小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1042回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ニコンのVlog向けミラーレス、「Z 30」を試す

8月5日より発売開始の「Z 30」

Vlog機、出揃う

米国のブームが数年遅れで日本に入ってくるというのはもはやお馴染みのパターンで、モノになるものもあれば、モノにならないものもある。Vlogの歴史は意外に古く、2005年のYouTube登場とほぼ同時期に米国でブームとなった。日本では東日本大震災の影響もあり、記録型のVlogよりもライブ配信のほうがブームとなり、Vlogという言葉が広く認知されたのは、ライブ配信ブームが落ち着いてからという事になる。

近年、日本のカメラメーカーでVlog向けを謳ったカメラとしては、2020年のソニー「VLOGCAM ZV-1」、パナソニック「LUMIX G100」があった。2021年にソニーが第2弾となる「ZV-E10」を投入し、ヒット商品となった。

そして今年、キヤノンが「EOS R10」、ニコンが「Z 30」を8月5日に投入することで、各ブランドから一通りVlog向けカメラが出そろったことになる。

今回はそのZ 30を試してみる。店頭予想価格はボディ単体が98,000円前後、レンズキットが12万円前後、ダブルズームキットが15万円前後となっており、今回はダブルズームキットをお借りしている。

2021年頃までは、業績不振によりカメラ事業存続が危ぶまれたニコンだが、APS-C機の「Z fc」の大ヒットから急速に持ち直し、2022年3月期の連結決算では426億円の黒字を計上するなど、ニコンファンも一安心といったところである。

これまで動画ではあまりポイントを稼げなかったニコンのVlog機を、早速テストしてみよう。

Zマウント最小・最軽量

ソニーはEマウント、キヤノンはRFマウント、ニコンはZマウントで、フルサイズもAPS-Cサイズも同じマウントを使用するカメラシリーズを展開する。Zマウントを採用するAPS-Cミラーレスカメラには2019年のZ 50、2021年のZ fcがあったが、今年発売のZ 30は、Zマウントカメラ全体でも最小・最軽量となる。

レンズを撮影状態まで繰り出したところ

公式発表でも「Vlog撮影に最適」とされているとおり、これまでコンシューマ動画市場ではあまりポイントを稼げていなかったニコンが考えたVlogカメラ、という立ち位置になる。

サイズ感としては、ソニー「ZV-E10」のサイズには及ばないものの、キヤノン「EOS R10」に近く、深いグリップや指がかりを備えている。グリップの奥には2つのFnキーを備えているが、これもまたグリップが深くないと押せない機構である。

深いグリップの奥に2つのFnキー

正面から見ると、斜めにそぎ落とした右肩にNikonロゴを配するなど、たたずまいも美しいカメラだ。もちろんグリップ部にも差し色の赤いラインがあり、ニコンファン納得のデザインとなっている。

肩を斜めに切り落としたデザイン
もちろんグリップの差し色も健在

センサーは2,088万画素のAPS-Cサイズで、Z fc搭載と同じもの。ISO感度は100~25600となっている。画像処理エンジンは2018年に登場した「EXPEED 6」だ。最新エンジンは、ハイエンドのZ 9に搭載された「EXPEED 7」である。一世代古いとはいえ、Z 9以外の現行のZマウントシリーズはずっとEXPEED 6が搭載されており、上位モデルに劣るわけではない。

撮影動画フォーマットは以下のとおり。ファイル形式はMOVとMP4で、MOVでは音声記録がリニアPCMになる。連続撮影時間は最長125分だが、バッテリーや内部温度によってはそれよりも短くなる。4Kでの撮影時間目安はおよそ35分となっている。

モード解像度フレームレート
4K3,840×2,16030/25/24p
HD1,920×1,080120/100/60/50/30/25/24p
ハイスピード1,920×1,08030p(4倍)、25p(4倍)、24p(5倍)
撮影モードはハイスピードまですべて1面に並ぶ

軍艦部は、大きなモードダイヤルを備えており、視認性が良い。録画ボタンは小さめではあるが、わかりやすい位置にある。キヤノンEOS R10はLockボタンのさらに奥に録画ボタンがあるため、手探りで間違えてLockボタンを押してしまうことがしばしばあった。

