小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第845回
これでベーシックモデルなの!? ソニー「α7 III」でHDR撮影
2018年3月28日 08:10
やたらと買われているα7 III
昨年11月25日に発売された「α7R III」の登場によって、α7 IIシリーズの次としてIIIシリーズが新展開するのね、ということをみんな理解した。α7 IIシリーズでは、無印がベーシックモデル、感度強化がS、多画素がRという位置づけである。
発売順として、普通はベーシックモデルが出てからSなりRなりが発売されるのが筋だが、IIIシリーズに関してはRが最初に発売されたことで、みんな「あれ?」と思ったわけだ。そのあと4カ月遅れで無印が発売されるという、ちょっと変わった状態になっている。今回取り上げるのは、このベーシックモデルであるα7 IIIだ。
これが筆者の周りのIT系ライター間で、やたらと売れている。特に価格面で、裏面照射センサーを使いながらも、α7R IIIがソニーストア価格369,880円(税別)のところ、α7 IIIでは229,880 円(税別)と、10万円以上も安いところが拍車をかけているのだろう。そういう動きをされるとこちらとしてもなんだかソワソワしてしまうので、困ったものである。
実はα7R IIIをレビューしていなかったので、IIIシリーズは今回が初という事になる。また動画中心のレビューとなるが、リーズナブルなベーシックモデルでどこまで行けるのか、そのあたりをテストしてみよう。
堂々のミラーレス標準機
ではまずボディから見ておこう。α7から7 IIになったときもボディが大型化するなど大きな変更があったところだが、IIからIIIも完全別ボディとなっている。それもそのはずで、ボディは2017年5月に発売された「α9」がベースになっているようだ。
IIIシリーズとして先行発売されているα7R IIIと比較すると、センサーは同じ裏面照射のExmorRだが、総画素数は4,360万画素から2,530万画素、有効画素数は4,240万画素から2,420万画素へと、大きくダウンしている。いやダウンと言うよりも、そもそもRは多画素モデルなので、こっちのほうがスタンダードスペックと言うべきだろう。
背面のボタン配置は、α9と同じである。違いは軍艦部だ。α9の左肩には連写とAFの二連モードダイヤルがあったが、α7 IIIシリーズでは省略されている。右肩のモードダイヤルも、センターのロックボタンがない簡易型のものとなっており、選択モードもユーザープリセットが1つ減り、その代わりシーンモードが加えられている。
少し残念なのは、IIIシリーズではパノラマモードがなくなったことだ。シーンモードの中にも見当たらない。360度カメラなども出てきたことで影が薄まったことは事実だが、まだ役割を終えたとは思えない。リニューアルしての復活を望みたい。
フォーカスに関しては、IIシリーズではAF/MFとAELの切り換えレバーがあった部分に、小型のジョイスティックがつけられている。これもα9譲りだ。上下左右でフレキシブルスポット等でのフォーカスポイント移動ができ、真ん中押しでセンターに戻る。AFポイント指定で画面を触りたくない人には、強力な機能である。
実質的な前モデルとなるα7 IIからの大きな進化点としては、XAVC Sによる4K記録に対応した事が挙げられる。IIシリーズでは、RとSが4K本体収録に対応していたが、世代が古いα7 IIは4K収録できなかったのである。
【4K動画撮影モード】
モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
30p,100M | 3840×2160 | 30p | 約100Mbps |
24p,100M | 3840× 2160 | 24p | 約100Mbps |
30p,60M | 3840×2160 | 30p | 約60Mbps |
24p,60M | 3840×2160 | 24P | 約60Mbps |
メモリーカードスロットも、デュアルスロットになっている。ただしSDXC UHS-IIに対応しているのは、スロット1のみとなる。
加えてピクチャープロファイルが拡張され、 S-Log2、 S-Log3のほか、HLG1-3の記録にも対応した。この価格でフルサイズ4K、しかもHLG撮影が可能というスペックは、かなり強力だ。
端子類は、ガチプロ仕様のα9とはかなり違っている。左側前方には外部マイク端子があるのみ。その後ろにはイヤフォン端子と、MicroHDMI端子がある。MicroUSB兼用のマルチ端子がある点は同じだが、充電ポートとしてUSB Type-C端子が採用されている。
本機にはバッテリー充電機が付属しておらず、バッテリーはUSB Type-C端子もしくはMicroUSB経由での本体充電となった。バッテリー交換でどんどん撮るには不便になった一方で、USB端子にモバイルバッテリーを繋げば、外部からの給電で動作できる。この仕様の方が、長時間の動画撮影には便利だろう。
あのフジノンレンズとガチ対決!!
