小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第943回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

3万円台で買えるBOSEのサウンドバー、「BOSE TV Speaker」を試す

3万円ちょいで買えるBOSE TV Speaker

低価格サウンドバー、2本目

さて前回のAnkerに引き続き、低価格サウンドバーをテストしていく。今回はBOSEのサウンドバー、「BOSE TV Speaker」である。

BOSEといえば、コンシューマではノイズキャンセリングヘッドフォンや小型スピーカーでお馴染みのオーディオメーカーだが、サウンドバーも以前から手掛けている。以前はホームシアター用のラインナップとして、フロントサラウンドの「SoundTouch」シリーズがあったが、現在は方向性が変わっているようだ。

現在サウンドバーとしては、「Soundbar」シリーズを展開しているが、フロントサラウンドではない。サラウンドにするためには、別途リアサラウンドスピーカーを買い足すというスタイルになっている。

そんな中、7月2日から発売が開始されたサウンドバーの新モデルが「BOSE TV Speaker」だ。公式サイトでの販売価格は33,000円。前回の「Anker Soundcore Infini Pro」より約1万円高いが、BOSE製品としては低価格の部類に入る。2017年発売のサウンドバー「Solo 5 TV sound system」の後継モデルと考えていいだろう。

テレビをもっと楽しめるBOSE TV Speakerを、さっそく試してみよう。

短く抑えたボディ

BOSE TV Speakerは、5.1ch向けのフロントサラウンドやDolby Atmosといった立体音響には対応しない。名前の通り、テレビ内蔵スピーカーの代わりとして使用するタイプのサウンドバーだ。

幅59.4cm、高さ5.6cm、奥行き10.2cmで、前作のSolo 5よりも若干長くなってはいるが、高さはSolo 5の7cmから5.6cmと、だいぶ低く抑えている。重量は約2kg。

高さが低く、テレビ画面を邪魔しない

天板は艶消しブラックの樹脂製で、フロントグリルはパンチングメタルだ。側面まで覆われているが、側面にスピーカーがあるわけではない。前面左側には2つのステータスLEDがあり、入力ソースやボリュームなどの状態を表示する。

側面までパンチングメタルでカバー

スピーカーは、楕円形のフルレンジスピーカーが2つ、中央部にハの字に配置されている。この楕円形スピーカーの採用で、高さを抑えているようだ。またセンターにはツイーターが1つある。

スピーカーは真ん中に集中
底面を見るとなんとなくスピーカーの向きがわかる

従って本体の左右は空いている事になるが、向かって左側は回路部で、右側はバスレフのダクトを収納しているようだ。したがってバスレフポートは右側の背面のみである。内蔵スピーカーのみで迫力の低音が出ることがウリではあるが、別途サブウーファーも接続できる。既存のSoundbarシリーズ向けの「Bose Bass Module 500」と「Bass Module 700」が対応する。

バスレフポートは右背面のみ

背面を見てみよう。端子構成はなかなか大胆で、HDMI入力はなく、その代わりにARC対応のHDMI出力端子がある。一般的にHDMIは一方向のデジタル通信だが、ARCはそこを逆流して音声信号を送る事ができる。この機構を利用しているので、スピーカー側は出力端子なんだけど音声の入力端子として機能しているわけである。これを読んでわけがわからない人は、もう少し続きを読み進めていただくとわかると思う。

音声はHDMI (ARC)から入力

そのほか入力としては、光デジタル音声端子、アナログステレオミニ端子がある。USB端子はファームアップで使うだけである。

リモコンも見ておこう。小型・薄型の赤外線リモコンだが、表面のボタンはシリコンシートでカバーされており、手触りがいい。各ボタンは出っ張っているのではなく、凹んでいるのもユニークだ。これなら長期間使っても、擦れて破れてしまうことも少ないだろう。

手触りのいいリモコン

大胆な割り切り設計

続いては若干知識が必要な、接続まわりを見ていこう。近年販売されているテレビのHDMI端子のうち、どれかはARC対応ではないかと思われる。気になる方はテレビの後ろに回って、HDMI端子の表示を調べてみるといいだろう。「HDMI 1」などと書かれた下に括弧書きで、(ARC)と書かれた端子はないだろうか。その端子のみ、繋がれた機器からの映像入力も受け付けるが、反対に音声も逆流して接続機器側に送り込むことができる。

