小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第792回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

サウンドバー1本でダイニングが音楽空間、ビームサラウンドで映画も。ボーズ SoundTouch 300

ダイニングのスピーカーをアップグレードしたい

 主な職場が「自宅」という筆者は、当然ながら仕事部屋で過ごす時間が長い。だが家族で過ごしたり、お酒を飲みながらウダウダしたりするのは、もっぱらダイニングである。

SoundTouch 300

 というわけで最近ダイニングを大幅に整理し、観葉植物などを置いたりして、くつろげるようにしたところだ。料理をしながら、あるいは食事中にも音楽が聴けるように、いろんなタイプのスピーカーを置いてみているところなのだが、テレビ音声のアップグレードと音楽の充実度を両立させるのがなかなか難しい。

 ブックシェルフクラスのスピーカーはいくつか余っているセットがあるのだが、アンプまで持ってくるのが面倒だし、あんまりケーブルがゴチャゴチャするのもいただけない。そこで、これまでうちでは導入したことがなかったサウンドバータイプのスピーカーを試してみることにした。

 この2月10日より発売が開始されたボーズの「SoundTouch 300」は、横長のサウンドバーだけで、低音の出がなかなかいいという評判だったので、今回はこれをテストしてみる。ボーズとしては初となる、ビーム反射によるサラウンド再生が可能なモデルだ。

 加えて、「SoundTouch 300」向けのサブウーファ、サラウンドスピーカーもお借りしてみたので、サウンドバーのみのシンプルなセッティングから、徐々にアップグレードしていくという体験もできた。

 ボーズ最新のホームシアターシステムを、じっくり試してみよう。

SoundTouchシリーズのホームシアター?

 ボーズのホームシアター向けスピーカーとしては、以前からLifeStyleシリーズとして、5.1chスタイルの製品がいくつかある。だが価格帯としてはおよそ30万円から50万円台なので、一般市民が気軽に手を出せる製品ではない。

 一方「SoundTouch 300」は、バータイプのスピーカー1台だけでもホームシアターと呼べるだけの機能を持っており、価格的にもメーカー直販サイトで81,000円と、比較的買いやすい価格だ。もっともバータイプのテレビ用スピーカーなら他社では1万円台から存在するジャンルなので、高いといえば高いのだが。

 SoundTouch 300だけでも使えるのだが、バースピーカーからアップグレードして使えるサブウーファとサラウンドスピーカーもある。これらも組み合わせによってセットが組まれており、バースピーカー+サブウーファが162,000円、バースピーカー+サラウンドスピーカーが118,800円、バースピーカー+サブウーファ+サラウンドスピーカーのフルセットが199,800円と、めいっぱい拡張しても20万円以下で勘弁して貰えるようになっている。いや十分高いかもしれないが、「Lifestyle 650」の529,200円という価格から比べれば、ほら。

 まずはシステムの中心となるサウンドバーからみていこう。外寸は幅978mm、高さ57mm、奥行き108mmで、重量は4.7kg。見た目は真っ黒、天板はガラス張りの重厚なデザインで、実際に持ってみてもずっしりとした重みがある。

天板のガラスが美しいSoundTouch 300

 ボディにはボタン類は一切なく、左端にステータスを示すLEDが5つあるだけだ。正面のスピーカー配置はパンチンググリルがあって確認出来ないが、スピーカーユニットは、LRそれぞれにウーファが2基、ツイータが1基、そしてサラウンドのキモとなるPhaseGuideアレイがある。

電源ボタンすらない作りは大胆
背面にあるバスレフポート
内部構造

 PhaseGuideという技術は、ツイータから放出された高音域を長いチューブの中に通し、その先端に開けた細かいメッシュ状の穴から放出することで、指向性の高いビーム状の音が放出される仕組み。このビーム音を壁などに反射させることによって、サラウンドを実現する。

