小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第806回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ドローンじゃない、フライングカメラ。スマホケースに入っちゃう「AirSelfie」始動!

ついに出荷開始

 Kickstarterに代表されるクラウドファンディングがブームとなったのは、2014年頃だろうか。多くのガジェットが名乗りを上げ、一定期間内に資金を集めることができたものの、そこから商品が出てこないベンチャーも少なくなかった。

スマホより小さい「AirSelfie」(右)

 そこから我々が学んだのは、設計図と作る資金があるだけではダメで、製品として世に出すためにはまた別のスキルが必要だったということだ。一時期に比べるとベンチャーに対する期待値も下がってきているのかなという気がする。

 クラウドファンディングで資金集めに成功したものの、プロジェクトとして失敗したドローン事業は少なくない。超小型ドローン「ZANO」は、およそ4億円の資金を集めたヨーロッパ最大のKickstarterプロジェクトと言われたもの。だが数百台の製品は出荷したもののまともに飛ばない、カメラ画質がひどいなどとして、2015年に頓挫した。

 ところがそれを遙かに上回る巨大プロジェクトが破綻した。2015年から資金調達を始めおよそ40億円を集めた自撮りドローン「Lily」が、2017年に事業停止した。資金は返金されたようだが、我々は40億円あっても、理想とする自撮りドローンが作れないという現実を目の当たりにすることとなった。

 今回ご紹介するAirSelfieは、スマホケースに収納できるほど小さい自撮り用ドローンとして注目を集めたものの、本当に出るのかどうか半信半疑だった人も多かっただろう。だがCES2017で実際に動作するモデルを出展したことで、発売が待たれていたところだ。

 日本では5月より順次出荷が始まっており、多くの関係者もホッと胸をなで下ろした事だろう。直販サイトでの価格は33,495円から。実際にどういう製品に仕上がっているのか、今回は無事出荷開始されたAirSelfieをテストしてみたい。

小型軽量薄型ボディ

 では実際のモノを見てみよう。極小ドローンといえば、童友社やG-FORCEなどから多くの製品が出ているが、本機のポイントは「薄い」という事だろう。クワッドコプターなのでローターが4つある事は変わりないが、厚さがおよそ1cmの完全平形。このため、スマホケース型の充電器に装着して持ち歩けるというところがポイントである。

小型自撮り専用ドローン「AirSelfie」

 ボディは上下のパーツを貼り合わせた格好になっており、色は艶消しのシルバーだが、上下で微妙に色が違う。サイトでは単純にanodized aluminum(アルマイト)と書いてあるだけで、別々の工場に発注したのかわからないが、表面処理が違うように見える。

ボディは上下の質感が若干違う

 サイズは67.4×94.5×10.6mmの立方体となっており、幅はPlusではないiPhone 6/7とほぼ同じだ。トータル重量は61g。付属品として破損防止用のゴムバンパーが付属しており、これも含めると64gとなる。

破損防止のゴムバンパーが付属
破損しやすい4コーナーをガード

 デフォルトが自撮り(Selfie)するために設定されていることから、カメラは前方ではなく後方に搭載している。まああんまり前後は関係ないといえば関係ないのだが、ロゴの方向からすれば後ろにカメラ、と言えるだろう。

ロゴの向きからすると、後ろ向きにカメラがある

 カメラは500万画素のセンサーで、レンズの視野角は69度。角度は7度下向きに取り付けられており、基本的には人を見下ろす状況で撮影する。静止画解像度は2,592×1,944ピクセルで、動画は1080/30pとなる。

 バッテリーは完全に内蔵されており、交換には対応しない。バッテリ容量は260mAhで、およそ3分の飛行が可能。撮影用メモリーは4GBのmicroSDカードが内蔵されているが、こちらも取り外すことはできない。

 底部には超音波センサーと小型カメラがあり、床面をセンシングすることで高さと位置情報を取る。電源ON/OFFはプッシュ式の小さいスイッチだ。

底部のセンサーと電源スイッチ

 前面にはマイクロUSB端子があり、ここにケーブルを挿すことで充電する。スマホケース型の充電器も付属しており、こちらはバッテリ容量が1,800mAh。単純に割り算すれば、本体を7回ぐらい充電できる事になる。ケースでの充電はおよそ30分だが、10分で50%まで充電できる。

