小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1051回
ボーズ「QuietComfort Earbuds II」と第2世代AirPods Proを聴き比べる
2022年10月5日 08:00
発表・発売をぶつけてきた?
かねてから噂されてきた通り、Appleは日本時間9月8日深夜のイベントにて、第2世代となる「AirPods Pro」を発表した。翌日9日から予約開始で、発売日は9月23日に設定された。
一方ボーズも「世界最高のノイズキャンセリング」を謳う「QuietComfort Earbuds II」を、Appleと同日の9月8日に発表、9月29日より順次発売するとした。カラーは2色あり、「トリプルブラック」が先に発売、「ソープストーン」は11月上旬発売予定となっている。
発売日はボーズの方がやや遅いものの、発表日が同日だったことから、両者が事実上のライバル機となるのでは、と噂されているところである。価格はいずれも公式ストアで、AirPods Proが39,800円、QuietComfort Earbuds IIが36,300円となっており、ボーズのほうが3,000円程度安いが、ほぼ同価格帯と言っていいだろう。
双方とも前モデルから、ノイズキャンセル力で定評がある。新作は、AirPods Proはおよそ3年ぶり、QuietComfort Earbudsはおよそ2年ぶりとなる、どちらもいわゆる“第2世代”モデルとなる。今回はこの両者を比べてみたい。
定番デザインと攻めのデザイン
第2世代AirPods Proはすでにレビューも沢山出ているところなので、改めて細かいスペック説明は不要だろう。便宜上AirPods Pro 2と呼びたいところだが、Appleでは新モデルが旧モデルに取って変わるため、型番が変わらず商品だけ入れ替えという例が多い。旧モデルと比較する際には第2世代と呼ぶしかないが、本稿でAirPods Proといえば新モデルのことと理解していただきたい。
第1世代と比較すると、外見のデザインやサイズは変わっておらず、仕様の違いで細かい相違点がある程度となっている。例えばイヤピース本体の形状は変わらないが、外音取り込みおよびノイズキャンセリング用マイクの設計見直しにより、下側にあった開口部が上側に変更になっている。また着脱センサーの幅が多少短くなっているようだ。
イヤーピースも新たにXSを追加して、合計4サイズとなった。ケースもサイズや形状は変わらないが、ストラップホールや、サウンドエフェクトのためのスピーカーを装備している。
もちろん内部的には、新たにH2チップ搭載、ドライバも変更、ステム部分にスライド感知センサーを搭載する。ノイズキャンセリングの性能を2倍向上させたという点も、見逃せないところだ。連続使用時間は6時間、ケースも併用すれば30時間の利用が可能。
同じボディ内に全然違う設計を入れ込むというのは、カメラにおけるマークII・マークIII的なアプローチでよく見られるところである。これは金型を使い回してコストを下げるなどのメリットがあるようだ。
ただいくら完成形のボディとはいえ、3年越しの新モデルであれば、新しいデザインも見たかったところだ。Appleといえばデザインで稼ぐ会社だったのが、すっかり「変えない・変わらない」会社になってしまった。まあこれが、追う側から追われる側に変わった宿命なのかもしれない。
一方QuietComfort Earbuds II(以下QCE II)は、第1世代と比べてボディもケースも新デザインとなっている。変わらないのはカラーバリエーションで、トリプルブラックとソープストーンの2色展開となっている。
本体は、エンクロージャ部の体積を大きく持たせ、そこにバッテリーを格納した。このため重心がより頭の内側に入ってくる。一方耳たぶから外に出る基板部は小さくなり、装着した際の見た目のサイズ感を低減している。外側の基板部表面には、タッチセンサーがある。上下のスライドで音量が調整できる機能もある。
