小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第959回
フルサイズで手乗り?! ソニー「α7C」で4K動画を撮る
2020年10月28日 08:30
フルサイズの常識を変える?!
デジカメの世界では、生き残りをかけて主要メーカーがフルサイズミラーレスに参入し、盛り上がりを見せている。これまでフルサイズと言えば、一眼レフが主力だったわけだが、ミラーレス化によって小型化の道も開けた事になる。
小型化と言えば日本のお家芸であるところだが、そんな中、フルサイズミラーレスで一日の長があるソニーから、レンズ込みで世界最小・最軽量となるフルサイズミラーレス、「α7C」が登場した。10月23日より発売開始されており、店頭予想価格はボディのみで21万円前後、レンズキットは24万円前後。またフルセンサーのαとしてははじめて、シルバーモデルも発売する。今回はこのシルバーモデルをお借りしている。
これまでα7シリーズは、無印、高感度のS、高画素のRと3タイプ展開してきたが、ここにきてCompactのCが追加された格好だ。今回は小型化されたことで動画性能に影響があるのか、そのあたりをチェックしてみる。
小型機はAPS-Cかフォーサーズと相場が決まっていた一眼市場に、小型フルサイズというジャンルを開拓するα7Cを、早速テストしてみよう。
APS-C機に近いボディ
まずボディで特徴的なのは、これまでビューファインダがあった部分の突起がなくなり、軍艦部がフラットになった点だ。一眼レフとは違い、ミラーレス機では光学プリズムが不要なので、てっぺんのとんがり部分はいらないのだが、なんとなくこれがあるとハイエンド機のような気がしてくる。十分な性能のビューファインダを収めるにはある程度のスペースが必要なことと、デザイン的にも収まりがいいことから旧来のデザインである突起部を採用してきたということだろう。
スペック的には、約2,420万画素裏面照射型CMOS、最大ISO感度51200、位相差693点AF、秒10コマ連写、ボディ内5軸手ブレ補正搭載と、2年前の「α7 III」とほぼ同じスペックである。それをα6000シリーズとほぼ同等のボディに押し込んだことになる。
まず軍艦部だが、左肩にスピーカー穴があるのはα7 III同様。平たくなったトップにホットシューがあり、モードダイヤル、露出シフトダイヤルがあるのも同じだ。しかしC1/C2ボタンがなくなり、その代わり動画の録画ボタンが天面に移動している。またグリップ部にあったダイヤルもなくなり、操作系はシンプルになった。
背面は、左肩にビューファインダが移動したため、そこにあったメニューボタンが中央に移動した。正直メニューボタンが左側にあるのは使いづらいと思っていたので、真ん中に移動したのは良かったと思う。そのほかAELボタンがなくなり、ジョイスティックも省略されている。どちらかといえばRXシリーズの操作系に近い感じだ。
ビューファインダは0.39型XGAのOLEDで、α7 IIIよりだいぶ小さい。総ドット数約236,000ドットで解像度は高いが、若干暗い印象を受けた。接眼部にアイカップがないので、晴天の昼間など明るい場所ではちょっと見づらい。
液晶モニターは自撮りも可能な横出しのバリアングルになった。3.0型TFTのタッチパネルである。ドット数は921,600ドットで、これはα7 IIIと同スペックだ。
内部基板は完全に別物のようで、メモリーカードスロットは左側になった。マイク入力、ヘッドフォン出力、HDMIマイクロ、充電用USB-C端子も左側だ。本体充電およびUSB給電に対応しており、USB-C電源アダプタが付属する。
動画撮影機能としては最高4K/30p/100Mbpsで、XAVC S 4Kで記録する。HDRとしては、S-Log2およびS-Log3のほか、HLGはダイナミックレンジ違いの4モードで撮影が可能。
なお4K/24p撮影では映像はクロップされないが、4K/30pでフルサイズ撮影する時のみ、画角がクロップされる。HDおよび4K/24p撮影時は、約2.4倍の6K映像から4Kに縮小処理されるが、4K/30p撮影時は1.6倍の映像からの縮小処理となる。今回のサンプルは4K/30p/HLG2で撮影しているが、解像度的には24pの方がさらに上質のはずである。
キットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」も見ておこう。α7C用に新規開発されたレンズで、光学2.14倍ズームということになる。ズーム幅は狭いが、使用しない時にはレンズが沈同できるため、コンパクトに持ち運びできる。またテレ端とワイド端でほぼレンズ長が変わらない設計となっている。
このレンズと本体、バッテリー、メモリーカードを合わせても約676gとなる。α7 IIIは本体、バッテリー、メモリーカード込みで約650gなので、ほぼレンズなしの本体と同じ程度の負担でフルセットが持ち歩ける事になる。
バシバシAFが決まる
α7cの場合、その軽快さが持ち味ということになる。動画にしても三脚を使わずどれぐらい撮れるのかというところが気になるところだ。本機はボディ内に5軸手ブレ補正を搭載するが、キットレンズ側に補正機能はなく、電子補正も搭載していないので、動画の補正機能は限定的だ。
