小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第850回
ソニー注目のスポーツイヤフォン、左右分離でNC「WF-SP700N」、1万円切る「WI-SP500」
2018年5月9日 08:00
スポーツモデルの夜明け
前回はソニー関連会社が手がけた“ながら聴き”向けイヤフォンとして2モデルをご紹介したが、今回はソニー本体から登場した新ワイヤレスイヤフォン2モデルを取り上げる。
スポーツ向けイヤフォンは、長い間米国市場が主戦場であった。現在も米国で量販店に行けば、yurbuds、Jabraといったブランドがしのぎを削る。ソニーもスポーツモデルの歴史は長く、米国では安定した人気を誇る反面、日本ではなかなか火が付かなかったジャンルである。だが昨今の健康・ダイエットブームもあり、徐々にスポーツモデルも売れ始めている。
そもそも昨今の左右完全分離型のはしりの1つであるBRAGIの「The Dash」も、スポーツモデルであった。ワイヤレスイヤフォンは、スポーツと普段使い兼用という形で20代~30代の間に浸透しつつある。
この春ソニーが発売したスポーツモデルは、全モデルIPX4クラスの防滴性能を備えた「WF-SP700N」、「WI-SP600N」、「WI-SP500」の3モデルだ。“WF”は左右完全分離型、“WI”はネックバンド型で、Bluetoothイヤフォンだが、左右のイヤフォンはケーブルで繋がっている。“SP”はスポーツモデル、“N”はノイズキャンセリングありを表わしている。
今回テストするのは、最上位モデルのWF-SP700Nと、一番下のWI-SP500だ。
意外な実力? WI-SP500
では一番下のモデルであるWI-SP500から試してみよう。型番からわかるように、ノイズキャンセリングのないシンプルなBluetoothイヤフォンである。カラーはブラック、ピンク、イエロー、ホワイトの4色で、今回はブラックをお借りしている。
店頭予想価格は約9,000円、通販サイトでは実売8,400円前後と、気軽に買える価格だ。バッテリ持続時間が8時間と長いのも魅力の一つであろう。
左右が繋がったワイヤレスイヤフォンは、もう数年前から主流になってきているが、これまでソニーではケーブルの途中にコブを付けてそこにバッテリやコントローラを入れたモデルが多めで、今一つスマートさに欠けた。だがWI-SP500は、左右接続のケーブルがシンプルになり、必要な機構を左右イヤフォンに分離して搭載するようになっている。
形状としては、サインペンぐらいの太さの円筒部分に、インイヤー型のドライバ部がくっついたような格好である。中身のドライバは13.5mmのダイナミック型を採用する。
ダイヤフラム面のカバーは、半分だけメッシュとなっている。加えてイヤーピースも片側に寄せる格好で集音して音を吐き出すという設計で、今のようにカナル型が主流になる前、おそらく20年ぐらい前に、低音がより強調できるとしてこうした設計が流行ったことがある。
ただあの時代からかなり研究も進み、イヤーピースの素材もかなり薄型になっている。また表面に独特の細かい突起が付けられている。これは滑り止めも兼ねるが、何よりも外音を取り込みやすくするための工夫と聞いている。
ドライバユニットそのものがオープン型なのに加え、独特のイヤーピースのおかげで、量感のある低音を吐き出しながらも外音がかなり聞こえるという、独特の設計となっている。一般道をジョグングするといった用途としては、外音取り込みは重要な要素であり、そこに大きな工夫が見られる作りだ。
円筒部分は左右対象に見えるが、機能のほとんどを搭載しているのが右側だ。底部に電源と再生・ポーズ兼用ボタンがある。ボタンはちょっと固いので、電源投入にはちょっとコツが必要だ。ボリュームのアップダウンと曲のスキップ兼用ボタンも右側である。
