべての機器向けに同時開発は難しかったようだ。まずPS5版から提供して動作などを確認した上で、PS4版やiOS/Android版へと拡げていく予定だという。

なくなった機能をそのまま新サービスに「実装」して復活

なくなった機能をどう復活させるのか?

具体的な方法論はシンプルだ。Flash Playerを前提としていた「旧ニコニコ実況」で連携のために必要だったAPIを、新しいシステムに載せ替えるのだ。

高橋:現在の「ニコニコ実況」は、「ニコニコ生放送」のシステムに載せ替えることで生きながらえています。

ならば、旧来torneでのニコニコ実況連携の実現に必要だったAPIのうち、今のシステムにもあるものはその公開を用意し、今のシステムにないものは作る、という形になりました。

仕様は、以前の「ニコニコ実況」に合わせてあります。もちろん、過去に録画した番組でもコメントは見られます。ログについては、2020年12月16日、新仕様でスタートして以来のものがあります。ですから、2020年12月31日の「紅白歌合戦」も、録画してあればコメントありで視聴できます。

正確には、ニコニコへの会員登録なしの場合「ライブ視聴のコメントのみ」、ニコニコ一般会員としてアカウント連携していただいた場合には「録画後10日間の実況が見られる」、プレミアム会員の場合には「録画後10日以降の実況も見られる」という形です。

従来と仕様が違うところは、「2020年12月16日以前のコメントが見られない」という点になります。

すなわち、実況コメントのログについては、「2020年12月16日以前に録画されたもの」は、現状見られない、ということだ。

ただしそれ以外の機能については、従来の「ニコニコ実況連携」機能の仕様と使い勝手通りになる。

柳瀬:今回重視したのは「当時の使い勝手をそのまま再現すること」です。

ユーザーの方々からは見えない話ではありますが、高橋さんからご説明があった通り、システムはまるっきり違いますし、APIも全部切り直していただいています。

実は、リニューアル後の「ニコニコ実況」ではコメントについて、一部会員サービスとの連携などで仕様が異なる部分があったのですが、今回、以前のものに合わせる形で「当時のまま」に変更していただきました。「当時のままに」という考えを実現する上で、ドワンゴさん側にはちょっと無理を聞いていただいた部分があります。

細かいところですが、torneのUIに「勢い値グラフ」という、実況の勢いを示す機能があります。今回それはちょっと実現ができませんでした。しかし、制約は「2020年12月16日以降のものだけ」という点と「勢い値グラフ」くらいで、それ以外はそのままです。

「当時の機能をそのまま実現したい」ということをSIE側から強くお願いした部分もあって、まずは昔のまま、そのまま使えるようにするところを優先にしました。これから先は、皆さんの声を伺いつつ、声の大きいところから対応していくことになるかと思います。

【お詫びと訂正】記事初出時、搭載していない機能として「勢いメーター」と記載しておりましたが「勢い値グラフ」の誤りでした。「勢いメーター」は搭載されています。お詫びして訂正します。(4月13日13時)

旧ニコニコ実況のコメントログ復活の可能性は?

そうなると気になるのは、もっとも大きな制約である「2020年12月16日以前に録画した番組での実況ログ視聴」だ。

そもそも対応は可能なのだろうか?

高橋:以前のサービスでの実況ログも、消すことなく残してあります。ですが、現在のサービス向けのログとはまったく違うものなのでどう実装すべきか……。個人の希望としては対応したいのですが。

柳瀬:お約束はできないのですが、なんとかする方法はないか、考えているところです。

安藤:バッファローとしては、録画データを受け継ぐ「器」(ハードディスクなど)は準備できていますので……(笑)

ニコニコ実況機能は、「テレビ番組をみんなで見られる」というだけでなく、過去の番組を見ていた時の「空気感」がコメントの形で保存されている、という意味でも稀有な存在でもある。

その価値を最大化する意味でも、ぜひ2020年12月以前の実況ログにも対応してほしい、と筆者は考えている。

バッファロー側も、「テレビ番組の実況ができる」だけでなく、「録画番組にもログがある」「盛り上がりがわかる」などの点を高く評価している。

安藤:新しい機能をリファインしなくても、元々の価値が大きいので、まずはそれで十分だとは思っています。

コロナ禍で「ウォッチパーティー」などの機能を介し、映像配信をみんなで見る行為は増えてきました。ある意味、ニコニコ実況が行なってきた世界にユーザーが追いついてきた、と言えるかもしれません。

