吉田伊織のA&V奥の細道

第7回

HDMIケーブルでの“半径ずらしの技”に効果はあるか

前回の「半径ずらし」にはWeb上で少々の反響があった。ただし実際に試してみての感想はなく、意外=分けわからんという意見もあった。

さらには2線で伝送するコードの場合、ノーマルモードの電流はコイル巻きしても原理的に音質の影響は受けない、ということを筆者は理解していないかのような誤解から断罪する向きもあるのだが、この連載5回目の「無誘導巻き」の回では以下のように明記していることを見落としているようだ。きちんと読み解いてから批判してほしいものだ。

イヤフォンケーブルの長さ調整をする時に一工夫、コイル巻きの秘訣 より

音声電流はノーマルモードで伝わる。つまり行って帰って式に往路と復路が入れ替わるように伝わるものだ。そして、その2本のコードを1本のコードのようにコイル巻きすると、これはコモンモードの電流についてのみコイルとして働くことになっている。

つまり往路も復路も同時に一本の線であるかのように伝わるコモンモード電流、そのほとんどはノイズなのだが、そういう形式の電流にのみコイルとして働き、ノーマルモードの音声電流には影響しないはずなのだ。

前回のおさらい

では、前回のおさらいをしておこう。

まずスピーカーケーブルと電源ケーブルについては、コイル巻きを「半径ずらし」する手法ではあまり、あるいはほとんど効果がなかった、しかしわずかの改善のきざしが感じられること、例外的にはっきり効果が感じられることもあった。

スピーカーケーブルを、2段ずつ半径ずらしした例

これは、コモンモードのノイズ対策としてコイル巻きし、それに対して「半径ずらし」でそのノイズ減衰効果を打ち消すやりかたでどうなるか、という実験であり、コモンモードノイズ対策を解消したのだからむしろ改悪になることも想定できるだろう。だから「あまり効果なし」はセオリー通りということになる。

効果がないことを予想して実験してみた、というのはひっかけるつもりなどではない。各種のありうる事態を検証することは大事なことだからだ。

例外的に効果があったというのは、単なるコモンモードフィルターのありなし以外の理由が潜んでいたかもしれないが、現場で検証する余裕がなかったので判然としない。それについて少々。

磁力線の漏洩問題

思考実験としては、これは高い周波数のノイズのふるまいなどではなく、電磁的な影響をこうむっていたからかもしれないという場面を思い描いてもいいだろう。

たとえば、アパートやオフィスビルなど、同じ構成の部屋が水平的にも垂直的にも多数展開している場合。各部屋の同じ水回り付近に冷蔵庫が設置してあるとどうなるか?

一台では無視できたとしても複数台の冷蔵庫が同時に動作していると、電動機から漏洩する磁力線はそれなりに到達範囲が広くなり、径の大きなコイル状の電線にノイズを誘起することになるかもしれない。

そこでコイルの働きを崩せば、その漏洩磁力線の影響を低減できる可能性はないだろうか? そんなの荒唐無稽だというなかれ。実はその実態を「目撃」したことがあるのだ。

それは、とある読者宅への訪問で三管プロジェクターを拝見した時の事。時々画面が揺れるという主訴があり、実際に走査線がゆらりと波紋状に動揺することが確認できた。その主さんの話では高圧送電線の影響ではないかという。実際にごつい碍子で支えられ展伸された3線式の高圧線が窓から近いところに見えるのだ。

三相三線式の送電は3つの線に流れる電流が正確な位相関係や波形でバランスが取れているべきなのだが、近くに工場のような大口需要家があったりするとそうもいかない。

そこの大型電動装置が動作するたびにわずかなから三相バランスが崩れて、それが電磁波の変化として三管プロジェクターの偏向系に影響を及ぼす、ということは考えられるだろう。となると個人で対策は難しく、問題の出現傾向を記録し、画面の変化の様子を写真にとって電力会社に相談するしかないだろう。

ともあれ、2線式をコイル状に巻いただけでは重大な音質劣化は生じにくいということが再認識できることは結構なことだ。つまり顕著な効果があった場合との比較に有効だからだ。顕著な効果というのは、前回の場合、HDMIケーブルでの実験の場合だ。

マルチケーブルにおける「半径ずらし」の効果

HDMIケーブルにおいて、わざわざループを作ってからその束を半径分ずらすと画質、音質が良くなる! なんてこと、これまで誰もやったことがない、報告したことがないので疑問の声も上がっている。私自身もその効果に驚いているくらいだ。

スピーカーケーブルや電源ケーブルとHDMIケーブルとの間には大きな違いがある。前者2つは単純な2本の線によって音声電流や電源電流を各線互いに逆方向に流す構成になっているだのが、HDMIケーブルの方はマルチケーブルのような複雑な構成になっているのが特徴だ。

WireworldのHDMIケーブル「Platinum Starlight 48」の断面
HDMIのピンアサインと結線図(カナレ電気のHDMIケーブル製品図より)
通常のHDMIケーブルの内部。3系統のデータラインはそれぞれ3本1組の差動伝送であり、各組ごとにシールドされている
こちらは光伝送のHDMIケーブル。ミントブルーの一番長く突き出ているのが光ファイバー3本のデータライン。上の緑と灰色とシールドは金属線の一組。他に電源や制御系など金属線を用いている。光伝送のHDMIといっても金属線は結構使われている
これは短く切り出した光HDMIケーブルの反対側から光を当て、先端部が輝く様子を指で曲げて見えるようにしたもの。写真では3本の先端部の光がくっついているが、本当は3点に分かれている。実に細い線の3本が一つのチューブに同居していることに注目。超高級光伝送を目指すなら、各光ファイバーを緩衝材で包むべきだろう。光ファイバーは振動の影響を受けやすく、振動センサーとしての用途もあるくらいだ。インターネット用の光ファイバー網はほとんどの家庭に普及しているが、ハイテク盗聴屋がその気になったら、光ファイバーの振動特性を活用して、分岐ボックスなどから各部屋の会話を盗聴できるという指摘もある