大きなモードダイヤルがポイント

コントロールダイヤルは前後に2つあり、マニュアルコントロールにも十分だ。ソニーZV-E10はズームレバーはあるが、マニュアルダイヤルが1つしかない。逆に言えばZ 30もR10もボディ側にズームレバーがなく、ボディで電動ズームの操作はできない事になる。

アクセサリーシューの両脇にある細長い穴が、ステレオマイクだ。SmallRigからアクセサリーシューに取り付ける専用のウィンドスクリーンがでている。これはあとでテストしてみよう。

SmallRig製ウインドスクリーン
装着するとネコミミっぽくなる

背面のボタン配置は、Z fcに近い。上面のダイヤルには動画モードがないが、これは背面の切替スイッチで動画と写真をガバッと切り替えるからだ。液晶モニタは横出しのバリアングルで、約104万ドットの3.0型。

ボタン配置はZ fcに近い
液晶モニターは横出しのバリアングル

端子類は右側で、マイク入力、microHDMI、USB-C端子がある。バッテリーはグリップ底部から差し込むスタイルで、SDカードスロットも底面にある。

端子類はすべて右側
バッテリーとSDカードスロットはグリップ底部

キットレンズも見ておこう。ワイド側ズームは「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」で、35mm換算では24-75mmとなる。収納時は沈胴し、撮影時には手動で撮影ポジションに繰り出す必要がある。撮影時は先端が細くなるが、収納時はZマウント系に合わせてあり、見た目が良い。

だいぶサイズ感の異なるツインレンズ

もう一本「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」は、35mm換算75-375mmの光学5倍望遠ズーム。こちらも鏡筒部がストレートだが、撮影時に手動で繰り出すタイプ。見た目は大型だが、重量は405gしかなく、倍率の割には軽量だ。

NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR装着時
最長まで繰り出すとこの長さ

精細感と芯の太さが両立する描画

では早速撮影してみよう。とは言っても本機の動画撮影機能は、HDRやLog撮影には対応しておらず、その点ではシンプルである。

手ぶれ補正は、レンズ内補正でノーマルとスポーツの2種類があり、それに電子補正がプラスできる。電子補正を入れると画角がちょっと狭くなるが、ワイド端が16mmなので、それほど狭い感じはない。

電子手ぶれ補正なし 16mm
電子手ぶれ補正なし 50mm
電子手ぶれ補正あり 16mm
電子手ぶれ補正あり 50mm
手ぶれ補正比較

「ノーマル」と「スポーツ」は、この程度の動きではあまり差がないように見える。電子補正は歩行感も抑えられてなかなか強力ではあるが、補正範囲を超えた際に絵がジャンプする傾向が見られる。

光学手ぶれ補正は2タイプ

レンズの質もよく、発色のよいしっとり感のある絵が撮れる。解像感もあるが芯も太いという、ニコンらしい描画が楽しめる。Vlog撮影ではあまり望遠は使う機会が少ないが、50-250mmレンズはなかなか味があり、ワイドズーム以外に1本はこうした中望遠レンズは持っておきたいところだ。

グリーンの発色も綺麗(NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRで撮影)
人肌もナチュラル(NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRで撮影)
4K/30pで撮影したサンプル

AFに関しては深度を稼ぐために50-250mmで撮影してみたが、人物に対する顔認識フォローモードがあるので、追従性はかなりいい。顔がフレームインしてくる撮影では、顔へのフォーカス移動はそれほど早くないが、これはAF速度設定がノーマルだからである。他社同様にAF速度と追従速度は別途調整できる。

AFは人物と動物フォローでモードが別れる
AFの追従性はかなり高い
AF速度は高速にも調整できる

Vlogカメラとしての実力は?