前面にマイクロUSB端子がある
スマホケース型充電器が付属
ケースに本体がすっぽり入る
ケースに格納すれば本体への充電が始まる

 スマホケース型充電器は、オーダー時にスマホの種類を選択できる。現在用意されているのは、iPhone 6、6 Plus、7、7 Plus、Samsung S7 Edge、Google Pixelの6タイプで、公式サイトでのセット価格は33,495円。またスマホケースではなく、単純なバッテリ充電器「Power Bank」とのセットも販売されており、こちらは日本円でおよそ35,565円。スマホケースとのセットで購入した場合、Power Bankを追加で購入する事もできる。その場合の合計は44,457円となる。

 本機のコントロールは、スマートフォンのアプリだけで、ハードウェアのコントローラはない。カメラでの撮影も含め、専用アプリ「AirSelfie」ですべて制御を行なう。

制御アプリの「AirSelfie」

 アプリには3つのコントロールモードがある。自撮りには「Beginner」モードと「Selfie Motion Control」モードが使える。この2つはカメラが後方(自分の方)を向いた状態でコントロールできるようになっている。3つ目の「Standard Control」モードは、カメラを前方に向けた状態でコントロールするよう、コントロールの前後関係が逆になっている。

 スマホと本機は2.4GHzのWi-Fiで接続する。フライトコントロールだけでなく、カメラの映像もFPVできるので、画角を確認しながらの撮影が可能だ。撮影機能としては、タイマー撮影、連写撮影が設定できる。

静止画はセルフタイマーと連写機能が使える

 なお、AirSelfieの重さは61g。人口集中地区や空港周辺等での飛行が制限され、飛行する際には国土交通省等への飛行許可申請が必要となる改正航空法の対象外(規制対象は200g以上)のドローンだ。ただ、飛ばす際には周囲の迷惑にならないよう十分気をつけて欲しい。

意外に短い飛行時間

 では早速飛ばしてみよう。コントロールモードは3種類があるが、やはり最初はBeginnerモードから試すべきだろう。

 手のひらに乗せて本体の電源を入れ、Wi-Fiが繋がったことを確認したら、コントロール画面中央部にある「Slide to take off」のエリアを右にスライドすると、ローターが回り出す。そのまま垂直に投げ上げると、飛び上がる。降ろす時は、本機の下に素早く手のひらを差し込むと、ローターの回転が止まり、手の上にぽとんと落ちてくる。これが基本だ。

ビギナーモードの操作画面
ローターを回転させたあと、投げ上げると飛び上がる
takeoff .mov(19.20MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 Beginnerモードでは、ドローンの操作がボタンに別れており、わかりやすい。上下矢印のボタンで高さ、左右矢印ボタンで左右移動、左右回転ボタンで旋回となる。マニュアルには、上下ボタンは前進後退という記述があるが、実際には高さ方向の上下だ。

 そうなると困るのは、前進後退のコントロールができないことだ。被写体に近すぎる、遠すぎるといった場合は、被写体のほうで近づいたり離れたりするしかない。いくらビギナーとはいっても、少なくともあと2つボタンは必要だ。

 高さや位置はセンサーによって自動的にキーブされるはずだが、その精度は「だいたい大まかにそこらへんにいる」という程度。マニュアルで制御しなければ自動で位置制御しないドローンに比べれば、勝手に飛んでいってどこかにぶつかって墜落するようなことはないが、DJIの「Mavic Pro」のような安定性を期待しているとガッカリするだろう。

 ただ、ホバリングの安定性は、収集したデータをどう分析して、実際の飛行にどう反映させるかという問題なので、センサーの精度が低すぎない限り、ファームウェアの改良でなんとかなる話である。今後のアップデートで安定性が増す可能性はある。

 問題は、現状のコレで自撮りができるのかというところである。これで自分が写真に写ろうとするならば、本機をコントロールしてベストなポジションに飛ばすよりも、うまく写るように被写体のほうで動いた方が早いレベルだ。なにせ飛行時間が短いので、いいアングルになるようにアワアワしているうちにバッテリー切れで自動で降りてきてしまう。

 フライト時間は公称3分となっているが、バンパーを装着し、写真や動画を撮影すると、実質2分程度だ。過去様々なドローンを飛ばしてきた経験からすると、飛行時間はせめて実測で5分以上ないと、コツが掴めない。なんだかよくわからないうちに時間切れになってしまうのは、なかなか厳しいものがある。慣れるまでに何度も充電し、飛ばす必要があるだろう。

