小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第950回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

8K対応ミラーレス一番乗り、キヤノン「EOS R5」の実力

「EOS R5」

待望の5ナンバー登場

7月9日、キヤノンがフルサイズミラーレスとして最高峰となる「EOS R5」および「R6」を発表した。オンラインでのプレゼンテーションをご覧になった方も多いだろう。

これまでフルサイズミラーレスはソニーが長年先行しており、キヤノンは2018年10月に「EOS R」で参入を果たしたばかりである。発売直後に動画性能をテストしたが、4K撮影では画角がクロップするという仕様はかなり残念であったと記憶している。

あれから約2年、いよいよ待望の5ナンバーが登場した。EOS R5は、8K動画撮影も可能にしたフラッグシップである。すでに7月下旬から発売されており、キヤノンオンラインショップでの価格は46万円(R6は8月下旬発売で30万5,000円)。すでに静止画のレビューは僚誌デジカメWatchで始まっており、そちらをご参照いただきたいところだが、やはり半数のユーザーは「実際動画はどうなの?」というのが気になるところだろう。

今回はこのEOS R5を使って、8K・HDR撮影をテストする。すでにデジタルシネマの世界ではCINEMA EOS SYSTEMで食い込むことに成功したキヤノンだが、8K撮影できる機材は同システムにはまだない。したがってこのR5が、将来のCINEMA EOS 8Kのリファレンスとなるはずである。まずはその実力をテストしてみよう。

EOS Rとは似て非なるボディ

まずはボディから見ていこう。ボディ自体は薄型でグリップが深い点、ボタンやダイヤルの構成は2年前のEOS Rとよく似ているが、Canonロゴからビューファインダにかけてのカーブが違っており、どちらかといえば凹凸の少ないなめらかなスタイルとなっている。

全体的になめらかなフォルムが特徴のR5

電源が左肩の回転スイッチなのは、EOS R譲り。ちょっと違和感があるところだが、右側の操作系を充実させるためには妥当なところだろう。よく使うメニューボタンが左側にあるのも、戸惑うところである。通常はボディを左手で支えているので、液晶画面を横切って右手で押すか、右手のグリップだけで頑張ってカメラを支えて左手で押すかという事になる。

電源は左肩のロータリースイッチ

ボディで大きな違いは、EOS Rで搭載されていた「マルチファンクションバー」がなくなり、普通のジョイスティックに戻された。あまり評判が良くなかったのだろうか。

マルチファンクションバーではなく、普通のジョイスティックに変更されている

右肩に2つのダイヤル、背面にリングダイヤルがある。メニュー操作は、横移動が人差し指のところのメインダイヤル、縦移動が背面ダイヤルである。ジョイスティックなら上下左右どちらでもいけるので、メニュー操作はジョイスティックを使ったほうが早いだろう。

右手側に2つのダイヤル。人差し指のほうがメインダイヤル

軍艦部の表示パネルは、撮影モードほかバッテリー残量、絞り、シャッタースピード、ISO感度が表示できる。電源OFFでもモード表示だけは残るため、電源を入れる前にどのモードになっているのかが確認できる。

新開発の有効画素数約4,500万画素フルサイズCMOSセンサーを搭載し、フォーカス方式は「デュアルピクセルCMOS AF II」。測距可能エリアが縦横ともに100%となり、どんなはじっこの被写体でもAFが補足する。ただしこれはAFモードが「顔+追尾優先AF」の時だけで、他のモードでは横だけ90%となる。また当時に発売された単焦点望遠レンズ「RF600mm F11 IS STM」および「RF800mm F11 IS STM」使用時は横約40%、縦約60%となる。

測距可能エリア100%を実現したデュアルピクセルCMOS AF II

加えて「EOS iTR AF X」により、顔や瞳だけでなく、頭部も検出可能になった。加えて犬、猫、鳥といった動物の全身・顔・瞳も検出するという。

さらにR5では、EOSとしては初となるボディ内手ブレ補正を搭載した。レンズ側の光学補正と合わせて最大8段の補正効果が得られる。動画での効果はあとでテストしてみよう。