今回使用のレンズだが、「Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS」、「FE 24-70mm F2.8 GM」、「FE 70-200mm F4 G OSS」の3本を使用した。撮影モードは、せっかくなので4K/30pのHLGで撮影している。
ところで先々週の記事をご記憶だろうか。富士フイルムの「X-H1」をレビューしたのだが、このカメラと同時発表されたXマウントシネマレンズは、発売が6月とまだ先なのでお借りできなかった。だが同じレンズが、すでにEマウント用として発売されている。
今回は富士フイルムにもお願いして、このEマウント用シネマレンズ「FUJINON MK18-55mm T2.9」と「FUJINON MK50-135mm T2.9」の2本をお借りした。ただしEマウント用は電子接点がないため、完全にマニュアルレンズとして使う事になる。
一方Xマウント用シネマレンズには電子接点があり、本体と通信できるので、レンズ収差補正などを行なう事ができる。画質的には電子接点のあるXマウント用シネマレンズと「X-H1」の組み合わせのほうが上がると思われるが、フジのシネマレンズのトーンも見ておきたいところだ。
まずソニー製のレンズでは、当然ながら電子接点が使えるため、693点像面位相差検出AFセンサーと425点コントラスト検出AFが使える。特に像面位相差AFは撮像領域の93%をカバーしており、フレキシブルスポットの指定範囲もかなり端の方までいける。画面タッチでフォーカス送りも簡単かつ、実に正確だ。
HLGによる撮影は、ガンマ表示アシスト機能があるので、通常のBT.709での撮影と、感覚的には同じだ。α9から継承された録画ボタンは、サイズは小さいが押し込みが深く、フィーリングとしてはビデオカメラのRECボタンのようだ。
一方でフジノンシネマレンズでは、完全にマニュアルモードでの撮影となる。またレンズのイメージサイズが24.84mm×13.97mmなので、フルサイズでは四隅にケラレが発生する。本機にはAPS-C/Super 35mmへの切り換えモードがあるので、Super 35mmシステムとして使用することになる。
ホワイトバランスを5500Kに固定して両方で同じカットを撮影してみたが、ソニーレンズは鮮烈な青みと色の濃さがあり、パッと目立つ発色だ。一方フジノンはどちらかというと暖色系で温かみのある発色となっており、シネマっぽいトーンがすでにレンズだけでも感じられる。
写真やワンショット、ショートムービーならパッとした派手さがあるソニーレンズだが、これで2時間の作品を見るのは辛い。落ち着いたしっとり感のあるシネマレンズのトーンのほうが、長時間の作品には向いているだろう。加えてシネマレンズは、焦点距離の違うレンズに交換しても色のトーンが統一されているのも特徴だ。1本1本に味がある写真用レンズとは考え方が違う。
強力な夜間撮影
本機はスタンダードモデルながら、フルサイズの裏面照射センサーを搭載したことから、低照度時のS/N向上に期待する人も多いことだろう。もちろん、α7R III、α7 IIIと来てるわけだから、この後に高感度モデルの「α7S III」が待ち構えているだろうことは予想できるが、スタンダード機の実力も測っておきたいところである。そこで今回は、夜間での撮影も行なってみた。
いつものISO感度テストでは、使用レンズ「FE 24-70mm F2.8 GM」でF8、シャッタースピード1/60に固定し、ISO 100から倍々に感度を上げて撮影した。現場の目視では、だいたいISO 12800ぐらいの場所である。
4K素材をHDにシュリンクしているため、さらにS/Nがよく見えるが、HDとして利用するぶんにはISO 51200ぐらいなら我慢して使えそうである。
ISOオートで夜の住宅地を撮影してみたが、目視ではほとんど色味が感じられない場所でも、カメラを通して見ればしっかり発色しており、照明なしで街灯程度の明るさでも十分撮影に耐えられる。
20万円台のカメラでここまで撮れれば言うことないだろう。実売ベースではα7S IIも同じぐらいの価格になってはいるが、約2年半前のカメラを今買うより、最新のベーシックカメラのほうが楽しみが大きい。
最後に、手ブレ補正も試してみた。今回はボディ内の5軸補正の機能もアップし、最大で5.0段の補正能力を誇る(α7 IIは4.5段)。使用レンズはFE 24-70mm F2.8 GMのワイド端だが、動画撮影時の大きなブレに対応できるほどには補正しないようだ。
総論
本機はα7 IIの次世代モデルという事になるわけだが、デザインや使い勝手の面からすれば、実質的に“α9の廉価モデル”という位置づけのほうがしっくりくるかもしれない。上位モデルにしかなかったジョイスティックがこの価格でも使える上に、フルサイズ裏面照射センサーで暗部にも強い。
静止画のカメラとしても強力だが、4K撮影にも対応、さらにはHLG撮影までこなすとなれば、お買い得感は高い。α9はHLGどころかS-Log撮影にも対応しないので、動画ならやっぱり安心の7ナンバーという事になる。
その一方で、IIIシリーズが今のところ4K/60pの対応を見送っているのは残念である。動画向きがウリの次期Sシリーズは画素数も少ない事だし期待したいところではあるが、どうなるだろうか。
いずれにしても、第三世代目のα7 スタンダードモデルは、いろんな意味での「丁度いい」が詰まったお買い得モデルという結論で良さそうだ。