屋外撮影で行けるのか

 さて本機は、操縦を楽しむタイプではなく、あくまでもセルフィーのためのフライングカメラという位置づけだ。そうなれば、室内だけで使うと言うことは考えづらい。いやむしろお店などで飛ばすと迷惑だろう。やはり屋外の風光明媚な場所へ行けば、自撮り棒で撮るよりもいい写真を撮りたいと思うはずだ。

 そこで近所で撮影テストしてみた。当日はそれほど風も強くはなかったのだが、屋外故に無風ではない。フライトまえにキャリブレーションもしたのだが、それでもかなり風に流される。どこかへ飛んで行ってしまうようなことはないが、その場でじっとしているのは難しいレベルだ。

連写してみた。解像感は悪くないのだが……

 それよりも想定外だったのが、風に逆らってその場に居るためには、かなり機体を傾けなければならない。しかし、カメラは本体に固定され、ジンバル装置もなにもないので、そのまま写真を撮ると全部水平が傾いてしまっている。まああとで写真アプリで水平を直せば済む話ではあるのだが、自撮り棒よりも手間なしかと言われれば、全くそんなことはないという事になる。

 本機の場合、このサイズ感やお手軽感からすれば、全くのドローン未経験者が購入する可能性もある。ベンチャーを応援したい気持ちはあるのだが、3万円超のコストをかけて単に水平な写真を撮るのも難しいとなれば、厳しい評価を下さざるを得ない。

 画質に関しては、ホワイトバランスに若干難があるが、解像感は悪くない。周辺の収差や色ズレも感じられない。ただ、写真の右下に必ずロゴが入るのはいかがなものか。SNSで拡散される写真を使って宣伝したい気持ちはわからないでもないが、ユーザーとしては自分でお金を出したカメラの画像に勝手にメーカー名が書き込まれるとなれば、返品したいと思う人もいるだろう。ドローンではなくカメラだと言い張るなら、こうしたデリカシーのない方法をとるべきではない。

 動画もそれなりの解像度で撮れるのだが、いかんせんジンバル機構がないので、動画としてはかなりガクガクだ。フルHD解像度で撮影できるのは立派なスペックだが、理想的な空撮というわけにはいかない点は飲み込んでおいた方がいいだろう。

動画での撮影。ロゴは入らないが、ジンバルがないので見やすい動画とは言えない
movie_sample .mov(106.80MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 セルフィーを小型ドローンで撮影するという方法論に一定の支持が得られることは、クラウドファンディングの金額を見れば一目瞭然だ。問題は、いくらで、どういう出来なのか、という費用対効果だろう。

 AirSelfieをオモチャのドローンの一種として見ると、スマホケースに入ることを諦めれば、他にも1万円程度でそこそこのものが買える。初心者のうちはどうしても壊したり、飛んでいって無くしたりということが起こるので、デビューが3万円超えというのは、ちょっと怖いように思う。まずは数千円のドローンで様子をみてからのほうがいいのではないか。

 一方AirSelfieをフライングカメラとして見れば、写真画質としては悪くない。ただジンバル機構がないため、写真の水平が取れなかったり、動画ではブレが抑えられなかったりと、実用性に疑問が残る。

 フライングカメラというジャンルでリファレンスとなるのは、DJIのMavic Proだ。以前テストしたが、強風の中でもPhantom並みのホバリング性能を有していた。またジンバルにより安定した映像が得られることから、カメラとしても十分だ。来月にはより小型で廉価なSparkが登場予定で、こちらも期待がかかるところである。

 Mavic ProやSparkの本格的な性能と比べると、AirSelfieは大幅に小型で、同じフライングカメラと言ってもまったくレベルが違うもののように見える。1万数千円から6万円程度のジャンルは競合も少ないので、いわゆる「気の利いた」ドローンが待たれている状況に上手く滑り込んだ印象だ。

Mavic Proと並べたところ。サイズはまったく違う

 一方でAirSelfieほど小型ではないが、他のベンチャーもこの分野には積極的だ。やはりこの5月から販売が開始された「Hover Camera」は、価格が6万円程度、重量は242gで改正航空法の規制対象となるにも関わらず、Apple Storeではよく売れているようである。

 遡って昨年末には、セルフィー用小型ドローンとして「DOBBY」が発売になっている。こちらは5万円程度で重量は200g以下のため、航空法の規制を受けない。

 こういう製品とAirSelfieを比較すると、価格は半分程度で買いやすいとは言えるが、安定性や飛行時間の面で満足度が下がるとなれば、やはり費用対効果として難しいところに入る。

 ホバリングでもう少しジッとしていられる安定性があれば、自撮りツールとしてまた評価も違うので、今後のファームアップに期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。