実際、手持ちでフィックス撮影ならなんとか持ちこたえられるものの、撮影しながらの移動では厳しいものがある。このあたりはα7 IIIからあんまり変わっていない部分である。
一方フォーカスに関しては、動画撮影時でも画面タッチでターゲットを決めて自動でトラッキングする「タッチトラッキング」があり、意図したところへ簡単にフォーカスがあわせられるようになった。
また人物撮影でも「リアルタイム瞳AF」が動画でも使えるようになり、4K撮影でも使用可能だ。ただし、特定の設定時は使用できなくなる。具体的には、光学ズーム以外のズーム使用時、「ピクチャーエフェクト」で「ポスタリゼーション」選択持、ピント拡大時、動画の記録設定が「120p」の時、スロー&クイックモーション撮影時で「S&Qフレームレート」が「120fps」の時、記録方式がXAVC S 4Kで「30p 100M」または「30p 60M」、4K映像の出力先を「メモリーカード+HDMI」に設定している時。XAVC S 4Kで「プロキシー記録」を「入」にした時も顔検出/瞳検出は使用できない。
【お詫びと訂正】記事初出時、“4K撮影で「リアルタイム瞳AF」が使えない”と記載しておりましたが誤りでした。4K撮影でも瞳AFは使用可能です。ただし、設定によって使用できない場合があります。お詫びして訂正します。(11月6日18時)
AF機能は、特に静止画撮影では威力を発揮する。意図したところにバシバシフォーカスが来るので、撮っていて気持ちがいい。また今回新開発となったシャッターも、フィルムカメラっぽい「ジャコン」という音が心地よい。大きな音ではないが、撮影にリズムが出る。珍しく調子に乗って、かなりの枚数の写真を撮ってしまった。
HDR撮影もプリセットから選ぶだけと簡単に撮影できる。編集してコンテンツにするには若干知識が要るところだが、カメラからテレビに直結して見るだけなら簡単だ。発色も良く、ダイナミックレンジも広いので、逆光でもなかなか見栄えのする映像が撮影できる。
4K/30pでは若干画角が狭くなるが、それでも1.6倍からの縮小処理がかかるため、細かいディテールも綺麗に表現できる。レンズは新規開発だが、青空抜けの細かい葉先でも収差が見られず、なかなか良好だ。
さすがαとうならせる暗部撮影
裏面照射CMOSのαシリーズであれば、夜間撮影に強いことはよく知られている。ISO感度は、静止画で最大下限ISO 50、上限ISO 204800に、動画では下限ISO 100、上限ISO 102400まで拡張できる。シャッタースピード1/60、F4でISO 100から順に2倍ずつ上げていったが、51200ぐらいまでは普通に使えそうである。
さすがに102400ではノイズの張り付きが目立つところではあるが、後処理でノイズリダクションをかければどうにかなりそうだ。
スロー撮影はフルHD解像度しか対応しないが、最大120pで撮影可能で、30p再生なら4倍速、24p撮影なら5倍速となる。またS-LogやHLGでも撮影できるのがポイントだろう。
また今回は、スマートフォンのアプリ連携も試してみた。事前にImaging Edge Mobileをインストールしておき、NFCかQRコードでカメラと接続する。
撮影モードでは、若干の遅延がありならがもリアルタイムで映像が確認できるが、スマートフォンから変更可能なメニュー項目は限定的だ。またアプリを一端バックグラウンドに回すと接続が切れてしまう。そうなるとアプリ側からアクションしても再接続はできず、カメラ側の再操作が必要になる。
カメラの映像をスマートフォンに転送できる機能もあるが、撮影のアシスト機能とは基本的に別機能なので、一端接続を切ってカメラ側で設定し、スマートフォンと接続し直す必要がある。ユーザーとしては、カメラは電源を入れておけばあとはスマートフォン側で操作を完結したいと思うはずだが、そこがなかなか簡単にはいかない。
こうしたスマートフォン連携は、他社に比べると先行していただけに、今となっては設計的に古くなってしまったのが残念だ。
総論
見た感じ、持った感じからしてもフルサイズを感じさせず、まるでAPS-C機のようなハンドリングなのが本機のポイントである。軽さ、コンパクトさという意味では今回のキットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」がベストマッチではあるが、フルサイズセンサーの良さを味わいたいなら、もうちょっとハイスペックのレンズが欲しくなるところである。
とはいえ、コンパクトなボディは魅力であり、価格的にも実売20万円程度だ。2年前のα7 IIIと同じくらいの価格で若干機能アップとなれば、コチラを選びたい。一方小型化ゆえにボタンやダイヤルが省略されている部分もあり、そのあたりはトレードオフという事になるだろう。
いずれにしても、あのα7が小さくなったというだけで、市場へのインパクトは大きい。これからフルサイズも、ハイエンドだけでなくミドルレンジからローレンジまで、当たり前になる一歩手前まで来たというサインかもしれない。