開口部はわりと多く、ドライバ部上部の外側に1つと、内側に2つ。あとは音導管脇の底部に1箇所と、基板部の充電端子の上に1箇所ある。一般的に考えれば、外音用、内側の反射測定用、通話用マイクで、どれか1つは気圧調整用の穴という事になるだろうが、どこがどれ、という仕様は公開されていないようだ。
エンクロージャ内側の形状はかなり複雑ではあるが、装着するとフィット感は高い。かなり設計に時間を要したことが伺える。イヤピースはS/M/Lの3サイズで、加えて大型化したエンクロージャの固定を安定させるため、その周囲を囲むかたちの「スタビリティバンド」が追加された。これは1/2/3の3サイズになっている。
ケースはやや大ぶりの平形で、ペアリングボタンは背面、充電端子は底面。ワイヤレス充電機能は搭載していない。再生時間は本体のみで6時間、ケース併用で24時間。
より強力になったノイズキャンセリング
では実際にテストしてみよう。AirPods ProにiPhoneと組み合わせた独自機能があるため、再生はどちらもiPhone 12 miniで行なっている。Bluetoothバージョンはどちらも5.3、コーデックはSBCとAACで、aptX系やLDACには対応しないため、特にQCE IIに不利ということもないと思われる。
まずフィット感だが、AirPods Proは外形が第1世代と変わっていないため、装着感も同じだ。イヤフォン本体重量は片側5.3gと軽いこともあり、特に固定補助具がなくてもイヤピースだけで十分固定される。
QCE IIは、イヤフォン本体の重量が6gで、数字上は0.7gの違いである。だが実際に手に持ってみると違いが分かる程度には差が感じられる。装着感は、AirPods Proよりもイヤーピースが耳奥まで入らず、すこし手前で止まる感じだ。その代わり、エンクロージャ部を使って耳の凹み全体にフタをする格好で収まる。これもNCを高めるための工夫なのだろう。
装着してランニングなどしてみたが、着地の慣性モーメントで下に引っぱられ、外れそうな気がするものの、実際には外れないという絶妙なフィット感となっている。今回は重心が内側に寄っていることや、スタビリティバンドの存在が良かったのだろう。
恐らく多くの人が気になるのが、ノイキャンがどれぐらい効くのか、また外音取り込みはどうなのかというところだろう。いつもなら本連載でお馴染みのサザン音響サムレック君に登場いただいて、どれぐらいの遮音性能なのかをお聴きいただいているところだが、今回は断念した。
というのも、シリコン製の人工耳では十分な密閉度が得られず、ノイズキャンセリングがONにならなかった(設定上はONだが動作していない)からである。残念ながら今回は筆者の体感でレポートさせていただくに留める。
まずノイズキャンセリング前の密閉度テストだが、AirPods ProはiOSの「設定」内に専用の設定ページがある。ここに「イヤーピース装着状態テスト」があり、イヤピースのサイズがフィットしているかテストすることができる。一方耳の形を撮影してパーソナライズする機能もあるが、これは空間オーディオの最適化に使われるもので、ノイズキャンセリングとは関係ないようだ。
一方QCE IIは、耳に装着すると毎回チェロのボウイングの音が聞こえてくるが、この音でマイクが耳の中での反響音を測定し、ノイズキャンセリングとオーディオパフォーマンスを毎回最適化している。最適化にかかる時間は、0.5秒程度だという。
まず車通りの多い道路脇で、音楽再生なしでノイズキャンセリング力をテストした。AirPods ProでキャンセルをONにすると、相当のノイズが低減できる。第1世代もかなりキャンセル力は強かったが、ファームアップするたびに弱くなっているのではという指摘があった。新モデルは前作の2倍を謳うわけだが、正直この道路脇で仕事できるレベルである。
もちろん完全に無音になるわけではなく、ロードノイズやエンジン音は、多少は漏れ聞こえてくる。元々ロードノイズは低域が多いピンクノイズに近い音だが、車が通り過ぎる音は「サーッ、 サーッ」と高域が残る感じである。
一方QCE IIのほうも、道路脇のノイズに関しては、AirPods Proと甲乙付けがたいキャンセル力を感じさせる。通り過ぎる車は、「コーッ、コーッ」という音で、AirPods Proよりも中域に寄った音が透過してくる感じだ。