 反射型のサラウンドは、ヤマハやパイオニアで実績のある方法で、小さいスピーカーを沢山用意して、位相差によってビーム状の音を作り出すという仕掛けだ。だがボーズの方法は沢山のユニットはいらないのでコスト面で有利なのかもしれない。

 このPhaseGuideテクノロジーは、ボーズが2010年に発売したディスプレイだけでサラウンドを実現するという「VideoWave entertainment system」に初めて搭載された技術である。

 背面は2箇所が凹んだ作りになっており、その凹みの壁の部分に端子を配置するという作りだ。こうすればコネクタ類が背面から出っ張ることがなく、スッキリとテレビにくっつけて設置できるというわけだ。

背面の凹みの壁部分に端子がある

 端子類は、BDプレーヤーなどを接続するためのHDMI入力と、テレビとの接続用のHDMI出力。出力の方はARC対応なので、ARC対応端子を持つテレビであれば、これだけでテレビの音もサウンドバーから出る。ただし今回使用するテレビがARC非対応なので、別途光デジタル端子で接続している。

HDMIはARCにも対応

 そのほか、ネットワーク接続用のEthernet端子、セッティング用の測定マイクを接続するADAPTiQ端子、サブウーファ用のACOUSTIMASS端子、セットアップ用のUSB-C端子がある。

 リモコンも見て見よう。サイズ的にはテレビリモコンと同等で、機器コードを入力することで各メーカーのテレビやSTBなどがコントロールできる。これで最低限の利用はできるが、設定メニューなどがテレビ画面上にOSDなどで表示されるわけではないので、コントロール用のアプリを併用した方がいいだろう。

光沢が美しいユニバーサルリモコン

まずはサウンドバーの基本性能をテスト

 今回自宅でセットした場所は、ダイニングのところにある出窓である。ここには以前からテレビを置いているのだが、その前にサウンドバーを設置した。ただうちのREGZAは、足が前方にかなり張り出しているので、木製の台を用意し、足を跨ぐように設置している。

出窓を片付けてサウンドバーをセット

 ケーブル類は背面の凹みから斜めに出てくるため、後部はそれほど隙間を開ける必要はない。接続ケーブルをそのまま後ろに回して他の機器と接続できる場合はいいだろうが、今回のような出窓では機材の後ろから下にケーブルを垂らすようなことができない。

 そうなると必然的にケーブルを前から垂らす必要があるわけだが、なにせ横幅が1mぐらいあるので、ケーブルがものすごくぐるっと大回りして横から回してくるしかない。外部機器と繋ぐHDMIケーブルが横から垂れてくる姿は、あまり綺麗ではない。

 設置場所が決まったら、次は測定である。付属のヘッドセットにマイクが付いており、これを使って室内を測定、音場を補正する「ADAPTiQ」という機能が搭載されている。この測定モードでは、部屋の中5箇所を測定し、測定後に自動で演算して音場補正終了となる。

測定用のヘッドセットマイク
頭のてっぺんに測定用マイクがある

 本機はホームシアタースピーカーという位置づけながら、製品としては「SoundTouch」シリーズでもある。SoundTouchは元々ワイヤレススピーカーのシリーズで、Wi-Fi接続でネットサービスに繋がるといった機能を持っている。もちろんBluetoothスピーカーとしても機能する。

 専用アプリ「Sound Touch」を起動すると、スピーカーをWi-Fiに接続するためのウィザードが立ちあがる。最初Ethernetのケーブルも挿していたので、全然スピーカーからのアクセスポイントが出てこなかったのだが、Ethernetケーブルを抜いたら出てきた。EtherとWi-Fiは排他仕様になっているようだ。

Sound TouchアプリでスピーカーをWi-Fiに接続

 Sound Touchは、ただの設定アプリではないワイヤレスで音楽再生を行なうためのターミナルとなるアプリだ。初期状態ではインターネットラジオが聴けるだけだが、サービスを追加することで機能が増えていく。