Vlog撮影では、音声収録機能もテストしておきたいところだ。本機の音声収録では、録音帯域として「広帯域」と「音声帯域」の2種類がある。加えて「風切り音低減」機能もある。また今回はSmallRig製のウインドスクリーンもお借りすることができた。今回は「音声帯域」にセットして、風切り低減機能とウィンドスクリーンを組み合わせてテストしてみた。

音声帯域で2タイプが選べる
音声収録をテスト

かなり風がある中だが、元々フカレには強いようで、風切り音低減がOFFでもまずまずの音質で集音できる。逆に風切り音低減がONでもフカレるところはフカレており、効果絶大ということでもなさそうだ。

一方ウインドスクリーンを使用した場合は、かなりフカレが低減しており、問題なく集音できる事がわかった。屋外収録が多い人には、このウィンドスクリーンは必須と言えそうだ。

自撮りしていて気がついたのは、「自分撮りモード」がONだと、液晶画面を自撮り用に正面に向けている間はメニュー操作ができなくなることだ。確かにモニターが反対向きだと、カメラ背面の十字キーの左右操作が反対になるので、メニュー操作はやりづらい。だが実際のVlog撮影では、カメラを自撮りにセッティングした状態から設定変更を行なう事も多い。

「設定変更させないのが自分撮りモード」という対応は間違いである。この場合の正解は、「自分撮りモードでは十字キーの左右の動きを逆にしてやる」であろう。

本機はBluetoothリモコン「ML-L7」にも対応している。さらに今回は、このリモコンを埋め込んで使用できるSmallRig製のハンドルも合わせてお借りしている。多くのメーカーが専用ハンドルを用意するところ、既存のリモコンと組み合わせたサードパーティ製ハンドルで同じことができるわけだ。

BluetoothリモコンとSmallRig製専用グリップ

先日このカメラとリモコンを持って、福岡市で開催された九州放送機器展を取材したが、何を撮影しようかとしばらくブラブラしていると、いつの間にかリモコンとの接続が切れており、撮影開始時にリモコンが使えないことが何度かあった。リモコンの再接続には、10秒ぐらいかかるので、撮影タイミングを逸する。

さらに困ったのは、リモコンが効いてるつもりで撮影したが撮れていないという、「逆スイッチ」が起こりやすい事だ。今回のテスト撮影でも、逆スイッチが2回起こった。これは、かなりの頻度である。動画撮影で使用するなら、Bluetooth LEで30分ぐらいはポーズ状態で待機できるリモコンでないと困るのではないだろうか。

歩きながらの撮影では、音声収録はかなり良好だ。SmallRig製ウインドスクリーンがあれば、本体内の風切り低減はなくてもいいかもしれない。一方手ぶれ補正は、電子補正を入れるとやはり映像のジャンプが気になる。むしろ電子補正なしのほうが映像的には見やすかったかもしれない。

最後にハイスピード撮影をテストしてみた。HD120p撮影で24p再生の5倍速である。実質5倍速と4倍速しかバリエーションがないが、特に画質が落ちるわけでもなく、良好に撮影できる。HDであれば通常撮影で120pでも撮影できるので、一旦これで撮影して編集で任意の速度にするほうが、使い出はあるかもしれない。

5倍速ハイスピード撮影

総論

ニコン初となるVlogカメラとして登場したZ 30だが、いわゆるハイエンド動画カメラでもあるZ 9などとは方向性が違い、気軽に動画が撮れるカメラに仕上がっている。また本体の音声収録機能も、音声収録専用モードを備えるなど、Vlog向けに工夫が見られる。

写真と動画が背面スイッチで全切り換えできることから、動画でもシャッター優先や絞り優先などが、モードダイヤルで切り替えられる。これは切り替えやすいというよりも、現在のモードを確認しやすいという意味で重宝する。

2本のキットレンズも良好で、ワイドズームが16mmスタートというのは、セルフ撮りが多いVlog撮影にはありがたい。また50-250mmは描写に味があり、ワイドだけよりも格段に撮影レンジが拡がる。ポートレートやブツ撮りをするなら、あったほうがいいレンズである。

欲を言えば、動画撮影中にモニター表示を赤枠で囲む機能であったり、バッテリー残量をパーセントで表示したりといった、動画向きの表示が欲しかったところである。

電子手ぶれ補正は静止画向けにアルゴリズム設計されているのか、動画では思ったような成果が出せていないようだ。ここが強ければ、単体だけで歩き撮りができるカメラになったのだが。

ニコンには写真で根強いファンを抱えるが、これまで動画機能が弱かったために、動画撮影用には別メーカーのカメラを使ってきた人も多いのではないだろうか。このZ 30の登場は、今後のニコン製品にも動画性能が期待できるという、狼煙のような存在でもあるのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。