西田宗千佳のRandomTracking

第623回

Amazonデバイストップになったパノス・パネイに聞く「Alexa+時代のAmazonデバイス」

米Amazon シニア・バイスプレジデントのパノス・パネイ氏

米Amazonでデバイス・サービス部門のトップである、同社シニア・バイスプレジデントのパノス・パネイ氏へのインタビューをお届けする。

パネイ氏は今年2月に行われた「Alexa+」の発表会にも登壇、新しい方向性についてアピールした。

今回短時間ではあるが、Alexa+を含め、現在彼が抱える製品・プロジェクトの状況について聞くことができた。

残念ながら日本での開始時期などについての追加ニュースはないが、「日本でのサービス開始についてのプライオリティが高い」ことは確認できた。

Surfaceの父から「Amazonのパノス・パネイ」に

まずは少し、パネイ氏の経歴をご紹介しておこう。

彼の名前を知っている方も意外と多いのではないか、と思う。2023年まで、19年間にわたってマイクロソフトに在籍し、同社ブランドのPCである「Surface」シリーズに、立ち上げから一貫して関わってきた。ものづくりへのこだわりと熱意のあるプレゼンテーションスタイルから「Surfaceの父」としても知られていた。そのため、筆者は彼と何度もインタビューした経験を持つ。

2023年にマイクロソフトを退社すると、同年からAmazonでデバイス事業のトップに就任。それまでデバイス事業トップだったデイブ・リンプ氏が、ジェフ・ベゾス設立の宇宙関連企業・Blue OriginのCEOへと転身するのと入れ替わる形だった。

昨年は秋の新製品発表イベントがなかったため、今年の2月に行われた「Alexa+」発表イベントが、「Amazonのパノス・パネイ」として初のプレゼンテーションだった。

2025年2月の「Alexa+」発表イベントでのパネイ氏

そんなパネイ氏だが、実はキャリアの初期には日本で経験を積んでいる。ミネベア(現ミネベアミツミ)の子会社であるNMB Technologiesに在籍、藤沢や鎌倉、東京で長い時間を過ごしたという。彼はことあるごとに「日本の文化・ものづくりからいろいろなものを学んだ」と語っており、大の親日家でもある。

マイクロソフト時代も日本市場へのこだわりを語っていたが、Amazonに転身してもその気持ちは変わらないようだ。

Alexa+の開発は順調、日本への投入も積極展開中

ここからは彼とのインタビューに入っていこう。なお、本インタビューはライター・ジャーナリストの山本敦氏と共同で行なっており、質問は筆者のものと山本氏のものが入り混じっている。その点はご了承いただきたい。

パネイ氏(以下敬称略):まず、日本でのAmazonのデバイスビジネスには期待しています。特に、Fire TVには本当のチャンスがあると思います。(セキュリティカメラの)Ringも、市場導入以来、かなりの成功を収めています。先日、子供向けの「Kindle Paperwhiteキッズモデル」も発売されました。

日本市場は私にとってとても貴重なもので、その勢いを見るのはとてもうれしいことです。文化への愛情・人々への愛情もあります。率直に言って、日本の皆さんは、世界でトップクラスの顧客です。なぜなら、日本の顧客の目は厳しい。商品が良くないとすぐに見抜かれる。日本市場での顧客からのフィードバックは非常に的確で、どうすれば改善できるかを学ぶのに最適な場所です。本当に細い点にまでこだわってくれる。

ある意味危険なことでもあります。良い製品を出荷しないと支持されないわけですから。信じられないほど高いリスクがありますが、フィードバックも的確です。

――Alexa+の話から伺います。アメリカでの進捗状況はどうでしょうか? 現在はテスト中だと理解していますが。

パネイ:現在、150万人以上の人がAlexa+にアクセスしています。利用率も非常に高い状況で、ワクワクしています。

現状はまだ「アーリーアクセス」と呼ばれる段階です。ベータではありませんが、近い状況ですね。ユーザーに使ってもらい、フィードバックをもらっています。

米Amazonではアーリーアクセスの申し込み受付中。日本からは参加できない

パネイ:現在、機能の約90%がリリースされています。今後数週間でさらにいくつかの小さな機能が追加されますが、ほぼ完成している状況です。

私たちの最大の課題は、「今Alexaを使っている人が何億人もいる」ということです。そして、Alexa+も多くの人が使ってくれるものになることを願っています。

しかし、それを作るのは大変難しい。彼らは重要な顧客ですし、彼らはまた、我々の製品を愛してくれているので、それに応えなければなりません。

今回取り組んだことの1つが、現在の顧客と彼らが使っていたすべてのサービス・機能について、Alexa+でも利用可能にすることです。

Alexa+も、過去の製品でそのまま使えます。

発売済みのEchoシリーズの多くでAlexa+は利用可能

――継続性が重要視されている、ということですね。

パネイ:Alexaの最大の課題の一つです。大規模なプラットフォームであり、ゼロからの再構築だと、非常に多くの領域をカバーしなければならないことになります。

――日本市場についてはいかがですか?

