西田宗千佳の
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E3 2009特別編 SCE/任天堂のプレスイベント詳報

~噂通り「新型PSP」登場! 「ゲーム」の成果を全面に押し出すSCE~


 6月2日(現地時間)、E3は、正式に開幕した。各ブースも本日午後よりオープンしたそうだ。

 なぜ伝聞系かというと、まだ行っていないから。本日は、朝から任天堂、SCEのプレスイベントが開かれており、そちらを回ったためだ。そのため、今回発表されたハードウエアやサービスのハンズオン取材などの詳細は、明日以降のレポートとなる。任天堂、SCEの双方とも、MSに続きプレスの注目度も高かった。

 


■ 任天堂は従来路線継続。SNS連携はもう基本? 「DSiでもfacebook」

会場の「Club NOKIA」

 まず行なわれたのは、Nintendo of Americaのプレスイベント「Nintendo Media Briefing」。こちらは、メイン会場であるLos Angeles Convention Centerの近所にある「NOKIA Plaza」内のライブホール「Club NOKIA」で開かれた。

 任天堂のプレスイベントについては、AVに関する話題はあまりない。同社の基本方針は、ニンテンドーDSとWiiで開拓した、「ゲーム人口をより一般に広げる」という方針を、今年も明確に貫く戦略である。


「Wii Vitality Sensor」に関して説明する、任天堂 岩田社長。これまでと違い、「簡単に制御できないものをゲームに生かす」ものになりそうだ。

 昨年発表し、発売も近づく、モーションセンサーの感度を高める付加機器「Wii Motion Plus」の他、Wii Fitのソフト改良版にあたる「Wii Fit Plus」などの発表があった。ゲームの面では、ユーザー数を増やすという方針から、「同時プレイ数」を増やすゲームが多かった。例えば、年末発売予定のWii向けソフト「New Super Mario Bros. Wii」では、同時プレイ人数を4人に拡大している。これは、「これまでは、2人がプレイし、1人が見ている、という形だった。これが3人とも同時にプレイできるようになったらどうだろう? プレイ人口が50%増えたことになる」(任天堂 岩田聡社長のコメントより)という発想から来る変化だ。

 ハードウエア的な新機軸は、岩田社長が直々に発表した「Wii Vitality Sensor」。これは、指につけることで脈拍をデータとして収集できるセンサーで、健康状態の把握以外にも、「どれだけ緊張しているかがわかれば、それをゲームに生かすこともできる」(岩田社長)という。また、「ゲームは緊張するものだが、逆に緊張をほぐし、よく眠れるようになるものを出せるかも知れない」と、次なる「健康路線」のヒントも提示した。ただし、この周辺機器を使った製品の発売時期や、具体的な計画などは未発表。今後の布石というところだろう。

ニンテンドーDSiもfacebookと連携。SNS連携はもはやあたり前?

 興味深かったのは、ニンテンドーDSi用のカメラ機能と「facebook」の連携が発表されたことだ。撮影された写真が自動的にfacebookにアップロードされ、コミュニケーションに使われるという。

 昨日のMSの会見でも、Xbox Liveのfacebook連携が発表されたばかりだが、「ネット対応のコンシューマ機器はfacebookと連携する」ことが、少なくとも米国市場ではトレンドとなりつつあるようだ。会場の反応もなかなか良かった。



■ 情報漏洩に苦笑するSCE。ようやく本領発揮? PS3のオリジナルタイトル

 続いて、場所をShrine Auditoriumに移して開催されたのが、Sony Computer Entateinment America(SCEA)主催による、「SCEA 2009 E3 Press Event」である。

SCEAのジャック・トレットンCEO。今回は平井氏と交代しながら壇上に登った

 開催前より、今回の発表内容については噂が飛び交っていたが、会見も、SCEAのジャック・トレットンCEOの「秘密を守るのはむずかしいね。いろいろとバレてしまっているので、誰も来てくれないかと思ったよ」という、なかなかキツいジョークから始まった。

 イベントはまず、南米市場を含め、堅調に推移しているPS2の現状解説、そして、PLAYSTATION 3(PS3)向け有力タイトルのデモンストレーションから始まった。

