小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第978回
ケースも便利、生まれ変わった親指カメラ「Insta360 GO 2」
2021年3月17日 08:00
生まれ変わった親指カメラ
iPhoneに直結する360度カメラで世界デビューしたInsta360。360度撮影はその後プロ機をリリースするなど力を入れているところだが、コンシューマ向けでは2019年発売の「Insta360 GO」は面白いカメラだった。
前方しか撮れない、いわゆる180度カメラだが、カメラ本体が親指サイズで、GoProとはまた違う文脈のアクションカメラというスタイルだった。ただ初号機なだけに、スマホと繋がないと今カメラ設定がどうなってるかさっぱりわからないという、色々こなれてない感があったのも事実だ。
この3月に発売される後継モデルInsta360 GO 2は、サイズ感はそのままに、大幅に改良が施された意欲作となっている。店頭予想価格は36,300円。前作に比べると1万円以上の価格アップとなる。
だいたいこの手のカメラは毎年新モデルが出るものだが、2年越しの新モデル投入となった。2年分の進化を確かめてみよう。
使い勝手はかなりアップ
本来ならばまずカメラ部からチェックといきたいところだが、今回はケースから見ておきたい。というのも今回のGO 2は、ケースなしでは語れないからである。
カメラ充電器も兼用するケースは、前モデルから一転してアクリルパーツを一切使わない、堅牢設計である。前モデルでは、Lightning端子が底部から直接生えていたのだが、それが意外に邪魔でカバーをつけても何かしっくりこない感じだった。しかし今回はLightning端子をやめてWi-Fiで高速転送するスタイルに切り替えることで、充電端子もUSB-TypeC端子のみとシンプルになった。
ケースを開けるとカメラが出現するが、下半分はコントローラになっている。前モデルではスマホと繋がないとカメラの撮影モードがわからなかったが、今回はケース内のディスプレイでモードが確認できる。また設定の変更や録画開始もケースから可能になった。
加えて、底面の足を展開することで、ケース自体が簡易三脚になる。床置き、テーブル置きで撮影する際には、わざわざミニ三脚を用意する必要もなく、アングル調整も可能になった。底部に三脚穴もあるので、自撮り棒や背の高い三脚にもそのまま装着できる。
さらにケース一体で撮影できることで、バッテリー切れの心配も減った。カメラ本体のバッテリーは20~30分しかもたないが、ケース一体で使用すると110~150分の駆動が可能になる。長時間撮影はケース装着が必須だ。
つまりGO 2は、親指カメラというよりは、“いざとなれば取り外せるカメラ”という立ち位置に変わったことになる。前作のバッテリーがもたない、カメラ単体だと撮影モードが確認できないという問題を、充電ケース合体によって解決したというわけだ。
カメラ単体も、サイズ感は変わらないが、アクリル部分がなくなり、シンプルで目立たないデザインとなった。表面にInsta360のロゴもあるが、白地に白でペイントしてあるので、光の反射具合でようやく見えるという目立たなさだ。
レンズは35mm換算で11.24mm/F2.2。シャッター速度は1/8000~1/30秒、ISO感度は100~3200までの可変となる。内部ストレージは32GBで、そのうち撮影に利用可能なのは28GB。カメラはIPX8等級の防水性能があるため、開口部はない。よってMicroSDカードなどによってストレージを拡張することはできない。
動画撮影時の画質としては、2,560×1,440と1,920×1,080の2種類がある。またフレームレートも30fpsと50fpsの2種類があり、モードとしては2×2の4通りとなる。ただしHDR撮影の場合のみ、フレームレートが25fpsか24fpsの選択となる。静止画は16:9なら2,560×1,440だが、正方形なら2,560×2,560となる。またFilm Panoramaモードでは2,938×1,088という特殊画素数で撮影できるが、画角が広がるわけではない。
レンズ補正モードとしては、広角、Action View、リニア、狭角があり、静止画では広角、リニア、狭角のほか、撮影アスペクトのところにFilm Panoramaモードがある。
カメラ本体の撮影ボタンも、明確にスイッチを設けるのではなく、ロゴのあたりのボディを押すという操作感に変わった。クリック感がちゃんとあり、動作完了をLEDとバイブレーションで伝えてくる。
