小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1051回
ついに6へ到達。DJIハイエンドスマホジンバル「Osmo Mobile 6」
2022年10月12日 08:00
スマホアクセサリとして
スマートフォンのカメラ性能が向上し、大抵のものはスマホで撮影できるようになってから、本格的撮影を目指したスマートフォン用ジンバルが多数登場した。当時からこの分野は中国メーカーが席捲したが、トップブランドというものがなく、買いたくても決め手がないといった状態がしばらく続いた。
そんな中、DJIが初代「Osmo Mobile」で参入したのが2016年の事である。当時の記事によれば、3軸で5万円程度だったものが2万円台まで急速に下がっていった時代に、34,992円で登場したようである。
それから2年に1度ぐらいアップデートしていき現在に至るわけだが、途中「4」からは「OM」という略称が正式名称になり、前作「5」までは「OM5」であった。そして今年の「6」からは再び「Osmo Mobile 6」というフルネームに戻っている。
すでに9月から発売が開始されており、価格は20,900円。OM4、OM5は2万円を切っていたが、やはり円安の影響もあるのか、2万円切りには至らなかったようだ。とはいえ、ちょっとしたリニューアルではなく、ハードウェアとしてもかなり違っている。新しいOsmo Mobile 6を、早速テストしてみた。
やや大型化したボディ
前作OM5ではサンセットホワイトとアテネグレーという、白っぽいバリエーションの2色展開だったが、今回の6は暗いグレーの1色のみとなっている。
歴代Osmo Mobileは、3の時に折りたたみ機構を導入、4の時にマグネットによるワンタッチ着脱機構を搭載した。そして5ではグリップとヘッド部がロッドアンテナ的に伸びるという仕掛けを搭載したわけだが、6ではこのすべてが搭載されている。
折り畳み機構は5と同等だが、アーム部をクルッと回す事で、カチッとしたクリック感のある展開ロックがかけられるようになった。今回の6からは、アームを展開すると自動的に電源が入るようになっている。起動時間短縮のためだが、移動中に予期せずアームが開いてバッテリーがなくなるといった誤動作を抑止するため、クリック付きで搭載されたということかもしれない。
重量は、ジンバル部が約309g、クランプが約31g。クランプ部は新設計となっており、スマートフォンはケースを付けたままでも掴めるよう、大型化されている。クランプは、アーム部とマグネットでくっつくようになっている。ここにもセンサーが入っており、クランプがくっつくと初めてジンバル動作が働き始めるようになっている。
操作部は大きく変更された。上部には簡易的なディスプレイを備え、バッテリー残量やジンバル動作モードがジンバル側のみで確認できるようになった。右のMボタンは、1回押すごとに4つの動作モード、「フォロー」、「チルトロック」、「FPV」、「スピンショット」に切り替えできる。以前は左側の側面にあったので操作しづらかったが、手前に来たことで使い勝手が向上している。
Mボタンを長押しすると電源のON・OFFだが、アーム部を畳めば電源が切れるので、あまり使う機会はないかもしれない。またMボタンを3回押すと、スタンバイモードへ移行する。
ジョイスティック、録画ボタン、ローテーションボタンがある点は変わらないが、これらの操作部がグリップ部から若干出っ張った平たい台地状の部分に配置されたため、握りながらの操作性がかなり向上した。
特にジョイスティックは、5では面積の大きな平形で角度検出ができず、ON・OFFスイッチ的なものが使われてきた。一方6では高さがあり、角度検出が大きく取れるタイプに変更されている。これにより、ゆっくり動かす、早く動かすという操作が、ジョイスティックの角度だけで使い分けられる。
また今回大きく変化したのは、左側のサイドホイールだ。標準ではズーム、1回押し込むことでマニュアルフォーカス用に機能が変わる。以前はこの位置にズームレバーがあったのだが、親指で操作するにはストロークが短すぎるという難点があった。だが今回はホイール型なので、親指の腹でも回せるし、左手を使っても操作できるようになった。
このような点からみても、前作の5がデザインにこだわりすぎて操作性が下がっていた部分を、6で全部やり直したというのがわかる。
安定性はあまり変わらず?
