小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第849回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ながら聴き最高!「ambie wireless earcuffs」と「Xperia Ear Duo」を試す

時代はオープン?

 オープンソース、オープンデータ、オープンガバメントなど、時代はオープンな方向へ向かっている。そんな世の中の流れとは全く関係なく、イヤフォンもオープン化の波が訪れそうな気配だ。

上がambie wireless earcuffs、下がXperia Ear Duo XEA20

 2017年2月に発売を開始したambieの「ambie sound earcuffs」は、発売4日めで初回生産分が完売する人気商品となった。イヤフォンの一種ではあるが、耳の中に突っ込まず耳の外から音を鳴らす。したがって外音はそのまま聞こえるが、音楽も聴こえてくるという仕掛けである。

 この後継機として、Bluetooth対応のワイヤレスモデルが登場した。「wireless earcuffs」がそれだ。4月5日発売で、価格は12,000円。

 もう一つ、似たようなコンセプトの製品が、ソニーモバイルコミュニケーションズからも登場している。左右分離型で耳を塞がない完全ワイヤレスイヤフォン「Xperia Ear Duo XEA20」だ。4月21日発売で、店頭予想価格は3万円前後。

 ambieは、ソニーのオーディオ関連製品を手掛けるソニービデオ&サウンドプロダクツ(ソニーV&S)と、ベンチャーキャピタルのWiLが共同出資で設立したメーカーなので、どちらもソニー関連会社の製品ということになるが、ダクトを使って耳のそばで音を鳴らすというコンセプト自体は、10年以上前に「PFR-V1」という製品で実現している。ある意味ようやく時代がソニーに追いついたと言えなくもない、このオープンブームである。

 今回はこの2モデルを試してみる。

スマートアシストイヤフォン、「XEA20」

 Xperia Ear Duo というネーミングを関するXEA20。Duoというのは、自然な外音を聴きながら自分だけBGM的に音楽を聴くことができるという、デュアルリスニングに由来するようだ。ソニーモバイルから発売されている「スマートプロダクト」のうち、イヤフォンは2016年11月に発売された「Xperia Ear XEA10」があるが、あれは片耳だけだった。XEA20は両耳ステレオ仕様となっており、その点でも“Duo”である。

念願のステレオ化、Xperia Ear Duo XEA20

 オープン型というのはもちろんユニークなのだが、もっともユニークなのはその装着方法だろう。U字型になっており、耳の下側から挟み込むように固定する左右分離型は、筆者が知る限りこれまで例がない。

耳たぶに対して下側からクリップ

 装着は片方ずつ、耳たぶを引っぱりながら差し込む事になる。慣れれば片手でも装着できるが、耳たぶが柔らかいため、なかなか苦労する。素早く装着するには両手を使ったほうがいいだろう。

 いったん装着してしまうと、首を振ったぐらいでは全然落ちないぐらい安定する。多少耳が挟み込まれた感じはするが、長時間の装着で痛くなるほどではない。本体部は結構大きいが、正面からみると完全に耳たぶの後ろ側に隠れてしまうので、正面からは金属状のイヤアクセサリが付いてる程度にしか見えない。これは上手いデザインだ。

 本体内のドライバは、10mmのダイナミック型。それがクリップの役割を果たす音道管を伝わって、音が吐き出される。実際に音が出る部分は、先端が輪になったイヤピースとなっており、パイプ部との接続部分に穴が空いている。この穴から音が吐き出されるわけだ。イヤピースは、通常のインイヤー型イヤーチップと同じ大きさになっており、耳穴への当たりをガイダンスする役割を果たしている。

イヤピースの根元の穴から音が出る

 本体表面の「SONY」ロゴが記してある部分は、左右ともタッチセンサーになっている。1回、2回、3回タップと、上下のスライドに機能が割り当てられている。音楽再生コマンドは左側であらかじめ決め打ちされており、ユーザーが自由に機能を割り当てできるのは右側と、左側の長押しのみとなる。