サービスを追加していくと加速度的に便利になっていく

 例えばSpotifyを追加すると、オーディオ製品自らがサービスに接続して音楽ストリーミングを受信する「Spotify Connect」が使えるようになる。Amazon Prime Musicとの連携は、残念ながら米国でしか使えないようだ。NASを追加すれば、DLNAベースでの楽曲のブラウズと再生が可能だ。

Sound Touch内からSpotifyが利用できる

 パソコン上の音楽ライブラリにアクセスするには、パソコン側にもSound Touchアプリをインストールする必要がある。機能的にはスマートフォンアプリとだいたい同じだが、内部の音楽をSound Toutchからアクセスできるようにするホスト機能があるようだ。いったん追加されたパソコンの音楽ライブラリは、スマートフォンアプリからも操作できるようになる。

iTunesライブラリを追加するには、パソコン側にもアプリのインストールが必要
PCのライブラリを再生しているところ

 サウンドバーのみでの音楽の再生は、かなり良好だ。最近はワンボックス型のBluetoothスピーカーが増えているが、これの欠点は左右間が狭いため、ステレオ感が乏しいことである。一方Sound Touch 300は、かなり左右が長い上に、PhaseGuideテクノロジーによって音を広げているので、どこで聴いても大きなステレオ感を感じる。通常の2chステレオともまた違った、定位感がふんわりとした独特の広がり方である。

 そもそもダイニングでは、真剣に音楽を聴き込むようなスタイルを求めていないし、キッチンでバタバタしていても、後ろを向いていても、どういう状態でもステレオ感が得られるという意味では、ダイニング・リスニングには非常に向いている。

 評判の良い低音だが、確かに厚さ6cmにも満たない細長いスペースから出ているとは思えない、しっかりした低音が出ている。通常のロック、J-POPなどの現代的な音楽であれば、それほど不満を感じることはないだろう。一方でワールドミュージックのようなものは、通常の楽音の範囲外の重低音の楽器があったりするので、そういった音楽の再生は重低音が聞こえないといった不都合が出る。

 音質的には、Spotify ConnectやNASといったWi-Fiを使うストリーミングでは、高域の伸びも綺麗な再生が楽しめる。一方でGoogle Play Musicのようなサービスでは、Bluetooth接続を使う以外にないのだが、これがガッカリする音質である。

 Bluetoothの対応コーデックについては、相変わらずボーズでは公式に情報公開していない。ただ音質面からすると、AAC、aptXには対応しておらず、SBCのみだろう。AAC、aptXで接続できるように拡張したMac miniを繋いで確認したところ、やはりSBCで接続されていた。

 テレビ音声については、ステレオ感は元々それほど期待していないのだが、言葉の明瞭感がぐっと上がるため、ボリュームが低めでも聞き取りやすいという効果がある。

サブウーファとサテライトスピーカーを追加

 ではサウンドバー単体から、徐々にアップグレードするとどうだろうか。最初に「Acoustimass 300 bass module」(サブウーファ)を追加してみた。接続はアナログケーブル1本なので、特に難しいことはない。ただ重量が13.6kgもあるので、設置はまず箱から出すのに一苦労である。スピーカーを増設したら、またヘッドセットマイクを繋いで測定と音場補正が必要になる。

サブウーファとサテライトスピーカーを追加
サブウーファを設置したところ

 元々サウンドバーだけでもそれほど低域の不足は感じないのだが、やはりサブウーファが加わるとサウンドがぐっと底支えされるのがわかる。オーディオ的にかなりレベルが上がるのは事実だ。

 ただ、ダイニングで料理や食事しながら聴き流すサウンドとしては、若干重すぎる。イージーリスニングなのに、ガッツリ聴かされる感じなのだ。朝食の用意をしているときに、BGMとしてリー・リトナーやデイブ・グルーシンを流していたのだが、サウンドがガッチリしすぎて笑ってしまった。

 シアタールームに設置するのならサブウーファはあったほうが満足度は高いだろうが、“気軽にいい音で”といった方向だとサブウーファはなくていい。もっともアプリからは、サブウーファとサテライトスピーカーは切り離せるので、買ったけど映画を観る時くらいしか使わないというゼイタクな事もできる。