充電端子はわかりづらいが、右側の円筒部のてっぺんがキャップになっており、そこを開けるとMicroUSB端子がある。一方で左側には、何の機能もない。要するに右側が基板部で、左側は全部バッテリなのだろう。
試しにジョギングしてみたが、脱落防止のフィンもなく、カナル型のように耳奥に突っ込むわけでもないのだが、全然落ちない。ケーブルも被覆素材に工夫があり、タッチノイズをよく抑えるようだ。
音質は、13.5mmという大型ドライバを使い、加えて耳奥で音を放出するイヤーピースの設計のおかげで、かなり抜けのいい音だ。さらに、どっしりした低音も楽しめる。高域の伸びはそれほど期待できないが、ジョギング中に高音がチャキチャキ鳴るとうるさいだけなので、スポーツには丁度よい。特にビートを感じるアタックがはっきり聴こえるので、リズムを中心に感じながらの運動には、丁度いいバランスである。
自然な外音取り込み機能のおかげで、風に揺れる木々の音や、背後から近づいてくる車の音もよく聞こえる。従来のイヤフォン設計は、音楽を聴かせるために遮音方向へ多大な労力を要してきたわけだが、目的を変えることでこれだけしっかり外音が聞こえる作りへと、初号機でありながら成功している。
ノイズキャンセリングもないので、専用アプリによる設定も不要で、気軽に使えるモデルとして、なかなかいいところを突いてきた。
第2世代左右完全分離型「WF-SP700N」
続いて左右完全分離型の「WF-SP700N」である。ソニーの左右分離型は、「コガネムシ」と呼ばれた初代「WF-1000X」に続く、2世代目となる。WF-1000Xは個人的にも購入しており、メリットも弱点もわかっているつもりである。
見た目の印象としては、WF-1000Xが「コガネムシ」なら、WF-SP700Nは「ソラマメ」だ。サイズ的にも、オーガニックな形状からも、可愛らしさ、愛着を感じさせるデザインである。カラーはブラック、ピンク、イエロー、ホワイトの4色で、今回はホワイトをお借りしている。店頭予想価格は23,000円前後、通販サイトの最安値では、瞬間風速的に2万円を切るショップもあったようだ。
左右分離型“スポーツモデル”としては世界で初めて、ノイズキャンセリングを搭載した。ご存じのようにソニーのノイキャンは、単純にノイズをカットするだけでなく、外音を積極的に取り込むアンビエントサウンドモードを備える。遮音と外音の2Wayで使えるのがポイントである。
マイクは表面の丸印のような部分。一見ボタンのように見えるが、ボタンではない。操作ボタンは、SONYロゴの下にある小さい突起だ。
イヤーピースは柔らかいシリコン性で、脱落防止用のフィンも付けられる。フィット感は上々で、こちらもちょっと走ったぐらいでは全然落ちない。WF-1000Xではフォームタイプのピースとシリコンの両方3サイズを同梱していたが、WF-SP700Nではシリコンのみ3サイズの同梱となる。
もっともWF-1000Xではフォームタイプを使うとランニングで外れてしまうので、スポーツ向け、しかも防滴仕様としてはシリコンのみというのは納得できる。
スペック的には、WF-1000XとWF-SP700Nはかなり近い。両方とも密閉型カナルで、ダイナミック6mm径のドライバを採用する。連続使用時間最大3時間、充電時間1.5時間というところも同じだ。ただし重量は、WF-1000Xが約6.8gに対し、WF-SP700Nが7.6gと、多少重くなっている。
ケースはWF-1000Xが金属製の横長だったのに対し、WF-SP700Nではフットプリントが正方形の直方体となった。フタの形状が台形なので、ケース自体も台形のように見えるが、実際には台形ではない。
フタは横方向に回転するタイプ。イヤフォンはケースに収納することで充電される。イヤーピースがシリコン性のためか、ケースにカチッと入る感じがなく、グニッと押し込む感じである。キチンと充電されているか、本体LEDで確認した方がいいだろう。充電時のLEDは意外に暗く、明るい昼間では手をかざして影を作らないと確認できない。左右分離型は、片側だけでも充電されていないとアウトなので、フタを閉じても充電しているか確認できるほうがありがたい。
