小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第851回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

来たぞVR! Lenovo Mirage Solo + Cameraで180度撮影とVR鑑賞を試す

今年のトレンドはコレか?!

 5月のGW明けから急激な盛り上がりを見せているのが、VRだ。facebook傘下となった「Oculus Go」が5月1日から受付開始、追って11日からは Lenovo「Mirage Solo」が発売を開始した。Oculus Goがメーカー直販のネット通販でしか購入できないのに対し、Mirage Soloは一部のショップ店頭でも購入できる。価格は、直販サイトで51,200円。

Mirage SoloとMirage Camera。ともにLenovoから発売されている

これまでハイエンドのVRともなれば、高価なグラフィックスカードを装備したPCにケーブル接続され、ユーザーの位置情報を取るためにフィールドの4隅にカメラとセンサーを設置するなど、大がかりなシステムになりがちだったものが、ケーブルレスのHMDだけで済むようになった。この技術的インパクトは大きい。

 加えて3DのVR撮影が可能な、Lenovo「Mirage Camera」も発売された。こちらは直販価格で35,800円。今回はこの両方をお借りすることができたので、さっそく試してみたい。

本格的Daydream端末

 Mirage Soloのハードウェア的なレビューは、すでに多くのメディアで語られているところである。AV Watchでは西田宗千佳氏、PC Watchではジャイアン鈴木氏のレビューが詳しい。よって本コラムでは、Mirage SoloとMirage Cameraを組み合わせ、“自前VRコンテンツ制作環境としてどうなのか”という点にフォーカスしてみたい。

 Mirage Soloは、VRプラットフォームとしてGoogleのDaydreamを採用している。Daydreamはこれまで、限られたハイエンドAndroid対応スマートフォンのみをサポートし、スマホを装着するタイプのヘッドセット「Daydream View」との組み合わせで利用されてきた。2017年のGoogle I/Oでは、スマホを使用しない一体型HMDの開発を発表していたが、それが製品化されたのが、今回のMirage Soloという事になる。したがって、HMDとしての作りはLenovoの話、プラットフォームとしての使い勝手はGoogleの話と、分けて考える必要がある。

 HMDとしては、ゴーグル部に樹脂製のヘッドバンドが取り付けられており、全体的にはかなり大仰だ。ゴムベルトで装着するOculus Goと比べると、やたらと場所を取るのは否めない。

かなりしっかりした作りのMirage Solo
Oculus Go(右)と比べると、ヘッドバンド部のガッシリ感が全然違う
背面のリングでバンド部を調整する

 だが背後にしっかりしたクッションがあり、前面にはおでこに重量を分散させるバンドがあるため、装着しても重量感はそれほど感じない。ただゴムベルトと違い伸縮しないので、頭を締め付けられる感はそれなりにある。

おでこに重量を分散させる設計

 ゴーグルは十分な容積があり、メガネをしたままでも問題なく装着できる。これまでメガネのせいでVRを敬遠してきた方々にとっては、朗報である。また鼻の頭にまで遮蔽のためのスポンジが設けられており、遮光性が高いのもポイントだ。Oculus Goは鼻のえぐり込みが大きく、そこから光が盛大に漏れてくるのが難点である。

ゴーグルはメガネしたままでも装着可能
鼻部分の遮光性も高い

 ディスプレイ部は、5.5型IPS液晶で、解像度は両目で2,560×1,440ドット。プロセッサはオクタコアのQualcomm 835 VR(APQ8098)で、内蔵ストレージは64GB。microSDカードスロットもある。

左側にmicroSDカードスロットとUSB Type-C端子

 音声はイヤフォン端子から聴くスタイル。カナル型のイヤフォンが付属する。イヤフォン無しでも音が聞こえるOculus Goと比べると、装着の手軽さは若干劣る。

音はイヤフォンで聴く

 正面に見えるカメラのようなものは、ユーザーの位置情報を把握するセンサーだ。直径1.5mの範囲に限定されるが、ユーザーが動き回る動作もVRに反映される。

正面に位置検知用のセンサーがある

 コントローラは平形で、前方の凹んだ部分がタッチセンサーと決定ボタンの兼用となっている。側面にボリュームが付いているのもユニークだ。ちなみにゴーグル側にもボリュームがある。

タッチセンサーを備えたコントローラ
側面にボリュームボタンがある

 ではもう一つのデバイス、Mirage Cameraもチェックしよう。こちらもDaydream規格として定義されている「VR180」というフォーマットのカメラの一つという事になる。他にも「YI Horizon VR180」や、プロ用の「Z CAM K1 Pro」といったカメラがあるようだ。