 PS3に関しては、基本的に「ソフトの充実」をアピールする形であり、ハードの価格改定や変更などの発表はなかった。イベントの組み立て上、有力タイトルをイベントの最初と最後に分けて発表する、という形をとっていたが、どちらも聴衆の反応は大きかった。情報漏洩の多かった発表内容の中でも、会場の意表をついて発表され、驚きの声で迎えられていたのは、MMO RPGであるファイナルファンタジーXIの続編といえそうな、「ファイナルファンタジーXIV ONLINE」だ。

 とはいえ、特に見ていて興味深かったのは、ようやくPS3独自タイトルのクオリティが上がってきていると感じられたことだ。発売から2年半、Cellを含めたPS3の活用方法が見えてきた、というところなのだろう。各タイトルの詳細はここでは割愛させていただくので、僚誌GAME Watchの方をご参照いただきたい。

SCEの発表会場突如発表され、会場が驚きに包まれた「ファイナルファンタジーXIV ONLINE」。2010年サービス開始の予定。パソコンでもサービスが行なわれるが、コンシューマゲーム機向けとしてはPS3オンリーとなる



■ 噂通り「PSP go」発表。ダウンロード向け施策を実行も「PSP-3000は明確に併存」

PSP goを発表するSCEの平井CEO。PSP goはかなり小さく、より「メディアプレイヤー」的に見えるようになった印象だ

 ある意味、今回の本題はPS3ではない。発表のために壇上に登場したのは、SCE代表取締役社長兼グループCEOの平井一夫氏だ。

「どうすればPSPがもっと良くなるのか、様々な人に意見も聞きながら、日々研究をしていた。そして、次なる革新のために、様々な改良を行なったのが、これだ」

 そう言ってポケットから取り出したのが、噂の小型/UMDレスPSP「PSP go」だ。ハードウエアの詳細は別記事に譲るが、これまでのPSPに比べて大幅に小型・軽量化が図られている。だが、機能的には「同じOS、同じソフトウエアが動くPSP」(平井氏)である。

 平井氏は会見の中で「PSP goはPSPの次のステップである」と語った。ゲームを中心としたソフトウエアは、すべてPlaystation Network(PSN)からのダウンロード販売である。スタートからの2年半で、PSP用、PS3用あわせ、現在、55カ国、2,400万人の登録ユーザーがおり、4億5,700万のコンテンツがダウンロードされたという。特に米国のPSNでは現在、1,900本の映画と9,400本のテレビ番組が販売されているが、さらに、日本の東映アニメーションを含む17社とパートナーシップを結び、コンテンツの拡充に努めていくという。また、PSP goの登場にあわせ、これまではPS3かPCを介する必要があったビデオストアからの映像ダウンロードも、PSPに対し直接行なえるようになる。

「これまではバラバラに利用していた、映像や音楽、ゲームなどをひとつにまとめて楽しむ。それがPSP goだ」(平井氏)

16GBのフラッシュメモリを内蔵、ソフトは基本的にここへ蓄積する。スライド型になったが、タッチパネルなどの追加はなく、基本的な部分はPSPとまったく同じである米国での新しい映像配信のパートナー。特にテレビ番組やアニメなどの配信に向けた強化が中心。ぜひ日本では、逆に「アニメ以外」の強化をお願いしたいところだPSNの利用者は順調に増加中。このユーザーをベースに、これからのネットワークビジネスを構築していくことになる

 ただし同時に、これまでのUMD搭載型PSPのサポートも確約した。

PSNのStoreは、PSP用もPSP go用も同じ。PSP-3000は「ディスクとダウンロード」、PSP goは「ダウンロード専用」というプラットフォーム構成になる

「PSP-3000は併売する。UMDのゲームは、これまでと同様に発売される。ユーザーは、自分の好みに応じて選択することができる。より軽く、小さいものがよければPSP goを、大きな画面を求めるならPSP-3000を」(平井氏)と語り、新路線があくまで「緩やかなトランジション」であることを強調している。PSP向けゲームラインナップの紹介画面でも、PSP-3000とPSP goは同じような比率でフィーチャーされており、ディスクビジネスにダウンロード系を「アドオン」する形での成長を模索しているようだ。

 PSP goの登場にあわせ、SCEは「PSP史上もっとも強力なラインナップを、2009年にはそろえる」としている。その代表格は、PSP発売当初から「予定タイトル」として紹介されながら、いっこうに姿を現さなかった「グランツーリスモ」である。また、昨日は「Xbox 360の切り札」として紹介された「メタルギアソリッド・シリーズ」が、PSPオリジナルの「最新作」として登場することも発表されている。

