西田宗千佳のRandomTracking

第634回

Alexa+以外にも多数の秘密。Amazonの新ハードをチェックする

発表会はニューヨークで開催

Amazonが年末商戦向けに新ハードウエア群を発表した。

新製品を発表する、米Amazon・デバイス&サービス責任者のパノス・パネイ シニア・バイスプレジデント

テーマの1つは「Alexa+」だ。

今年のテーマはAlexa+のリニューアル

今年2月に発表され、アメリカで招待制のテストが続いていた「生成AI版Alexa」であるAlexa+だが、アメリカではいよいよ「アーリーアクセス」がスタートする。

残念ながら日本での提供予定は公開されていないが、日本向けの開発が続いていることは間違いない。他国向けと同様、あるタイミングで公開されるものと見られる。

だが、新ハードはAlexa+だけが目玉ではない。その他にも多数の見どころがある。

発表会とハンズオン会場の状況を速報する。

今年のAmazon・新ハードは「Ring」「blink」「fire tv」「Kindle」「Echo」の5ジャンルだ。そして、全体の軸となるのが「Alexa+」ということになる。

新ハードは5ジャンル

このうち、小型低価格セキュリティカメラの「blink」は日本で展開していないので発売されず、新Kindle Scribe(後述)も、日本での発売は決まっていない。

またAlexa+も、アメリカではアーリーアクセスが始まるものの、日本など諸外国への展開時期は公開されていない。

しかし、日本版Alexa+の開発が行なわれており、日本にもやってくることだけは確実である。その点を考えると、今年のプレゼンテーションは、日本から見ると「今後の姿を提示する」ような部分があった。

ホームシアター機能を強化したEcho Dot。Alexa+世代向けカスタムチップ搭載

まずはEchoから行こう。今回発表されたのは、「Echo Dot Max」と「Echo Studio」。そして、「Echo Show 8」と「Echo Show 11」である。

「Echo Dot Max」(左)と「Echo Studio」(右)
「Echo Show 8」
「Echo Show 11」

アメリカ的に見れば、この製品は「Alexa+世代」という点が大きい。

アメリカではAlexa+世代ハードとしてアピール

Alexa+とはなにかを簡単に説明すると、生成AIをベースに作り直されたAlexa+であり、より自然な対話が可能になる。

Alexa+自体は今年の2月に発表されており、クラウド上で動作する。そのため、動作自体はすべてのEchoデバイス、とはいえないものの、発売済みの製品、特にEcho Showシリーズを中心に対応する。

知らないことをAlexa+に訊ねたり、レストランの予約や野球の試合のチケット購入、料理レシピのカスタマイズと買い物など、非常に多彩なことが可能になる。詳しくは、2月に掲載した以下の記事をご覧いただきたい。

今回、Echo Dot Maxには「AZ3」、他のモデルには「AZ3 Pro」というオリジナルのAIプロセッサが搭載される。

Echo Dot Maxに搭載される「AZ3」
それ以外の新モデルには「AZ3 Pro」を搭載

AZ3にはノイズキャンセルの併用など、音声認識精度を高める機能が搭載され、AZ3 Proには画像認識で使われるTransformer技術をサポートする機能が搭載される。

ただ、Alexa+の機能だけでなく、ホームシアター連携を含めた、多数の機能追加が行なわれているのも特徴だ。

「Amazon Home Theater」では、最大5台のEcho StudioまたはEcho Dot Maxと、対応するFire TVを組み合わせることで、簡単に5.1ch仕様のホームシアターを作れる。バスウーファーは使用せず、それぞれのEchoが位置などに合わせて低音を強化することで、没入感のあるオーディオを実現する。