 Mirage Cameraサイズは、ロングサイズのボックスタバコぐらい。最近はタバコを吸わない人も多いとは思うが、スーパーのレジ脇などを眺めて把握していただければ。

コンパクトなステレオカメラ、Mirage Camera

 レンズは視野・180度、F2.1のパンフォーカスという事だが、思いのほかレンズの出っ張りは少ない。レンズ間の距離は65mmで、3D撮影の標準規格ピッタリに作られている。なおマイクは正面からは見えないが、ちょうどレンズの真下のスリットの奥にある。ステレオ収録が可能だ。

 背面にディスプレイはなく、スマホアプリとWi-Fi接続してモニターする。ただ、正面180度撮れるので、アングルを気にするようなものでもなく、ノーファインダでも撮影は可能だろう。普通のデジカメのように構えると、確実に指が写るので、指が前に出ない持ち方を工夫する必要がある。

背面にモニターはない
普通の持ち方では指が写りこむので、工夫が必要

 センサーは1,300万画素×2。静止画の解像度は5Mと9Mの切り換え。動画はHD、UHD、4Kの3切り換えとなっている。

静止画:5M 2,320×2,320
静止画:9M 3,016×3,016
動画:HD 1,920×1,080
動画:UHD 2,560×1,440
動画:4K 3,840×2,160

 実ファイルをご覧になってお分かりのように、静止画のイメージサイズは正方形だ。動画は左右ともほぼ正方形に近い形となっている。

 上部には電源ボタンとシャッター、モード切り換えのファンクションボタンがある。モードは静止画、動画、ライブ中継の3つがあるが、ライブ中継はスマホアプリからしか選択できない。

ボタンが3つしかないシンプルさ

 横のカバーを開くと、microSDカードスロットとUSB Type-C端子がある。内部にも16GBのストレージがあるので、microSDカードなしでも撮影はできる。特にどちらに記録するという設定はなく、SDカードを入れていればそちらに撮るし、なければ内蔵メモリーに撮るという作りになっている。

左側面にmicroSDカードスロットとUSB Type-C端子

 背面はバッテリカバーとなっており、平形のバッテリの交換に対応する。充電時間は2.5時間、使用時間は2時間となっている。

バッテリは平形で、交換可能

撮影は簡単だが、アプリは必須

 では実際に撮影してみよう。前方180度が撮影できるということで、手で持つよりも自撮り棒のようなものを使ったほうが、手の映り込みは少ないだろう。あいにく自撮り棒は持っていないので、DJI Osmo Mobileで代用した。グリップの前後を逆に持てば、問題なくスタビライズできる。

Osmo Mobileと組み合わせてみた

 一応Osmo Mobileと手持ち撮影を比較してみたが、本カメラ内にも電子手ぶれ補正を搭載しており、さらには180度の広角ということで、手ブレに関してはほぼ差がなかった。むしろ自動で水平が取れるところや、滑らかにパンやチルトができるというところにメリットがある。

 モニターは、「VR180」というアプリを使用する。Wi-Fiで接続すると、左側の映像だけをモニターできる。電波状況が良ければ、遅延は0.5秒程度である。Wi-Fiでモニターするタイプのカメラとしては、平均的だと言える。

Wi-Fiで接続してカメラ操作ができるアプリ「VR180」

 アプリを使うもう一つのメリットは、カメラを触らずにシャッターが切れるという事である。特にスタビライザーに装着している場合、本体を触るわけにはいかないので、アプリでリモートシャッターが切れるのは便利だ。加えてホワイトバランスや画質モードなどの設定変更は、カメラ本体では一切できないので、ちゃんと撮影するにはアプリを使う必要がある。

解像度やホワイトバランスの変更は、アプリからしかできない

 録画しながらのプレビューは、カメラ内プロセッサにかなり負荷がかかるようだ。4K動画を撮影しながら3分経ったところで、発熱のためにプレビューができなくなった。録画の開始や停止は問題なく使用できる。

カメラ発熱のため、途中からプレビューできなくなった

 当日はTシャツ1枚でも十分な気温ではあったが、夏場ほどではない。カメラボディはそれほど熱くなかったが、裏蓋を外してバッテリーを触ると、かなり熱くなっていた。またバッテリを取り外した底の部分も、かなり熱くなっていた。夏本番の気温はこんなもんではないと思われるが、スマホでプレビューしながらの長時間撮影は難しいようだ。

