西田宗千佳のRandomTracking

第635回

音良し・パフォーマンス良し。「ROG Xbox Ally X」実機をチェックする

マイクロソフトとASUSが共同開発した携帯ゲーミングPC「ROG Xbox Ally X」のレビューをお届けする。

「ROG Xbox Ally X」。価格は13万9,800円

ポータブルゲーミングPCが広がり始めているが、大きなきっかけになったのは、2022年に発売されたValveの「Steam Deck」ではないだろうか。筆者もSteam Deckを含め、2台ほど手元にある。

それらとROG Xbox Ally Xがどう違うのか、試用機材を使って試してみた。

その中で分かった意外なことは、この製品が「最高に音が良くて動画視聴にも向いている」ということだ。

アプリも含めボタン操作に最適化

まず製品概要を見ていこう。

ポータブルゲーミングPCは、ノートPC向けSoCの中でも比較的GPU性能の良いものを使い、コントローラー一体型もしくは分離型の構造にしたものである。

ROG Xbox Ally Xも基本的な構造は変わらない。

パッケージ。シールなどには「ASUS」のロゴを強調
同梱品。本体にUSB Type-C ACアダプター、簡易マニュアルが同梱
同梱のACアダプターは、プラグが折り畳めないもの。出力は最大65W

ROG Xbox Ally Xは、Xboxのコントローラーを意識したグリップがあり、その分厚みを感じやすくなっているが、持ちやすいため負担は少ない。

グリップがあってここを握るイメージ
表面には「ROG」「XBOX」のロゴが敷き詰められている

この辺は、筆者が持っている「Steam Deck(液晶モデル)」「Lenovo Legion Go(2023年末発売・初代モデル)」と比較してみるとわかりやすい。

ROG Xbox Ally X(上)とSteam Deck(下)。画面サイズは似ているがROG Xbox Ally Xの方が小さく感じる
ROG Xbox Ally X(左)とSteam Deck(右)。グリップの分ROG Xbox Ally Xの方が厚い
ROG Xbox Ally X(上)とLegion Go(下)。Legion Goはディスプレイが8.8インチと大きいので、その分ボディも大きい
ROG Xbox Ally X(左)とLegion Go(右)。本体はLegion Goの方が厚いが、グリップまで入れると同じようなもの

ついでにNintendo Switch 2とも比較すると、特に厚みがかなり異なっているのがわかる。

ROG Xbox Ally X(上)とNintendo Switch 2(下)。コントローラーがコンパクトで、Switch 2の方がかなり小さく見える
ROG Xbox Ally X(左)とNintendo Switch 2(右)。薄さは倍ぐらい異なっている

ROG Xbox Ally Xが他のポータブルゲーミングPCと異なるのは、タッチパッドが搭載されていないことだ。これは設計思想に関連してくる。

Steam Deckのコントローラ部にはタッチパッドがある
ROG Xbox Ally Xにはタッチパッドがない

ROG Xbox Ally XはXboxアプリの最適化をかなり進めており、タッチパッドに頼らなくても操作がしやすい。しかし他のポータブルゲーミングPCでは、PCのUIをそのまま使う時に合わせてタッチパッドを搭載している、という方向性の違いがある。

追加されているボタンが多いので最初は困惑するが、各種設定にもアプリ切り替えにも簡単にアクセスできて、操作性はかなり良いと言えるだろう。

あくまでゲーム機ではなく「PC」

ROG Xbox Ally Xは「Xbox」と名付けられているが、あくまでポータブルゲーミングPCだ。だから、いわゆる「ゲームコンソールであるXbox」のゲームは動かない。動くのはあくまでWindows対応のゲームだ。

PCなので動くのは基本Windows
セットアップ画面もWindowsのもの

具体的に、メインになるのはMicrosoft Storeを経由して配布されるPCゲーム、なかでもXboxブランドで提供されるもの……ということになる。

ただし、マイクロソフトはXboxアプリに変更を加え、SteamやGOG、Epic Games Storeといった「他のPC向けゲームストアで購入したゲーム」もまとめて扱えるようにしている。

Steamロゴのゲームと「Game Pass」ロゴのゲームが同じアプリ内に並ぶ

各ストアのゲームを使うには、Steamなど各ストアのアプリをインストールすればよい。購入や設定変更は各ストアアプリで行なうが、ゲームの起動自体はXboxアプリから問題なく行なえる。

PC用ゲームストアアプリをダウンロードすれば、Xboxアプリから管理可能に

手元の3機種のSoCは、どれもAMD製。GPU性能を含めたバランス面で、現状、ポータブルゲーミングPCはAMD優位な状況だ。

最新SoCを活かした性能が魅力

やはり性能が気になるのでベンチマークをとってみた。使ったのは「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークソフト。設定はSteam Deckに合わせて「最低」にしている。フレーム生成はオンだ。

解像度については、ROG Xbox Ally Xのみ、ハードウエアのネイティブ解像度である1,920×1,080ドットとし、それ以外はSteam Deckの1,280×800ドットに合わせている。

結果は以下の通り。最新のSoCを使っていることもあってか、ROG Xbox Ally Xがぶっちぎり。「最低」設定とはいえ、ROG Xbox Ally Xではポータブル型でも快適に「モンスターハンターワイルズ」が遊べるのは大きい。

「モンスターハンターワイルズ」でベンチマーク
ベンチマーク結果。最新SoC搭載のROG Xbox Ally Xが圧倒的な性能差を見せた

ポータブルゲーミングPCは「AAAクラスのゲームでも設定を落とせば遊べる」というのがウリではあるが、その設定がかなりギリギリではある。性能は高いに越したことはない。現状ROG Xbox Ally Xは最新のSoCを使っているわけで、有利なのは間違いない。