続いて人の声や音楽などノイズ源として、ショッピングモールのフードコートでテストしてみた。こちらもフードプロセッサやミキサーなどのモーター動作音や子供の奇声などで、道路脇とはまた違ったうるさい場所である。
AirPods Proの場合、周囲のガヤは相当抑えられるが、漏れ聞こえる音は「カサカサ」といった感じだ。人の声もかなりカットできるが、女性従業員が番号を呼ぶ声や笑い声など、高域かつ大きめの声は、何を言っているか認識できる程度には漏れ聞こえる。
一方QCE IIのほうは、漏れ聞こえるガヤが「ゴソゴソ」といった感じで、やや中音寄りである。キャンセリング能力や漏れ聞こえる音のレベルはだいたい同じぐらいだと言えるが、漏れ聞こえる音の刺激の少なさという点では、QCE IIのほうが耳障りはいい。
工夫がある外音取り込み
昨今はノイズキャンセリングとともに、外音取り込み機能にも注目が集まっている。以前は電車内のアナウンスを聴きたいといった瞬時切り替えのニーズが高かったが、昨今は常時利用や仕事中の利用も容認されるようになったことから、NCとオープンの両方を1台で使いたいというニーズに切り替わってきているように思う。
AirPods Proの場合、ステム部分を長押し、というかつまむことで、NCと外音取り込み、OFFの切り替えができる。必要な切り替えにチェックが付けられるようになっており、NCと外音取り込みだけを切り替え、といった設定にもできる。
つまむ際には、軽く触るだけではなく、少し意識して力を入れてつまむ必要がある。反応すると小さく「クキッ」と音がする。短くつまむとポーズになるので、割と長めにつまむ必要がある。
取り込まれる外音は、NC用マイクを通じて入っている音になるわけだが、NC時の音の入り込み傾向同様、取込音も現実音より若干高域のカサコソ成分が多い。このため、人の話声などは明瞭感が高いが、ちょうど耳障りな帯域が強調されることから、場合によっては現実音よりは若干うるさく聞こえる傾向がある。
また、第2世代からは「適応型環境音除去」が使える。外音取り込み機能は、基本的には音楽の再生ボリュームとは関係なく取込音は常に一定音量で、現場音とほぼ等しいのが普通だ。一方「適応型環境音除去」では、工事現場など長時間聞き続けると聴力に有害な影響を与えるほどの騒音時には、外音取り込みレベルを自動的に下げる。西田宗千佳氏のレポートにもあるように、Apple Watchと組み合わせると、取込レベルが確認できるようだ。
今回はフードコート内で外音取り込みをテストしたが、レベルを下げるほどではないと判断されたのか、現実音と取込音にレベル差は感じられなかった。まあ普通は耳栓などせずに過ごせる程度の音空間なので、当然といえば当然である。
QCE IIは、専用アプリ「ボーズ Music」で外音取り込みモードを設定する事ができる。モード切り替えは「ショートカット」として、センサー部の長いタッチとなる。
モードとしては、完全なNCの「クワイエット」、外音取り込みモードとして「アウェア」が用意されている。アウェアでは「ActiveSense テクノロジー」が自動的に突然の騒音を抑えてくれる。外音レベルに合わせて取込音量を自動制御するという、同じような機能があるわけだ。
このほか、マニュアルで取込レベルが決められるモードが2つ、プリセットできる。名前の候補として「アウトドア」や「ウォーキング」などが用意されているが、名前の通りの効果が事前にプリセットされているわけではなく、自分で取込レベルを設定して、それにラベルを貼るだけである。ほとんどのケースでは、「アウェア」で十分だろう。
取込音としては、音質・音量ともに現実音とほぼ同じだ。装着しても外しても変わらないというのはなかなか難しい事だと思うが、このあたりは良くできている。
決め手は音質の違い
最後に音質の違いについても評価しておきたい。AirPods ProはApple Musicの空間オーディオに対応する。とは言え、Amazon Musicがイヤフォンを問わない空間オーディオを提供するようになったことから、Appleのみのアドバンテージではなくなった。現在のところ、他のイヤフォンにはできないのは、ヘッドトラッキングである。このアドバンテージをどの程度の大きさで捉えるかがポイントになるだろう。