最大5台までのEcho StudioまたはEcho Dot Maxを組み合わせ、空間オーディオに対応

もちろん空間オーディオを楽しむことも可能だ。

Fire TVはAlexa+でコンテンツ検索力アップ

次に中核となるのが「Fire TV」だ。

既存のFire TVは基本的にAlexa+に対応する。その結果として、コンテンツ検索機能が大幅に向上する。

Alexa+とFire TVは、コンテンツ検索のために強く連携する

簡単にいえば、生成AIになったAlexa+で、曖昧な内容や文脈に沿った会話の中でコンテンツを探せるようになる。

例えば「『デューン:プロフェシー』の次に見るといいドラマは?」とか、「家族で見るのに向いた番組は?」といった質問は序の口。

「『デューン:プロフェシー』の次に見るといいドラマは?」という質問にも、内容を把握して回答
「家族で見るのに向いた番組は?」といった質問ならもちろん楽勝

「クライマックスになるとデュエットで歌う映画は?」「ブラッドリー・クーパーがカメオ出演していた映画は?」という、まるでクイズのような質問をしても回答する。

見逃した野球の結果を聞けば、他の番組を見ている最中でも結果を表示し、そこからダイジェスト番組に飛べる。

いつでもスポーツの結果を確認可能

この検索は、Amazon Prime Videoのような自社サービスだけでなく、NetflixやABEMAのような「Fire TVの上でアプリとして動いている、あらゆるサービスの番組」が対象になる。

だから、カーソルを上下左右に動かすよりも楽な、「とりあえずなにか見たいものを聞く」というスタイルが可能になる。

低価格Fire TV Stickに秘められた「新OS」の秘密

Fire TV搭載テレビも増えているが、さらに裾野を広げるには安価な製品が必要になる。

そこで登場するのが「Fire TV Stick 4K Select」だ。

「Fire TV Stick 4K Select」。アメリカでは4K対応で40ドルを切る
本体。外観は従来とあまり変わらず。日本発売が予定されているので技適マークもある
リモコン。インスタントボタンがアメリカ仕様だが、日本のものと形状などは同じ

この製品は、4K対応のFire TVとしては最も安価な製品であり、しかもAmazonは「動作が速い」としている。

リリースなどでははっきり謳われていないが、Fire TV Stick 4K Selectでは、利用するOSの変更が行なわれた。

これまでのFire TVは、全製品がAOSP(Android Open Source Project)をベースにした「Fire OS」で動作している。

しかしFire TV Stick 4K Selectでは、Linuxをベースに作られた軽量OS「Vega OS」が採用されている。

Fire TV Stick 4K Selectは新OS「Vega OS」を採用

ユーザーインターフェースの外観も、機能もFire OSベースのFire TVとほぼ同じだが、より安価なハードウエアで快適に動作するのが特徴だという。

OSが変わったので、実は動作するアプリには互換性がない。しかし「ABEMAやU-NEXTなどの日本のものも含め、発売前には主要な配信サービスのアプリを準備する」(Amazon担当者)とのことで、少なくとも配信サービスなどを使う限り、Fire OSベースのFire TVと大差はないようだ。

開発者情報も本日から公開が始まるが、「Fire OS向けアプリからのポーティングは決して難しくない」(Amazon担当者)という。

では「今後のFire TVはVega OSだけになるのか」というと、これもまた違うようだ。

「Fire OSで動くテレビなどはそのままFire OSを採用する」とのこと。要は、すでに環境が整っているものでOSを変える必然性はなく、特に安価な製品を作るために新OSを使う……ということのようだ。

おそらく、現在ある2Kの製品は次第に姿を消していき、Vega OSベースの安価な4K製品に、とって変わられることになるのだろう。スタートから8,000円以下とかなり安いが、セール時などはもっと値下がりする可能性が高い。

もしかするとその先に「すべてのFire OSをVega OSに」という話があるのかもしれないが、現状はまた別の話、である。

セキュリティから「家のカメラ」になるRing

今回、個人的にも面白いと思ったのが、セキュリティカメラの「Ring」だ。今回発表されたもののうち、全製品が日本に投入されるわけではないものの、大半が日本市場でも販売され、4Kバージョンも用意された。

右が、日本でも発売を予定している、4K対応の「Ring Wired Doorbell Pro」

セキュリティカメラが4Kになるということは、それだけ詳細な動画が記録できて、ズームにも強くなるということ。必要な部分を拡大して確認するには有用だ。

ただし、今回Ringに注目するのは「セキュリティカメラとしての価値」だけに注目したものではない。むしろ「自宅につけられたカメラ」として、セキュリティ以上の価値を持つ可能性が高くなってきたからである。