 映画鑑賞については、サラウンドの表現が気になるところだ。今回はBlu-rayで「アバター」を見ながら、色々試してみた。

 サウンドバー単体だけでも、反射音によるサラウンドを実現する機能が搭載されているのが、この製品のポイントである。実際に5.1ch再生してみると、確かにサラウンド感は感じる。ただ、明らかに後ろからも音が鳴っている感はなく、上下も含め、ふんわりと音場の球体の中に包まれている感じだ。

 サブウーファは、映画の内容次第だろう。アバターは戦闘シーンも多いので、あったほうがよい。一方ロマンスやコメディものでは、なくても楽しめるはずだ。

 専用サテライトスピーカー、「Virtually Invisible 300」もお借りしているので、設置してみた。サウンドバーとはワイヤレスで繋がるサテライトスピーカーで、スピーカー本体は結構小さく、外寸は84×82×94mm(幅×奥行き×高さ)程度だ。

コンパクトなサテライトスピーカー「Virtually Invisible 300」

 ただしワイヤレスとは言っても、電源、アンプ兼受信部のボックスが必要になる。これが予想外に大きく、166×78×41mm(幅×奥行き×高さ)もある。これが左右で計2つ必要なので、電源回りはかなりゴタゴタする。

かなり大きなボックスが必要
その間は結局スピーカーケーブルで接続

 実際にサテライトスピーカーも設置し、ON/OFFでサラウンド感を比較してみた。確かに物理的にスピーカーがあった方が、ふんわり感がなくなって、サラウンドの定位感がビシッと決まる。ただ、サラウンドの量、というと変な表現だが、包まれている感というのはそれほど変わらない。

 同じ世界観の中に居ながら、フォーカスがビシッと合っているか、若干滲んでいるかの差とでも言おうか。例えば目の悪い人にとって、メガネをかけてるか外しているかに関わらず、世界の状態は変わらないが、見え方が違うという感覚に似ている。

総論

 バースピーカーは、ヤマハがフロントサラウンドでトレンドを作っただけに、未だにヤマハの人気が高い分野である。ボーズも比較的早くからフロントサラウンドに取りくんだメーカーだが、庶民には価格の面で手が出せなかったものである。

 今回のSound Touch 300は、ワイヤレススピーカーとホームシアタースピーカーのいいとこ取りした製品のように見える。ホームシアターはここぞという時の出番なので、映画を見なければ稼働率が低いわけだが、普段使いのスピーカーとして、映像にこだわる必要もなく、音楽だけでも十分に楽しめるように作られている。

 サブウーファなしでも、ダイニングでいい雰囲気の音楽を流す用途としては十分なクオリティであり、モノとしての質感も上々だ。スマホですべてコントロールできるので、リモコンを握るときは映画を見るときぐらいである。

 サラウンド感の評価というのは、ある意味納得感の問題ではないかと思う。反射音サラウンドでも変わらないね、と納得するには、一回実際にサテライトスピーカーを付けて鳴らして差を確認するしかない。その点では、皆さんはボーズのショールームなどで実際にON/OFFで聴き比べるのが、一番納得できるだろう。

 個人的には、サテライトスピーカーまで綺麗に配置するスペースを確保する余裕がないということ、いくらワイヤレスとは言っても、電源回りに巨大なボックスが2個積み重なること、結局そのボックスからスピーカーまではケーブルで繋がることなどを考えれば、サウンドバー本体でのサラウンドのほうにメリットがある。

 サブウーファまでいるかどうかは考え処だが、筆者の用途、すなわちダイニングで常時イイ感じの音楽を流し、時々映画を見るといった生活スタイルなら、バースピーカーだけで十分である。バースピーカーだけで音楽だけ聴いてもきちんと成立するという製品は、意外に少ないのではないかと思う。

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ボーズ
SoundTouch 300 soundbar

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。