背面のバリアングルモニターは、3.2型210万ドットのTFT式カラー液晶。静電容量方式のタッチパネルである。ビューファインダは0.5型576万ドットのOLEDで、視野率は100%。

3.2型バリアングル液晶はタッチセンサー搭載
ビューファインダは0.5型576万ドットのOLED

メモリーカードスロットはデュアルになっており、スロット1がCFexpressカード、スロット2がSDカードだ。すべてのモードでALL-IとIPBが撮影可能で、8K DCIのみRAWでも撮影できる。8K動画撮影の場合は、CFexpressカードが推奨される。SDカードで撮影できるのは、8K IPBだけだ。その場合も10bitで撮影する場合は、ビデオスピードクラス90以上が必要となる。動画モードは以下の通りだ。

カードスロットはCFexpressカードとSDカードのデュアル
動画記録サイズの選択画面

また動画撮影時のメモリーカード仕様も、8K撮影のみ掲載しておく。

HDMIはようやくMicroタイプを搭載

手元にサンディスクの64GB CFexpressカードがあるが、これは書き込み速度が800MB/sと表記されている。8K RAWでも400MB/秒以上あれば撮れるはずだが、実際には数秒後に速度不足で停止した。コンスタントに400MB/秒を超えるスペックのカードでないと、8K RAW撮影は難しそうだ。なお同じサンディスクでも512GBのカードは問題なくRAWで撮影できた。こちらは書き込み速度が1,400MB/sと表記されている。

すんなり8Kが撮れる

では早速撮影してみよう。今回使用したレンズは、「RF28-70mm F2 L USM」だ。ズーム全域でF2を実現した驚異的なレンズであるが、鏡筒部はかなり大きい。しかしレンズ内手ブレ補正も備えており、オールマイティに使えるレンズである。今回は、編集の負荷を考えて8K DCI/29.97のHDR/PQ、IPBで撮影している。フィックス撮影が中心なので、ALL-Iよりも効率がいいはずだ。

今回お借りした「RF28-70mm F2 L USM」

一見してわかるのが、レンズのキレの良さである。あいにく8Kモニターがないので4Kにダウンコンバート出力して見ているということを差し引いても、細かい部分まで解像しており、8Kの実力をうかがわせる。なんとなく撮った雑観も、フォーカスが合っていれば遠くに居る人の顔まではっきりわかってしまうため、サンプルとしてお見せできないほどである。

シャッキリしたキレのある映像
HDRらしいダイナミックレンジの広さも魅力

サンプルとして8K撮影の動画を掲載しておくが、回線スピードやディスプレイの都合で、8Kのままで視聴できる方は少ないだろう。YouTubeでは解像度の切り換えもできるので、4Kなどに落として再生していただければと思う。

8K HDR/PQで撮影したサンプル

まず注目のAFだが、8K撮影でもまったく問題ない。手前に向かってくる被写体も楽々捉え、かなり手前まで十分追従する。解像度が高く、被写界深度が浅いとフォーカスのズレが気になるところだが、この精度であれば危なげなく撮影できるだろう。

また顔認識のレベルも高い。両目が見えているパターンから徐々に角度を付けて、片眼だけ見える完全横顔まで合焦させてみたが、どの角度でもほぼ同じ精度で追従した。

新アルゴリズムとなったAFのテスト。危なげなく合焦する
検出する被写体の種類を切り換えられる
動物優先では猫の顔もきちんと認識する

動画の手ブレ補正では、レンズ側の光学補正とボディ内手ブレ補正に加え、電子補正も併用できる。「入」と「強」の2段階だ。28mmワイド端でレンズ補正を使っただけでもかなり安定するが、「全部入り」にするとかなり強力に補正できる。「レールをひいて撮影」とかわらぬレベルだ。限界に達してセンターに戻るような妙な動きもなく、かなり賢い。なお動画サンプルは、すべてレンズ補正はONである。