音質としては、WF-SP700N、およびミドルクラスの「WI-SP600N」は「EXTRA BASS」ブランドでもあるので、重低音に注力したサウンドとなっている。ただ出方がオープン型のWI-SP500とは違い、高圧力で押し出す感じの低音だ。
ノイズキャンセリングの効きは、WF-1000Xに比べるとやや劣る。駅構内では周囲のガヤも聞こえてくる程度だ。フォームタイプのピースならもう少し遮音性があるのだろうが、シリコンピースしかないという部分も影響があるだろう。
スペックが近いWF-SP700Nだが、WF-1000Xと比べて圧倒的に改善されているのが、左右の音切れである。両モデルとも、スマホと右側の通信がBluetooth、左右の通信もBluetoothだ。この左右間の接続が、WF-1000Xではかなり頻繁に途切れる。通勤などで使うとイライラするレベルだ。
一方WF-SP700Nでは、日本で最も2.4GHz帯が密集していると思われる新宿駅コンコースでも、端から端まで歩いて音切れが2回しか起こらなかった。なんだよやっぱり音切れするのかよと思われるかもしれないが、WF-1000Xと比較すれば、2回しか音切れしなかったのは驚異的である。
ちなみに新宿駅構内にて2.4GHz帯のWi-Fi電波を測定すると、隙間がないぐらい二重三重に電波が重なっているのがわかる。Wi-Fiだけでこの状態なので、Bluetoothや監視カメラ等から発する2.4GHz帯の電波全部を合わせると、もうグッチャグチャであることは容易に想像が付く。左右の接続は、電波出力を上げるなりアンテナの工夫するなりの努力の賜だろう。
WF-1000Xにはない新機能が「クイックサウンド」である。これは本体の左側ボタンの二度押しで、あらかじめセットしておいた「外音コントロール」と「イコライザー」の組み合わせに瞬時に切り換える機能だ。スポーツ向けのセットを仕込んでおけば、普段使いとスポーツ用に瞬時に音を切り換えることができる。
総論
音切れに強い左右分離型が欲しいという方は、NFMI(近距離磁気誘導)対応のモデルを狙っているところだろう。そんな中、NFMI採用ではないが、音切れが改善され、ノイズキャンセリング付きで2万円程度のWF-SP700Nは、かなりいい選択肢になるはずだ。WF-1000Xより形が可愛くなった点は賛否あるかもしれないが、ブラックは精悍な印象も受ける。
ノイキャン性能は、フォームピースを装着したWF-1000Xには及ばないのが残念なところだ。とは言え、それ以外の点では遜色ない機能を備えている。すでにWF-1000Xを所有する筆者としては、音切れの少なさから買い換えたいところだが、実売ベースではすでにWF-SP700Nのほうが高くなってしまっており、世代代わりの切なさを感じる。
一方で今回のスポーツモデルでエントリーとなるWI-SP500は、思いのほか気に入った。遮音性は全然ないが、久しぶりに開放型モデルの伸びやかな低音を聞いて、すっかり気に入ってしまった。耳に押し込む具合で低音量が調節できるのも面白い。バッテリ駆動時間も長く、何よりも価格が安いので、普段使いに1つあってもいいモデルだ。
イヤフォンの世界は今、左右完全分離型という大きな波が来ている。各社その条件下でどんな個性が出せるかしのぎを削る事になったわけだが、ソニーは早々に得意のノイズキャンセリングで他社を引き離しつつ、ネックバンドタイプでは価格を抑えながら、長年の設計ノウハウを活かしたモデルを投入するなど、抜け目のなく揃えてきた。
この春、他社の動きも活発になってきている。今年もまた、イヤフォンで盛り上がりそうだ。
ソニー WF-SP700N | ソニー WI-SP500 |
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