小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第979回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

名実ともにナンバーワン、ソニー「α1」の動画性能を検証

ボディとしてはα9 IIに近い「α1」

ついにフラッグシップ登場

3月19日より発売になった、ソニーαのフラッグシップモデルであるα1。電子シャッターながら有効約5,010万画素フルサイズを秒間30コマで連写するというスペックが注目を集めている。クリエイターの間では、この30コマの連番ファイルを動画として使うというアプローチが試みられているところだ。

筆者も確かに面白そうだとは思うが、そうなると誰もα1の動画性能をちゃんと検証してないということになりかねないので、ここはグッと我慢して普通に動画撮影モードでのレビューをお届けする。

静止画では連写性能がクローズアップされているが、実はαシリーズとして初の、“8Kが撮影できるカメラ”である。フルサイズデジタルカメラの8K化は、昨年7月にキヤノンの「EOS R5」からスタートしており、α1で2モデル目ということになる。

そんなα1のもう一つの注目ポイントは、価格だ。ボディ単体で実売90万円前後という高価格は、フルサイズではライカMシリーズに次ぐ高値となっている。ただネットの通販サイトを見ると、最安は70万円台のようだ。

今後α7のようにシリーズ展開があるのか今のところわからないが、初代とも言えるα1の実力を、確認してみよう。

巨大化しないフラッグシップ

まずボディだが、フラッグシップだから極端にデカイかと言うと、そんなこともない。サイズ感、ダイヤル構成、ボタン配置などからすれば、α9に近い。

軍艦部を見ると、左肩に連写ボタン、その回りにAFモード切り替えがあるのも、α9 IIと似ている。各種モートダイヤルやAEシフトダイヤルにロック機構を設けているのは、さすが高級機といったところだ。前面にボタン類はなく、動画ユーザーとしてはちょっと寂しいところである。

連写モードの周りにフォーカスモードダイヤル
各ダイヤルにロック機構を装備

センサーは有効画素数約5,010万画素のフルサイズExmor RS CMOSセンサー。静止画の最大撮影画素数はアスペクト比3:2の8,640×5,760となる。

動画の撮影フォーマットはH.265ベースのXAVC HSと、H.264ベースのXAVC S。XAVC SにはIntra Frameモードもある。ここでは8K及び4Kの記録フォーマットをまとめておく。

8K記録にも対応する

8K記録は最高で30fpsとなるが、Log収録も可能でHDR撮影にも対応する。また4Kでは4:2:2/10bit/120pでの撮影もサポートしており、かなり高速駆動可能なセンサー及び画像処理エンジンであることがわかる。

背面ボタン配置もα9 IIと同じ
モニターは横出しバリアングルではなく、正面チルト式

なお8K動画から静止画を切り出す機能も内蔵しており、動画と静止画のハイブリッド化が進んだ形になっている。

端子類は全て左側にあり、テザー撮影用のLAN端子を備えるほか、内蔵Wi-Fiも802.11ac 2×2 MIMOに対応するなど、高速化が図られている。同軸のシンクロターミナルを搭載しているのも、かなり写真寄りの設計と言えそうだ。

端子類は全て左側
ケーブルの常時接続に備えて端子保護用のカバーも付属する
カードスロットはSDカードとCFexpress Type Aに両対応

α1にはキットレンズとのセット販売はなく、レンズは別途用意する必要がある。今回お借りしたレンズは、動画用と言うことでプロフェッショナルシネマレンズシリーズの「SELC1635G」と「SELP28135G」をお借りした。どちらもサーボズーム付きレンズで、写真ではまず使わないレンズである。

16~35mm/T3.1の「SELC1635G」
鏡筒部横にズームレバーがある
28~135mm/F4の「SELP28135G」
こちらはズームレバーほか光学手ぶれ補正も備える

クリアかつ爽快感のある絵

では実際に撮影してみよう。お借りしたレンズは、本来ならばVENICEやFX6あたりにつけるとバランスがいいのだが、α1に付けるとほとんど“レンズしかない”状況になる。ソニーは今やEマウント統一なので、どんなレンズも本体も組み合わせられるのが強みである。

今回はXAVC HS 8K/30p/4:2:0, 10bit/400Mbpsで撮影している。ピクチャープロファイルは前回FX3で使いやすかったS-Cinetoneを使うことにした。動画サンプルでは一部カラーグレーディングしているが、静止画の切り出しは撮って出しである。

今回は非常に映像のキレがいいシネマレンズということで、遠景もマクロ撮影も、8Kの解像感も相まって非常にディテールの立った映像を撮ることができた。

スッキリと爽快感のある絵作り
貝殻の表面や砂粒の表現ももうしぶんない
ボケ味も綺麗だ

8K撮影でも10bitのLog撮影ができるので、HDRコンテンツにも対応できる。連続撮影時間は30分に制限されるが、春先の陽気の中、カメラに直射日光が当たる状況でも、発熱によるアラートは出なかった。1ショットずつ撮っていく映画的な手法なら、問題なく撮影できるだろう。

8K/30pで撮影・編集後、4Kにダウンコンバートした

撮影スタイルも、FX3のようにフレキシブル露出モードが使える。撮影モード切り替えなしに、絞り、シャッタースピード、ISO感度のオート・マニュアルを個別に選択できる方式は、狙った絵を作りやすい。

露出制御はフレキシブル露出モードも使える

AFも8Kだからという制限は特になく、人物の顔などはリアルタイム瞳AFでバシバシ決まる。4Kカメラが出始めの頃は技術的にもギリギリで、4Kになるとあれもできないこれも効かないという制限が多かった。一方α1は、8Kカメラの出だしとしてはいいスタートと言える。

