小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第883回
“8Kと第3の軸”、曲がり角にさしかかるビデオカメラ。シャープとキヤノンの場合
2019年1月11日 07:20
シャープ、プロシューマ・コンシューマ向け8Kカメラ
昨今のCESは、すっかりIoTやAI、スマートホーム、自動運転といったショーに転換したように見えるが、実際には従来カテゴリー製品の発表も行なわれている。今回は撮影機器の最新情報を求めて、シャープとキヤノンのブースを取材してみた。
8Kソリューションで世界をリードするのは、シャープだ。主にテレビがメインではあるが、放送向け8Kカムコーダを製品化し、入力から出力までを揃えようとしている。
今回は8K Ecosystemという展示の一部として、小型8Kカメラが参考展示された。レンズに、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6」が装着されていることからわかるとおり、マイクロフォーサーズマウントを採用した、ミラーレスタイプとなっている。
スタイルとしては非常にオーソドックスなデザインで、シャッターボタンの後ろに操作ダイヤル、動画の録画ボタンは軍艦部にある。背面にはボタン類をなくし、液晶画面をかなり広くとっている。8Kをモニターするからにはなるべく大画面で、という事だろう。
シャープにとって最後のコンシューマ向けイメージング商品は、2006年に生産を終了した「液晶ビューカム」である。液晶ビューカムは、大型液晶を搭載し、横に平たいビデオカメラとして女性層を中心に人気を博したシリーズだが、最後には一般的なDVカメラのスタイルとなった。ある意味、液晶画面を大きく取った液晶ビューカムは、今日のスマートフォンによる撮影スタイルを予言したようなデザインであったとも言える。
今回はこのカメラ向けに、マイクロフォーサーズの8Kセンサーを自社開発した。また画像処理エンジンも、8Kテレビで培った自社製を採用。側面にメモリーカードスロットが見えるが、8K/30pの映像をSDカード1枚に記録する。また出力もHDMI 1本でテレビまで伝送する。
ご存知のように8Kでは120pまで定義されており、前出の放送用カメラ「8C-B60A」では8K60p記録を標準とするが、30pとしたのは極力コンシューマでのハンドリングを良くしたという事だろう。
4Kを飛び越えていきなり8Kへジャンプした理由としては、最後発で今から4Kカメラ事業に参入しても厳しいという事もあるだろうが、なによりも8Kを、テレビを売るだけでなく、フォーマットとして本気で普及させるという強いメッセージを発信していくという意味合いが強い。
展示の8Kカメラはモックアップであったが、すでに社内では実動モデルにてデバッグ中だという。2019年上期での発売を予定しているが、販路としてはこれから検討に入る。参考になるのは、同じようなポジションのBlackMagic Designの「Pocket Cinema Camera 4K」だろう。BMDは同社直販サイトでの売り上げが高いが、同製品は一般量販店でも販売されている。
今回の8Kカメラはビジネスソリューション製品のため、自社では直販サイトを持たないが、コンシューマ事業部を経由しての販路も検討していくという。価格としては、5,000ドル以下を目指す。
【お詫びと訂正】記事初出時、「500ドル以下を目指す」としておりましたが「5,000ドル以下」の誤りでした。お詫びして訂正します。(1月11日13時)
ついにコンシューマ4Kに参入するキヤノン
「EOS R」の登場で注目を集めるキヤノンだが、実は今年のCESでコンシューマ向けビデオカメラを3モデルもリリースした。
「VIXIA HF G50」は、コンシューマ機のGシリーズとしてはキヤノン初となる4Kカムコーダだ。ボディはGシリーズを継承し、特段大型化したわけではなく、従来の使用感を継承している。
レンズは「29.3-601mm」の光学20倍ズームレンズで、1/2.3型のデュアルピクセルCMOSセンサーを搭載。にもかかわらずキヤノンのGシリーズ伝統の外部AFセンサーも搭載しており、AFはかなり強力だ。画像処理エンジンは「DIGIC DV 6」で、4K30p/4:2:0/8bitの映像が撮影できる。SDカードはデュアル仕様となっている。
発売は今年4月で、すでに米国のキヤノンサイトでは1,099ドルで予約を受け付けている。日本のほうが4K撮影需要はあると思うが、こうしたカムコーダに未だどれぐらいの市場があるのか見えなくなって久しい。一方で業務に近いレベルではまだまだ需要はあると思うので、直販だけでも国内発売して欲しいものである。
続いての2モデルはHDタイプながら、防水・タフネス仕様のカムコーダだ。上位モデルの「VIXIA HF W11/W10」は、水深5mまでの動作を誇るAVCHDカムコーダ。
