小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第891回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

約10万円で4Kハイレゾ録画、フィルムテイストで撮れる富士フイルム「X-T30」

どんどん動画に強くなるフジ

富士フイルムのXシリーズと言えば、ボディにフィルムカメラのテイストを残し、トーンも高度なフィルムシミュレーションを搭載した高級機であり、写真好きの人には垂涎のカメラであった。一方で動画撮影に関しては、いい色が出ると言われつつも、プロ・業務ユーザーは少なかった。やはり動画カメラとして使うには、機能的に弱い部分があったのだろう。

コンパクトながらも精悍な印象の富士フイルム「X-T30」

だが近年のXシリーズは、動画機能を強化しつつある。昨年2月に発売された「X-H1」は、静止画と動画のハイブリッドとして、Log収録が可能なモデルが発売された。6月にはシネレンズの「フジノンレンズ MKX18-55mmT2.9」、「フジノンレンズ MKX50-135mmT2.9」も発売。

昨年9月発売の「X-T3」もLog収録が可能。さらに12月にはファームウェアがアップデートし、HLGでの撮影にも対応した。今年に入ってからの最新のファームでは、ファイルサイズが4GBを超えても1つの動画ファイルとして記録されるようにもなっている。

従来のフィルムトーンに加え、HDR撮影も強化しつつあるフジからこの2月に発売されたのが「X-T30」だ。店頭予想価格はボディ単体が10万9,500円前後。T3はボディだけで18万5,000円前後だったが、より小型でリーズナブルながら、アスペクト比17:9のDCI 4K(4,096×2,160ドット)が撮影できるモデルとなっている。

今回はT30の実力を試してみよう。

ほどよい凝縮感のあるボディ

T30にはブラックとシルバーの2モデルがあるが、今回はブラックをお借りしている。レンズはキットレンズの「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」だ。センサーがAPS-Cなので小型なのは当然だが、それでも先週のパナソニック製フルサイズミラーレス「LIMIX S1」と比較すると、親子ほど大きさが違う。

デザイン的には2年前のモデルとなるT20とほぼ同じだが、唯一背面のコントローラーが、十字キーから8方向操作可能なジョイスティックに変更されている。そのためメニューボタンが独立し、また「Qボタン」が背面の親指を引っ掛ける突起部に移動した。

コントローラーはジョイスティックに変更

軍艦部は左肩にドライブダイヤル、右肩にシャッタースピードと露出補正ダイヤルがある。絞り優先などのモードダイヤルはなく、上面のAUTOレバーを使えば一発でフルオートになるが、AUTOを外せばシャッタースピードやISO感度などを個別にマニュアルにできるというインターフェースだ。コマンドダイヤルは前後に1つずつあり、背面のジョイスティックと合わせて素早いメニュー操作が可能だ。

左肩にドライブダイヤル。ここで動画モードを選択する
シャッタースピードダイヤルがあるだけで俄然本格的に見える
前面にもコマンドダイヤルを装備

液晶モニターは3:2/3.0型のタッチパネル式TFTカラー液晶で、約104万ドット。可動域は上下のチルトのみとなっている。ファインダーは0.39型有機ELで、約236万ドットだ。

液晶モニターは上下のチルトのみ

注目のセンサーは第4世代のX-Trans CMOS 4センサーで、有効画素数約2,610万画素のAPS-Cサイズ。撮影可能な最大静止画は3:2の6,240×4,160ドットとなっている。一方撮影可能な動画は以下の通り。

第4世代となるAPS-CサイズCMOSセンサー

6Kを超える6,240×3,510ドットの映像を4Kサイズに縮小して使用しており、高精細な映像が期待できる。ただそれも関係してか、連続撮影時間は4Kで10分、HDで15分となっている。長回しができないのは残念だ。

画像処理エンジンも第4世代となる「X-Processor 4」。なお動画撮影の場合、内部記録では4:2:0 8bitだが、HDMI出力は4:2:2 10bitとなる。また本機はF-Log撮影も可能だが、HLG撮影には対応しない。

AF機能は、昨今のカメラであれば顔検出や瞳検出の搭載は当たり前になってきている。本機も同様に搭載しており、動画撮影時にも動作する。さらにはハイスピード撮影時にもAFが効くのは、大きなアドバンテージだ。

加えて音声は、リニアPCM ステレオの24bit/48kHzと、ハイレゾ仕様となっている。なおマイクはマウント部近くにある小さい穴である。

マウント上部にある2つの穴がマイク

端子類は左側で、一番上がマイクとリモートの兼用端子(2.5mm径)、USB Type-C、MicroHDMIとなっている。バッテリーとSDカードスロットは底部だ。

端子類はシンプル
カードスロットはバッテリーと共に底部

撮影が楽しいカメラ

では早速撮影してみよう。今回はせっかくDCIサイズで撮れるということで、DCI 4K/200Mbpsで撮影している。

キットレンズのXF18-55mmF2.8-4は、35mm換算では27-84mm相当となる。コンパクトだが解像感も高く、使いやすいズームレンズだ。

コンパクトだが使いやすいキットズーム
XF18-55mmF2.8-4 R LM OISの画角:ワイド端 18mm
XF18-55mmF2.8-4 R LM OISの画角:テレ端 55mm