今回の6から、ハンドルを展開しただけで電源が入ることはすでに述べた。クランプでスマホを取り付けると、iPhoneの場合は自動で撮影アプリ「DJI Mimo」が起動して撮影モードとなる。一方Androidではアプリの自動起動までは対応していないが、取り付け後に手動で「DJI Mimo」を起動すると自動でジンバルに接続し、カメラモードに変わるところまで自動である。
今回はAndroidの代表的モデルとも言えるGoogle Pixel 6aで撮影している。すでにDJI Mimoを起動した状態でジンバルに取り付けると、一見ちゃんと動いているように見えて、ボタン操作が誤動作する。ローテーションボタンを押してもカメラが切り替わらない、録画ボタンを押しても録画しないという場合は、Bluetoothでは繋がっていてもアプリと連携できていない状態なので、一旦DJI Mimoを終了させて再立ち上げする必要がある。
まずジンバルによる手ブレの補正力だが、すでにずいぶん前から完成の域にあることから、それほど大きく変わったわけではない。手持ちによる撮影では、安定して水平がとれることや、使い勝手が上がったジョイスティックにより、滑らかなパンニングや移動ショットが撮影できる。歩行による上下の揺れは多少残るところだが、むしろ走りながらの撮影のほうが安定するのは面白いところである。
今回新しく搭載されたサイドホイールも試してみよう。これまでジンバル撮影ではあまり操作することがなかったズームが、ビデオカメラ並みに手軽に扱えるようになる。
ただ、ズーム倍率と回転角の関係があまりにもリニアなので、ズームインの開始は大きく画角が変わり、逆にズームアウトではスパーンと1倍に貼り付くような動作になってしまう。画角の変化は、広角の1倍から1.2倍は大きく変わるが、望遠側の4.8倍から5倍までは大して変わらないものだ。
光学ズームレンズはそのあたりを考慮して、回転角とズーム倍率の関係が指数曲線的に作られているため、同じ回転角で回しても滑らかにズームできる。このあたりの動作設計はもう一度見直した方が良さそうだ。ソフトウェア制御なので、修正は可能だろう。
加えて、iPhoneとの組み合わせでは、ズーム操作により広角とメインカメラをまたいで使用できるが、Androidとの組み合わせでは広角カメラへ切り替えることができず、メインカメラのみのデジタルズームとなる。Androidも種類が多いので、もしかしたらワイドカメラの切り替えに対応している機種もあるかもしれないが、現時点ではAndroidとの組み合わせでは若干絵柄が狭苦しくなるというのは、弱点になる。
また1回押し込むと、マニュアルフォーカスも可能だ。フォーカス送りなどに利用できるが、スマートフォンのレンズはそれほど被写界深度が浅くないため、フォーカス送りの効果も弱い。発想は面白いのだが、いかんせんスマホカメラじゃなぁ、というところが残念である。
カメラをイン側に切り替えると、人物に対してのフォローモードとなる。今回はこのアルゴリズムが改善され、かなり遠くにいてもフォローできるようになった。また顔がカメラに向いていなくてもフォローできる。このあたりはMavicなどのドローンの技術が組み込まれたようだ。
インテグレートされた編集機能
Insta360やGoProなどのアクションカメラでは、撮影だけでなく自動編集ツールもかなり強力なものを提供している。撮影アプリのDJI Mimoにも編集機能はあるのだが、よく見てみたら、「LightCut」という別アプリの機能の一部をインテグレートしたもののようだ。組み込まれたツールは日本語化されているが、LightCutは英語のツールである。
一部のテンプレートは日本語UIのまま、つまりDJI Mimo内で使えるが、それ以上のテンプレートを使おうとすると、LightCutへリダイレクトされるようになっている。使い方は同じなので、一旦DJI Mimo内の機能で操作方法を覚えたのち、LightCutを使うと分かりやすいだろう。
テンプレートを選択したのち、「One-Tap Edit」をタップすると、使用するカットを選択する画面となる。テンプレートによって使用カット数が異なるようだ。
カットを選択すると、しばらく解析を行なったのち、テンプレートに当てはめた動画が作成される。テロップや外枠、音楽も自動的に当てられており、なかなか良くできている。
ただしカットの使いどころは、「なぜここを選んだ?」と思わせるような中途半端な部分もある。この場合は選択箇所をユーザーが変更できるので、いいところを選び直せばいい。音楽やテロップも自由に変更できるので、テンプレートをベースにしたオリジナル作品を作る事も難しくない。
マニュアルでの変更処理はかなり重たい作業のようで、動画クリップの展開に時間がかかる。これはスマートフォンのパフォーマンスにかなり依存する部分だろう。スマートフォンがかなり熱を持つので、放熱にも気をつけたいところだ。
編集に関しては汎用ソフトなので、DJI Mimoで撮影した動画以外のものでも編集できる。FacebookやInstagramのリールにちょこっと載せる動画を作るには十分なツールなので、覚えておいて損はないだろう。
総論
コンシューマ用としてスタートしたDJIのジンバル事業だが、プロ用ジンバルにも進出し、一定のポジションを築いた。このあたりまでは、中国の競合メーカーも同じである。だがDJIは最終的にカメラ一体型シネマカメラにまで到達し、他社を振り払った状況にある。
コンシューマ向けスマホジンバルも、「OM4」および「OM5」では女性層の取り込みに注力し、小さく折りたためる細身のハンドル、明るいカラーの製品だったが、Osimo Mobile 6では名前も元に戻し、原点に立ち戻った質実剛健な作りで改めて再登場した。
スマートフォンでの動画撮影も、初めは「一部スマホ“も”使った」から「全編スマホ撮影」が1つのトピックとなっていたが、今は簡易単焦点カメラとして、テレビ番組内や映画の中でも普通に使われるようになっている。
そんな中スマホジンバルの立ち位置も、「ちょっとしたアクセサリ」から「ガチ撮影対応」へと変化してきたという流れを感じさせる。特にロッドで延長でき、常に水平がロックされる、バッテリーで約6時間24分動作など、撮影者がアマチュアでもちゃんとした絵が撮れるのは、コンテンツ製作者にとってもありがたい。ある意味スマートフォンが相手なら、三脚よりも手軽で使いやすい撮影装置に成長したと言える。