小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第772回 なるほどそう来たか! 分離型カメラが全天周対応、カシオ「EX-FR200」
なるほどそう来たか! 分離型カメラが全天周対応、カシオ「EX-FR200」
2016年9月14日 09:30
第3世代で大きな路線変更
カシオのEX-FRシリーズは、カメラ部とモニター部が分離することで、離れた場所でのモニタリングとリモート撮影を実現したユニークなカメラである。本体、モニター部ともに防水・防塵・耐衝撃仕様となっており、デジカメというよりはアクションカメラとしての文脈で語るべきだろう。
2014年に初号機「FR10」、2015年に「FR100」とほぼ同じコンセプトで進化してきたが、3世代目で方向性を変えてきた。レンズの焦点距離を大胆に短くし、全天周カメラとして生まれ変わったのだ。それが今回取り上げる「EX-FR200」である。
考えてみれば、他社の全天周カメラは、カメラヘッドのみの製品をわざわざ作っている。一方FRシリーズなら、最初からカメラヘッド部が分離するので、全天周カメラに向いているのだ。したがって製品コンセプトやアクセサリー類はそのままで、全天周の世界にスルッと入ってきた。
なお、本機は9月中旬発売で価格はオープンプライス。店頭予想価格は65,000円前後だが、通販サイトでは6万円を切る価格で予約受け付けしているところもあるようだ。カシオ流の全天周カメラは、どんな世界を見せてくれるのだろうか。早速試してみよう。
最初からこうだったかのような作り
従来のFRシリーズは、アウトドアスポーツを意識してか、イエローやオレンジといった派手なカラーバリエーションもあった。一方今回のFR200は、ブラックのみである。全天周ともなればユーザー層も変わるので、馴染みやすい色にしたのだろう。固定アクセサリー類が元々全部黒なので、マッチングも良くなった。
まずカメラ部から見ていこう。レンズは焦点距離としては35mm換算で13.4mmの魚眼レンズで、F2.8。撮影画角としては185度となる。つまり前方はほぼ全部写るという事だ。なお表面はレンズカバーで覆われており、レンズがむき出しなわけではない。このあたりの作りは以前からと同じだ。
撮像素子は有効画素数1,195万画素、1/2.3型の裏面照射型CMOSで、4K動画撮影にも対応する。撮影モードが3タイプあり、それぞれで撮影できる写真と動画の画素数が変わる。
撮影モード | 静止画 | 動画 |
全天周 | 3,888×3,888ドット | CIMG0013.mov (12.56MB) 1,440×1,440/30p |
パノラマ | 7,456×1,864ドット | CIMG0018.mov (13.96MB) 2,880×720/30p |
超広角 | 3,232×2,424ドット | CIMG0021.mov (58.43MB) 3,840×2,160/30p |
静止画には連写モードもあり、その時は画素数が縦横で約半分となる。動画の連続撮影時間は29分。本体内に内蔵メモリもあるが、48MBしかない。mocroSDカードはSDXCまでサポートする。
カメラは周辺部にボタン類が配置されているのは従来通り。真ん中の少し大きなボタンがシャッターで、左が電源、右が動画録画だ。右のスライドスイッチは、カメラユニットを90度ローテーションさせることができる。
左右はそれぞれフタが開くようになっており、右がmicroUSB、左がmicroSDカードスロットだ。背面は固定用プレートがあり、ヒンジで180度開く。ヒンジはかなり堅く作られており、角度を付けても振動で倒れないようになっている。
モニター部を見てみよう。こちらはカメラとBluetoothで繋がるようになっており、カメラアングルはもちろん、モードや設定の変更などを行なう。モニターは3型タッチパネルで、92万1,600ドット。寸法なども含め、前作と仕様は変わっていないようだ。もちろん中身のソフトウェアは全天周用に一新されている。
最大の違いは、1台のモニターユニットでカメラ2台まで同時にコントロールできるようになったところだ。それで何をするかというと、カメラ部を2台背中合わせにくっつける事で、全周囲360度撮影ができるカメラに化けるのである。そのための合体用カメラマウンター「EAM-8」(5,000円)も10月より新たに発売される。
