レビュー

ボーズ、ビーム状に音を出すDolby Atmosサウンドバーを聴く

Smart Soundbar 900

昨年9月に海外で先行発売され、先月国内でも販売開始したボーズのサウンドバー「Smart Soundbar 900」。ボーズのサウンドバーで初めてDolby Atmosに対応した注目モデルだ。価格は119,900円。

Dolby Atmosに対応するだけでなく、音のビームを発射して拡がりのある音を再現する「PhaseGuide」や、独自の空間処理技術「TrueSpace」を搭載しているのが特徴だ。今回、短い時間だが製品に触れて音を体験したので、そのサウンドをレポートする。

ホワイトモデルもラインナップされている

一般的に、音の強い指向性を持たせてビーム状に発射するためには、多くのスピーカーユニットを並べる必要がある。そのため、こういった機能を持つサウンドバーは筐体が大型化してしまうが、これを薄い板状のユニット1個で再現したのがPhaseGuide。

ユニットから発せられる音が板状のパーツを通り、間に挟まっているメッシュ状の素材を通過して放出される仕組み。飛ばしたい方向の信号を重ねるのと同時に、音を出したくない方向に向かっては、ノイズキャンセリングと同じように逆位相の信号を送って音を打ち消すことで、結果的に音がビーム状に飛んでいくのだという。

PhaseGuideの部品。ユニット(左)から出た音が右のパーツの間に挟まっているメッシュ状の部分から放出される

このPhaseGuide×2基に加え、楕円系のメインスピーカー×4基、センターツイーター×1基、天井に向かって音を放出するアップファイアリングダイポールスピーカー×2基の計9基のスピーカーユニットを搭載している。入力はeARC対応のHDMI×1系統、光デジタル×1系統。Wi-FiとBluetooth 4.2に対応し、スマホから音楽を楽しめる。AirPlayにも対応。マイク搭載で音声アシスタントも利用できる。

このサウンドバーは、別売のサブウーファーやリアスピーカーを追加する事もできるが、まずはサウンドバー単体で聴いてみよう。Dolby Atmos対応している「ボヘミアン・ラプソディ」のワンシーンを再生。すると、サウンバー本体はテレビの下に置いているにも関わらず、音が前方、つまりテレビ画面真ん中、自分の顔の高さあたりから聴こえてくる。

広いライブ会場に歓声が広がるシーンも、声が本当に横幅広く展開し、消えていく様子までしっかりと感じられる。高さも感じられるので、まるで、テレビの横にフロントスピーカーと、フロントハイトスピーカーを設置しているような感覚が味わえた。低音もしっかり出ているので、サウンドバー単体でも臨場感たっぷりで映像コンテンツを味わえる。

次にサブウーファー「Bose Bass Module 700(94,600円)」とリアスピーカー「Bose Surround Speakers(45,100円)」を接続し、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」のバイクアクションのシーンを再生。唸るエンジン音の高域の部分まできっちりと再現されているほか、リアスピーカーを追加したことで、音像が後ろから前へと走り抜けた時の移動感が明瞭で、疾走感がアップする。サブウーファーを追加した事で、バイクがクラッシュしたときの爆発音も迫力満点だ。

Bass Module 700
Surround Speakers
スピーカーの追加や各ボリュームの調整はアプリから行なえる

自然な上方への音の拡がりを再現する「TrueSpace」

ボーズの空間処理技術であるTrueSpaceも体験。ステレオ音源や5.1ch収録のコンテンツでも、ボーズ独自の技術で上方向の音の情報を振り分けて、音の拡がりを再現する機能。ON/OFFはできず、常時効果が得られる機能となっている。

ステレオ音源などから音の情報を振り分けてサラウンド化する機能では、「ボーカル曲のボーカル部分が若干後ろに割り振られて不自然になる」といった様な事象が起こることもあるが、ボーズの処理技術は音を分析して、自然に聴こえる割り振りを行なえるのが強みだという。

再びサウンドバー単体に設定を戻し、ステレオの音楽を再生。すると、テレビの上の方からも音が聴こえて、やはりフロントとフロントハイトのスピーカーが存在するかのように感じられる。ボーカル楽曲ではボーカルがしっかりと前方から聴こえ、伴奏の余韻が上の方からも拡がってくるので、確かに自然と広い音場で聴こえる。