 実際にVR180フォーマットで撮影された映像を確認するためには、Mirage Soloで見るのが最適という事になる。Mirage CameraとMirage Soloは直結することはできないが、SDカードに録画しておけば、カードをSoloに差し替えることで画像を確認する事はできる。

 確認にはGoogle Photosを使う。本来はクラウドにある画像をビューイングするためのアプリだが、SDカードを挿せばそちらを直接読みに行く。

解像度があれば十分な立体感だが……

 まず静止画のほうだが、5Mと9M2つの画質モードを比較してみると、やはり9Mの方が細かいディテールがわかる。いまどき静止画の数MBの容量を節約しなければならないような時代でもないので、基本は9Mで撮影したほうがいいだろう。

 ディスプレイ側の解像度が2,560x1,440あるとはいえ、レンズで拡大されて目の前いっぱいに拡がる事を考えれば、それほど高解像度とは言えない。しかしそれでも、ソースが高解像度であれば、立体感はかなりしっかり感じる。

 180度と広角なので、モノを大きく写そうと思えばどうしても近づきたくなるのが人情だが、あまり被写体に近づきすぎると、3Dとして目の焦点が合わない。だいたいカメラ前30cmぐらいが限界だろう。

3Dはカメラ前30cmぐらいが限度か
3Dはパース感のある風景が生きる
Mirage Soloで静止画をプレビュー
still.mov(44.28MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 カメラ露出に関しては、前方中央部を基準にAEになっているようで、周辺部に明るいところがあると、白飛びする。ただこうした傾向は、180度カメラ全般にありがちなので、特にMirage Camera固有の弱点というわけではない。同様に周辺部に多少のパープルフリンジが出るが、これぐらい広角であれば仕方がないところだ。

 次に動画である。画質モードとしてHD、UHD、4Kの3モードがあるが、Mirage Solo内のGoogle Photos(有料プラン利用)で見ても、解像度が大して変わらない。もしかしたら、動画の再生解像度がHDに固定されているのかもしれない。通常のアプリであれば、アプリの設定項目などが存在するはずだが、Daydream対応アプリでは、設定項目が何もない。もしかしたら解像度変更の手順があるのかもしれないが、筆者には見つけられなかった。

4K VR180フォーマットで撮影した動画
20180514-102714557vr.mp4(356.04MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
Mirage Soloで動画をプレビュー
Movie.mov(80.39MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 Daydream内では、プラットフォームやUIとして未成熟な部分がまだ数多く残っており、こうした「できるはずだがやり方がわからない」ことが数多くある。せっかく対応プラットフォームを謳うカメラの映像なのに、動画では解像感が出ないことで、立体感も静止画よりは後退するのは残念だ。

 なおMirage Cameraで撮影したVR180フォーマットの動画や静止画は、DropBoxやFacebookなどにアップロードすれば、Oculus Goでも視聴可能である。同じ動画をOculus Goで視聴したら、4Kそのままではないが、高解像度ソースなりの表示で視聴できた。

総論

 51,200円で登場した、Daydream対応のスタンドアロン機のMirage SoloとMirage Camera。ハードウェア的には非常にこなれており、スペックも高いのだが、いかんせんそれを生かすだけのプラットフォームがまだ出来上がっていないという印象だ。

 ストアのアプリを見ても、圧倒的にOculus Goのほうがラインナップが多い。それをカバーする上で、自前でコンテンツが作れるVR180カメラの存在は大きいはずだが、動画に関しては十分な解像度で再生できない事で、魅力が後退するのは残念である。

 ただ、動画・静止画クラウドとして、Google Photosにアクセスできるのはデカい。筆者は過去仕事やプライベートで撮った写真のほとんどをGoogle Photosにバックアップしているが、「VR写真」というタグを選択するだけで、過去Insta360やiPhoneのパノラマモードなど様々なデバイスで撮影した360度写真や動画にアクセスして、楽しむことができた。このあたりがGoogleの強みであり、Daydream傘下にいるメリットであろう。

 一方でOculus Goは、コンテンツの豊富さと価格の安さ(上位モデルでも2万円台)で、一躍覇権を取りに来た格好だ。Oculusは昨年からfacebookの傘下となっており、もはやベンチャーではない。Google v.s. facebookという競争の図式があってこそ、切磋琢磨による発展も望める。

 そういう意味では、今からもう“どっち派”などという決めつけにはまったく意味がなく、両方とも応援していくというのが、我々の正しい道である。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。