パネイ:もちろん重視しています。日本市場向けの開発もかなり素早く進展しています。

日本向けでは、方言を尊重し、イントネーションも自然な会話にする必要があります。現在日本担当チームが確認中です。しかし、先ほど申し上げたように、この市場は非常に特殊です。正しく理解し、良いものになるまで、リリースできません。慌ててリリースしても良いことはありませんから。

ここで少しAlexa+の説明をしておきたい。詳細は以下の記事で書いているが、Alexa+は生成AIをベースにゼロから作り直したAlexaだ。生成AIによって会話が滑らかになったが、それだけでなく、「レシピから苦手なものを抜いて作り直し、必要な食材を一括して注文する」「野球談義をしたあとに、特定のチームのチケットを注文。高かったら指定の値段になるまで待って通知する」といった、複数の要素を含む応答が可能になる。その上で、既存のAlexaで使えたサービスや周辺機器はそのまま利用できる、という特性がある。

前述のように、現在はアメリカでテストが行なわれている段階。日本での開始時期は未定だ。だが、日本市場がかなり重視されているのは間違いなく、展開予定国の中でもプライオリティは高そうだ。

――旧Alexaユーザーと新しいAlexa+では、ユーザーの層の違いありますか?

パネイ:Alexa+は主に新しい若い人を引き付けると思っていました。

しかし、実際に確認すると、若い世代には限定されていませんでした。ほぼすべての世代が利用しています。「話す」ということはすべての世代にとって自然なことです。ミレニアル世代か、それより世代の若いユーザーに少し偏っているように見えます。しかし、実際には誰にでも広がっているのです。

私の父は毎日Alexa+を使っていますが、自然な内容の会話をしていますね。子供たちも同様です。

これは強力な変化なんです。

なにか質問があったとします。

これまではスマートフォンを持ち出していましたが、我が家では変化してしまいました。

スマホに聞いてもいいけれど、質問中にメールに気づき、チェックしてからまた質問をする。その間にまたメールが来ている。TikTokを見たくもなる。

でも、Alexa+はあなたを助けてくれるアシスタントになります。部屋の中でAlexa+に聞けばいい。途中で邪魔するものがたくさん出てくることもなく、自然です。

我々はこれを「アンビエントインテリジェンス」と呼んでいます。

Alexa+を発表後、大量の申し込みがありました。何百万件もです。発表会以外には広告などは一切していないにもかかわらず。

今後数週間で、アメリカ国内の何百万人もの人にロールアウトします。そして年末に向けて、誰もが使えるようにしていきます。

最終的には国際展開を考えており、ヨーロッパや日本も検討しています。

Alexa+になってもコンセプトは変わらず

――Alexa+を使う上では、室内のスペースも気になります。愛好家でも、なかなか新しい大型なデバイスには買い替えられません。特に、従来型の「Echo Dot」のような小さいデバイスを使っている場合、スペースに余裕がない。Alexa+において、ハードウエアの方向性やコンセプトに変化はありますか?

パネイ:コンセプトは変わりません。古いデバイスでも動作します。

8年前のものであれば、難しいです。しかし、より新しいデバイスであれば動作する場合もあります。

一方で、誰もが「Echo Show 15インチ」や「Echo Show 21インチ」のように大きなデバイスを求めているわけではありません。

今後は、ハードウエアの新製品が必要だと思います。より高音質でマイクの精度もセキュリティレベルも高く、デザインも良いものになり、あなたのお宅にもきれいに収まるでしょう。

しかし、それが15インチや21インチのディスプレイを備えていなければいけない、という必要はありません。実は画面は必ずしも必要ではないんですよ。もちろん、スクリーンを求める方向けには搭載デバイスを、より大きな画面を求める方にはその選択肢を用意しますが。

現在我々のチームは、お客様の選択肢のために、素晴らしく美しいデバイスを開発中です。

繰り返しになりますが、もちろん今のデバイスでも使えます。実際のところ、今日アクセスしている人々は、すでに持っているハードウェアで使っているわけですから。

――PCやスマホでの利用も想定していますよね?

パネイ:はい、ウェブでの対応は強化しました。

Alexa+はパーソナルアシスタントですから、スマートフォンと一緒に持って行きたいと思うでしょう。

スマホやPCを含め、いろいろなデバイスでの動作を想定

――スマートグラスタイプの製品をどう思いますか? 現在アメリカなどでは、スピーカーとマイクを搭載した「Echo Frames」を販売しています(日本では未展開)。競合他社はカメラ付きのAIデバイスとして展開しています。Alexa+には最適なものだと思うのですが……

アメリカなどでは販売中の「Echo Frames」。日本市場には未投入だが……

パネイ:将来の製品についてはコメントできません。我々のチームは素晴らしい製品を作るつもりですし、今出ている製品(Echo Frames)も良い製品です。

Echo FramesはAlexa+と連動できますし、一緒に街を歩くことができます。あなたの未来予測は非常に賢明なものである、と申し上げておきます。

統合を重視するAmazonデバイス、テレビでの展開にも満足

――Fireシリーズのテレビやタブレットについてはどのようなビジョンをお持ちですか?