カメラ単体での撮影は、前作同様事前に設定したボタン操作の組み合わせで行なうことができるが、ケースともBluetoothで繋がっているので、ケースをワイヤレスの撮影リモコンとして使用できる。撮影スタートだけでなく、モード変更のほか、画角などの設定変更もできる。もっとも映像が見られるわけではないので、画角の確認にはスマホとの接続が必要だ。ただ、ケースにかなりの機能を持たせたことで、画面を見ずに撮影するという方向性がより強くなったようだ。
付属アクセサリも見ておこう。マグネット式ペンダントは、全モデルから引き続いて付属となっている。首から下げて服の中に入れ、服を挟むようにカメラを固定する。
フリーアングルのピボットスタンドは、台座が長くなり、カメラを装着したままで折り畳むとレンズ部分が保護されるようになった。カバーを外すと底部が粘着テープになっており、平たい場所に貼り付けることができる。
簡易クリップも引き続きの付属だ。服に挟んでもよし、キャップのツバに挟むのもよしというクリップである。
多彩な撮影機能
では早速色々撮影してみよう。まず動画に関しては、撮影解像度が2,560×1,440と1,920×1,080の2タイプがある。YouTubeやSNSで動画を投稿する場合は大抵1,920×1,080に変換されるわけだが、2,560×1,440で撮影するとどれぐらい解像感が上がるのか。
出力して比較してみると、それほど大きく解像感が変わる感じは見て取れなかった。まあ論理的には2560×1440の方が高画質だろうという予想はできるが、実際には気持ちの問題という気がする。
手振れ補正は、「FlowState 手ブレ補正」がウリになっている。これは通常の動画モードではベーシックな手ぶれ補正、撮影モードをProVideoに設定するとFlowState 手ブレ補正になるようだ。胸にペンダントでカメラを固定し、歩行と走りの2パターンで双方を比較してみた。
通常の歩行では、FlowState 手ブレ補正の方がベーシックよりも強力に水平を取りに行く感じはある。ただ走ってしまうと補正範囲を超えてしまうのはどちらのモードも変わりがないので、結果的にはそれほど変わらなくなってしまう。GoProがHERO9 Blackで実現したような、驚くほどの補正力があるわけではない。
ケースでの操作は、カメラを取り出してもワイヤレスで繋がっているので、バッテリー残量や画角モードなど、常時カメラステータスがわかるのは便利だ。文字もそこそこ大きく、読みづらさはない。メニュー操作は、右側の白いボタンが移動、RECボタンが決定となっている。
カメラを簡易クリップに取り付け、キャップのツバに挟んで撮影してみたが、胸につける時と違い、カメラが横倒しになる。だがカメラ内では2,560×2,560の正方形で撮影しているようで、設定を変える必要はなく、自動的にランドスケープ状態をキープする。
マイクはカメラ頂点にモノラルマイクがある。指向性はないようで、360度まんべんなく収録できるようだ。ただマイク開口部が真上を向いているということは、風の影響を必ず受けるということでもある。毎回海岸沿いで撮影しているが、それほど強風でもないのにマイクのフカレがかなり入っている。
また、カメラ単体だと撮影可能時間は短い。特にスマートフォンと接続してモニターしながら撮影すると、実質的な撮影時間は15分程度だろうか。途中でバッテリーが切れても気が付かないので、後半が撮れてないということは起こりうる。特にVlog的な撮影の場合は、とっくに止まっているのに喋り続けてるということが起こりそうだ。
また連続撮影時間にも制限がある。設定では5分から30分までの間で選択できるのだが、30分に設定するとオーバーヒートに関する警告画面が出る。
例えば散歩しながらのVlog撮影では、30分で撮り切る可能性は少ない。GoPro HERO9 BlackやDJI Pocket 2が音声収録に力をいれ、スポーツ用途からVlog用途にまで幅を広げてきているのに比べると、本機はまだワンショットスポーツ用途や、日常生活のワンシーンを撮影するという用途にとどまっているような気がする。Vlog、あるいはYouTube的な使い方には向かないカメラと言えそうだ。
編集機能が強いアプリだが……
Insta360の特徴は、連動するスマホ側の機能が非常に高いことが挙げられる。対応アプリは「Insta360-GO 2,ONE X2,R,X」だ。前作用のアプリ「Insta360 GO」では動かないのでご注意いただきたい。