いくら360度撮れるからといっても、同じ製品を丸ごと2個買うとモニターユニットが余ってしまう。そのため、FR200ではカメラ部だけの単体発売(EX-FR200CA/実売5万円前後)も9月から行なわれる。さらに全天周用ではなく、全モデルFR100と同性能のカメラ部も単体発売(EX-FR100CA/同35,000円前後)される。全天周と通常撮影の同時2カメ撮影も可能になるというわけだ。
また全天周撮影にも便利なマルチアングルスティック「EAM-4」もお借りしてみた。先端にカメラユニットを取り付け、手元のハンドル部にモニター部が取り付けられる伸縮式のスティックだ。これもあとで試してみよう。
撮影は超カンタン
ではさっそく撮影である。とはいっても、撮影は全く難しくない。なにせ正面全部が撮れるので、アングルもフォーカスも何もないのである。全天周モードでは、モニターには球形の画像が写る事になる。あとはシャッターなり録画ボタンを押すだけだ。
これまでのFRシリーズは、デジカメとして標準的な焦点距離だったので、カメラ部とモニター部をドッキングして普通のデジカメっぽく使うという使い方もアリだった。FR200でも同じようにドッキングできる。通常のデジカメスタイルでここまでの魚眼が撮れるカメラはちょっと珍しいだろう。
一方全天周撮影には、マルチアングルスティック「EAM-4」が便利だ。スティックの先端は普通の三脚ネジになっているので、そこにトライポットマウンター「EAM-1」を使ってカメラ部を取り付ける。手元にはモニター部が取り付けられるマウントがあるので、そこにモニターを取り付ける。
先端のカメラは角度が自由に変えられるので、スティックを伸ばしてベストな角度になるように調整し、撮影するといい感じだ。1m程度高い位置から俯瞰で撮影しても、モニターは手元で見られるわけである。
昨今のアクションカメラは、スマートフォンでモニタリングしながら撮影する機能を持つものが多い。専用のモニター部があるカメラにあまりメリットを感じないかもしれないが、接続の安定性やバッテリーの持ちの良さという点では、やはり専用機なりの良さがある。
ただこのマルチアングルスティック、ポールを伸ばしたのち、ねじってロックするのだが、先端部分の角度とモニター取り付け部の角度が微妙にズレる。細かいこと言うなと思われるかもしれないが、その辺が微妙に許せないのがA型というものである。
動画撮影は、カメラモードの切換で解像度が変わる。超広角モードでは4K動画が撮影できるが、このときだけはモニターが真っ黒になり、映像が表示されない。恐らく記録と同時にモニター用の低解像度映像をプロセスするパワーがないのだろう。このモードだけはノーファインダで撮影しなければならないのが残念だ。
本体での再生は、一番最初に再生する時だけ何らかの画像処理が入るのか、1~2分ほど待たされる。それ以降はスムーズに撮影と再生が行き来できるようになるのだが、最初にテスト撮影した絵を確認しようとしたらしばらく反応が返って来ず、なかなか本番撮影ができずに困ってしまった。
本体での再生は、特に指でグリグリ回してみられるわけでもなく、撮影時に見ていた状態がそのまま見られるだけだ。インタラクティブな再生は、スマートフォンへ転送して見る必要がある。このあたりはあとで試してみよう。
続いて本機の目玉とも言える、2台をドッキングしての全天球撮影を試してみよう。まず1台のモニター部に2台のカメラを接続するため、設定モードにて「マルチカメラ登録」を行なう。 そしてモニター画面右上にあるカメラ追加的なアイコンをタップすると、2台のカメラ映像が左右に別れて表示される。
それぞれのカメラは別々に設定が変えられるので、どちらも「全天球」モードに変更すれば、設定完了だ。モニター部の録画ボタンを押せば、自動的に2台が同時に録画を開始する。
カメラをマルチカメラマウンターに背中合わせにセットすれば、準備完了だ。マウンターの底部は三脚穴になっているので、いろいろなマウンターにそのまま付けられる。今回は自転車のハンドルと、マルチアングルスティックに取り付けて撮影してみた。
ただカメラ2台分の重量があるので、自転車のハンドルにマウントする場合、かなりきつめに固定しないとグラつきが大きい。画角がものすごくワイドなので、カメラが揺れても映像酔いするほど大きな影響はないが、悪路走行にはあまり向いていないだろう。
撮影中は半球の映像が2つ並んで表示されるだけで、その場でグリグリ回して見られるわけではない。あくまでもちゃんと撮れているかのモニターができる程度だ。一度設定してしまえば、撮影は難しくない。お楽しみは、見る時である。
撮るより見るのが面白い