パネイ:私たちがよく話しているのは、もちろん「素晴らしい製品を作る」ということです。そして同時に、「デバイス同士がつなる魔法のような体験をして欲しい」ということです。Fire TVやFireタブレットなど、すべての製品が将来、Alexa+と機能するとき、シームレスに連携することを目指します。

玄関のベルを鳴らしたらFire TVが教えてくれて、何をしているのかすぐに確認できる。誰かが家を出たらアシスタントからメッセージを送ってもらう。そのような連携が非常に重要です。

私たちはFireタブレットにも、Fire TVにも継続的に投資していますが、これらはすべて、インターフェースをリフレッシュした形で進化し続けます。

――Kindleはどうですか?

パネイ:Kindleは特別な顧客のための非常に特別な製品です。今も市場は成長しています。昨年、4つの新しいKindleを発売しましたが、どれも好調です

そのうちの「カラー版Kindle」については、もう少しで日本市場にも導入できるでしょう。

特にKindleは「読み書き」に焦点を当てた製品であり続けます。なんでもできる製品は他にもありますからね。

Kindleのカラー版。日本へ投入時期も遠くないようだ。写真は2025年1月のCESで撮影した英語版

――テレビビジネスをどう考えていますか?

パナソニックとのコラボレーションは、日本の市場にとって非常に良いものです。このような他の種類のメーカーや、Amazonの他の分野とのコラボレーションについてどのように考えていますか?

パネイ:パナソニックとの提携は素晴らしい成功例です。日本のローカルメーカーやパナソニックの世界市場を考えると、私たちにとっても大きな賭けです。

私たちの目標は、より多くのスマートホームデバイスがAlexaを通じて接続されている場合、そのエコシステムの中でAlexaをもっと活用できるようにすることです。私たちはOEMがそれを実現できるようにしたいですし、特に日本のOEMにとって大きな可能性を持っています。

そのためにはAmazonのエコシステムと統合された製品がもっと増えていく必要があります。

衛星通信や自動運転にも積極投資

ここまでは、日本でもよく知られた製品についての話を中心に聞いた。

ここからは、まだ計画段階の話を聞いていく。

Project Kuiperは、Amazonが手掛ける低軌道衛星を使った通信プロジェクトだ。SpaceXの「Starlink」のライバルと目され、日本ではNTTやスカパーJSATと戦略提携をしている。

Project Kuiper用の子機。写真は2025年1月のCESで撮影

ZooxはAmazonの子会社で、自動運転車の開発を行なっている。市販車ではなく、タクシーなどの自動運転を軸としたサービス(Mobility as a Service、MaaS)の開発を進めている。

――あなたは、Project KuiperやZooxも担当していると聞いています。その進展はどうですか?

パネイ:どちらも初期段階のプロジェクトですが、進展には興奮しています。

Zooxは現在ラスベガスで自動運転サービスを提供中で、完全に機能しています。

Kuiperは4週間前に最初の27個の衛星を打ち上げたばかりで、次の打ち上げは数週間後になります。実は数日前に打ち上げの予定でしたが、いくつかのロケットとエンジンの課題を解決するために延期しました。

しかし、計画がフルスピードで走っている状況であり、Amazonにとっては将来の大きな成長機会と考えています。

Kuiperで世界中のブロードバンドアクセスを作りたいんです。どんな場所に住んでいようと、誰もが手頃な価格で接続される世界を望んでいます。

前述のように、Project KuiperはNTTなどと提携し、日本も視野に入れた開発が進んでいる。しかし現状、日本への導入を発表できる段階ではないようだ。ただ、「世界中に回線を」というパネイ氏の意気込みは伝わってくる。

――日本での自動運転の可能性についてどう思いますか? 東京は大きな可能性を持つ都市ですが。

パネイ:Zooxについて具体的なコメントは控えます。

ただ、東京は重要な都市です。自律走行のために行うべきトレーニング・機械学習のハードルはありますが、自動運転については、非常に大きな可能性があります。

――Amazonデバイスのビジネスモデルについてお聞きしたいと思います。

Amazonのデバイスは、他社に比べハードウェアデバイスでの利益を絞っています。今後のビジネスモデルについてどのように考えていますか。

パネイ:私たちの目的は、ビジネスを成長させ、会社として利益を上げることです。

結局のところ、素晴らしい製品を作れば、人々はそれを買い、それを愛するでしょう。そして、ビジネスモデルはそこに付随すると、私は信じています。大きなチャンスがあり、Amazonにとっては次のビッグビジネスになることを信じています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41