ロゴ部分がタッチセンサーになっている
操作左側右側
シングルタップ再生/停止フリーアサイン
ダブルタップ次のトラックフリーアサイン
トリプルタップ前のトラックフリーアサイン
長押しフリーアサインフリーアサイン
上下スライド音量調整音量調整
タッチ動作はユーザーがカスタマイズできる

 本体の裏側にセンサーがあり、耳に装着されたかどうかを判断しているようだ。加速度センサーにより首を振る動きも検知する事ができる。上下左右の首振りで、着信応答や次の曲へスキップが可能だ。連続使用時間は、音楽再生が4時間、連続通話で2.5時間。

裏側は充電端子とセンサー

 専用ケースは平たい円盤形で、バッテリを内蔵しており、ケースにしまっている間に充電されるというパターン。充電ポートはUSB Type-Cだ。ケースのバッテリも含めたトータルの利用時間は、音楽再生で12時間、通話で7.5時間となっている。

バッテリー内蔵の専用ケース

 Bluetooth規格としては、Bluetooth 4.2/LE対応で、コーデックはSBCとAAC。左右間の接続は、音切れに強いことで知られるNFMIが用いられている。

タダモノではない魅力

 本機は単なるBluetoothイヤフォンではなく、スマートフォン側のアプリ「Xperia Ear Duo」と連携してユーザーをアシストする機能がある。装着すると、今日の日にちと時間、今日の予定、今日のトピックスや最新ニュースを読み上げてくれる。そのあと、前回まで聴いていた音楽が再生される。自宅や職場と登録しておけば、その場所に近づいた際にそこでの天気などを知らせてくれる機能もある。なお、iOS版アプリもあるが、こちらはアシスタント系機能が無い(Siriの起動は可能)。フルで機能を使うにはAndroidスマホを使う必要があるので注意だ。

Android版アプリ。アシスタント機能も充実
iOS版アプリ。できる機能は少ない

 ボイスコントロールを受け付けるマイクとしての役割もある。利用可能なアシスタントは、専用のAssistant fot Xperia、LINE Clova、Googleアシスタントの3つだ。それぞれの呼び出しは、本体へのタップに割り当てることができる。

 LINE Clovaは、本来スマートスピーカー用のアプリだが、スマートスピーカーの代わりにXEA20を割り付けるというイメージである。実際にClova WAVE/Friendsを購入していなくても、サービスを利用できる。強みはやはり、LINEのメッセージを音声コマンドだけで送れるところだろう。LINEをよく利用する人には、便利かもしれない。

Clovaの対応は珍しい

 音声コマンドを受け付けるマイクにも、秘密がある。右と左に2つずつ、合計4つのマイクを用いて、マイクの指向性を口元にビームフォーミングすることで、明瞭な集音が可能になっている。

 試しにテレビの音声をかなり大きなボリュームで流しながらLINEで通話してみたが、聞いている側はテレビの音はほとんど拾わず、明瞭に通話できた。AIへのボイスコマンドもこれだけ明瞭に聞こえれば、「よく聞こえませんでした」と言われることも少ないだろう。

 さて肝心の音質だが、音楽に関してはそれほどズンドコした低音が出るわけではない。おそらくユニットとしては出ているのだろう、ダクトの先を耳の中まで押し入れると、低音が出ているのが聴こえる。ただ実際には耳穴の外側で鳴らすことになるので、聴こえてこないという事のようだ。しかし現実音と音楽を混ぜて聴くのであれば、十分な音質と音量ではある。低音の出も、超時間聴いていると「こんなもんかな」と次第に納得できる程度には出ている。

 左右の接続にNFMIを採用しているので、確かに左右の音切れはない。しかし、スマホと本体の間での受信感度が、他のBluetooth 4.2対応イヤフォンと比較すると、かなり低い。スマホまでの距離が十分近ければ問題ないが、スマホをカバンに入れて足元においた程度で音切れが始まるのは、残念至極と言わざるを得ない。