一般的にサウンドバーはHDMI入力端子も持っており、BDプレーヤーなどの再生機器をそこに繋いで音を拾い、映像はスルー出力からテレビに接続するという構造になっている。前回のInfini Proもそうである。

だが本機は、このARC対応HDMI出力で、テレビからの音声を入力する。テレビ番組の音声も、別の端子に繋いだBDプレイヤーの音声も、すべてこのARCで受けるわけだ。接続はケーブル1本なのでシンプルだが、この理屈がわからないと、なぜテレビの入力端子にスピーカーを繋いで音が出るのか、わけがわからないと思う。

とはいえ、世の中のすべてのテレビにARC対応HDMI端子がついているとは限らない。その場合は、光デジタル端子やアナログのステレオミニ端子でテレビと繋ぐわけだ。

もう一つ入力経路としては、Bluetoothがある。スマホと繋いで音楽再生したい際は、このルートが一番手っ取り早いだろう。資料には記載がないが、調査した結果どうもコーデックはSBCしか対応していないようだ。

BluetoothはSBCしか対応していないようだ

今回のテスト環境は、ソースとしてAmazon FireTV Cubeを東芝レグザ「40M510X」のHDMI 2へ接続、TV SpeakerはARC対応端子であるHDMI 1に接続している。HDMI 1端子はCECにも対応しているので、テレビ電源のOFFでスピーカーもOFFになる。ONにする場合は、自動ウエイク機能が設定できるので、結果的にはテレビをONにするとスピーカーもONになる。

ARCを使った結線図

音場の広がりという点では、スピーカーそのものが中央寄りにあるので、それほど左右に大きく拡がる感はない。その代わり中心が中抜けせず、センターに重心を置いた広がり方である。

また低音増強モードもある。リモコンのBASSボタンを押したあと、ボリュームの上下ボタンで低音量が調整できる。ゼロの中心にプラスマイナス2段階だ。個人的には低音は+2で十分だが、BOSEにしては少し低音のアタックが弱いかなと思う。

本機にはセリフを聞こえやすくする「ダイアログモード」がある。これをONにすると、音質が変わってしまうものも多いが、TV Speakerでは、周囲のサウンドトラックのほうを抑え気味にして、セリフを目立たせるという手法を取っているようだ。したがってダイアログモードではステレオ感がやや減少するが、自然な聞き取りやすさを実現している。なおダイアログモードは入力別に記憶するので、BluetoothではOFFで、テレビ音声ではONで、といった具合に使い分けられる。

Bluetoothによる音楽再生も試してみた。SBC接続なので高音域までシャッキリとはいかないが、低音の出はなかなかいい。設置場所にもよると思うが、テレビ台のように下が空洞の場合は、BASSが+2では低音が出過ぎる。+1程度で十分だろう。

総論

およそ3年前のSolo 5 TV sound systemは円形のスピーカーを使っていたため、高さが抑えられなかったが、今回のBOSE TV Speakerでは楕円形スピーカーの採用で、高さを大幅に抑えている。このため、テレビ画面どころか、テレビのフレームにもあまりかからず、テレビの赤外線受光部を邪魔しない作りになっている。

高さが低くなったことで懸念されるのはエンクロージャの容積だが、そのあたりの設計の上手さはさすがで、サブウーファーなしでも遜色のない量感の低音を実現している。ただバスレフダクトを長く引き回しているせいか、低音にもう少しスピード感が欲しいところではある。

設計としては、HDMI ARCで音を引っぱってだけという作りはなかなか大胆。合理的ではあるが、貴重なARC対応HDMI端子を取られるのはちょっと勿体ないところである。また、前回のAnker「Infini Pro」とはコンセプトが異なる製品だが、約1万円高いが機能的には少ないのも気になるところである。まあそれもBOSEだから許されるところはあるかもしれない。

テレビの拡張スピーカーとしてはコンパクトで邪魔にならず、サウンド的には内蔵スピーカーの数段上を行くことは間違いない。これぐらいの価格帯であれば、テレビや4K UHDプレーヤーを新調したらセットで導入、という流れも出てくるのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。