純粋な音楽再生に関しては、常に正面を向いていなければならないというわけではないため、仕事しながらのながら聴きなどでは必須というほどではない。とはいえ、脳内定位の解消という意味ではあった方がいい機能ではある。
音質評価は、Apple Musicでロスレス配信中の「Someday / Somehow(スティーブ・ポーカロ)」でテストした。TOTOのキーボーディストとして知られる同氏だが、作曲者としてもマイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」などの代表曲がある。このアルバムも、ヒューマン・ネイチャーのようなフワフワしてつかみ所のない曲が集まった名盤である。
AirPods Proはドライバが新しくなったことで、音質的にも多少変化がある。中域から高域にかけての表現力が上がり、全体的ににタッチーというか、繊細さが感じられるようになった。NCイヤフォンは低域が出やすいものだが、そこは逆に敢えて引っ込めたようだ。低域を整理したことで、ベース音やキックで音がマスキングされず、全体的に整理されて聞こえるのが特徴と言えそうだ。
ある意味間違いなく、優等生的な音というか、現代の標準の音である。実際ワールドワイドでのシェアでは、Appleが26%をとってダントツトップであり、名実共にAirPodsの音は、「世界標準」と言える。完全ワイヤレスは多くのベンチャーが参入する分野だが、音質的にはAirPodsをリファレンスにしていると思われるものが多く、音質も似ているものが多い。
QCE IIもそういう意味では、ボーズの伝統的なサウンドをしっかり継承しており、ボーズファン納得の音作りとなっている。低域は一見腰高にも聞こえるが、深みと奥行きを持たせることで大きく塗り広げ、その上に中高域を展開していくという、ピラミッド型の音作りである。
ボーカル帯域は耳障りよくなめらかで、ぐいぐい前に出てくる派手さはないが、長時間のリスニングを想定しているのがわかる。簡易的だがアプリによってEQも設定できる。AirPodsシリーズにEQがないのに比べれば、多少なりとも音質が調整できるのはポイントだ。個人的には高域を+4ぐらい持ち上げた方が、バランスがいい感じがする。
総論
どちらもノイズキャンセリングがウリの両者を比較したが、機能レベルとしてはかなり近いものを感じさせる。価格はどちらも4万円近いということで、高級イヤフォンの部類に入るだろう。日本ではAirPods Proのほうが少し高いが、米国での価格はAirPods Proが249ドル、QCE IIが299ドルで、実はQCE IIのほうが少し高い。憎むべきは、円安ドル高である。
AirPods Proの強みは、なんと言ってもiPhoneとiOSに完全にインテグレートされており、このエコシステムの中では何もしなくても最大限のメリットが得られるところである。また強力なノイキャンの割には装着感が軽く、ヘッドトラッキングも加わって、「着けてない感」が強い。
QCE IIは負けず劣らず強力なノイキャンが使え、iPhoneでもAndroidでも同様のパフォーマンスが得られる。音質にも独特の個性があり、しばらく聴いてないとまた聴きたくなる中毒性のある音を持つのが魅力だ。
個人的にどちらを買うか、と言われれば悩むところである。「世界標準機」としてAirPods Proはあったほうがいいだろうし、好きな音はどっちだと言われればQCE IIである。ノイズキャンセリングの効き具合は、強さというよりは得意な帯域が違っている。人のしゃべりなどが多い環境ではQCE II、エアコンやロードノイズなど機械音のノイズが多い場所ではAirPods Proが向く。
これまでノイキャン最高はソニーという評価だったが、両者がそれに「待った」をかけた格好だ。今後は単に強い・弱いの評価軸ではなく、外音取り込みや切り替えの容易さ・わかりやすさといったところがポイントになることを示唆した2製品だった。