 本機の本線受信が右側のようなので、体の右側にスマホを置いておけば良好だが、左側に置いただけで音切れが始まるのは、Bluetoothイヤフォンとしてはいかがなものかと思う。スマートフォンの再起動やXEA20の初期化と再ペアリングで多少改善される部分もある。使用するスマートフォンの機種によっても多少違いはあるが、他製品では問題なく使用できる組み合わせなので、やはり本機側の問題であろう。ファームアップでの改善に期待したい。

あのambieがワイヤレスに

 wireless earcuffsは、有り体に言えば2017年発売の「ambie sound earcuffs」を、ネックバンド型でワイヤレス化した製品である。

 ネックバンドからイヤフォン部まで、サラサラのシリコンで覆われており、ネック部のグニャグニャ間も手伝って、全体的に柔らかい印象を受ける製品に仕上がっている。

ついにワイヤレス化、ambie wireless earcuffs

 内部のドライバはソニー製で、音道管を使って耳元で音を吐くという方法は、以前と同じ。イヤカフの形状はワイヤード型と変わっていないが、先端の音道管カバーが簡単に外れなくなった。このため、取り外すときに音道管が抜けてしまうような事もなくなった。

イヤカフの形状は同じ
表側にambieのロゴ

 ただ個人的には、普段から耳にアクセサリなどは付けないので、装着にはかなり手間取る。特に耳たぶの軟骨をゴリゴリ言わせながら挟み込む過程に、不快感がある。こればかりは、馴染める人と馴染めない人に分かれるだろう。

耳たぶへのはめ込みに、馴染めるかどうか

 右側に電源ボタンと再生、NFCポート、マイクがある。こちら側に基板が入っているのだろう。充電端子も右だ。左側は+-のボリューム/スキップボタンがあるのみで、こちら側はバッテリだと推測される。バッテリーは連続6時間の音楽再生が可能。

右側のボタン類
裏面には充電端子

 Bluetoothは音楽と通話に対応するが、音楽再生に関してはコーデックがSBC止まりなのは若干残念である。ただ、耳穴にガッツリ突っ込んで音質評価ができるタイプの製品ではないので、コーデックを高音質化してもそれほど効果がないのかもしれない。

 音質的な面では、前作とあまり変わらない印象だ。ステレオセパレーションが広いので、一瞬どこから音が出ているのかわからない、そんな不思議な音像である。ある程度音量を出すと、明瞭感がかなり上がる。ただ音道管が鼓膜から離れているので、低音だけはそれほど持ち上がってこない。

 女性ボーカルやライトなフュージョンなどは抜けが良く聞こえるが、一般的なロックは中低音域に音が集まっており、そのあたりの解像感に弱い印象だ。よく聴くジャンルの違いによって、評価が分かれるイヤフォンだと言える。

 現実音の聞こえ方は、かなり良好。ただここまで外音が聞こえると、仕事に集中するためにイヤフォンをするという行動パターンからは大きく外れる事になる。他の人とも通常のコミュニケーションをしながら、自分だけは音楽を聴くという使い方になるだろうが、大抵の職場ではオマエだけふざけんなよ遊びじゃネエんだと言われかねないのが難しいところである。

 なおボリュームを大きくすると、それなりに音漏れがする。自分しか聞こえてないと思うのは大間違いで、聴かれると恥ずかしいタイプの音楽をお聴きの方は、要注意だ。

総論

 オープンな聞こえ方をするイヤフォンは、今のところ製品がそれほど多くないところもあり、知る人ぞ知る的なものになっている。ただ方向性としてはかなり大きな市場が拡がる可能性があり、今後様々なアプローチが出てくるものと思われる。

 ソニー本体はノイズキャンセリングを推進しているが、昨今は外音取り込みにも切り換えられる機能を搭載している。これは安全のため、あるいは外からの情報を取り込むためという部分もあるだろうが、ナチュラルな外音取り込み機構は、オーディオ的には究極のオープン型イヤフォン登場という文脈でも語っていきたいところである。

 加えて日本でも、スマートスピーカーの普及により、次第にボイスコマンドによる抵抗感もなくなってきているところである。音声解析技術の向上もさることながら、合成音による情報の読み上げの精度も上がってきている。

 こうした技術の組み合わせにより、新しいスマートライフが実現できていくのだろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。