地上波の放送を見てみると、午後の情報番組が流れていたのだが、BGMがかなり拡がりのある聴こえ方で、人の声はまっすぐ飛んでくるかのようにはっきりと聴こえる。これが大げさな感じではなく、自然に聴き取りやすい音に感じるため、この効果が常時働いているのは嬉しい。

また、Smart Soundbar 900には、音量に合わせて自動的に音のバランスを最適化するアクティブイコライザー機能も備えており、小さい音量でも音の迫力や、セリフの聴き取りやすさが変わらないという。

実際に地上波の放送を見ながら徐々に音量を下げていくと、音は小さくなり、BGMもほとんど聴こえない状態でも、人の会話の内容だけしっかり聴き取れた。なお、音量を上げていった場合は、全体的に音割れが起こらないように調整されていくのだという。

Smart Soundbar 900で再生する音をボーズのワイヤレススピーカー/ヘッドフォンでも再生できる「SimpleSync」にも対応するため、夜中に家族や近所に迷惑をかけずに映画などを楽しめる。

今回、SimpleSyncに最適化されており低遅延伝送が可能な「Noise Cancelling Headphones 700」を使用して試したところ、スピーカー側とヘッドフォンから音を同時に出して聴き比べたが、音のズレは感じられなかった。対応機種や最適化されている機種についてはWebページを参照のこと。

Noise Cancelling Headphones 700
SimpleSyncのグループ化もアプリから行なえる。個別に音量調整も可能

高級感のある見た目と簡単な音響設定も魅力

外観を見てみると、天板にガラスが使われている。角は丸く加工されており、インテリアとしての高級感も併せ持つように仕上げたとする。そして、電源などのボタンは非搭載で、ほとんどの操作が専用アプリから行なえる。設置や設定もアプリに表示される手順に従えば簡単に行なえるという。

角が丸く加工されている。天面(手前側)はガラス

本体左端にある丸いマークとマイクミュートマークがそれぞれタッチセンサーになっており、丸いマークが音声アシスタントの起動、マイクミュートボタンでは本体マイクのON/OFFの切り替えが行なえる。

マイクミュートと音声アシスタント機能のタッチセンサー

音声アシスタントはGoogleアシスタントとAmazon Alexaに対応。一般的に音声アシスタント対応のスピーカーは、コンテンツ再生中にコマンドを感知しにくくなってしまうことがあるが、Smart Soundbar 900は本体の左右端部に計8個のノイズリジェクションマイクを搭載することで、音楽などのコンテンツ再生中でも声を認識できるという。

室内に合わせた音響調整は、Adapt iQが自動で行なう。カチューシャのような形をしたヘッドセット型マイクを頭に付けて、アプリで指定された5箇所でテスト信号を聴き取れば完了する。

ヘッドセット型マイク。丸い部分がマイクになっている
端子部の「ADAPTiQ」の部分にマイク側の端子を挿すだけで接続できる
アプリ側にガイドも表示される

面白かったのは、このテスト信号を飛ばしたときだ。AVアンプの設定をしたことがある人であれば分かると思うが、設置したスピーカー1個1個が鳴っているかのような聴こえ方がする。今回はサウンドバー単体で行なったのだが、本体からセンター、そして壁からフロントL/R、フロントハイトL/Rとそこにスピーカーがあるかのように聴こえる。PhaseGuideの実力がわかりやすく感じられた瞬間だった。

約12万円と、気軽に購入できる価格ではないが、複数のスピーカーとAVアンプを購入し、設置しなくても、HDMIケーブル1本でテレビと接続さえしてしまえば、普段見ているテレビの音が格段に良くなり、配信サービスでDolby Atmos対応の映画を再生すればそのまま楽しめるというのは大きな利点だ。

より本格的にサラウンドを楽しみたくなった場合でも、サブウーファーとリアスピーカーをプラスするだけなので、むしろ安いのでは? と思い始めている自分もいる。

設置と設定がアプリを確認しながら、ヘッドセット型マイクを装着して音響調整まで簡単に行なえるのも魅力だ。

場所をとるホームシアター環境を整えるのではなく、シンプルかつ手軽に、それでいて良い音を楽しみたい……そこにコストをかけたい人には、その期待に応えてくれる製品だろう。

リモコン
野澤佳悟