小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1049回

ソニー、約8.8万円で360RAも楽しめるサウンドバー「HT-A3000」
2022年9月21日 07:00
ホームオーディオとしてのサウンドバー
かつてサウンドバーは、テレビの音を強化するという、どちらかというとホームシアター文脈で買われ、利用されるものだった。だが音楽のサブスクサービスがDolby Atmosや360RAに対応して行ったあたりから、Bluetoothスピーカーではそれらに対応できないことから、次第に“音楽再生用のホームオーディオ”としての側面が強くなってきたように思える。
ソニーからは、360RA再生用のスピーカーも出ているが、Dolby Atmosには対応しない。一方サウンドバーなら動画コンテンツ対応のためにDolby Atmosも対応するので、ソニー製サウンドバーなら両方のフォーマットに対応できるという強みがある。
とはいえ、ソニーのサウンドバーでDolby Atmosと360RA両対応となると、最上位モデルの「HT-A7000」(ソニーストア価格176,000円)か、セパレートスピーカーのHT-A9(ソニーストア価格253,000円)しかない。またサウンドバー単体システムで言えば、これら上位モデルの下はいきなり「HT-X8500」(ソニーストア価格47,300円)になってしまう。間が10万円以上すっぽり空いていたわけだ。
逆にそこの空いたレンジに他社製品がどんどん入って来ているわけだが、ソニーとしてもそこの隙間を埋める価格帯のサウンドバーを出してきた。5.1.2chの「HT-A5000」が10月22日発売で12万円前後、3.1chの「HT-A3000」が9月10日発売で88,000円前後。今回はすでに発売されている「HT-A3000(以下A3000)」を使ってみる。
別途リアスピーカーと接続すれば、壁や天井に音を反射させ、複数のファントムスピーカーを生み出し、理想的なサラウンド空間を作り出す「360 Spatial Sound Mapping」対応モデルでもある。ホームオーディオとしても期待できる新エントリーモデルのA3000を、早速試してみよう。
薄型のスタンダードボディ
まずサイズ感だが、40インチのテレビの前に置くと少し両脇が出るぐらい。幅950mm、高さ64mm、奥行き128mmとなっている。重量は4.6kgと見た目よりも重いので、両手でしっかり持つようにしたい。
ポイントは、高さを抑えつつもセンターとLR、サブウーファ2基を内蔵したところ。ソニーが以前から力を入れている楕円形の「X-balanced Speaker unit」を採用しており、すべてのスピーカーが楕円形である。出力はLRが50W×2、センター50W、サブウーファ50W×2の、合計250W。
上面右側にタッチ式のボタンがあり、電源、入力切り替え、Bluetoothペアリング、ミュージックサービス、ボリュームとなっている。
入力端子は、ARC/eARC対応HDMI端子、光デジタル、USB-Type A。出力としては、ブラビアに繋ぐことでブラビア側をセンタースピーカーとして駆動する「アコースティックセンターシンク」用端子がある。
また背面にはリモコンのリピーターユニットが2つあり、本機がテレビのリモコン受光部を塞いでしまう場合も、リモコン信号を背面へパススルーする。
リモコンも見ておこう。一番上には入力切り替えのほか、ボイスモードとナイトモードの切り替えがある。「サウンドフィールド」ボタンは、これ一発でS-Force PRO Front SurroundとVirtual Surround Engineを同時に駆動させ、サラウンド再生を行なう。これは2Dソースでも3Dソースでも動作する。
リモコンで注目したいのは、サブウーファのボリュームだ。Min、Mid、Maxの3段階でサブウーファの出力が調整できる。小・中音量のときはMaxにすべきだろうが、大音量の時はMidでも十分である。
もちろんテレビ画面を見ながらのUIも備えており、初期設定はこの画面で行なう。細かい設定変更やワイヤレススピーカーの追加もここから行なうが、日常使いではHDMI eARCで連動するので、この画面を見ることは少ないはずだ。
前面だけでも優れたサラウンド体験
ではまず映像の再生から試してみよう。今回視聴したのは、Amazon Prime Video の 『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』で、4K・HDR/Dolby Atmos で配信中だ。テレビにFireStick 4Kを接続し、A3000へはHDMI eARCで送っている。