際どいフォーカスも難なく決める
人物のフォローフォーカスもギリギリまで追える

制限らしいものとしては、手ぶれ補正がある。8K撮影モードにすると、ボディ内手ブレ補正と電子補正とを組み合わせたActive手ブレ補正が使えなくなる。ただレンズ側に補正機能があるものは、もちろんそちらが使える。レンズ側に補正機能がないものは、ボディ内手ブレ補正は使える。

8KではActive手ブレ補正が使えない
手ブレ補正比較。8Kではレンズの光学補正しか使えない

また制限というわけではないが、ハイスピード撮影は4Kまでとなる。現時点でのセンサーでは8Kのフレームレートが30fpsが限界なので、8Kでのハイスピード撮影はできないわけだ。一方4Kでは120fpsで駆動できるので、24p再生では5倍速スローとなる撮影ができる。

AFも動作するし、何よりセンサーの解像感の高さがスロー撮影でも一段上のクオリティが体験できる。

4K120p撮影による5倍速スロー

クリエイティブルックと夜間撮影機能

Logで撮影してカラーグレーディングすれば、シーンのカラーを自在に作ることができる。多くのノンリニアソフトではカラーグレーディングができるようになっているが、実際には波形モニターやベクタースコープの見かた、映像信号規格といった知識がないと、納品に耐えられるカラーグレーディングはできないのが現実だ。

もう少し簡単に絵作りができないのかという要望があったのかわからないが、α1には新たに「クリエイティブルック」が搭載された。ソニーに限らず多くのカメラはこうしたフィルターモードを備えているが、クリエイティブモードは「遊び」のような機能ではなく、もう少し現実的に作品で使えるようなトーンでまとめられている。

プリセットは10種類で、それぞれカスタマイズもできるようになっている。なおクリエイティブルックはピクチャープロファイルと併用できないので、LogやHLG、S-Cinetoneと一緒には使えないことになる。それぞれのタイプと効果をまとめておく。

ルックタイプ ST:被写体・シーンに幅広く対応する標準の仕上がり
ルックタイプ PT:肌をより柔らかに再現。人物の撮影に最適
ルックタイプ NT:彩度・シャープネスが低くなり、落ち着いた雰囲気に表現
ルックタイプ V V:彩度とコントラストが高めになり、花、新緑、青空、海など色彩豊かなシーンをより印象的に表現
ルックタイプ V V2:明色鮮やかな発足で、明瞭度の高い画像に
ルックタイプ FL:落ち着いた発色と印象的な空や緑の色味に、メリハリのあるコントラストを加えることで雰囲気のある画像に
ルックタイプ IN:コントラストと彩度を抑えたマットな質感に
ルックタイプ SH:透明感・柔らかさ・鮮やかさを持つ明るい雰囲気の仕上がり
ルックタイプ BW:白黒のモノトーンで表現
ルックタイプ SE:セピア色のモノトーンで表現

クリエイティブルックは、撮影時からすでにモニターなどで色味を確認できるので、現場でどんどん判断して撮っていく場合には便利かもしれない。ただLogで撮影しているわけもないしオリジナルが残せるわけでもないので、あとからカラーグレーディングで修正するのは難しいだろう。その点ではやはり、フィルター的と言える。

夜間撮影については、本機はどちらかというとα7 Rのような高画素系カメラなので、動画撮影時のISO感度は100-32000と、それほど高感度というわけではない。明るいレンズが用意できれば夜間撮影にも対応はできるが、暗部のS/Nに関してはやはりα7S系には一日の長がある。

夜間撮影もできるが、暗部のざらつきが若干気になる
シャッタースピード1/60、F2.8でISO100から順に撮影

総論

αとしては初の8K対応カメラとなったα1。約5,010万画素というスペックは、α7R IVの約6,100万画素には敵わないが、応答性とのバランスによって秒間30コマ高速連写及び8K30p撮影を実現した。加えて位相差AF759点というスペックはα7S IIIと同等という、まさに1世代上をいくセンサーである。

ボディもα9シリーズと同等で、大型化したわけでもなく、スチルカメラとしての取り回しも苦労はないだろう。ジンバルやドローンに乗る小型8Kカメラという位置付けもあるところだが、使い勝手が従来機と一緒というのは、現場にとっては一番嬉しいはずだ。

AFにしろフレームレートにしろ、高速応答性というメリットはスポーツ撮影などで活かされるはずである。昨今はなかなか観客を入れてのスポーツイベントが難しくなっている反面、ライブ中継や収録配信など、動画ニーズが広がっている。これまでにないカメラワークや、観客席では見られないショットなど、多様性が求められているところだが、そこに8Kや4K120p撮影可能なカメラの登場は、プロにとっては歓迎されるだろう。

実売78万円前後という価格は、個人で買おうと思ったら高いが、動画目線で言えばこれぐらいのカメラは撮影会社が経費で買うものなので、それほど高いわけではない。SD解像度時代のショルダー型カムコーダなど、本体だけで1,200万円ぐらいしていたものだが、今となっては解像度は16倍、価格は1/16になった。

プロのカメラマンとしてはレンタル会社から借りるというケースも増えるだろうが、その点でもサイズや使い勝手が従来のαと一緒というのは、大きなポイントになってくる。

映像業界としてはα1の登場をもって、「8K制作アリ」の時代へ1歩駒を進めたことになる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。