それがテレビ番組で実現できるわけですから、他に変わりになるものがない、ドンピシャな存在です。

ニコニコ実況という存在は、過去からのtorne・nasneユーザーだけでなく、新しいユーザーにも刺さるのではないでしょうか。

ただ、現状は過去のニコニコ実況からチャンネル数なども縮小しているところもあるので、チャンネル数も元の数に戻していただけるとありがたい、とは思っています。

SIE・柳瀬氏は「実は自分は、ニコニコ動画、直撃世代」だと話す。ただ、時代とともに受容層や見られ方も変わってきている。

柳瀬:今の若い人たちには、ニコニコをちゃんと体験していない、知らない人もいます。

nasneを継続することになって以降、スマホで見るためにnasneを買った若い世代の反響を耳にすることも増えました。nasneについてもYouTubeで開封動画がウケたりして、新しい流れがあるな、とも思います。

スマホを使ってtorneでニコニココメントを見ながら、「知ってるこれ?」みたいに見せることもできるのではないでしょうか。

ドワンゴ・高橋氏も、そうした「新しいユーザー」に期待を寄せつつも、また別の見方をする。

高橋:ニコニコとしても、サービスを利用するユーザーの「新陳代謝」という命題を抱え照ります。

ただ、(ニコニコ実況が始まった)2010年頃よりも、いまの方が複数人で見ることが定着していると思うのです。なにかイベントがあればTwitterで実況するのが風物詩になっていたりもしますし。

そういう意味では、「ニコニコ実況」というシステムが先進的であり、今も古びていないと思います。他のサービスよりももっと大人数で、空気・ライブ感を感じながら、楽しめます。

今後そうした部分をどうアピールしていくかが重要だと考えています。

なぜバッファローはニコニコ実況の公式スポンサーになったのか

今回バッファローは、torneでのニコニコ実況復活に合わせ、ニコニコ実況というサービス自体の「公式スポンサー」にもなっている。4月1日からはニコニコ実況のページにも「Supported by BUFFALO」の文字とロゴが表示されるようになっている。

4月1日以降、ニコニコ実況のページには「Supported by BUFFALO」の文字が

周辺機器メーカーが特定のサービスの公式スポンサーになる、という話はあまり聞いたことがない。もちろん、ニコニコとしても初の試みである。

公式スポンサーに就任して「ニコニコ実況」という機能自体をサポートすることになった理由は、前述のように「ニコニコ実況が新規ユーザーも含め、幅広いユーザーにアピールする機能であり、それがnasneやハードディスクなどの販売にもつながる……という考え方があったからだ。

安藤:nasneとtorneの復活について、今年1年奔走してきました。一番厳しかったのは、ご想像通りハードの安定供給です。

ただ、ハードだけでなくソフトも重要。お客様に対し、継続的に価値を提供するのがメーカーの使命でもあります。

nasneもニコニコ実況も惜しまれつつサービスを止めたことがあるものですが、今後それをさせないためには、もう少し我々からできることもあるのではないか、と考えました。

ドワンゴ側はどう考えて「公式スポンサー」と組むことになったのか? ドワンゴ・高橋氏は次のように話す。

高橋:ニコニコ実況のtorneでの復活について、せっかくだからプロモーションをしたい、という話はありました。その話し合いの中で、バッファローさん側からそういう提案があった形です。

その昔、ニコニコは視聴可能なデバイスをPCやスマホ以外にも拡げていく、という戦略をとっていました。過去形で言うように、今はその流れにはないのですが、torneとnasneでニコニコ実況が見られるというのは、ニコニコのアクセス先を広げるという意味でも、良いタイミングだと思います。

社内的にはもちろん色々な理由で決定されているのですが、私個人としては、この部分がとても面白いと思います。

とはいうものの、新しいニコニコ実況のAPIについて、現時点では「完全にオープンにしてしまうわけではない」とも話す。まずはパートナー同士での連携、ということになるが、PC用のソフトなども声をかけてくれれば……という状況にはあるようだ。

なお、時々話題にのぼる「テレビでのtorneの動作」についても聞いてみた。現在のテレビはAndroid採用のものが増えているので、その上でAndroid版を動作させることはできないか……という話がある。現状はテレビ向けには提供されていないが、その点はどうだろうか?

SIE・柳瀬氏によれば、「課題は動作検証」なのだそうだ。テレビといってもハードウエア要件が色々あり、さらには同じSoCを使っていても対応しているコーデックが違っていたりすることも多く、動作検証は必須になる。特に「テレビ向けには公開しない」という縛りがあるわけではないそうだ。

今後、そうした事情が解消され、使える機器がさらに増えていくことを期待したい。

西田宗千佳