図や写真でわかるように、信号線は3本一組として3系統あり同期信号用も1系統ある。他にPC用、制御系、電源系の配線、着脱の認識用の端子があるので複雑だ。つまり性質の違う系統が複数同居しているのであり、たとえ系統ごとにシールド線で覆っていても、各系統から輻射されるノイズは互いに複雑な影響を与えることだろう。

たとえば、系統ごとに流れる電流が異なるのだからその系統ごとのシールド線に輻射されるノイズ電流も同様だ。単純に逆方向や同方向に同じ電流波形やノイズ成分が出現するわけではないだろう。

つまりノーマルモード伝送で2線間に生じるような打ち消し効果など期待できないのだ。3本一組構成のデータや同期信号の系統は、バランス伝送と解釈すると打ち消しでノイズが全て消滅する期待を持たれがちだが、GHz領域まで完璧な打ち消し効果は期待できない。

そこでケーブル全体にループを作るとどうなるか?

シールド線から輻射されるノイズ成分は全系統に共通の同相ノイズ分だけ通りにくくなり、マルチケーブルによるノイズの輻射はかえって複雑になり、あるいは信号の流れを阻害する要因が付け加わるかもしれない。となるとループの効果を打ち消すように「半径ずらし」する意義も生じるように思える。

実際のところ、動画配信の系統のストリーミングデコーダーとAVアンプの間を結ぶHDMIケーブルで試すと、ループを作るだけでは改善効果があいまいであり、あるいは改悪にも思える、というように実に微妙な変化だ。

それならば最初からループなど作らなければいいだろうに、と思われるかもしれない。私もそういう疑念に取りつかれた。それは難問だが、データ伝送のボトルネックのような状態を作ってからそれを解消する、というような仕掛けの有効性があるかもしれない。そうした“締め上げてから緩める”効果があるかどうか、色々実験してみると結構楽しめると思う。

話はまだまだ続く

この半径ずらしの試みは、思考実験としては単純なノイズ抑制策ではないと思いたい。成分も流れる方向もランダムな各系統から輻射されるノイズ電流に、一定の抑制条件を課してから、自らノイズを抑制するコイルの働きを解除する効果、とは一応いえるのだけれど。

ただしこの場合、事態を構成する要素Aがあり、続いて要素Bがあって、というような説明をしてしまうと見失なうものがあるかもしれないことに留意されたい。

つまり、説明のための記述の順番が因果のそれだと誤解されるかもしれないからだ。要素Aを説明してから、<また要素Bも無視できない>という叙述の論理が、いつのまにか<要素Aが主であり、要素Bは従属的だ>というような優劣や<要素A → 要素B>という因果の論理にすり替わることだ。

今回の実験例では、実際は複数の条件が加味されて二律背反(ジレンマ)の状態になっているかもしれないことに留意しておきたいものだ。

相反要求に積極的な意義はあるか?

これを古い教訓話に例をとると、たとえば、<忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず>というような対句表現だ。

親に対する孝も主君に対する忠も兼ね備えるのが武士の鑑だとして、親が主君を害するに至って、不忠の親を諫めるべきか、それとも親に対する孝を優先するべきか、悩みに悩むことになるというお話。

同時に相反要求を突きつけられるのだから、えらい軋轢なのだろう。

ま、そういうノイズのボトルネックに対する条件付けを想定するのも面白い思考実験になるだろう。

例えば、一方向に流れる輻射ノイズのみ流れにくい状態を作りつつ、それを解除して流れたければお好きなように、ということが両立する世界だ。それらはループの有り無しとは異なる様相を呈するかもしれない。

ループを作ってから「半径ずらし」する形自体が、それらの手順を超えて新たな特性を得てしまった、ということも想定すると面白い。実際に、ループの効果を打ち消す「半径ずらし」を行うと、無対策の時ともループの時とも明らかに向上した品位の画質、音質が得られるのだ。

そんなのありか? 疑問ならばまずはお試しあれ。

吉田伊織

小学生(1962年)のころから数年、電気工作に熱中。ラジオの深夜放送を自作のラジオで聞くようになり、大人向けのポップスやラテン、ジャズ、映画音楽などに魅せられる。ジャズやロック、モダンフォークが大変革する前夜であり、後の音楽志向の原点となる。またギターの各ジャンルに興味が移り、クラシックギターは一時教室に通ったことがある。また40歳ころにヴァイオリンも習ったが両者とも短期間で限界を知って縁遠くなる。高卒後各種の就業を経験。産業用変圧器や電動機などの修理業では、高電圧ケーブルの絶縁性維持の仕組みにオーディオ用途との関連を見出す。また映画館やポストプロダクション(録音スタジオ)の映写室勤務を経験。 映画館ではアナログ式のドルビーステレオ用再生装置(パッシブ型サラウンドデコーダー相当)を自作。装置を実際の興行に供して好評を得る。光ファイバーを用いた光学音帯のピックアップとしては世界初であった。 趣味のオーディオについては、ジャズ喫茶通いや自作派名人、WE(ウェスターン・エレクトリック)系の大家との交流などで少しずつ接近。管球式、半導体式アンプのキット品や自作などで部品や実装法による音質の違いを研究し、今日のオーディオ評、ビジュアル評に生かしている。