グランツーリスモがようやくPSPで登場。PSP goの上でグランツーリスモが動く様を、開発元であるポリフォニー・デジタルの山内一典プレジデントが公開

 日本では主に「モンスターハンター・ポータブル」シリーズのヒットにより、ニンテンドーDSとかなりいい勝負をしている印象を受けるPSPだが、北米・欧州市場では、日本ほどはっきりとしたプレゼンスを得られていない。北米や欧州に強いタイトルを得た上で、「PSP go」という新型を用意することで、高画質・メディア指向のポータブル/ゲーム機としての地位を確立しよう、という狙いがあるのだろう。

 また、PSP活性化策の一貫として発表されたのが、PSP開発キットのライセンス価格を「85%値下げする」という施策だ。これにより、日本では15万円、アメリカでは1,500ドルに値下げされ、開発への参入障壁がぐっと低くなる。これらの開発キットのライセンス先は企業相手が基本で、さすがにアップルの「AppStore」にソフトを提供するほど気軽ではない。だが、ダウンロード向けの小容量ソフトウエアの開発を促進するためには、重要な施策であり、興味深い。

PSPとPCを連携するソフトウエアとして「Media Go」を発表。ソニーグループの他の機器でも使われるメディアプレイヤーとなるようだ

 AV的に見逃せないのは、PCとPSPを連携するソフトウエアとして「Media GO」が発表されたことと、「音楽をより快適に楽しむもの」として、「SenseMe」というPSP用のプレーヤーソフトウエアが用意されることだ。

 これまでのSCEとPSPに欠けていた「ハードを生かすために、PCとわかりやすく連携するソフトウエア」として、期待が持てる。Media Goは、すでにソニー・エリクソンが英国で発売予定のウォークマン携帯「W995」に採用予定のソフトウエアでもあり、今後、ソニーグループ全体で利用する「PCと各機器を連携するソフトウエア」になっていくと予想される。



■ SCEも「モーションセンサー」を公開。精度は高く、実現のハードルも低い?

新モーションセンサーは、カメラの「PLAYSTATION Eye」と、独自の棒状のコントローラーの組み合わせで動作する。カメラとの相対位置の他、手首のひねりなどの細かい情報も認識するようだ。特に、奥行き方向の検知精度が高そうだ

 任天堂のWiiを追いかけ、マイクロソフトが「Poject NATAL」を発表したように、SCEのプレゼンテーションでも、「モーションセンサー系」の技術が公開された。

 元々SCEは、2004年に発売されたモーションセンサーカメラ「Eye Toy」を持っており、この分野では草分けともいえる。

 今回のデモンストレーションも、PS3用カメラ「PLAYSTATION Eye」に加え、特殊な棒状のコントローラを組み合わせ、操作者の位置や手首・腕の動きを感知し、操作に生かすというものだ。コントローラを持つ関係からか、どうやら奥行き方向の位置感知はかなり正確な上に、認識速度もなかなか速いようで、ごくわずかと思える動きも読み取り、操作に生かしていた。EyeToy譲りの発想か、取り込んだ映像の上に、実際は存在しないラケットやバット、剣などを重ねて操作するという「拡張現実(AR、Augmented Reality)」系の指向が強かった。おそらくは、ソニーがこのジャンルを積極的に研究しているためだろう。

 SCEはこの技術に関し、2010年春には、なんらかの製品を発表したい意向だという。マイクロソフトほど「夢を追っているわけではない」という辺りが、商品化までの距離の差になっているのだろうか。ただし、具体的なソフトの内容については語られていない。

 なお、追ってSCE平井一夫社長の単独インタビューをお届けする。PSP Goのハンズオン・レポートも含め、プレスイベントの内容を踏まえたさらに詳しい話題をお伝えしたい。

操作している映像の中で、コントローラーの部分だけを他の物体に置き換えて表示可能。俗に「AR」と呼ばれる技術だが、ゲームには応用しやすい文字を書いたり、マウス的な操作をしたりといった、細かい動きも認識している。2本のコントローラーを使うと、任天堂の「Wii Motion Plus」と同じように「弓を引く動作」もできる

(2009年 6月 3日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]