S-Force PRO Front SurroundとVirtual Surround Engineによるサラウンド再生だが、リアスピーカーおよび上向きのイネーブルドスピーカーがないものの、ONにすると音像がスピーカー位置から上にあがり、横方向のサウンドフィールドも十分に広い。リスナー自身が音空間に一歩足を踏み入れた感がある。テレビ画面の幅よりも音像のほうが数段大きいので、それほど大型でもない40インチテレビでも十分ホームシアター感が得られる。
別途サブウーファがあればもっと良かっただろうが、低域もよく出ている。アナログのサブウーファ出力があれば、手持ちのサブウーファが使えたのだが、そこがちょっと惜しいところである。サブウーファも併用したい場合は、別途ワイヤレス接続できるサブウーファ「SA-SW5」および「SA-SW3」と組み合わせることになる。
逆に「ナイトモード」に切り替えると、響きがちな低音を抑制して再生してくれる。隣室への音盛れが心配な方は利用するといいだろう。
サウンドフィールドは、Virtual Surround Engine以外にも、ドルビー・スピーカー・バーチャライザーとDTS Virtuial:X/DTS Neural:Xの3つから選択できる。設定変更にはメニューに入って切り替える必要があり、瞬時に切り替わるわけではない。なので聴き比べはなかなか難しいと思うが、うまくサラウンドに聞こえるかどうか心配な方は、とりあえず3方式から選べるので、一番うまくはまるものが探せるという安心感がある。
ハイレゾまで対応する音楽再生
Dolby Atmosと360RAの両対応することで、音楽再生もぜひ試したいところである。現在Amazon Musicがこの両方のフォーマットをサポートしている。新作も徐々にこのどちらかのフォーマットで配信されるケースが増えてきており、イヤフォン・ヘッドフォンだけでなく、ぜひスピーカーでも楽しみたいところだ。
本機で音楽の3D再生を行なうには、ソニー提供の設定アプリ「Music Center」でAmazonアカウントをセットアップする必要がある。設定ウィザードでは先にChromecastの設定となるが、こちらは今のところ3D再生に対応していないので、ここはスキップしても構わない。Amazon Alexaのセットアップを行なうと、スマホアプリのAmazon Musicのキャスト先に、A3000が現われる。
あとはスマホアプリ側から聴きたい曲を選べば、A3000で再生される。スマホからA3000へ音を飛ばしているわけではなく、A3000が直接Amazonからストリームを受信する格好になる。
今回はデビッド・ボウイの「Space Oddity」を試聴してみたが、若干コンプレッサーがかかったような感じがあるものの、サウンドバーの横幅を超えた大きな音響空間が出現し、音楽の中に頭を突っ込んだ感覚になる。中低域、ベースのハイトーンあたりのところにちょっとクセがあり、そこが気になるところではあるが、全体的にはこのスピーカー構成でよくまとまった音と言えるだろう。この高さ(厚み)で低域に不足感がないのは、さすがの設計である。
一方でBluetooth接続にも対応している。受信はLDAC対応なので、ハイレゾ音源も鳴らすことができる。「サウンドフィールド」をOFFにすると、スピーカーの実力がダイレクトに聴ける。低域にゴリゴリのリアリティが出てきて不足感はないが、中低域の密度が高すぎる感がある。
「サウンドフィールド」をONにすると、Virtual Surround Engineでサラウンド再生となる。これだと若干低域が多すぎるので、サブウーファの調整でMidに落としてやるほうがいいだろう。
総論
リモコンで「サウンドフィールド」のON・OFFができるが、基本的にはずっとONでも問題ないように作られているようだ。ホームオーディオとしてはもう少し細かいEQ調整ができると面白かったが、サブウーファのレベルを変えて音のまとまりを調整するだけでも、ずいぶん音の印象が変わる。できれば3段階ではなく、5段階ぐらいの細かな調整が欲しかった。
今回はリアスピーカーをお借りしていないが、これがあれば「360 Spatial Sound Mapping」を最安で楽しめるシステムとなるのも本機のメリットである。3D音楽再生を考えるなら、最上位はHT-A9(ソニーストア価格253,000円)だったが、本機とリアスピーカー「SA-RS3S」との組み合わせなら、約14万円である。もちろんVirtual Surround Engineの出来もいいので、当面3.1chで楽しんで、余裕が出来たら拡張、という方法もいいだろう。
昨今は映画も音楽もヘッドフォン・イヤフォンで聴く事も多くなっていると思うが、逆に空間に音を出して聴くというのは、体験として新しくなってきている感じもする。筆者も久しぶりに大きな音を出して映像作品を見て、単に話を追うだけではなく、ストーリーとの一体感が得られる楽しさを改めて感じた。
2万円から4万円台のサウンドバー製品が人気ではあるが、ホームオーディオとしてDolby Atmosと360RA両対応のものはそれほど多くない。Amazon Musicと組み合わせることを考えると、本機はもっともリーズナブルな立ち位置と言えるかもしれない。