レンズは「40.5–1,620mm/F1.8-6.3」の光学40倍ズームレンズで、センサーは1/5.8型、2.51メガピクセルの裏面照射CMOS。バッテリーは内蔵型となっており、実撮影時間は2時間40分。
細身のボディながら、非常に長いズームレバーを装備している。おそらくグローブをした状態での操作に支障が無いようにという配慮だろう。そのため、素手でのズーム操作は非常に良好だ。
また驚くのはその軽さで、約300gしかない。7型タブレットぐらいの重量だが、右手全体でグリップする持ち方ゆえに、中身のないモックアップかと思うほどに軽く感じる。もちろん、ちゃんとした実動モデルだ。
W11とW10の差は内蔵メモリー容量で、W11が32GB、W10が8GBとなっている。SDカードも使えるので、メモリー容量はそれほど気にすることはないが、W11のほうのみLEDライトを備えている。
こちらも米国での発売は4月で、価格は約500ドルと400ドルとなっている。
新ジャンルを作れるか、キヤノンがPTZカメラを開発中
DJIの「Osmo Pocket」は、会場内でも多くの来場者が利用しているのを見かける。その代わり、スマホのジンバルはたまにしか見かけなくなった。ジンバルカメラは、カメラの新ジャンルを築き始めているといってもいいだろう。
そんな中、キヤノンのコンセプト展示コーナーにて、上下左右に動く雲台と一体になったカメラが展示されていた。顔認識をすると、認識した顔を追いかけて自動的にパン・チルトを行なうカメラだ。
顔認識して自動で動くカメラは、以前ソニーがサイバーショットと組み合わせて自動回転する雲台「パーティショット」を発売したことがあるが、キヤノンではどこかに固定するのではなく、ウェアラブルなスタイルでの自動撮影を視野に入れて開発しているという。
昨年のCESで発表した初期コンセプトモデルは単焦点レンズだったが、今年の第2弾は3倍の光学ズームレンズを搭載した。パンは360度、チルトは110度動くという。ズームがあることで、いわゆるリモートカメラのパン、チルト、ズームと同等の機能を持つ事になる。本体に画面を持たないので、スマートフォンで映像を確認する事になるが、基本的には顔に限らず、自動的に何かを認識して追従するカメラを目指すという。
先にOsmo Pocketの例を出したが、新ジャンルのカメラの考え方は今のところ2つある。Osmo Pocketは、どちらかと言えば積極的に「撮るぞ」という意志を、撮影時にサポートする方向性だ。小型故にウェアラブルにもできるが、基本的にはカメラをジンバルに載せてスタビライズするという考え方である。
もう一つの方向性は、「Insta360 One X」やGoPro「Fusion」に見られるような、撮影時には空間を全部撮っておいて、後からアングルを決めて切り出すという考え方だ。これは撮影時に手が離せない、あるいはカメラを気にしている余裕がないといった場合に有効である。
この2つの方向性は、アプローチは異なるが、共通しているのは「こういう絵を撮りたい」、「こういう絵が撮れているはずだ」とユーザーが積極的に期待しているところである。
一方でキヤノンのコンセプトカメラは、その2つの方向性とは異なる。ユーザーが「この瞬間だ」「ここを今撮るぞ」と決心しなくても、勝手にいい絵が撮影されているという「結果」を重視する。ソニーをはじめとするデジカメには「スマイルシャッター」機能が搭載されているが、それと同じ事を時間軸だけでなく、空間軸でやるという事になる。
ただこの方法論の難しいところは、ユーザーの期待値と結果が一致しないと、製品の評価が下がるということである。例えばOsmo Pocketは自分でカメラを向けるので、撮れてなかったら自分が悪い。Insta360 One XやGoPro Fusionは撮影時にはなにもしないが、編集・書き出し時に自分でアングルを選ぶので、これもイケてない書き出し結果なら、自分が悪い。しかし自動撮影は、撮影時も撮影結果もユーザーがなにも関与しないので、失敗したら全部が製品のせいである。
これまでの自動撮影、すなわちパーティショットもスマイルシャッターも、あくまでも本番撮影の付加価値として付いていた機能だ。ただしそれを単体で切り出してメイン機能とするカメラは、相当難易度は高いが、第3の軸となる可能性はある。
ポイントは、その自動認識を何に対してどれぐらいの精度で可能になるのか、というところだろう。今年から来年にかけて、マシンラーニングやAIを駆使しての高度なアルゴリズムが、カメラにも要求されるようになる。すでにスマホではできているからだ。
その波にこのカメラが乗れるのか。これまで手堅いカメラだけで勝負してきたキヤノンなだけに、ぜひこれはモノにして欲しいところである。