近年のXシリーズも含め本機のポイントは、4K動画でもフィルムシミュレーションが使えることだ。特にシネマ向けで落ち着いた発色のETERNAモードは、他にはないユニークな機能として注目を集めている。なお静止画と動画は、別々のフィルムタイプを選択することができる。例えば写真ではPROVIA、動画ではETERNAに設定しておけば、ドライブダイヤルを切り換えるだけで動画と静止画を別のトーンで撮影する事もできる。

フィルムシミュレーションは以下の10種類。ただしモノクロの「ACROS」と「モノクロ」は、どのチャンネルでモノクロ化するか選択できるため、内部にStd、Ye、R、Gの4モードを持つ。サンプルはStdのみ掲載する。

PROVIA
Velvia
ASTIA
クラシッククローム
PRO Neg. Hi
PRO Neg. Std
ETERNA
ACROS
モノクロ
セピア

ETERNAは昨今のHDRに慣れた目からすると発色が淡泊な印象だが、暗部の階調の高さに特徴がある。高コントラストなシーンでも、そつなく全体をうまく収めてくれる上手さがある。以下の動画サンプルは、すべてETERNAで撮影している。

PROVIA(Std)の発色
ETERNAの発色
ETERNAは木漏れ日の柔らかいトーンがよく似合う
4K DCI ETERNAで撮影
sample.mov(182.69MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

AF性能は、新センサーによって大幅にアップしている。静止画では位相差AFエリアを画面全体に広げ、100%をカバーするため、画面端の被写体もフォローできる。動画ではどのぐらいのエリアが使えるのか資料はないが、向かってくる被写体に関しては問題なく追従できる。特に近距離になるほど加速度的にAFが追いつかなくなるカメラも多い中、最後まできっちり追いかける。

動画でも瞳AFがきちんと動作する
AF.mov(23.98MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

手ブレ補正はレンズによる光学補正しかないので、それほど強くはない。昨今はボディ内手ブレ補正を併用する例も増えているが、本機の場合ボディのコストを考えると、実装は難しいだろう。ただ動画向けには電子手ブレ補正ぐらいは欲しいところだ。

手ブレ補正のテスト
stab.mov(20.31MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

夜間撮影も良好

次に特殊撮影を試してみよう。静止画のほうには、強い発色の階調表現を豊かにする「カラークロームエフェクト」があるが、動画では使えない。またフィルムの粒子感を追加する「グレインエフェクト」も、静止画のみだ。

ハイスピード撮影は、フルHD解像度で120pまで対応。ベースとなるフレームレートをいくつにするかで、倍速スピードが変わるという考え方だ。

今回は24p×5で試してみた。ハイスピード撮影時もAFが利くので、向かってくる被写体でのスロー撮影も綺麗に決まる。

ハイスピード撮影でもAFが利くのは強力
Slow.mov(24.24MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

次に夜間撮影を試してみよう。本機のISO感度は、動画撮影時は25600まで上げられる。一方最低感度は、ダイナミックレンジ設定が100のときでも160となる。以下ダイナミックレンジ200の時は320、400の時は640が最低ISO感度となる。

今回の撮影設定は、シャッタースピード 1/50、F2.8だ。シャッタースピードダイヤルには50の刻みがないが、コマンドダイヤルで設定すれば、ダイヤルに刻まれた単位よりも細かく設定が可能だ。

ISO感度テスト
ISO.mov(81.59MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

センサーは裏面照射型で、ISO 12800ぐらいまでは問題なく使える。シャッタースピードを24ぐらいまで落とせば、暗部でもかなり綺麗に撮影できる。

【お詫びと訂正】記事初出時、“センサーは裏面照射ではない”と記載しておりましたが誤りでした。裏面照射型となります。お詫びして訂正します。(3月22日14時)

夜景でもETERNAっぽい発色は健在

ただしAFは、宅地の雑感を撮影した際には不安定にふらふらする傾向が見られた。恐らくAFアルゴリズムが点光源に弱いのかもしれない。これは多くのカメラのAFによく見られていた現象だが、最近はそこを意識したアルゴリズムでAFを動かすカメラも出てきている。

夜間の点光源は苦手のようだ

総論

富士フイルムのカメラは、若干方向性がマニアックなところもあって、良さが分かる人にしか響いていない感がある。独自マウントであることや、やや高価な事もあるだろう。

だがT30は10万ちょっとのボディながら、ほぼほぼ上位モデルと同じ事ができるのがポイントだ。しかもサイズが一回り小さいので、ハンドリングも良い。動画に関しては、長尺の収録には向かないが、1カットずつ丁寧に撮影するなら面白いカメラである。特に旅行や出張などの際に、デカいカメラを持っていきたくないという方にはちょうどいいサイズ感だ。

フルサイズミラーレスが注目されている昨今だが、富士フイルムは今Xシリーズが順調に育ってきた中で、マウントを変えてもフルサイズに行くメリットはないという判断なのだろう。X-H1のようにAPS-Cでありながら動画でも高い評価を得ているモデルもあることから、“フルサイズではないメリット”を訴求し始めたように見える。その第1弾が、T30という事なのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。