全天球にしろ半天球にしろ、撮影する時には撮影者の意図、すなわち構図やアングル、絞りやフォーカスといったものは反映しづらい。せめてどこで撮影したか、ぐらいのことがポイントになる程度だ。つまり撮影中は、そんなに面白くないわけである。だから、体に取り付けたりして意識せずに撮影するというのが、一番負担が少ない。
むしろお楽しみは、見る時である。まずはスマートフォンで確認する方法を試してみよう。FRシリーズからスマートフォンに転送するには「EXLIM Connect」というアプリを使用する。カメラとWi-Fi接続し、撮影した映像を送信してくれる。ただこれは普通に撮影したままの映像を転送するだけで、視点を動かして見られるわけではない。
インタラクティブに視点を動かして見るために「EXLIM ALBAM」というアプリが提供される。これはスマートフォン内の写真を自動的にまとめてアルバム化してくれるほか、FR200で撮影した静止画・動画をインタラクティブに動かして見る事ができる。全天周映像を複数カ所切り出して、1画面にまとめて表示する事も可能だ。
BGMもアプリ内に10曲プリセットされており、タイムライン再生時に音楽付きで画像を楽しむことができる。ハイライトムービー作成機能も備えている。
一方2カメを使って全天球を撮影したデータは、そのままだと半球画像が2個あるだけだ。2つのカメラのデータをマージして1つの動画ファイルにしなければならないわけだが、それにはPC/Mac用のソフト「EXLIM360Viewer」を使う。
2つのカメラで撮影されたデータを同じフォルダに入れ、それをソフトウェア内にインポートすると、同時に撮影された映像は自動的に判別され、1つの全天球データとなる。なお、2つの映像は完全にステッチすることはできず、残念ながら少し隙間が空く事になる。
編集モードでは、2つの映像の明るさやカラーを調整したり、2カメの隙間のカラーを変えたり、時間的なタイミングのズレ、位置のズレを補正することができる。大抵は何もしなくても綺麗に繋がっているのだが、いざとなったら細かく調整できるのは安心できる。
2つのデータをマッチングさせたら、1つの動画データとして出力する。その動画をYouTubeなりFacebookなりにアップすれば、VRコンテンツとして表示されると言うわけだ。PCを使う必要があるので、スマホでデータを作ってすぐネットに上げるという事にはならないが、PCなら演算処理が早いので、データ作成に時間が取られないのはメリットだ。
総論
基本的な作りは同じで、レンズとソフトウェアの工夫だけで全天周カメラへと変貌したFR200は、久々に「うーん頭いい」と唸らせるプロダクツだ。
このシリーズ、他社のカメラにないユニークなポイントとしては、モニター部が同梱されているところにあった。つまりこれまで「コンパクトデジカメが分離する」というコンセプトであったわけだが、この特殊なモニター部を使って2台のカメラをコントロールできるようにしたというのが、今回のミソだろう。
これにより、360度カメラ2台で全天球撮影が可能になったり、また1台はFR100を繋ぐ事で違ったアングルの2カメ撮影ができたりと、撮影の幅が拡がった。カメラ、モニター部ともに防水・防塵・耐衝撃仕様なので、ハードな環境にも耐えられる。水辺回りやスノーリゾートなど、スマホでのリモート撮影とはまたレベルの違った撮影が可能になるだろう。
2つのカメラを使った全天球撮影では、データのリンクは自動で行なわれ、画質や時間軸のタイミングも非常に精度が高い。ただ2つの映像の間をステッチングするのではなく、ちょっと隙間が開いてしまうのがつくづく残念だ。間にリング状の輪っかがあると、どうしても世界観が前後で途切れてしまう。VRコンテンツとしては、この輪っかでどうしても「覚めて」しまうので、没入感が半減するのだ。画質としては悪くないだけに、マウントの改良や今後のアップデートによる改善を期待したいところである。
いわゆる「360度カメラ」のジャンルで言えば、日本市場ではリコー「THETA」シリーズか、Kodak「PIXPRO SP360(4K)」のどちらかを選ぶという感じだった。ここにEXLIMが新たな選択肢として登場したわけである。さらに予定では、この10月にもNikon「KeyMission 360」が登場する事になっており、この秋はまた360度カメラが盛り上がる事になるかもしれない。
CASIO EXILIM EX-FR200BK |
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