そこで軸になるのが「AI機能」だ。

Ringには独自の「Ring IQ」というAIと、画像の内容を文章で理解して解析する機能を備えている。

この2つを連携させ、アメリカではRing向けに「スマートビデオサーチ」という機能が提供されているのだが、それがドイツ・フランス・スペイン・オランダで提供を開始した。日本でも「準備が整い次第アナウンス」(Amazonジャパン広報)するという。

この機能は、テキスト検索で「Ringに映ったもの」を自由に検索可能にするものだ。本来はAmazonの置き配を認識したり、怪しい人を認識したりするためのものだが、実際にはもっといろいろな使い方ができる。

スマートビデオサーチでは、置き配などの認識が主要機能だが……

家の前や庭などに設置されたカメラには、家族との大切な時間が撮影されている可能性も高い。そうした映像は大切な記憶であり、リビングのテレビなどで見たくなる。中には、家族との再会や新しい出会いなど、心を打つようなシーンだってあるだろう。

庭で遊ぶ子供のような、「家族の大切な記録」も検索して残しておける

従来、セキュリティカメラから思い出を見つけるには、とにかく中身をチェックするしかなかった。

だがスマートビデオサーチを使えば、監視カメラが無味乾燥なものから、「自宅の思い出を探し、残すもの」にも変わる。

日本ではまだ提供されないが、アメリカでは11月から「Search Party」という機能が提供される。

アメリカで提供予定の「Search Party」。ペットの犬の捜索を、近所でRingを持っている家庭にお願いできる

これはペットの犬が家を出ていくことを検知し、周囲のRingをつけている家庭に捜索を依頼できるというもの。近所にあるRingのAIが登録されたものと思われる犬を見つけると、探し主に連絡を取れるようになる。

これもまた、「AIで家族との関係を保つ」機能ではある。

映像はFire TVで、音声やテキストで検索できる。もちろん、スマホでも、テレビの大画面でも視聴可能だ。

解像度の向上や光学系の改良に合わせ、今回の新製品のカメラは「Retina Vision」と名付けられた。特に大きいのは、この機能とAIを組み合わせ、「Retina Tuning」という自動調節が可能になることだ。

屋内で使うカメラと異なり、屋外のセキュリティカメラは撮影条件がばらつく。日光の強さや風雨、夜間の周囲の明かりなど、1日の中でも条件変化は大きい。そんな中で新モデルは、Retina Tuning技術を使い、できるかぎりどんな条件でも美しい撮影ができるよう、最大2週間周囲の変化を記録し、そこから最適な設定と変更を作り出すという。

AIでカメラ画質をチューニングする「Retina Tuning」

セキュリティカメラの画質向上は重要なことだが、それが「一家の思い出」にもつながるのであれば、さらに価値は高まる。

日本では未発売だがインパクトの大きな新「Kindle Scribe」

今回、見た目のインパクトが特に大きかったのが「Kindle Scribe」のリニューアルだ。

Kindle Scribeがリニューアル

Kindle Scribeは2022年に発売された、大画面とペンによる手書きを採用した大型モデル。

3年ぶりのリニューアルとなる新バージョンでは、ディスプレイを11インチに大型化し、厚みを5.8mmから5.4mmmへとさらに薄くしている。重量も400gと、33g軽くなった。

Kindle Scribeを持つパノス氏。新モデルは非常に薄い。

モノクロ版にはフロントライト付き(499.99ドルから)と、価格を70ドル下げてフロントライトを外したバージョン(429.99ドル、2026年発売)がある。

左がフロントライト付き、右がフロントライトなしのKindle Scribe

さらに今回、初めてカラーのE-INKを採用した「Kindle Scribe Colorsoft」(629ドルから)も登場する。カラーディスプレイの詳細なスペックなどはわからないものの、モノクロ版とほぼ同じサイズで、カラーも現行の「Kindle Colorsoft」より鮮明に見える。

「Kindle Scribe Colorsoft」
Kindle Scribe Colorsoftを持つパノス氏

ペンの描き心地もよく、完成度はかなり高い。

ただし、本製品は日本への投入時期が公開されていない。いつかのタイミングでは発売されると予想できるが、Kindle Colorsoftの発売が半年以上遅れた経緯もあり、少し待たされる可能性はありそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41