撮影時のモニタリングから設定変更は、当然ながらケースのディスプレイよりもやりやすい。撮影後の映像はカメラ内に収録されているままだが、スマホを使ってプレビュー再生ができる。
映像を編集する場合は、スマホ側に映像を転送した方が早い。前作はケースにLightning端子が付いており、iPhoneと直結で転送できたが、今回はWi-Fi接続での転送となる。転送速度は端子直結ほど早くはないが、待てない速度ではない。
編集画面は、トリム、美顔フィルターなどが使える。ProVideoモードで撮影しておけば、それに加えてアスペクト比変更、画角変更が使える。通常の動画撮影では視程解像度で撮影されるが、ProVideoモードでは2,880×2,880で撮影されており、後処理でアスペクト比や画角が決められるわけだ。その点では、とりあえずProVideoモードで撮影しておけば後でなんとでもなる、ということになる。
トリム機能は、使い所を範囲指定していくスタイル。しかし残念ながら、トリムモードに入ると音声が再生できない。しゃべりを編集したい場合は、後述するマニュアル編集モードを使うことになる。
長尺のクリップに対しては、「AI Trim」という自動編集機能が表示される。音声のいいところを切り出して編集してくれる機能のようだ。ただ今回は風によるフカレが強く音声が判別できないようで、うまく利用することができなかった。
フィルターは、かなり種類が揃っている。トーンを変えていい感じにするという点ではInstagramみたいな感じだが、「漫画」フィルターはかなり強烈だ。色味だけでなく全面の輪郭補正を伴う画像処理は負荷が高いものだが、昨今のスマホであれば全く問題なくリアルタイムで動作するだろう。
オーソドックスな色調整だけやりたい場合は、「色調整」モードが使える。色温度やコントラスト、飽和度(クロマレベル)、トーン(色位相)など、映像編集に慣れた人にはこちらの方が早く目的の色味にたどりつけるだろう。
自動編集の機能も前作同様充実している。テンプレートにはVlog向けもあり、クリップを選択するだけで後は自動で編集して音楽も付けてくれる。ただ、しゃべりを生かしたものではなく、なんとなくいい感じの休日でした的なBGM付きのものができるだけなので、ちょっとVlogに対する認識が筆者とは違うのかもしれない。
新機能の「ストーリー作成」では、基本的には自動編集ではあるものの、選択クリップ数が任意で選べる、完成の尺を指定できる点が違うところだ。テンプレートで満足できない場合は、こちらを使うのも手だろう。また完全にマニュアルで編集したい場合は、ストーリー作成にマニュアル編集モードがあるので、そちらを使うといいだろう。
総論
前作のInsta360 GOでの不満点を、ケースを使うことで解決したのがGO 2のポイントである。価格的には1万円ちょっと上がっているのが残念ではあるが、ケースをそのまま撮影デバイスとして使える合体分離カメラとして考えれば、36,300円はそれほど高くは感じない。
画質的には4Kまでは撮れないが、HD解像度で使うには十分である。色味などは後処理でかなりのことができるので、撮影はとりあえず一番広い画角で最高画質で撮っておけばなんとかなるという心強さがある。
自動編集機能も充実しており、とりあえず撮りました、編集はめんどくさいけどかっこいい感じでInstagramに上げたいです、みたいな用途には便利である。ただ、そこまで何もしない人がお金を出してわざわざカメラを買うのか、という問題はあるように思う。
一方でMacに動画を転送して編集したいという場合は、手間がかかる。カメラから転送された動画はアプリ内部に格納されているので、それを一旦iPhone内の「写真」にエクスポートする必要がある。このエクスポートも、まとめて出力すると時間がかかる割にはエラーして書き出しできないものがあったりと、なかなか一筋縄ではいかない。個別に1クリップずつ転送すればいいのだが、沢山撮影した場合は面倒だ。
ケースのUSB-TypeC端子から直接転送するという手もあるが、ProVideoモードで撮影した動画は半球になっているので、その補正が必要になる。
動画の撮影から編集、投稿までをスマートフォンだけで完結したい人には、敷居を大幅に下げる製品には違いない。しかし自分で編集できる人にはかえって面倒という側面もある。オールマイティではなく、「適材適所」が求められるデバイスだろう。