電子補正も加えるとかなり強力に補正できる

ただ、電子補正を使うとかなり画角が狭くなる。ワイド端28mmに対し、「入」で35mm程度、「強」で40mm弱になると思っていいだろう。

電子補正「切」
電子補正「入」
電子補正「強」
手持ちでも静止画1/2秒ぐらいならブレなく撮影できる

4Kで4倍速を実現したハイフレームレート撮影

続いてハイフレームレート撮影をテストしてみよう。メニューのカメラ設定の1ページ目は動画記録サイズ等の設定が集まっているが、ハイフレームレート撮影はここを切り換えるだけである。これを「入」にすると、事前にどんな記録モードになっていても、画素数が自動的に4,096×2,160にセットされ、119.9fps/ALL-Iに一発で変更される。細かい設定変更が不要で、あとはとにかく撮るだけだ。

ハイフレームレート撮影はこの項目を「入」にするだけ

これまで4Kカメラを数多く見てきたが、フレームレートが上がればHD程度に解像度が下がるというのが常識であった。一方本機は最大が8Kなので、フレームレートを上げても4Kで撮影できるわけだ。映像は実際に見ていただければお分かりのように、ハイフレームレートでも問題なくAFが追従しており、モデルが接近しても外れることはなかった。

4Kによるハイフレームレート撮影

HDR/PQの設定もそのまま継続される。8Kはまだまだ現実的ではないと考える方も多いと思うが、4Kハイフレームレートは欲しいはずだ。なおハイフレームレート撮影時のビットレートは、約1,880Mbpsとなる。8KのALL-Iよりも高いので、使用するメモリーカードの速度には注意が必要である。

ISO感度は、オートでは上限が51200まで設定できるものの、マニュアル設定では25600までしか上がらないようである。もう一息欲しかったところではあるが、25600でもSN比としてはまずまずだ。8Kでこれだけ暗部に強ければ、実用上は問題ないだろう。

オートの上限は51200まで設定可能
ISO感度のテスト。シャッタースピード1/60、F2.0に固定し、ISO感度だけを上げている

総論

8K解像度、AF性能、手ブレ補正、ISO感度といつもの項目をテストしたが、初代EOS Rとうって変わって、動画性能としては非の打ち所のない仕上がりになっている。4Kでもなかなかパーフェクトは難しいところだが、たった2年で8Kまで難なくクリアするというのは、さすがである。しばらく動画カメラは、本機がリファレンスになるだろう。

一方で8K解像度が必要かという話は当然あるだろう。現状テレビでもBlu-rayでも主力は4Kであり、8K放送は世界でもNHKしか実用化していない。だがフィニッシュが4Kでも、8Kで撮影しておけば編集時にトリミングして画角を調整できるというメリットがある。デジタルシネマで現状5.5Kや6Kで撮影しているのは、そういう理由である。

また8Kから4Kへダウンコンバートすることで、SN比や解像度が上がるというメリットもある。8KのRAWやMOVをそのまま編集できるマシンパワーやモニター環境もなかなか揃わないところではあるが、プロキシ編集ならノートPCでも編集できる。

なお巷では、本機の発熱による使用時間制限が話題になっているようである。今回は真夏の夕暮れどきに8Kで撮影してみたわけだが、モニター画面の左上に時間が表示されており、8Kの場合最初が15分に設定されている。撮影を停止したところで確認すると、この残量が減っており、ゼロに近づくとヒートアップのアラートが表示されるようになる。ゼロになったところで、撮影できなくなった。

撮影中にヒートアップマークが点滅

ただ、単純に撮影したぶんだけこのタイマーが減っていくわけでもなく、発熱上問題なければ15分の数字は減らない。逆に発熱上問題があれば、1分撮影しただけで残りが10分になっていたりする。動画の長時間撮影や長時間のスタンバイなどして熱が溜まってくると、タイマーが減るようである。今回の撮影では、8K動画を20分ぐらい撮影したところで、バッテリー残量半分を残して撮影不能になった。

そうなるとどうやってタイマーをリセットするのか、という事になるが、今回はバッテリーを再充電している間にボディが冷えたのか、またタイマーが15分に戻っていた。

映像は素晴らしいが、たった20分しか撮影できないのでは、「8Kは飾り」と言われても仕方がない。現場でボディが冷えるまで何時間も待つわけには行かないので、具体的にどんな利用条件でタイマーが作動するのか、何をどうすればタイマーが元に戻るのか、そうした細かな条件をあきらかにすべきであろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。