ただ、今回は試用機材が提供されておらずテストできていないが、下位モデルの「ROG Xbox Ally」は、SoCの中身がかなり異なるので注意が必要だ。

下位モデルの「ROG Xbox Ally」(8万9,800円)。ボディーカラーはホワイト

以下に表にしてあるが、ROG Xbox Allyで採用されている「Ryzen Z2A」はアーキテクチャの世代が古く、CPU・GPUのコア数やメモリ帯域、NPUの有無など差異が非常に多い。

Steam Deckと似た構成であり、前掲のベンチマークで出ているような有利な値は、ROG Xbox Ally「X」でのみ出ると考えてほしい。

ROG Xbox Allyを含めた4機種のSoC仕様を比較。ROG Xbox Ally Xのみ突出した、最新のものが搭載されている

安価(ROG Xbox AllyはAlly Xに比べて5万円安い)で重量も45gほど軽くなるが、「AAAのゲームを積極的に楽しみたい」なら、ROG Xbox Ally Xの方をお勧めする。

また、ROG Xbox AllyシリーズはWindows PCとしても使えるわけだが、ここでの将来性についても、ROG Xbox Ally Xの方が良い。NPUと指紋センサーを搭載していて「Copilot+PC」の用件を満たしているからだ。

現状、普通にPCとして使う場合に大きな差はないが、Windows 11のオンデバイスAI機能はCopilot+PCであることを前提に拡充していく。

例えば、過去にPC内で行なった行為を検索する「リコール」機能はCopilot+PCにのみ提供されており、ROG Xbox Ally XはCopilot+PCなのでもちろん動く。

Copilot+PCの目玉機能「リコール」も、ROG Xbox Ally Xでは動作
電源ボタンは指紋センサー搭載。ここでもCopilot+PCの仕様を満たしている

CPUアーキテクチャはx86なので、「ARMアーキテクチャでない、手頃なCopilot+PC」という見方もできる。

定位感バッチリ。実は「音がいい」「動画もいい」PC

ROG Xbox Ally Xと他を比べた時に明確に感じたのは「音がいい」ということだ。

ポータブルゲーム機の音として、最近びっくりしたのは「Nintendo Switch 2」の進化だ。だが、ROG Xbox Ally Xは一歩上を行く。

小さなスピーカーなので、ちゃんとしたサイズのオーディオには負ける。しかし、このサイズのデバイスに入っているスピーカーとしてはかなりの満足感がある。

特に「音場構成」がしっかりしているのが特徴だ。右から左への移動、少し斜め方向への音の変化などが、他のポータブルゲーム機に比べ明確で、内蔵ディスプレイを中心に「そこにいる感じ」が強い。ゲームでの位置把握を確実なものとするため、スピーカーの質に相当拘ったのではないか。

筆者は全てのポータブルゲーミングPCを試してはいない。だから、ROG Xbox Ally Xの音質が最高である……とまでは言えない。しかし少なくとも、メジャーな製品の中でトップクラスであることは間違いないのではないか。

このことは動画視聴にも効く。

Steam Deckに比べ、Windows 11を使ったポータブルゲーミングPCは汎用性が高い。Linuxのデスクトップに入って設定していけばSteam Deckだって割となんでもできるのだが、やはりWindows採用の製品の方が色々楽ではある。

ウェブブラウザーのEdgeを使えば、ほとんどの動画配信も問題なく視聴可能だ。

各種動画配信もブラウザ経由で利用可能

音質の良さはここでも有効。スマホなどの内蔵スピーカーだと、どうしても音が中央に集まってしまいがちだが、ROG Xbox Ally Xだと、ちゃんと広がりがあり、音の移動もしっかりわかる。ゲーム同様、アクションものなどに向いた構成という印象が強い。

動画を見る上での問題は、本体にスタンドなどがなく、立てておくのが難しい点だろうか。

だが、パッケージをよく見ると、フタ側に簡易スタンドが入っている。紙製のシンプルなものだが、動画を見る時などに立てておくには十分だろう。

箱のフタ側には、簡易的なスタンドが入っている

どうしてもちゃんとしたものが必要なら、「Steam Deck用」「Switch 2用」などの名目でスタンドが多数売られているから、そこからサイズに合うものを選ぶのがいいだろう。

エンタメ重視の「2台目」に向く

ROG Xbox Ally Xの性能・品質は申し分ない。13万円台というのは決して安くはないが、この価格でこの内容なら「持ち運べるエンタメ用PC」として選んでも満足できるのではないだろうか。この製品はCopilot+PCでもあるので、「小さなデスクトップPC」として使ってもいいだろう。

逆に、課題は「ゲーム機としてのコスパ」かもしれない。

性能で言えば、「PlayStation 5」や「Xbox Series X」のような据え置き型ゲーム機や、より高価なゲーミングPCには敵わない。コスパだけで言えば、やはり据え置き型ゲーム機はかなり良い。

ただ「どこでもゲームがしたい」なら、Nintendo Switch 2の方が軽くて使いやすい。性能はおそらくROG Xbox Ally Xの方がいいが、コストもできることも違うし、任天堂のゲームができるのはSwitch 2だけだ。

ある意味、ポータブルゲーミングPCは中途半端な部分があり、「自分の中でどう使うのか」がわからないとお勧めしづらいところはある。

個人的にお勧めするのは「二台目のゲーム機」的な存在だ。メインがあった上でのサブ、という位置付けなら、いつどこで使うか、というイメージも湧きやすい。

そういう意味では結構贅沢な製品なのだが、どうせ贅沢をするなら、今はこの製品の満足度が高いのではないか……というのが筆者の結論だ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41